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参院選に向けて政権浮揚を目論む鳩山政権が「二匹目のドジョウ」を狙った「事業仕分け」第二弾が始まった。まずは4月下旬、104の独立行政法人(独法)のうち、47法人の151事業が標的とされた。
最初に断っておくが、本誌は迷走する現政権の失点を必要以上にあげつらうつもりはないし、感情的な役人叩きに与するつもりもまったくない。ただ、「第二の政府」とも揶揄される独法の仕分けは、明らかに切り込み不足だったのである。
まず、独法の最も大きな問題として挙げられるのは、官僚機構の天下りの最大の受け皿になっている点だ。
ある独法の理事はかつて、筆者にこう明かした。「政策官庁の場合、各局それぞれに結びつきの強い独法が存在する。事務次官をめざす出世レースに敗れると、局長や審議官で退官を余儀なくされるが、こうした独法の役員として天下りすることで、引き続き高収入を確保できる仕組みになっている」
独法役員へは退官直前の年収(局長・審議官クラスは2千万円前後、事務次官クラスなら2500万円前後)と同程度、あるいはそれを上回る年収で迎え入れられるという。しかも数年働くだけで破格の退職金も漏れなく付いてくるから、おいしい。
筆者が入手した全独法・特殊法人の内部資料によると、2000年以降で年収が最高レベルの額だったのは、内閣法制局長官で退官、地域振興整備公団(現・中小企業基盤整備機構、経済産業省所管)の総裁に再就職した工藤敦夫氏である。同年度の年収は2581万円だった。
退職金額は、在籍月数に応じて異なるが、労働事務次官から労働福祉事業団(現・労働者健康福祉機構、厚生労働省所管)の理事長に再就職した若林之矩氏が02年8月の退職時に4496万円をもらったのを筆頭に、00年以降に4千万円以上を得た官僚OBは少なくとも11人いた。
こうした高額報酬を約束された官僚OBの天下りポストを確保することに伴い、独法は必然的に管理部門が肥大化する。さらに独法自らが出資する関連会社や公益法人へも同様に独法OBの天下りが広く行われる。独法が国から請け負った事業を公益法人などに丸投げし、役員報酬分相当の利益などを「中抜き」する構図につながるわけだ。
3人で済む仕事を1千人で
残念ながら、事業仕分けではこうした実態の一部こそ明らかにされたものの、天下りの原則禁止や、その悪弊を是正しようという流れにはまったくならなかったに等しい。
かねてから再三問題視されているのが、独法が手がける事業の存在意義そのものだ。
例えば、国土交通省所管の住宅金融支援機構。メガバンクやネット銀行など大半の金融機関が住宅ローンを手がけるようになり、民業圧迫の批判から前身の住宅金融公庫は廃止を求められた。が、天下りを送り込む国交省などの支援もあり、「ローンは公的機関の関与が必要」と押し切った結果、民間金融機関と提携する長期固定住宅ローン「フラット35」の事業などが残された。
ある専門家は「機構はローンを直接個人に販売する銀行などと、ローン債権を証券化した資産担保証券を機関投資家に発行する証券会社などとを取り次ぐ存在に過ぎない。民間なら3人で済む仕事を、1千人近くかけてやっている」と呆れる。このフラット35の事業は、事業仕分けでは廃止にも縮減にもならなかった。
同じ国交省が所管する都市再生機構(UR都市機構)は、ファミリー企業や関連公益法人と、賃貸住宅の賃料の集金や空室の修繕など「どこでもできる」業務を随意契約で委託。08年度までの2年間で1千億円前後を流した結果、25のファミリー企業は、同年度末時点で総額580億円近くを剰余金・内部留保として溜め込んでいた。
かつての日本住宅公団は、安くて近代的な賃貸住宅を供給することが目的だった。だが、今や東京の汐留や月島など都心部に家賃が月20万〜30万円もする高級賃貸住宅を所有する。こうした「民間顔負け」の物件のメンテナンスも前述のファミリー企業などが担っていたわけだ。
法人税一銭も払わぬ独法
事業仕分けでは、高級物件などについては民間に移行する「方向」になったが、低所得者向け賃貸住宅など、他の事業も含めて「廃止」とされたのはゼロだった。
こうした民間でもできるのになぜか独法が手がける事業は枚挙に暇がない。
「仕分け人」たちはお気づきでないかもしれないが、独法は民間会社と同じような収益事業を行っても、法人税や所得税を一銭も支払う必要がないのだ。ちなみに公益法人も、法人税率が22%と優遇されている。「圧迫」されている民間事業者や民間のサラリーマンは、納税者としてもっと怒りの声を上げるべきだ。
そして独法をめぐるもう一つの無駄は、仕事が重複する法人が乱立していることだ。
例えば、本誌が先月号で取り上げた内閣府所管の国民生活センター。先ごろできた消費者庁だけでなく、経産省所管の製品評価技術基盤機構や、農林水産省所管の農林水産消費安全技術センターとも、製品や食品の安全性を調査する事業などで分野が重なっている。各省の「縄張り」争いに弄ばれ、消費者利益の増進という目的が蔑ろにされている状態なのだ。
また、104のうち38の独法は研究開発にかかわる法人だが、事業仕分けでは重複する分野の整理・統合の議論までとても届かなかった。文部科学省所管の宇宙航空研究開発機構の広報施設など、廃止と判定された事業は計7億円程度とスズメの涙にとどまっている。
昨秋の事業仕分けの第一弾で、次世代スーパーコンピューター予算に関して蓮舫・参院議員が「世界で2位じゃだめなのか」と切り込もうとして科学者らから批判を浴びた反省もあったのだろう。そもそも科学技術の発展という理念や長期的戦略も無しに、議論しようということからして間違いではなかろうか。
廃止の連発だけを期待すべきでないことは理解できる。一事業にわずか1時間の議論で結論を出すという手法も無理がある。第一弾以降、予行演習を繰り返し、生き残り戦略を練り上げた独法と所管省庁の巻き返しが功を奏した側面もあろう。
忘れてはならないのは、民主党が昨年の衆院選で、「独法の全廃を含めた抜本的見直し」という政権公約を掲げていたことだ。省庁−独法−公益法人と連なる「官益」構造の根本的な問題に切り込まず、単なる看板の掛け替えに終わるようでは、やはりただの「政治ショー」だったとのそしりは免れまい。
http://facta.co.jp/article/201006036002.html
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