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http://www.the-journal.jp/contents/kokkai/2010/06/post_223.html
菅政権がスタートして「脱小沢」ばかりが注目されているが、私には「政界再編」の準備が進行しつつあると思えて仕方がない。それが成功するかどうかは不明だが、政局の雰囲気が3年前の「大連立」の時と似ているのである。
前回の記事は外国でインターネットで見た日本の新聞情報を元に書いたが、今回は帰国して日本の空気を吸いながら書いている。その事で考えの前提が変わった。前回は「小沢氏が鳩山氏に辞任を迫り、それに抵抗した鳩山氏が小沢氏を道連れにした」との新聞情報をそのまま判断材料にした。
ところが帰国して日本の空気の中にいると考えが変わった。小沢氏が鳩山氏に辞任を迫ったのは事実だろうが、「道連れ」にされたのではなく、小沢氏の方から「自分も辞める」と言って鳩山氏に辞任を迫ったのではないかと思うのである。何のために。参議院選挙に勝つためにである。
考えてみれば鳩山氏一人が辞めて小沢氏が辞めないのは最悪の判断である。メディアに洗脳された国民は小沢氏をここぞとばかり叩くだろう。大衆は判官贔屓で下衆だから、辞めた人間には同情するが辞めない人間は叩きまくる。正しいかどうかなど考えない。理屈もへちまもない。仮に小沢氏が辞めないつもりだったら二人揃って強行突破するしかなかった。しかし普天間問題を見て小沢氏は鳩山氏に辞任を迫った。それなら自分の辞任を条件に迫るのが政治家らしいやり方である。
では何故「俺も辞めるから」という話ではなく「道連れ」にされた話が表に出たのか。そこに今回の政局のカギがある。一つは小沢氏に自分から辞める理由はないからである。検察と戦っている人間が非を認める訳にはいかない。だから他人から辞めさせられる形にした。しかし辞任を迫ったら逆に辞任させられたというのは実に「しまらない」話である。そして「道連れ」は小沢氏を決定的に悪役にする。それが狙いだったのではないか。
普通の人間は自分の正当性を主張する事だけを考える。しかし政治家は自分のことより政治的成果を考える。感情や名誉欲に捕らわれたら政治家など出来ない。政治的な勝利を得るためには不名誉や屈辱も厭わない。それが政治家である。目的さえ達すれば不名誉や屈辱などいつでも回復出来る。
そこで目的の参議院選挙である。二人とも辞めずに強行突破したならどうなるか。私は実はメディアの言うほど「民主党惨敗」になるとは思っていなかった。投票率は下がるから組織選挙となり、無党派の票は大きな影響力を持たない。すると小沢氏の力で業界団体を味方につけた民主党がそこそこの票を取る。ただ影響力は小さいと言っても無党派層は民主党ではなく第三極に向かう。第三極が伸びる可能性はある。創価学会と業界団体の支援がなくなった自民党はやはり厳しいが、それでも強行突破してくれれば戦いは有利になる。民主党単独過半数は無理で、選挙後は第三極と公明党が自民党につくか民主党につくかの政局になる。自民党につけば「ねじれ」が起きて民主党は解散に追い込まれる可能性がある。しんどい政権運営が続く。
一方、鳩山・小沢の二人が辞めれば野党は攻めの材料を一気に失う。参議院選挙は民主党に有利になるが、さらに単独過半数を確実にする方法がある。かつて自民党の小泉氏が使った手である。党内を分裂模様にして国民の目を引きつけ、野党の存在を見えなくするのである。そのため小沢氏が悪役になった。小泉時代の「抵抗勢力」の役回りである。「道連れ」は実は小沢氏が考えた知恵ではないかと私は思う。鳩山氏の意向を受けた菅氏が「脱小沢」の姿勢を見せると、民主党内反小沢派が一気に活気づいて「脱小沢」の流れが固まった。
「脱小沢」をやっている人たちは本気で「脱小沢」を図っているかも知れない。小沢氏が追い込まれる可能性もある。しかし本当にそう思われないとこの仕掛けはうまくいかない。窮地に陥っても参議院選挙の目的さえ達すれば、そこから先はまた新たなステージが生まれる。そこで別のシナリオを用意すれば良い。
民主党が「脱小沢」に衣替えしたことで、国民の目は民主党だけに注がれている。昨日までの「新党」など目に入らなくなった。国民には「ニュー民主党」の方が新党よりも新鮮に見える。こうなると無党派層は「ニュー民主党」に向かう可能性が高い。
小沢氏の力で組織票を固めた民主党がさらに「ニュー民主党」の力で無党派層も引きつければ民主党の単独過半数獲得が現実的になる。そこで何が起きるか。次の衆議院選挙で自民党が政権を奪っても、参議院の過半数を民主党に握られている限り全く無力の政権になる。それが参議院選挙の時点で分かってしまう。自民党に政権交代を実現しようとする意欲が失せる。
自民党から離れる政治家がまた出て、イデオロギー的に民主党と相容れない政治家だけが自民党に残る。自民党にイデオロギー色が強まるとかつての「国民政党」的性格は弱まり、政権交代の可能性が遠ざかる。二大政党の一方の軸が消滅していく。
かつての万年与党と万年野党の時代が再来する。社会党が政権政党になり得なかった時代の自民党は党内で政権交代を繰り返した。党内には官僚出身VS党人派、成長・緊縮財政路線VS分配・積極財政路線、反共親米イデオロギーVS経済中心の現実主義という色分けで概ね二つの勢力が存在した。「角福戦争」は有名だが、福田派と田中派はこの二つの流れを代表していた。そしてこの党内対立こそが自民党の活力の源泉だった。
今、見えてきたのはそれに近い状況である。民主党の中が「政治は生活が第一」を掲げた分配・積極財政路線と「最小不幸社会」を掲げた成長・緊縮財政路線になんとなく別れている。これで政権交代を繰り返せば、自民党は万年野党のままか、或いはどちらかの側に吸収されていく。そこで民主党を二つに割れば「政界再編」である。自民党対民主党ではない新たな二大政党が生まれる。
そう考えると3年前の「大連立」を思い出す。あれは読売新聞社の会長が仕掛けたと世間は思っているが、そう思わせておいて仕掛けたのは小沢氏である。新聞社の会長は自民党の延命のために「大連立」を考えたが、小沢氏は「政界再編」が目的だった。
現在の自民党と民主党には考えの異なる政治家が混在し、何をやるにも党内で足の引っ張り合いになる。それが日本の政治を著しく停滞させている。これを解消してすっきりさせないとイギリスのような二大政党制は生まれない。そこで一時的に自民党と民主党を合体させて巨大与党を作り、次にその中の政治家を二つの路線に収斂させ、それが分裂するテーマを選んで選挙をやれば、国民の手によって新たな二大政党の勢力分布が決まる。
ところが「大連立」は「大政翼賛会的で民主主義を冒涜する」と轟々たる非難を浴びた。一時は小沢氏の辞任騒ぎになった。そこで違う方法での「政界再編」を小沢氏は考えたのではないか。選挙に勝つ事によって民主党を肥大化させ、自民党を二大政党の軸ではなくなるほど追いつめる。一方で肥大化した民主党に分裂の芽を作り「政界再編」に持ち込む。そのためには何としても参議院選挙で民主党は単独過半数を獲得しなければならない。
小沢氏は「大連立」の時も非難轟々だったが、現在はそれ以上の悪役である。しかし私の想像通りなら、成功すれば政治史に残る大事業を成し遂げた事になる。どんなに非難されようとも本望であるに違いない。
思い起こせばかつて小泉純一郎氏も「政界再編」を仕掛けようとした事がある。郵政選挙で自民党が大勝した後、盟友の山崎拓氏を小泉氏とは対極の路線に向かわせた。山崎氏は靖国問題で小泉氏と距離のある議員を集め、民主党も巻き込んでグループを作った。一方で小泉氏は公明党と連携し小選挙区制を中選挙区に戻す作業を始めた。1993年に小沢氏が実現させた小選挙区制を葬り去ろうとしたのである。しかし小泉氏は総理の座を安倍氏に譲り、裏から操ろうとしたがために失敗した。安倍氏が小泉氏の思い通りにならなかったからである。
小泉主導の「政界再編」が潰えた後、小沢氏が取り組んでいるのも「政界再編」だと私は思う。他の政治家は目の前の課題だけしか見ていないが、小沢氏はその先を見ているためになかなか他人に理解されない。あえて民主党に分裂の芽を作るのも、強気の候補者擁立を図るのも、全て「政界再編」を考えた上での事だと私は想像する。その小沢主導の「政界再編」が成功するかどうか、まずは参議院選挙の結果が第一条件となる。
(南青山コメント)
小鳩ダブル辞任についてはこれまでいろいろな説が登場したが、どれも帯に短し襷に長しな感じで、これはという説明に出会えなかった。
しかし、この田中良紹の将来の「政界再編」のための捨て石説は、これまででもっとも納得のいく説明に思える。
しかも、数年前の小沢大連立構想騒動の説明にもなっていて、まさに名探偵の名推理のおもむきだ。
もちろん、この説に納得がいかないという人も多いだろう。
しかし「本当にそう思われないとこの仕掛けはうまくいかない」のである。
鳩山や管がどこまでこの仕掛けに絡んでいるかは不明だが(おそらく肝心なところは知らされていないだろう)、この記事は、史上最年少で囲碁名人になった井山裕太と三目で打つという小沢の壮大な深慮遠謀の一端を垣間見せてくれたように思える。
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