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2010年6月11日 (金) 14:45
対米隷属・財務省主導の菅首相所信表明演説
菅直人新首相が衆議院本会議で所信表明演説を行った。
個人の孤立を防ぐための「パーソナルサポーター」制度の支援についての思いが示された以外は、官僚の作文をつなぎ合わせた印象の強い総花的な演説であった。また、言い古された感の強い「第三の道」論と自らの履歴の紹介以外には故事などを踏まえたオリジナリティのある思想の開示がなく、聴衆を魅了する部分の乏しい演説だった。
特徴点を五点、以下に列挙する。
第一は、税制の抜本改革に向けての超党派の検討を呼びかけたことで、いよいよ大増税プロジェクトが始動することが宣言されたことである。
鳩山政権では、政府支出の無駄を排除するまでは増税の具体的検討を封印する姿勢が示された。膨大な政府支出の無駄を排除するには、増税という逃げ道を塞いでおかねばならない。この当然のスタンスが堅持されてきた。
ところが、菅政権では大増税論議が大手を振って展開されることになった。
菅首相は昨年来実施されている事業仕分けを今後も継続することを述べたが、事業仕分けによってどれだけの財源を捻出するかについての言及がなかった。事業仕分けを担当した枝野幸男新幹事長は、事業仕分けでは支出削減目標を設定しないことを正当化する主張を展開したが、これでは、事業仕分けが単なるパフォーマンスに終わる危険が圧倒的に高い。
これまでの事業仕分けでも、廃止とされた一部事業を別にすれば、抜本的な「事業内容の見直し」や「削減」などの抽象的な言葉が並ぶだけで、実質的に支出削減が骨抜きにされる恐れが極めて高い。
民主党は無駄な政府支出を年額12兆円削減することをマニフェストに明示しているが、この政権公約を維持するのかどうか、明確な言及が不可欠である。
所信表明演説からの印象では、菅首相が財務省主導の大増税路線に完全に引き込まれたとの疑いが、ますます濃厚になった。国民が求めることは、増税論議に本格的に入る前提条件としての政府支出切り込みの断行である。この点が大幅に後退した印象が極めて強い。
第二は、鳩山内閣が総辞職に追い込まれた主因である沖縄普天間基地移設問題について、引き続き、沖縄県民と主権者国民の意思を踏みにじることを維持する見解を明示したことである。
鳩山前首相は5月14日に、米国の合意を得る前に、主権者である沖縄県民の同意を得ることを確約した。しかし、現実には地元住民・主権者国民だけでなく連立与党である社民党の同意も得ずに、米国の要求通りの合意を決定して発表してしまった。
主権者国民の意思を踏みにじるこの意思決定が鳩山内閣崩壊の主因になったにもかかわらず、その修正を一切示さない対応が続いている。6月23日に沖縄を訪問することを示したが、沖縄を訪問することよりも、主権者の声を尊重することが先決である。新政権の対米隷属姿勢が改めて確認された。
第三は、官僚主権構造を打破するうえでそのカギを握る天下り根絶について、「本格的に取り組む」と述べただけで具体策をまったく示さなかったことだ。
天下りの「あっせん」を禁止しても、天下りが「あっせん」によるものではないと言い逃れられれば、天下り禁止の実効性はまったくあがらない。民主党は野党時代に自民党の天下り禁止規定を「ザル規定」だと非難してきたのではないのか。
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天下り禁止を実効性のあるものにするためには、例えば、
「退職後10年間は退職直前10年間に関与した企業、業界、団体への就職を禁止する」
といった程度の客観的な規制を設けなければ天下り根絶は有名無実になる。
菅首相が「本格的に取り組む」と発言した具体的意味が明らかにされねばならない。
第四は、「政治とカネ」の問題についての言及がなかったことだ。菅首相は政治活動を始めた市民運動時代を振り返り、故市川房江氏が経団連を訪問して経団連による政治献金あっせん中止を求めたエピソードを紹介したが、それ以上の言及がなかった。
問題の根源を断ち切るには、「企業団体献金の全面禁止」を法制化するしかない。菅首相の演説は経団連による政治献金あっせん中止で十分だとのメッセージを示したものとも受け止められかねない。「企業団体献金全面禁止」の次期国会での成立を約束する必要があるだろう。
第五は、昨年の小沢一郎元幹事長秘書逮捕以来、検察・警察捜査のあり方に対するさまざまな問題が浮上してきた。小沢氏周辺への捜査と同様に、民主党国会議員の石井一氏を狙い撃ちしたと見られる厚生労働省元局長の村木厚子氏の裁判では、検察当局の不正な捜査が鮮明に示されている。
また、足利事件での菅家利和さんの無罪確定でも検察捜査の巨大な欠陥が明らかにされた。
取り調べ過程の全面可視化、検察人事のあり方の全面的な見直しなど、日本の警察・検察・裁判所制度を近代化するための対応が手つかずのまま残されている。この問題にも一切言及がなかった。
折しも、新政権発足直後に検察人事が発表された。
霞が関支配、官僚支配を考察するとき、霞が関権力の中枢は財務省と法務省である。菅新総理はこれまでの「脱官僚」の看板を捨てて、財務官僚・法務官僚と提携したかの印象を否めない。
検察審査会による小沢一郎氏に対する起訴相当議決は、審査補助員の強引な誘導がなければ考えられない決定であった。検察審査会が二度にわたって異常な議決を示さぬよう、全プロセスについての情報開示を求められると同時に、主権者国民は検察審査の行方を厳重に監視しなければならない。
検察機能が政治利用されることがまかり通れば、日本は名実ともに暗黒秘密警察国家に転じることになる。
対米隷属・財務省主導緊縮財政路線・検察権力との結託は小泉政権の基本路線であったが、新政権の基本路線と酷似することになるのではないか。
日本経済の再悪化が懸念されると同時に、新政権に対する最初の重要な再評価が9月の民主党代表選で実行されることが予感される所信表明演説であった。
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