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ジークムント・フロイトは、晩年に『人間モーゼと一神教』という論文を書いているが、そこで、フロイトは、モーゼはユダヤ人ではなく、ユダヤ人たちにとっては異民族であるエジプト人(王族)であったこと、しかもモーゼは、エジプトで捕虜になり奴隷生活を強いられていたユダヤ人たちを救い出し、カナンの地へ導いたにもかかわらず、逆に途中でそのユダヤ人たちによって裏切られ、殺害されたのではないか、そしてその「モーゼ裏切り」と「モーゼ殺害」の事実は忘れられたかもしれないが、ユダヤ民族の集合的無意識として、つまりトラウマとしてユダヤ民族の精神生活と宗教生活を支配している、という説をたてている。
つまり、ユダヤ民族にとって、この「モーゼ裏切り」「モーゼ殺し」が民族的トラウマとなっており、結果的にユダヤ人はユダヤ教という戒律の厳しい宗教をかたくなに守り続けなければならなくなっている、というわけだ。
さて、小沢一郎である。小沢一郎に関する情報の中で、よく言われることは、「弟子」や「子分」たちが次々と離れていく、という話がある。ある場合には、小沢一郎に長年付き従ってきたにもかかわらず、いったん袂を分かつと、今度は逆に「反小沢」になって小沢攻撃に転じる、と。最近では渡部恒三の例がそうだろう。
長年の野党時代を含めて、政治生活を共にしてきたはずの渡部恒三が、今や意地になって小沢一郎批判と小沢一郎潰しに狂奔している。それをとらえて、われわれは、しばしば小沢一郎本人に問題があると考え、小沢一郎の人格や処世術に根本的な欠陥があると思いがちであるが、はたしてそうだろうか。僕は、この問題は複雑だと思う。
しかし、いずれにしろ、小沢一郎批判は、マスコミの演出効果とはいえ、国民的な「小沢一郎バッシング」につながっていく。今回の政変劇においても、政治的、政策的な問題や、普天間問題に象徴される鳩山首相の政治能力の問題はそっちのけにして、「反小沢」や「小沢バッシング」が有効な武器として活用されている。
しかし、よく考えてみよう。たとえば小沢一郎を見捨てて、裏切り、逆に小沢一郎に反旗を翻した人間で、その後、活躍している人間はいない。いや、小沢一郎に反旗を翻し、小沢一郎批判を開始した人間は、ほとんどの場合、その後は鳴かず飛ばずになるか、あるいは自滅し、消えている。竹下登、野中広務、船田元、野田毅、小池百合子・・・等の場合がそれである。
これは何を意味するのか。小沢一郎を裏切り、小沢一郎批判に転じる人たちにこそ、むしろ問題があると言うべきだろう。小沢一郎は、言うならば理想社会実現のためならば、いかに難問山積といえども、決して妥協しようとしない「永久革命家」であり、過激な理想主義者である。弟子や子分たちが離れていくのは、弟子や子分たちが、「永久革命家」「過激な理想主義者」である小沢一郎とともに闘い続けることに疲れ、その理想や理念に途中で恐れおののき、付き従いきれなくなるからではないのか。
モーゼもまた理想主義者であり永久革命家であった。モーゼを裏切り、モーゼを殺害したユダヤ民族もまた、モーゼに救われ、モーゼに導かれ、モーゼに付き従いながらも、そのあまりにも強烈・強固な理想主義者、永久革命家の姿に恐れおののき、仕方なく集団による「モーゼ殺し」という裏切行為を選択したのだろう。
小沢一郎を裏切り、小沢一郎を葬り去ろうとした弟子や子分たちが、その後、決して幸福な人生を送ることができないのは、モーゼを殺したユダヤ民族が、決して幸福にはなれず、苦行とも言うべき戒律の厳しい宗教生活に自らを閉じ込めているのと同じではないのか。今回の政変劇で、民主党内だけではなく、日本国民の間でも、検察官僚とマスコミが捏造した根拠の怪しい「政治とカネ」問題を理由に、大衆的な「小沢一郎批判」は頂点に達しようとしている。
政権交代、民主党政権の実現に貢献した人は少なくないだろうが、どうひいきめに見ても、小沢一郎が最大の功労者であることは間違いない。その小沢一郎を、「検察官僚とマスコミ」が捏造した根拠の怪しい「政治とカネ」問題を理由に「小沢一郎」なるモーゼを排除し、追い落とそうとしているわけだが、おそらく渡部恒三を筆頭に、「小沢一郎廃除」「小沢一郎潰し」に狂奔している民主党の輩も、今頃は、寝覚めの悪い日々を送っていることだろう。やがて、「検察官僚とマスコミ」が捏造した根拠の怪しい情報に洗脳されたからとはいえ、無責任に「小沢一郎潰し」に加担している多くの日本国民にも天罰が下ることだろう。
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