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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/643
2010年06月02日(水)
鳩山総理と小沢幹事長の間を緊張させる官僚の「罠」
普天間問題を契機に静かなクーデターが始まる
現下政局の焦点は、鳩山由紀夫総理と小沢一郎・民主党幹事長の真実の関係がどうなっているかだ。
普天間問題をめぐり、内閣支持率が急速に低下しているため、民主党参議院議員のうち今回改選になる議員が「このままでは戦えない」と小沢幹事長に泣きつき、それを受けて、鳩山下ろしに小沢幹事長が走ったという見方が主流だが、この見方はあまりに皮相だ。このような情勢論の位相で情勢分析を行っても、問題の本質は見えてこない。
情勢論で議論するならば、
「ここで誰を次の総理にするのか。菅直人副総理(兼財務大臣)を新総理にしても、辺野古への普天間移設を決定した閣議了解に署名している。普天間問題で総理の交代が起きるのであれば、筋が通らないではないか」
「菅副総理は元全共闘活動家だ。あの連中は本質においてマキャベリストだ。小沢幹事長が因果を含めて総理に据えても、しばらく経てば『政治とカネ』の問題を口実に、小沢排除に動くのではないか。このような危険なシナリオに小沢が乗ることはないのではないか」
「いやそれよりも『みんなの党』の渡辺喜美代表に総理ポストをオファーするのではないか。民国みん連立政権ができるのではないか」
など、さまざまな情報が筆者のところにも入ってくる。
筆者は、これらの情勢論では、問題の本質を理解することができないと考える。
鳩山総理と小沢幹事長の間には、深刻な認識の相違がある。筆者なりの表現を用いれば、小沢幹事長は、鳩山総理が「友愛」のベクトルを間違えた方向に示してしまったと考えているのだ。
鳩山総理には2つの顔がある。
第1は、2009年8月30日の衆議院議員選挙(総選挙)で、国民によって選ばれた最大政党・民主党の代表としての顔だ。社会を代表している側面と言ってもよい。
第2は、霞が関(中央官庁)官僚のトップとしての顔だ。
官僚は、国家公務員試験や司法試験のような難解な試験に合格したエリートが国家を支配すべきと考えている。彼らは、露骨に威張り散らさずに表面は温厚な顔をしていても、内心では、国民を無知蒙昧な有象無象と見下している。
そして、国民によって選挙された国会議員は有象無象のエキスのようなもので、こんな奴らの言うことを聞く必要などサラサラないと思っている。
もっともこの有象無象の国民から取り立てる税金で官僚は生活しているので、国会議員の言うことも少しは聞かなくてはならないというくらいのバランス感覚をもっている。自民党政権時代は、「名目的権力は政治家、実質的権力は官僚」という不文律が存在していた。それを鳩山由紀夫総理と小沢一郎幹事長は本気で崩そうとしている。
鳩山総理と小沢幹事長は、官僚を選別するための国家試験では、所詮、教科書と参考書の内容を記憶して(必ずしも理解しなくてもいい)、限られた時間内に筆記試験で復元する能力しか測ることができないと考えている。
物事の本質を洞察する力、他人の気持ちになって考える力がエリート官僚に欠けているのは、これらの数値化できない能力を試験で測ることができないからだ。
■政治家と官僚の間の権力闘争
鳩山総理と小沢幹事長は、官僚の能力が卓越しているという神話を信じていない。標準的な能力をもつ国会議員ならば、忍耐力をもって取り組めば、官僚が担当している業務の大枠は理解できると考えている。
民主的統制から外れ、社会から隔絶したところで、現実離れしたゲームをしている官僚を放置しておくと、国家が崩壊するので政治主導を回復するというのが民主党連立政権の基本方針だ。ここで、国会議員と官僚の間で、「誰が国家を支配するか」をめぐってかつてない権力闘争が起きている。
鳩山総理が、沖縄県民の切実な声を真摯に受け止め、米海兵隊普天間飛行場の移設先について「最低でも(沖縄)県外」という主張を総選挙前にも、総選挙中にも、そして総選挙後も続けた。5月28日に、辺野古への移設を明示した閣議了解を採択した後も、鳩山総理は、将来的に、米海兵隊を沖縄の外に移動することを考えているのだと思う。
これに対して、官僚は、自民党政権時代の日米合意で定められた辺野古案にもどすことが死活的に重要と考えた。それは抑止力を維持するためではない。
政権交代が起きても、外務官僚と防衛官僚が組み立てた辺野古案がもっともよいという結果になれば、日本国家を支配するのが官僚であるということが、国内においてのみならず、米国政府に対しても示すことができる。普天間問題は、官僚にとって、「日本国家の支配者がわれわれである」ということを示す象徴的事案となるのだ。
内閣総理大臣という1人の人間の中に、国民を代表する要素と官僚を代表する要素が「区別されつつも分離されずに」混在している。普天間問題について、この2つの要素が軋轢を強めた。こうして、鳩山総理の中で自己同一性(アイデンティティー)の危機が生じた。
当初、鳩山総理は、国民の側、すなわち沖縄県外への移設に舵を切ることで問題の解決を図ろうとした。そのとき、鳩山総理を支える有力な根拠となったのが、総選挙で沖縄に4つある小選挙区で、沖縄県内への移設を容認した自民党候補が全員落選したことである。
この選挙で小選挙区から当選した4人の国会議員は、全員与党だ。これは沖縄史上初めてのことだった。ここで、直近の民意が「最低でも県外」であることが明白になった。
もっとも沖縄には別の民意もある。
2006年に県民によって直接選挙された仲井真弘多・沖縄県知事が、辺野古の沖合ならば県内に普天間飛行場の代替施設を受け入れることを容認していたからだ。
1月末の名護市長選挙で、辺野古への受け入れに反対する稲嶺進氏が当選した。これで鳩山総理は、沖縄県外に向けて、舵を切ろうとした。ここで大きな与件の変化が生じた。
沖縄1区選出の下地幹郎衆議院議員(国民新党)が、沖縄県内への受入を主張したからだ。この機会を外務官僚、防衛官僚は最大限に活用した。官僚は、下地氏が沖縄の「声なき声」を代表しているという印象操作と情報操作を行い、官邸の官僚、閣僚たちに「辺野古への回帰以外にない」という雰囲気を醸成していった。
鳩山総理は、意思決定理論(決断理論)の専門家だ。目的関数を設定し、制約条件を定める。制約条件の中で、下地氏の沖縄県内受け入れ発言により、「沖縄の民意の反対」という要因が小さくなり、官僚による抵抗、また官僚が誘致する米国の圧力という要素が日に日に強くなった。
■議員辞職すると宣言したはずの下地氏
下地氏は、鳩山総理を標的にし、沖縄県内への移設を5月末までに実現するように、執拗な圧力をかけた。5月16日には、鳩山総理の辞任を求める爆弾発言をした。連立与党の幹部が鳩山政権を崩壊させようとするのだから、異例な話だ。下地氏の地元の琉球新報はこう報じる。
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< 5月末決着で党内見解"真逆"/日米合意なければ「首相は辞任を」/下地国対委員長
【東京】国民新党の下地幹郎国対委員長は16日のテレビ朝日番組で、米軍普天間飛行場の移設問題の5月末の決着を目指していた鳩山由紀夫首相の責任に関して、
「首相が5月末までにやるべきことは日米合意だ。5月末までにできなかったら首相としての責任を取らなければいけない」
と述べ、月内に日米合意ができなければ首相は辞任すべきだとの考えを示した。
下地氏は「日米でこういうふうな方向で行くということをまず決め、決まったパッケージを沖縄に説明する」と述べ、5月中に移設先となる沖縄などの地元自治体と米国、与党3党の合意を得るのは困難だとして、米の合意取り付けを優先すべきとした。 >(5月17日琉球新報)
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下地氏が所属する国民新党の亀井静香代表は、5月末までに普天間問題が解決しなくても、鳩山総理が辞任する必要はないという見解を述べた。だから琉球新報は、「5月末決着で党内見解"真逆"」という皮肉をこめた見出しをつけたのであろう。
総理の進退という重要事項について、党代表と国対委員長が「真逆」の見解を表明する国民新党は、近代的政党の名に値しない選挙に当選するための互助組織だと批判されても仕方ない。
この下地氏という政治家の辞書にはインテルリティー(首尾一貫性)という言葉がないようだ。3月1日午後の衆議院予算委員会で下地氏はこう言った。衆議院公式議事録から下地氏の発言を正確に引用しておく。
< そして、いろいろなことがあるかもしれませんけれども、まずは段階的に沖縄の基地問題を解決していくことが大事。だから、私は、とにかくこの普天間の問題を解決することが大事だと思っている。
私は、総理が五月三十日までにこの問題について判断をせずにまた先延ばしにしてやるというようなことがあれば、沖縄選出の国会議員として、六月の一日には衆議院をやめますよ、私は。 >
6月1日現在、下地氏は衆議院議員を辞職していない。5月28日の日米合意と閣議了解で問題が解決したと下地氏が認識しているからであろうか? 5月末までに普天間問題が解決しない場合、鳩山総理が辞任するのではなく、下地氏が議員辞職するのではなかったのだろうか?
「沖縄選出の国会議員として、六月の一日には衆議院をやめますよ、私は」と述べたのは、単なる言葉のアヤで真剣な発言ではなかったということか? 下地氏には、国民、第一義的に沖縄1区の有権者と、匕首を突きつけた相手である鳩山総理に釈明する義務がある。
2月の下地発言後、鳩山総理の心の中で、沖縄にも県内移設を容認する可能性があるという認識が強まった。
普天間問題について、小沢幹事長は、沖縄県内への移設の可能性は、非現実的と考えている。それは地元の抵抗が激しいからだ。そして、普天間問題を官僚並びに無意識のうちに官僚と同じ目線になっているマスメディアが政局の焦点にしようとすることに対して、小沢幹事長は危機意識を感じていた。
筆者が得ている情報では、日米合意、閣議了解の内容について、小沢幹事長は事前に総理官邸、外務省、防衛省から何の説明も受けていない。鳩山総理もこの問題について、小沢幹事長の助言を求めていない。
小沢幹事長からすると、鳩山総理は、沖縄県民に対して向けるべき「友愛」を、官僚に対して向けてしまったのである。官僚は個人的には、決して悪人ではない。
仕事熱心であるし、官僚の立場から鳩山総理に誠実に仕えている(総理から評価されれば出世するという動機があるが、それについては考慮の外に置く)。積極的な嘘をついているようには見えない。
もっとも、官僚の集合的無意識によって、都合の悪いことは意識されないので、官僚に嘘をついているという自覚はないのが通例だ。官僚には常にサボタージュや断片的情報の提供によって、総理や大臣の判断を官僚寄りにしようとする認識を導く関心が働いている。
■政権を潰すという賭けに出た官僚
小沢幹事長は、このような官僚の熱心さ、忠実さによって、官僚に引き寄せられることはない。それは、現実に検察官僚と生きるか死ぬかの戦いを展開しているからだ。
官僚は、現在、2つの戦線を開いている。第1戦線は、検察庁による小沢一郎潰しだ。第2戦線が外務官僚と防衛官僚による普天間問題の強行着陸だ。5月に入って外務官僚は、「アメリカの圧力」を巧みに演出しつつ、自民党政権時代に官僚が定めた辺野古案が最良であることを鳩山総理が認めないならば、政権を潰すという勝負を賭けた。
鳩山総理は、現状の力のバランスでは、官僚勢力に譲歩するしかないと判断し、レトリックはともかく、辺野古案に回帰した。前に述べたように、鳩山総理の認識では、これは暫定的回答で、段階的に沖縄の負担を軽減し、将来的な沖縄県外もしくは日本国外への模索を実現しようとしているのであろう。
しかし、この状況を官僚は「国家の主導権を官僚に取り戻した象徴的事案」と受けとめている。
小沢幹事長は、この象徴的意味を十分に理解している。普天間を突破口に、官僚による静かなクーデターが始まった。このままだと民主党連立政権が政治生命を喪失し、主導権を官僚に握られる危険がある。
鳩山総理にとっては、戦術的妥協に過ぎない今回の普天間問題の処理を、小沢幹事長は戦略的瑕疵で、このままでは権力が官僚に奪取されると危機感を強めている。
このような現状認識の相違が鳩山総理と小沢幹事長の間をかつてなく緊張させているのだと筆者は見ている。「友愛」のベクトルを再び国民に向けることで、態勢を立て直すことを小沢幹事長は考えているのだと筆者は見ている。
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