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論争について(内田樹の研究室、6.5)【時間の無駄にしないための論争におけるマナー】
http://www.asyura2.com/10/senkyo87/msg/811.html
投稿者 南青山 日時 2010 年 6 月 06 日 06:48:17: ahR4ulk6JJ6HU
 

http://blog.tatsuru.com/2010/06/05_1049.php

ある月刊誌から上野千鶴子と対談して、「おひとりさま」問題について議論してくださいというご依頼があった。
上野さんと対談してくれという依頼はこれまでも何度もあった。
どれもお断りした。
繰り返し書いているように、私は論争というものを好まないからである。
論争というのはそこに加わる人に論敵を「最低の鞍部」で超えることを戦術上要求する。
それは「脊髄反射的」な攻撃性を備えた人間にとってはそれほどむずかしいことではない。
あらゆる論件についてほれぼれするほどスマートに論敵を「超えて」しまう種類の知的能力というものを備えている人は現にいる(村上春樹は『ねじまき鳥クロニクル』でそのような人物の容貌を活写したことがある)。
それは速く走れるとか高く飛び上がれるとかいうのと同じように、例外的な才能である。
でも、そのような才能を評価する習慣を私はずいぶん前に捨てた。
そのような能力はその素質に恵まれた人自身も、周囲の人もそれほど幸福にしないことがわかったからである。
それだけの資質があれば、それをもっと違うことに使う方が「世の中のため」だろうと思う。
論争におけるマナーについて高橋源一郎さんがツイッターに書いていた。私は高橋さんの提言に100%賛成である。ここに採録しておきたいと思う。

いまからツイートするのは、ぼくが「政治的アクション・政治的言論」に関して原則とすべき、と考えていることです。それは政治的事件や政策への批判、なんらかの提案、具体的な行動、等々、政治に関する関わりのすべてを含む政治的アクションを起こすにあたって、守るべきことと考えているものです。

原則1・「批判」は「対案」を抱いて臨むべし……政治的問題を批判する時、単なる批判ではなく、なんらかの「対案」を抱いてからあたるべきです。「××の〇〇という政策は愚か」ではなく「××の〇〇という政策で、△△は評価に値するが、□□は▲▲へ代替すべき」という語法で語るべきです。

原則2・「対案」は「原理的」「現実的」「応急」「思いつき」のいずれでも良し……政治的問題に「正解」はありません。ただ「最適解」が存在するだけです。必要なのは、「最適解」に至る材料を提出することです。「言わない」ことがいちばんまずいのです。なぜ、批判だけするのか。

原則2続・ぼくたちが「批判」だけして、「対案」を出さないのは、自分もまた「正解」を知らない、と思っているからです。「どこかに正解がある」と学校教育は教えます。けれど、政治的イッシューに「正解」などないのです。だからこそ、なんでも「言ってみる」べきなのです。

原則3・「自分の意見」は変わるべし…「対案」として「自分の意見」を提出しても、固執する必要はありません。というか、よりましな意見を目にしたら、「即座に変える」べきだとぼくは考えます。なぜなら、「対案」もまた「叩き台」にすぎないからです。一人より複数の智恵を参考にすべきです。

原則4・「対立する相手」の意見にこそ耳をかたむけるべし…もっとも本質的な批判は、対立者からのものです。だから、その意見にこそ耳をかたむけなければなりません。同調者や支持者の意見は、耳に優しいものですが、自分の「対案」を、「よりまし」にする力にはならないからです。

原則5・「寛容」をもって臨むべし……「対立」する意見を持つ「対立者」を「敵」と考えてはなりません。「対立者」もまた、同じこの共同体を構成する、かけがえのない成員なのですから。だから、「非国民」「売国奴」「愚か者」のような言葉を決して使ってはなりません。

ぼくがこのような原則を採用している理由は、60年代から70年にかけて、政治運動に参加していた時、この原則を採用できず、悲惨な結果を招いたことがあったからです。以後、ぼくは、これらを守るべき原則と考えるようになったのです。

私は高橋さんのこの原則を支持する。
その原則を適用するからこそ「論争」を望まないのである。
上野さんと私の対立点は「共同体」構想をめぐってのものである。
どのような共同体が望ましいかについての私たちの考えはずいぶん違う。
私は親族共同体をベースに考え、上野さんは親族を離れた個人をベースに考えている。
分岐する理由は私にはよくわかる。
個人ベースの共同体論は「豊かで安全な社会」に適している。親族ベースの共同体論は「豊かでも安全でもない社会」に適している。
理論そのものに当否があるのではない。
私と上野さんでは、社会状況の変化についての見通しがいささか違うだけである。
私は今の日本は「それほど豊かでも安全でもない社会」に(ゆっくりとではあるが)移行しつつあると考えている。
でも、これは「未来予測」であるから、私が正しい予測を立てているかどうかは今の段階ではわからない。時間が経たないとわからない。でも、時間が経てば誰にでもわかる。
時間が経たないとわからないことについて、今ここでその予測の適否を論じてもしかたがない。
適否を論じる暇があったら、とりあえず「あまり豊かでも安全でもない社会」でも生き延びられるように自分なりの備えをしておく方が時間の使い方としては合理的だろうと私は思う。
私自身はそのための「備え」をだいぶ前から始めている。
血縁地縁ベースの相互扶助共同体の構築である。
私はそれを自分の時間とお金をつかって行っている。
「行政が主導すべきだ」とも思わないし、そのような企てに公的な支援をしろと要求する気もないし、範例的な共同体としてメディアに報道してくれと言う気もない。
やりたいからやっているだけである。
他の人にも「私のようにしなさい」と言う筋のものではない。
私と同じような見通しに立って、相互扶助相互支援のための共同体の構築を始めている人はすでに日本中にたくさんいるだろうと思う。
その人たちといずれどこかで出会えばゆるやかな結びつきをもつことがあるかもしれない。ないかもしれない。
私は「自分の旗」を掲げて、「私の考えに同意してくださる方」へ連帯の挨拶を送るだけである。
そのために毎日大量の文章を書いている。
こういう進め方しか私には思いつかない。
その理由は高橋さんと同じである。

(南青山コメント)
いろいろなことを考えさせる記事だ。
「「批判」は「対案」を抱いて臨むべし」は言うは易く……の典型例だろう。
しかし、続けてすぐに「「対案」は「原理的」「現実的」「応急」「思いつき」のいずれでも良し」とある。
要は思いつきでも何でも良い、対案=自分の考えを述べよということだ。
さらに「「自分の意見」は変わるべし」「「対立する相手」の意見にこそ耳をかたむけるべし」とある。
論争は相手を打ち負かすためにやるのではなく、自分自身を鍛え直すためにやるということだ。
もちろん、そのような相手たり得ない相手もいる。
その場合は、そんなときはどうすればよいか。
「適否を論じる暇があったら、とりあえず「あまり豊かでも安全でもない社会」でも生き延びられるように自分なりの備えをしておく方が時間の使い方としては合理的だろうと私は思う。」と内田は書いている。
要するに時間の無駄だから相手にするなということだ。
私もその通りだと思う。  

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コメント
 
01. 2010年6月06日 07:28:07: Mn6ILOuKtc
 まさに阿修羅にぴったりの引例だ。規範的な文章…早起きは三文の得の実証。
自分を鍛えてくれる相手を選別すること、選別する眼力を日々、否秒々鍛えておくこと…日頃の生き方・時間の採り方が大事。
 『対案』があるか、辺野古の対案があるか。グアム・テニアンへの長い道程は、ではなく、あの法隆寺の歴史を有する日本の基地は日本の自衛隊だけでよい。
 並みの国になりたいとしている地球の反対側の・古い友国を、温かく見守ってやることだ。

02. 2010年6月06日 08:31:31: WdUZRlOZh6
血縁地縁ベースの相互扶助共同体の構築
日本には機能集団の共同体しかない。良くも悪くも。いろんな影響を与える。

03. 地には平和を 2010年6月06日 09:33:28: inzCOfyMQ6IpM: YdJjYtNWjw
議論をした際に自分が行っている議論を読み直し自分の意見がおかしいと思えたらそれを正直に言う事ができれば随分と違ってくると思います。私にはまだまだそれはできていないと思います。

04. 2010年6月06日 10:55:26: aPMkzI6zm6
そうですね。僕も去年よりはましな僕で在りたいと思います。投稿文上での議論対論は字句頼りですが、それ故に最適解向きかなと感じます。

05. 2010年6月06日 18:07:00: XSB24rzAQg
いい投稿ですね。

06. 2010年6月06日 20:09:13: mEJBueU4rI
内田はユダヤ人の定義に詳しいらしいが、
内田こそ600万人確定に使われたユダヤ人の定義を真っ先に明らかにすべきである日本人だろう。

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