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特集 郷原信郎&魚住昭 「検察が危ない」 ( 魚の目編集部) http://www.asyura2.com/10/senkyo84/msg/337.html
NEW!2010 年 4 月 12 日 3月8日に元特捜検事の郷原信郎さんと私が外国特派員協会で検察と政治の現状について話をしました。以下はその再録です。郷原さんが最近書かれた『検察が危ない』(ベスト新書)も反響を呼んでいます。この会見記と併せて読んでいただければ幸いです。 【魚住昭】 現在の日本は大きな問題を抱えています。それは検察庁という行政機関が巨大な力を持ちすぎて、誰もそれを統御できないということです。そのうえ検察は組織が腐敗し、かつ捜査能力が極端に低下しています。検察の暴走、腐敗、能力低下の3つが同時進行しているのです。それを如実に示したのが小沢幹事長をめぐる一連の捜査でした。 昨年3月、西松建設関連の政治団体から2100万円の偽装献金を受け取ったとして小沢氏の秘書が政治資金規正法違反の疑いで逮捕されました。これは従来の常識では考えられない出来事でした。 一部では当時の麻生政権の要請を受けて行われた国策捜査だという意見もありましたが、私はそうは思いません。検察はその時々の政権の意のままに動くような組織ではありません。特捜部の検事たちはいつもそうですが、多少を無理をしてでも政治家絡みの事件をやって手柄をあげ、マスコミの脚光を浴びて出世の足がかりにしたいのです。 問題は特捜部の暴走を検察上層部がなぜ止めなかったかということです。私は上層部の判断の背景には小沢政権に対する忌避感があったのではないかと疑っています。 次に、昨年末から表面化した陸山会の土地購入をめぐる事件は、西松建設の事件で世論の批判を浴びた検察が、その失地回復のために行った捜査でした。つまり検察のやったことを正当化し、小沢は金に汚い悪質な政治家だと証明するために行われたものです。 この第2ラウンドの捜査でも検察は敗北しました。大物政治家を2度も被疑者として調べながら起訴できないというのは検察にとって戦後最大級の失態です。 ところが検察が信じた水谷建設側の供述はウソ話だった、アンコが腐っていたのです。石川議員が否認を貫き通せたのは、まったく身に覚えがない事実だったからです。 なぜそうなったか。最も大事なポイントだけを挙げると、一つは検察の裏金問題です。検察は少なくとも1999年まで年間5億円前後の裏金を組織的につくり、幹部の交際費・遊興費にあててきました。検察はその事実を全面否認したばかりか、2002年にその裏金作りを内部告発していた三井環という中堅幹部を口封じのため逮捕しました。 これを別の角度から見ると、検察は主要メディアに対する影響力を保ち、自らの恥部を覆い隠すためにも常に大事件をやりつづけなければならない、そういう自転車操業的な体質を身につけてしまったとも言えます。 二つ目の理由は、今も触れた主要な新聞・テレビメディアと検察の癒着関係です。検察の暴走をチェックすべきメディアがその役割をほとんど果たしていません。 三つ目の理由は裁判所と検察の癒着です。日本では起訴された者の99・9パーセントが有罪になります。起訴事実を否認して無実を主張すると、一年も二年も身柄を拘束されます。検察の言い分を裁判官がほとんど認めて、検察の暴走をチェックする役割を果たしていません。 つまり検察をメディアと裁判所が強力にサポートする体制ができあがっているのです。だから検察の力は巨大なのです。法律上も検察の幹部人事は国会の承認が必要ではありません。選挙による民意のコントロールも効きません。 一方、日本の政党勢力のほうはどうでしょうか。政権与党の民主党は大ざっぱに言うと新自由主義者と社会民主主義者、つまり小さな政府論者と大きな政府論者の寄り合い所帯です。そのため、とても壊れやすく、政策の方向性を定めるのが難しい。国民新党や社民党と連立を組んでいるのでなおさらです。 それでも民主党を軸にした連立政権がとりあえず機能しているのは、小沢という求心軸があるからです。彼が内政においては反小泉構造改革、つまり社会民主主義的な所得再分配、それに脱官僚、つまり従来の官僚主導政治の改革、外交においては対米自立路線、この3つの基本政策を打ち出すことで彼は民主党左派や社民党、国民新党の支持を取りつけ、民主党内の新自由主義者たち、反小沢勢力を抑え込んできた。 ところが今回の事件で小沢幹事長は自らの金権体質を国民に批判され、深手を負いました。長崎県知事選の敗北も重なって彼の求心力はかなり弱まったと思います。 今後の政治の展開については、私は二つのシナリオを想定しています。 一つはこのまま小沢氏の求心力が衰え、幹事長を辞任し、民主党内での影響力も失った場合です。 もう一つのシナリオは小沢氏が参院選を乗り切って、彼の求心力が回復した場合です。そうなると、近い将来、小沢首相の目も出てくる。小沢政権は本当の実力者がトップに立った強力な、独裁的な政権です。さすがの検察も小沢政権と妥協もしくは迎合せざるを得なくなるでしょう。 小沢首相は間違いなく、彼の持論である国連中心主義の安全保障体制づくりを進めるでしょう。これは国連の安保理決議があれば海外派兵できるというものですから、日本の憲法9条は実質的になくなる。世界の列強諸国が繰り広げる石油などの海外利権の争奪戦に日本も軍事力を行使して参加することになります。このシナリオもまた戦前の日本と同じような地獄行きのシナリオです。 二つのシナリオを想定すると、どっちに転んでろくなことはない、というのが私の結論です。もちろんこれは極端にすぎる予測かもしれませんが、私は嫌な予感がして仕方がありません。予感が現実にならないようにするにはどうしたらいいのか。真剣に考えなければいけないと思っています。以上です。ご静聴ありがとうございました。 【郷原信郎】 魚住さんは記者として検察を外から見てこられた人ですけれども、私は23年間検事として仕事をして検察の中にいた。それだけに、今の検察の状況については驚きというか絶望を感じるほど問題だと思っています。 そこで私のほうからは、なぜ検察がこういう状況になってしまったのか、日本の検察には組織としてどういう特徴があるのかということを話をしたいと思います。 このような検察中心の刑事司法の仕組みは、犯罪が例えば殺人とか強盗とか薬事犯のようなアウトローによる犯罪、社会の周辺部分にいるようなあまり社会生活だとか経済活動に影響を及ぼさない、そういう周辺の犯罪現象を前提としていると考えていいと思います。そういう犯罪であれば、反道徳的という社会の評価は定着している。あらかじめ決まっているわけですから検察官は価値判断をする必要がありません。とにかく証拠があれば起訴をすればいい、その証拠が不十分であれば裁判所が無罪にする、それだけのことです。 ところが、例えばライブドア事件、村上ファンド事件のような経済事犯とか今回問題になっているような政治資金規正法違反などは暗数としての違法行為は限りない数が世の中に存在しています。その中からどの事件を選んで処罰の対象にするのかということに関しては、摘発する方の価値判断が求められているのです。 ですからそういう社会的・経済的・政治的に大きな影響を及ぼす事件に関しては、検察官は、どういう基準で悪質性・重大性を判断し、どういったものを摘発の対象にしていくのかということについて明確な基準をあらかじめ示す必要があります。最低限、検察の内部ではそれを明確にしておく必要があります。 ところがそういった基準が明確にされないまま、殺人や強盗と同じように、犯罪がある限りそれを処罰するのは当たり前だ、検察は何をやってもいい、という考え方で全面的に検察のアクションが容認されてしまう。そこに最大の問題があります。 陸山会の事件でも最終的に検察が起訴した事実というのは、先ほど魚住さんが言った、不動産の取得時期のずれの問題。それと、その不動産の取得の際に小沢氏が一時的に立て替えたお金の流れ、立替金の流れが収支報告書に記載されていなかったという、極めて形式的な問題しかありません。 このように日本の社会そして国民が、政治・経済・社会に関する重要な価値判断の部分まで、「検察の正義」に全面的に委ねてしまっているところに、日本の社会に危機的な状況が発生している根本的な原因があります。 今必要なことは、日本人全体がこの「検察の正義」というマインドコントロールから脱することです。人が集まってできている組織ですから、そこでは必ず間違いが起きる可能性があります。そして、とりわけ、検察の場合は一度判断したことを後で訂正することは難しいわけです。 ところが、最初にも言いましたように日本の刑事司法というのは殺人とか強盗のような価値判断不要な伝統的な犯罪を前提に作られています。検察官にはほとんどと言っていいほど説明責任も透明性も求められていないわけです。 そして政治は、日本では歴史的に検察の正義に対して介入してはならないとされてきました。検察は検察が判断するとおりに事件をやることが正義であり、それに政治的に介入すること自体が悪だとされてきました。ですから政治はほとんど検察に対するチェック機能を果たしてきませんでした。 しかしまさに現在の日本の状況は国民の主体的選択によって政権が選択されたという状況で、それがまだ不安定な状況です。こういう状況においては、検察の権限が政治的に不当な影響を及ぼすことに対する社会の危機感というものをもっともっと持つ必要があるのではないかと思います。 A.(魚住)いちいち挙げていたらきりがないんですけれども、例えば1997年前後に行われた不良債権の処理に絡む捜査ですね。例えば日本長期信用銀行の特別背任事件。これは結局最高裁で無罪になりましたけれども、この事件なんかはすごく特徴的で、要するに、長銀の経営破綻の責任者を処罰することが時効でできなかった。で、経営破綻の後始末に入った人を逮捕して、いわゆる犠牲の人質として国民の前に差し出したというような事件でした。 A.(郷原)詳しくは昨年の9月に出した「検察の正義」という本に書いていますが、私は2000年前後以降、特捜検察がやった事件でまともな事件は一つもないと思います。やればやるほど、どんどんレベルが落ちている。それが実情だと思います。 A.(郷原)まだやりたいという意欲は残っていると思います。しかしさすがに2回小沢関連事件の摘発を試みて両方とも大失敗に終わって、3回も試みるということは、検察の常識としては考えられません。そこまでいくと、ちょっと常識を超えた異次元の世界で、私は想像したくありません。 A.(郷原)先ほどもお話しした政治と検察の関係なんですが、私は最近、民主党政権側が検察に対して非常に萎縮しているように感じています。官邸サイドもそうですし党サイドもそうですが、検察のアクションがここまででたらめで、しかも大きな政治的影響が生じているわけですからそれを堂々と批判してもいいはずなんですが、それが全くできない。それは一つにはマスメディアがですね、戦前のあたかも統帥権干犯のように検察に対する介入を徹底的に批判するということが一つの原因だと思いますが、もう一つは、ここまで検察のアクションのレベルが落ちていると、政治家側ではみんな胸に手を当てて考えると自分もやられるかも知れないという思 いが出てきます。それが検察を怖いと思って萎縮する原因になっている。これはある意味恐ろしい現象じゃないかと思う。 A.(郷原)検察がやったことについて成果として認めるかどうか、私は政治的な面と、検察が本来やるべき法の適用、刑事事件としての捜査に分けて考えるべきだと思っているんですね。確かに政治的には大変な成果を挙げていると思います。それが成果だというなら検察は政治団体の届け出をした法がいい。そういう面でやるのは方向が全く間違っている。その違いを考えるべきだと思います。 A.(魚住)記者クラブのことについて申し上げます。検察庁担当をしている司法記者クラブというのは非常に特殊な、記者クラブ自体が特殊ですが、さらに特殊な記者クラブです。どこが特殊かというと、つまり、検察庁という行政機関の方が記者クラブより圧倒的に力を持っていて検察庁の気に入らないことをしたら出入り禁止になるという規則があります。それからテレビカメラが入れません。こういうことから、司法記者クラブの力関係が検察庁より圧倒的に弱いがために、そういう特殊な関係がいまだに続けられている。なぜ圧倒的に弱いかというと、検察庁がものすごく貴重な情報を持っているから、自分の会社だけでもその情報をもらいたいという気持ちがあって、一つにまとまれない。これが逆にいうと検察庁の分割統治が成功しているということです。 A.(郷原)本当の問題は、今司法クラブに所属している記者の問題ではないと思うんですね。むしろ司法クラブ出身の、上の遊軍といわれる人たちが検察幹部、法務省の幹部たちと個人的なつながりを持っている。そういったところから貴重な情報をつかんでくる。それは彼らにとって財産です。ですからそういう貴重なルートを持っている検察が常に正義であって正しい、という前提が維持されると、自分たちの情報源が生きてくる。もしその前提が崩れてしまうと、せっかく長年にわたって築き上げてきた記者としての財産が失われてしまう。そこに検察と司法クラブ系メディアの一心同体的関係ができあがる。そこに最大の問題があると思います。 A.(郷原)日本の法律にもそのことに関する規定があります。検察庁法14条、法務大臣の指揮権。これは検察の権限行使に対する唯一の民主的コントロールの根拠を定めたものです。ですから今考えるべきことは法務大臣の指揮権をいかに適切に行使するシステムを作るかということです。検察の権限行使を不当に政治的に利用するような方向で14条が使われることは問題です。しかし本当に検察の権限行使が正しいのかということを専門的な見地、第三者的な見地からチェックするシステムを作ることは非常に重要です。 A.(郷原)私が命が脅かされることはありません。私の検察に対する批判は、検察に本当に良い仕事をしてもらいたい、国のため社会のため正しい権限行使ができる立派な組織になってもらいたいから言ってることでありまして、そのことを理解してもらってる限り、命を狙われるとか逮捕されたりすることはないと私は思いたい。 (注)検察庁法 第14条
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