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現代日本の最大のタブー。AKB48の謎を取り上げてみましょう。
学生は「先生、これだけは止めた方がいい。悪口をちょっとでも書こうものなら炎上くらいじゃすまないですよ」というのです。どうもAKB48ファンは、普段は若い普通のサラリーマンで全く区別がつかず、しかも相当に熱狂的らしい。
AKB48ファンは、まるで、普段はデイリープラネット社の新聞記者クラーク・ケントに姿を変えているスーパーマンみたいだな……。
「それじゃあ。電車のホームから突き落とされてしまうのか」と聞くと、学生は「わかりませんよ」と脅すのです。そういえば、ちょっと前に、この学生は「AKB48はかわいい子ばかりだ」と言っていた。この学生もAKB48フリーメイスンなのか……。
お〜お、怖〜い。
と言いつつ、私も歳をとったのでしょうか。
AKB48は、いまだに顔も歌も覚えられません。というか、覚える気になりません。
同世代のオヤジたちには、「モー娘。」とAKB48は同じアイドルグループで、「モー娘。」が飽きられたためにAKB48が出てきたものだと考えられています。
しかし、これでは認識が浅すぎます。
実は、両者は似て非なるものす。
まず「モー娘。」は、1997年7月にテレビ東京の「ASAYAN」という番組のオーディションで落選し、5人の初代「モー娘。」は「愛の種」という曲を5日間で5万枚売ることがデビューの条件とされました。実は「モー娘。」は、ホリプロのタレント・キャラバンのサクセス・ストリーとは逆に、負け組・再チャレンジの物語だったのです。
しかも、「モー娘。」は新メンバーが加わっては卒業させ、主役も入れ替わっていく世代交代が起きる過程において、時には、その対立が表面化さえします。安倍なつみと後藤真希の「対立」は有名でした。その一方で、陰湿な派閥対立の代わりに、プッチモニ、タンポポ、ミニモニ。など、つぎつぎとグループ内に複数の小グループができました。それは、個性とは言い難い「欠点」がグループの特徴だったりします。実に人間的でした。
そう、「モー娘。」は、若者にとって耐え難い日本の会社組織や学校組織のありようとは正反対の「組織」だったのです。
ところが、AKB48は、ちょっと違っています。
人気投票(総選挙?)で、並ぶ順番が決まっていくらしいのです(まもなく1年ぶりに第2回総選挙?が行われるらしい)。CD1枚につき1枚の投票券がついてきます。つまり、メンバーの間では、AKB48という「会社」の売り上げに貢献してゼニを稼いだヤツの勝ちです。
一方、ファンも対等平等ではありません。ファンはCDを大量に購入して1人で大量投票するのもありで、1人1票ではありません。お金を持っている者は、自分の好きなメンバーを押し上げることができるのです。実際、何百枚も買う「隠れサラリーマン」もいるとか……。全てはお金で決まるという市場原理――これほど分かりやすい組織原理はありませんね。
そしてAKBマーケットはほぼ毎日開かれています。AKB48には、秋葉原にある専用劇場と頻繁に行う握手会が存在しています。ここでも、ファンの人気が反映されやすいシステムができています。
メンバーは、入って1年目でも人気投票で票をたくさん獲得できれば、いきなり目立つ前の列に並ぶことができるのに対して、そうでないと、すっと後ろの列にいて、やがて出られなくなってしまうらしいのです。実際、初期からいるメンバーであってもCDのジャケット写真やPVや歌の音源にも入れてもらえないメンバーもいます。
もちろん、AKB48にも、「渡り廊下走り隊」など小グループがありますが、同じ所属事務所であったりするだけで、セット販売で人気を集めランキングを上げようとする意図が見え見え。決して、人間的な個性が理由となっているわけでもありません。
一見すると、これらは顧客の参加意識を煽る伝統的手法です。
が、ちょっと賢い子なら考えればわかるはずです。
このランキングで競わせる手法は、会社や塾、あるいはえげつない学校で行われている「成果主義」そのものです。
たしかに、このランキング競争のおかげで、AKB48のメンバーは生き残るために必死に努力をしています。その健気に努力する姿に、自分を重ね合わせて応援している若いサラリーマンも多いのかもしれません
ところが、それは現実の会社と同じように「裏」があります。AKB48は正規メンバー(正社員)になりたい予備軍(まるで派遣労働者みたい)がいっぱいおり、賃金がとても低くてすむのです。このルールに従わないなら、辞めてもらいえば、いくらでも代わりはいるからです。メンバーがもともと所属している事務所(プロダクション)は、まるで派遣会社みたいです。出られない、あるいは辞めていくメンバーたちは、ランキング競争に負けたのだから仕方がないということになるのでしょう。
そして気づいてみると、秋元康だけがガッポリ儲かるようになっているのです。
これって、ユニクロとそっくりじゃない?
価格破壊の先頭に立つユニクロは、「完全実力主義」を標榜しています。仕事の成果は本人の責任とされ、時間外に商品知識などの勉強も要求されます。勉強すれば昇進のチャンスもありますが、半年ごとに人事評価、移動があり、気合いを抜けば、すぐ落とされてしまうのです。しかも、商品をすすめることも含めて、個別の客とのコンタクトは禁止され、頻繁に引っ越しを伴う転勤を命じられます。つまり、店員たちはどんどん入れ替えられていく仕組みなのです。もちろん、安売りを標榜しているくらいですから、社員の給料も高くはありません。
そして気づいてみると、社員が必死になって働いた「成果」は、オーナーの柳井正氏のもとにジャンジャン集まってきます。ちなみに、フォーブス誌の世界の資産家100人によれば、柳井氏は日本一の資産家で、その資産額は8200億円を超えるそうです。
こうしてユニクロは、国内のデザイナーも商店も職人技も服装文化も、すべてを安売りで食い尽くしていきます。つまり、ユニクロは、お客様に選ばれることを大義(経済学では消費者主権と言います)にして、従業員の人件費を切り詰め、そして安い給料で買える商品をそろえてはデフレ経済を定着させていく、デフレのマッチポンプなのです。
何か、AKB48とユニクロって、とても似ていませんか?
ちなみに、「構造改革」論による雇用流動化や「成果主義」によって、若い人たちをたくさん非正規雇用に追いやり、正規雇用もランキング競争で競わせされています。この仕組みは、主流経済学によれば、インセンティブを刺激する制度設計によって、人を転落の恐怖に追い込めば、みんな一所懸命働いて効率性が高まるということになります。
しかし、本当にそうでしょうか?
この間の「構造改革」論による雇用流動化や「成果主義」のもたらした「成果」は、さんざんです。これだけ増えた非正規雇用の人たちは、ほとんど熟練も技能も身につきません。膨大な若い人材がすり減ってきています。貧困で生きていくのに精一杯な人たちに、夢だとか気概をもてということ自体に無理があります。もちろん、これでは、内需も盛り上がるはずがありません。
実際、失業などを理由とした20代30代の自殺が増えて、ついに13年連続で自殺者(全体)は3万人を超えました。いつ終わるともしれない戦争のようです。個別のメンバーしか見ていないファンたちは、ランキング競争に勝たせることに夢中で、声もあげられずに消えていくAKB48最後列のメンバーを想像することはないんでしょうね。
正規雇用の人たちが、目先の競争に追われる仕組みが必ずしも効率性や成長力を高めるとは限りません。とくに若い技術者は悲惨です。企業はオヤジ技術者ばかりになって若い技術者が雇われませんから、イノベーションや新製品を創り出す企業の能力は悲惨なほどに落ちています。一方で、大学も、博士号をとっても3年契約で雇われる、いわゆる「ポスドク」であふれています。3年で追われているのですから、長い時間をかけてやる大きな発見発明はできっこないし、帰ったらイスがなくなっているので、留学もできません。3年契約を3回も繰り返せば、たちまち40歳に近づいてしまいます。こうして若い人を使い捨てた結果、日本企業の競争力はどんどん衰退してきています。
デフレ日本では、これからも、AKB48とユニクロは、皆で同じ服を着て売って、皆でランキング競争に追われていくのでしょう。ユニクロの没個性な商品も、AKB48の彼女らが着ている女子高生的な「制服」も、兵隊さんの軍服に見えてくるのは歳のせいでしょうか。
http://blog.livedoor.jp/kaneko_masaru/archives/1260891.html
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