米国に振り回される日本の宇宙開発 科学技術部編集委員 吉川和輝 2010/3/12 7:00日本経済新聞 電子版http://www.nikkei.com/news/category/related-article/g=96958A88889DE2E1EBEAE6E4E3E2E3E0E2E1E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;at=ALL 米オバマ政権が2月に明らかにした新たな有人宇宙計画が、日本を振り回している。米新政策 の柱は、有人月探査の取りやめと、国際宇宙ステーションの利用延長。これを受けて日本は、有 人の月探査構想を棚上げする一方、宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」を拠点にした有人 宇宙開発の戦略を練り直すことになる。 3月3日午前、東京・霞が関で政府の宇宙開発戦略本部が事務局を務める「月探査に関する懇 談会」(座長・白井克彦早稲田大学総長)の第6回会合が開かれた。冒頭、「月探査の基本的方針 について」という、事実上のとりまとめ案が配られた。 同案では有人の月探査について「現時点で具体的目標を定めて推進していくのは現実的では ない」と退けた。「(有人探査の)技術基盤の構築を目指して、ロボット月探査と並行して研究開発 を進める」とした。有人月探査を先送りする方向が事実上固まった。 懇談会の議論に強く影響しているのが、米国の有人宇宙計画の見直しだ。新規開発のロケット と宇宙船で20年までに月に行くとしていたブッシュ前政権の「コンステレーション計画」を、計画遅 延とコスト超過を理由に中止した。 日本側は米主導のプロジェクトに協力することを念頭に、月探査の進め方を検討していたが、前 提が大きく変わった。日本単独で有人探査をするのはコストが数兆円規模と膨大で非現実的。ロ ボット探査を主体にするとしても、その先に進むには新たなパートナー探しが課題になりそうだ。 米国は併せて、国際宇宙ステーションを少なくとも20年まで延長することを決めた。昨年夏に完 成したばかりの日本の実験棟「きぼう」が使える時間が大幅に伸びた。 これは日本側が望んでいたこと。ただ、この機会を利用して何をするかを明確にしておかない と、宇宙ステーション運用の費用負担が増えるだけとなりかねない。 宇宙ステーションへの物資輸送用に開発した貨物船「HTV」をベースに有人宇宙船のコンセプト を固めるなど、有人活動の道筋を早急に描くことが求められる。 米国が有人月探査から退くことで、月への有人探査は30年実現を目指している中国の独り舞台 となる。すでに延べ6人の飛行士を宇宙に送り、10年以降に独自の宇宙実験室「天宮」を運用す る準備を進めるなど、中国は有人宇宙開発での存在感を増している。 米国やロシアに次ぐ有人宇宙開発の実績をあげる中国に、日本はすっかり水をあけられた。宇 宙ステーションに滞在する日本人飛行士は増えているが、独自の手段で人間を宇宙に送ることに ついては、技術的な検討も進んでいないのが現状だ。 [日経産業新聞online2010年3月12日掲載] |