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2010年6月9日
■ 小沢切りは本物か?
菅直人新首相の内閣が発足した。先週書いたような理由で、鳩山首相が辞任したこと、小沢幹事長を道連れにした「ダブル辞任」であることに驚きはないが、枝野氏の民主党幹事長就任は意外だった。その他の人事も、概ね「脱小沢」の印象だ。
ことによると、巷間言われる「小沢切り」(小沢一郎氏の政治的影響を排除すること)は本当なのかも知れない。今年は小沢邸での新年会に出席するなど、小沢氏との関係は悪くないと見られた菅氏だが、鳩山前首相共々強すぎる小沢氏の影響の排除にかかったのかも知れない。
首相となると、小沢氏の政治資金の問題に深く関係する法務、財務の両省が形上は配下に入るわけで、小沢氏の排除を本気で行うつもりなら、達成できるのかも知れない。但し、その場合、民主党が将来の分裂要因を抱えることになりそうだ。
もっとも、差し迫った参議院選挙のためには、「小沢切り」を演出することが効果的だろうし、先週末に行われた世論調査は概ね菅氏に好意的な結果で、これは同時に小沢氏の幹事長辞任を評価するものだった。参院選挙が終わってしばらくすると、実は「切ったふり」だったということが分かるのかも知れない。
政治の世界には、「裏切り」もあれば「豹変」もある。真相の究明は、政治ジャーナリストの皆さんにお任せしよう(上杉隆さん、よろしくお願いします!)。小沢氏も政治家である以上、「静かに」ばかりしていると、政治的影響力が無くなってしまう。そのうちに何らかの動きがあるだろう。こちらは、菅新体制の経済運営に注目する。
尚、政権運営で一つだけ付け加えておくと、陳情処理なども含めて幹事長及び幹事長室に政策決定を集中する、小沢氏が作ろうとしていた権力集中システムをどうするのかが注目される。
表向きの政策の決定については政調会を復活させるなど権力分散化を図るようだが、党の候補者決定と資金という権力の源を握る幹事長(室)をどう使うのかは、大小の経済政策とも関連して注目される。たとえば、昨年の予算編成は、事実上、「小沢裁定」で決着したことが想い出される。
■ 短期的注目点は「消費税」と「デフレ対策」
菅新体制について経済面で注目されるのは、消費税とデフレ対策だ。
消費税については、前回総選挙のマニフェストで民主党が政権を取った場合、向こう4年間税率を引き上げない方針を謳っていた。菅氏も、財務相就任当初は、増税の話を先にやると、支出の削減が上手く行かないので、先ずは財政支出の削減に注力すると述べた。
しかし、その後、消費税についても議論は先行して行っていいと態度を変え、最近は、税率引き上げに積極的な印象であった。財政再建に積極的な論者の中には、前回総選挙から4年経過後即座の引き上げを決定して欲しいとか、あるいは、前回総選挙のマニフェスト自体を見直して、早く税率を引き上げるべきだという議論もある。
他方、金融危機後の需要落ち込みがまだ完全に回復せず、デフレ傾向が根強い現状で、消費税率の引き上げを急ぐべきではないという意見がある。
筆者は、後者に賛成するが、増税の時期以上に財政支出の改善(主に削減による効率化)がもっと重要だと思っている。一方、たとえば、消費税率引き上げとセットで法人税率を大幅に引き下げるなら、景気と経済に対するトータルの効果はプラスになる可能性はある。
何れにせよ、当面の支出の財源が税金か国債かは資金繰りの問題であり、個々の財政支出の必要性と効率性の問題の方が明らかに重要に思える。
但し、前述のように菅氏は財政再建に対して積極的であるかも知れず、消費税率の引き上げがスケジュールとして具体化する可能性が大いにある。
この場合、消費税率引き上げに関連して、(1)実施前の駆け込み需要、(2)駆け込み需要の反動、(3)引き上げ実施(=増税)後の需要に対する効果(単独且つ短期的には需要下押しだろう)、(4)実施要領の影響(消費税がインボイス方式になるか否か。なる場合に、品目別の税率の影響など)といった、現実の経済とビジネスの分析上は重要なテーマが目白押しになる。
一方、些か影の薄かった国家戦略担当の副首相時代から、菅氏はデフレ対策の重要性について発言することがあった。
デフレ対策にどう取り組むか、特に日銀に対してどのような態度で臨むかが注目点の一つだ。菅内閣が日銀に圧力を掛けるか、日銀を放っておくか、或いは日銀が政府の介入を嫌って自主的に追加的な金融緩和策を打ち出すかどうか。金利にも為替レートにも大きく影響する問題なので、目が離せない。
現在、大雑把にいって、デフレ期待の下で投資・消費共に低調で日本の景気が低迷し、税収が上がらないので、累積財政赤字が増えている。他方、安定的なデフレ期待の下では預貯金の期待実質金利が魅力的であるため、預貯金に資金が集まり、銀行にとって有望な貸し出し先が乏しいこともあって、これが財政赤字をファイナンスするための国債を名目上低利回りであるにもかかわらず購入する方向に向かっている。
政策の優先度は、先ずはデフレ対策が重要であり、菅新首相の特に日銀に対する態度が重要だ。
■ 「増税して、使う」は 社会主義化の道
さて、菅内閣の当面の注目点は前記の二点だが、中長期的な視点を含めて面白いと思うのは、菅氏の経済思想だ。
彼は、増税しても、そのお金を正しく使えば、景気は良くなり、失業が減るという趣旨のことを何度か口にしている。
財政赤字を伴う財政支出が、「短期的には」景気を拡大するという考え方には、総合的な賛否を別とすれば、世間に賛成者が多いだろう。一昔前は、「景気対策」というと、もっぱらこうした財政政策だった。
一方、市場経済に基づく民間のお金の使い方の方が、政府(つまり政治家と官僚)によるお金の使い方よりも効率的だという考え方も、大方の賛成を得るだろう。かつて、小泉内閣のキャッチフレーズだった「構造改革」はこの考え方に基づく。
しかし、たとえば、菅氏の有力ブレーンの一人とされる小野善康大阪大学教授の言を借りると(以下『日本経済新聞』6月5日朝刊5面のインタビュー記事を参照した)、景気(第1の道)でも、効率(第2の道)でもない、「第3の道」の考え方として、「雇用をつくるには増税し、税収を直に使って仕事をつくればいい」という考え方があって、これがいいのだという。そして、この場合、「例えば失業率が3%以下に下がれば、政府が事業から手を引くと決めておくのが重要だ」という。
課税して集めたお金を100%使うとすると、経済全体としての消費性向は上昇する公算が大きいから、確かに、それでも雇用は増えるのかも知れない。失業の存在こそ最大のムダだという考え方にも一理あるし、雇用対策を増税でファイナンスするなら政策の継続に無理がないし、国債での資金調達が金利を引き上げる心配もない。
しかし、以下の3つの心配がある。
最大の心配は、官製事業の連鎖的拡大だ。
仮に、5%の失業率を、3%未満に引き下げるために、増税して、2%分の雇用創出だけにそのお金を支出するとしよう。確かに、支出に対応する仕事が出来てその分の雇用が生じるかも知れない。しかし、新たな増税によって民間の需要を奪っているので、奪われた需要分の仕事が減るはずだ。
この減少分を補うためには、再度財政支出を拡大することになるが、これを再び増税で賄うと、また新たな需要の減少が生じる。すると、また同じプロセスを繰り返すことになる。
この一連のプロセスが繰り返されると、支出が雇用創出につながるとしても、民間の仕事が減って、官製の仕事がどんどん増えることになる。経済の「官業シフト」が急速に進むことになるではないか。「第3の道」とは、経済を社会主義化する道である。
また、小野氏の提唱する方式だと、失業率が3%以下になった場合は、政府が事業から手を引くということになっているが、これは難しいのではないか。民主党の「ムダの削減」がサッパリ進まないことからも窺えるように、いったん事業化された組織は、官僚がその廃止に抵抗するので、なかなか無くならない。
たとえば介護なら介護の事業体を会社形式にして、民間に売却するような民営化案件を将来に作るなら、金融業界が喜ぶ案件になる可能性があるが、形だけ民間でも、政府から受注の形でお金が流れたり、新規参入者・競争者に対する規制の形で援助を受けたりといった、国会のチェックの及ばない「隠れ官業」になる公算が大きい。
加えて、当初から、官業の効率性が心配だ。そもそも、有望な事業家のチャンスが乏しいから民間の投資が低迷しているのだ。そして、政府に民間以上に事業構想能力があるとは思えない。もちろん、政府にも事業を真剣に考える人がいるだろうから、中には成功例が出るかも知れないが、傾向として官業は非効率的であるというのは、目下、社会的に共有されている常識ではないだろうか。
何れにせよ、「強い経済、強い財政、強い社会保障を一体的に実現する」という菅氏の主張は、官業の肥大化による、日本の経済の急速な社会主義化につながるのではないか。
官僚共同体は、この政権を、増税と官製事業の拡大に便利に利用することになるのではないだろうか。
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