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連日報じられる鳩山由紀夫・首相や小沢一郎・民主党幹事長らの会見における大メディアの“常套質問”は、「世論は支持していないが、あなたはどう受け止めるのか」である。「皆がいっている」ことが彼らにとっての、ほとんど唯一の正義の拠り所であり、その前では政策も法律も無視して構わないといっているも同然なのだ。この「世論」の製造過程には大メディアの狡猾な作為が組み込まれている──。
報道機関としての“自殺 ”
大新聞とテレビの「世論調査報道」の氾濫はとどまることを知らない。
朝日新聞は、普天間基地の移設問題で〈県内移設となったら「約束違反だ」との意見は61%〉(5月17日付朝刊)と1面トップで報じ、読売新聞も、
〈普天間問題を5月末までに解決できなければ鳩山首相は退陣すべきが51%〉(5月10日付朝刊)と、“たら、れば”の調査で首相のクビ取り合戦を演じている。
テレビのリポーターは沖縄の小学生にまで、「鳩山さんは好きか」とマイクを向けて「キライ」との返事を得ると、喜び勇んで「首相は老若男女から嫌われている」と結論づける。
前原誠司・国交相が高速道路料金の見直しを断念した時にも、あるテレビ局は「街頭インタビュー」という形で“世論”を演出した。
ワイドショーで取り上げられた巷の声は、「民主党はバラバラだ」「首相に指導力がない」というものばかり。
「実質値上げ」が断念されたにもかかわらず、世の人々の多くは、それを歓迎していないのだという。これが本当の「民意」なのだろうか。
その道の専門家ではない市民の感想から、報道する側が都合のいいものだけを選び、「これが世論だ」と断じる。それはメディアに政権を批判するだけの材料を集める能力がないから、一般市民の口を借りて批判させているという異様な報道である。
この半年間で朝日は12回、読売は14回、毎日は9回もの世論調査を行なっており、日経、産経を加えた主要5紙に通信社、NHK、民放キー局など大メディアを合わせると、国民は3日に一度ほどの頻度で世論調査を目にする計算になる。
なぜ、これほど世論調査報道が増えたのか。大手メディアの元世論調査室長が「報じる側」の事情を語る。
「昔の政治報道は、自民党の派閥有力者の駆け引きで政治の流れが決まったから、政治部記者は有力議員に取りいれば先行きが掴めた。
ところが、今の記者は情報源すら掴めず、取材しても政治の動きが読めない。例えば鳩山政権が早晩行き詰まるだろうと思っても、読者に根拠が示せないわけです。だから“支持率がこんなに下がっているからダメだ”と世論調査にその根拠を求めるようになった。
世論調査は有効回答が1000人以上になるような調査を面接方式で実施すれば1回ざっと2000万円、電話調査でも1回300万円ほどかかる。それだけのコストをかけるのだから、1面トップ記事になるような結果でないと割に合わない。政治関係の調査は、最初から政治部が“鳩山退陣すべきか”とか、“小沢辞任すべきか”とか、見出しが立ちそうな質問内容を指定してくるわけです」
確かに、新聞にとってはこれほどお手軽でおいしい報道はない。
記者たちは調査結果が出るたびに大臣会見などで支持率低下をどう思うかと質問すればいい。それを受け、「政治とカネにまつわる問題を通じての失望感が大きい」(仙谷由人・国家戦略相)「(小沢一郎・幹事長は)しかるべき時期に、しかるべき判断をされると確信している」(枝野幸男・行政刷新相)−などと大臣たちが責任をなすりつけあうと、その反応がまた“ネタ”になる。かくして、1回の調査結果が、何度も増幅されて報じられていく。
日本新聞協会研究所所長などを歴任したジャーナリズム研究の第一人者、桂敬一・立正大学元教授(現在は講師)はそうした世論調査依存を「報道機関としての自殺行為」だと指摘する。
「新聞報道の意義は、綿密な取材によって政治や歴史の転換点を見極めるようなニュースを報じること。それなのに、現在ではどの新聞も、“内閣支持率20%割れなら首相は退陣すべき”という論調ばかり。自らが世論調査で集めた意見をあたかも民意であり、“正義”であると報じている。世論調査で大勢に迎合する報道のあり方は民主主義にも反する姿勢です」
「質問順」で変わる民意
世論調査そのものが悪でないにしても、それが正確かつ公平に行なわれなければならないのは大前提だ。
しかし、大新聞の世論調査を分析すると、結論を誘導するような恣意的な手法が多い。
読売新聞と朝日新聞の今年2月の支持率調査(電話全国世論訴査)を比較した。
朝日の場合、「鳩山内閣を支持するか」、[支持する政党」の次に、すぐ「夏の参院選の比例区でどの政党に投票したいか」を質問している。この順番では、民主党の支持率と、参院選で「民主党」に投票するとした回答は同じ32%だった。
読売新聞は、質問の順番が違う。内閣支持率と支持政党を尋ねた後に、わざわざ小沢氏の政治資金事件の説明と、〈責任を取って、小沢氏は、幹事長を辞任すべきだと思いますか〉
〈鳩山首相は、偽装献金など自らの「政治とカネ」の問題について、国民に説明責任を果たしていますか〉など一連の政治資金スキャンダルについての質問を挟んだうえで、最後に、「参院選での投票先」を質問した。
それがどんな効果をもたらしたか。民主党の政党支持率は33%だったが、政治とカネの問題を質問されるうちに“投票”をためらうケースが増えたのか、参院選での投票先を「民主党」と回答したのは27%で、政党支持率を6ポイントも下回った。質問の順番を入れ替えるだけで、結果は操作できることを物語っている。
読売新聞はこの時の調査結果を、「参院比例選投票先 民・自が接近」(2月7日付)との見出しで大きく報じた。まさにマッチポンプといえる。
質問内容による「世論誘導」という点では朝日にも疑わしき点がある。
先の調査で、朝日は小沢氏が政治資金問題で不起訴になったことについて、こう質問を並べた。
〈今回の問題の責任をとって、小沢さんは民主党の幹事長を辞任すべきだと思いますか〉
〈あなたが今年夏の参議院選挙で投票先を決めるとき、小沢さんの政治資金問題を重視したいと思いますか〉
前出の元世論調査室長はこう疑問を呈する。
「世論調査の設問は回答者に予断を与えないようにするのが原則。与党幹事長の政治とカネの問題は重要な質問事項ではあるが、小沢氏の辞任問題を尋ねる場合、まず簡潔に、『幹事長を辞任すべきか』と質問し、その後、『辞任すべき』と回答した人に、その理由を選択させるやり方をとるべき。質問の中に『責任をとって』とあれば、何の知識もない人は、最初から“責任を問われるようなことがあるんだな”と考えるおそれがある。
また、有権者が参院選の投票先を判断するには様々な要素があるはず。大きな政策課題などから選択させるならわかるが、小沢氏の問題だけを重視するかと聞くのも不自然です」 現在各紙の調査で、「小沢氏は辞任すべき」との声がいずれも「70%」を超えている背景には、こういう調査手法のカラクリがある。
「小泉劇場」の悪夢再び
そもそも、世論調査の前提が「誤報」あるいは「捏造」によるものであれば、さらに重大な問題となる。
新聞各紙はこの間、普天間移設問題で、「政府案骨格決定 くい打ち方式、徳之島移転など」(毎日新聞)と、辺野古に桟橋方式の滑走路を建設する案と徳之島への一部移転の構想がいかにも「政府案」であるかのように報じてきた。しかし、鳩山内閣はこれまで普天間移設に関する政府案を公表したことはなく、桟橋案や徳之島案などは政府内にある複数の検討案の一つにすぎない。
本誌は前号、前々号で、鳩山首相が、それまで全く報道されていなかった「九州地区・ローテーション案」という腹案を持っていることを報じたが、それを掴めなかった新聞が桟橋案をいかにも決定された政府案であるかのように報じたのは明らかに誤りだ。
ところが、その誤った“政府案”をもとに世論調査が行なわれ、〈政府案を「評価する」人は30%にとどまり、「評価しない」は49%〉(読売新聞)という結果を出す。
あれほど各紙が「政府案」と報じた桟橋案は、政府の基本政策閣僚委員会で正式に決定されることはなく、当の読売新聞は、5月19日付朝刊で〈辺野古桟橋案を断念、迷走の末埋め立て回帰)と“スクープ”した。
しかし、それまでの自らの報道を誤報だったとは一言も認めない。
前述の桂氏が語る。
「本来、世論調査は、日米安保はどうあるべきか、普天間基地をどこに移設し、沖縄県民の負担を国民がどのように分担するべきと考えているかを聞くべきでしょう。そういった質問はなく、各紙横並びで鳩山退陣を煽り、国民総ヒステリーの状態に追い込んでいる。これではジャーナリズムとは言い難い」
国民には苦い経験がある。05年の郵政民営化をめぐる「小泉劇場」の際、各紙は世論調査を連発して「民営化こそが改革」と民意を煽り、国民は民営化を支持して小泉政権を総選挙で圧勝させた。しかし、その小泉政治は、いまや年金や派遣業法などで格差を広げた張本人と、当の大メディアから批判される対象だ。
昨年11月に朝日新聞が行なった世論調査では、郵政民営化見直し「賛成」が49%で、「反対」の33%を大きく上回った。世論誘導ジャーナリズムがいかに危険かを、図らずも世論調査結果が自ら証明している。
小泉劇場は世論調査の産物だった
※写真あり
日本社会に残されたダメージはそれだけではなかった。「世論誘導」の味を覚えて報道機関としての使命を見失った大メディアは、小泉以降の安倍、福田、麻生の3代の首相を世論調査報道攻勢で支持率急落に追い込み、いずれも1年で政
権を去った。そわ牙が、今度は政権交代で民主党政権に襲いかかっている。
消費税増税も「世論形成」から
では、今回また大メディアの.世論誘導を無批判に受け入れると、国民はどんな“痛い目”に遭うのか。
その一つが霞が関の「消費税増税」の企みだ。
さる5月16日、民主党本部に閣僚たちが続々と集結した。夏の参院選に向けた政策をまとめる政府・民主党の「マニフェスト企画委員会」の会議だった。
会議の最大の焦点は消費税の引き上げ問題にある。
政府は6月に「財政運営戦略」を策定することになっており、「消費税アップ」を悲願とする財務官僚は、なんとしても民主党のマニフェストに消費税の議論を盛り込み、増税のレールを敷いておきたい。閣内では、管直人・副総理兼財務相が「増税すれば景気がよくなる」と言い出し、仙谷国家戦略相も「マニフェストに消費税増税を盛り込むべきだ」と主張、前原国交相も「無駄を削った前掟で、消費税を上げるべきだと思う」と語るなど、消費税引き上げ論に取り込まれている大臣が多い。
それに頑として反対してきたのが、鳩山首相と小沢幹事長だ。鳩山首相は「4年間は消費税は上げない。議論もしない」と言明し、小沢氏も政府内から消費税引き上げ論が出ていることについて、記者会見(5月17日)で「聞いていない」と一言の下に否定した。
ところが、鳩山首相は普天間問題と支持率急落で頭がいっぱいで、小沢氏も検察の捜査再開と政治倫理審査会出席問題で身動きが取れない。それを好機と見た霞が関は大手メディアと連動して“増税キャンペーン”を展開し始めた。
読売新聞は5月7日付朝刊1面で、「経済再生へ政策転換を」という緊急提言を掲載。法人税の大幅引き下げに加えて、〈安心社会の実現には、消費税を目的税化して税率を引き上げ、社会保障の充実に充てるべきだ〉──とぶちあげた。
そうした流れに「他人の口」を通じた世論誘導も加わっている。
NHKでは石弘光・元政府税制調査会長がニュース解説番組『視点・論点』(4月l日)に登場し、
「今日、多くの世論調査でほぼ半数の回答が、将来、社会保障の財源に消費税を引き上げるのはやむを得ないとしています」と説明。同じNHKの『ニュースウオッチ9』(5月14日)でも、
「民主党執行部からは消費税引き上げ論を牽制する声が上がっています。その視線の先に夏の参議院選挙があることは明らかです。しかし、国民の意識との間にずれはないのでしょうか。各種世論調査によりますと、借金財政への危機感から、適正な負担なら受け入れるという人は確実に増えてい
ます」
───と報じた。
世論調査では読売が昨年11月に〈消費税上げ「容認」が61%〉と増税容認派が過半数を超えたと報じており、日経新聞は、〈「4年間は消費税の増税はしない」とする鳩山由紀夫首相の方針について46%が「反対」と答え、43%の「賛成」を上回った)(3月29日)、最新の調査は毎日で、消費税引き上げに「賛成48%、反対47%と拮抗した」(5月19日)と、増税やむなしという世論形成が着実に進んでいる。
ここでも大メディアは官僚の意向を受けて、その走狗と見紛う動きをしている。
では、民主党が本当に増税をマニフェストに掲げたら、メディアは「よくやった」「次も民主に政権を」と書くのだろうか。そうではあるまい。
埼玉大学社会調査研究センター長の松本正生・教授が警鐘を鳴らす。
「忘れてはならないのは、民意の動向を探る世論調査は国民投票のシミユレーションにすぎないということ。世論調査の結果が政治の行方や選挙を左右したら、議会や選挙の意義が危うくなってしまう」
国民が選挙で選んだ政治家たちが、官僚やメディアにとって都合の悪い者から次々と世論調査で消されていく──。
独裁国家が「民意」の名の下に反対派を処刑していった人民裁判と同根の脅威がそこにはある。
───
「週刊ポスト」6月4日号 平成22年5月24日(月)発売
編集人 飯田昌宏
発行人 秋山修一郎
小学館 発行
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