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検察幹部は『秋霜烈日』のバッジをはずせ ( 3 月 5 日 魚の目編集部) http://www.asyura2.com/10/senkyo81/msg/722.html
これは『月刊現代』2002年9月号に掲載された、ある司法ジャーナリストの匿名レポートの再録です。当時はおおかたのマスコミから黙殺されましたが、検察裏金問題の深層に切り込んだ大変貴重なレポートです。先日、原口一博総務相が検察裏金問題の調査を指示しました。それがうやむやに終わらないでほしい、という願いをこめて「魚の目」にアップしました。(編集者より)
原田明夫検事総長は最近、周辺にそう言って自信をのぞかせたという。「調査活動費(調活費)」を流用した法務・検察の組織的な裏金づくりの隠蔽に成功したという意味だ。 「総長は『乗り切った』と言っているかもしれないが、あと一人でも調活費問題を内部告発する者が出てきたら、もう持ちこたえられない」 三井環・大阪高検公安部長(当時)は四月二十二日の逮捕当日、身分を明かして調活費問題を告発するため、テレビ朝日のキャスター・鳥越俊太郎氏のインタビューを受けることになっていた。当局は逮捕後、メディアに対する発表やリークで、三井部長の「悪徳検事」像をフレームアップしていくのだが、原点に立ち返って逮捕容疑を冷静に見つめれば、「よくもまあ、こんな微罪で逮捕したものだ」と思わざるを得ない。 根拠については後述するが、三井部長の逮捕は、警察ですら戦後踏み切ったことがない「口封じ」のためのむき出しの権力行使だったと断言できる。 自らが作り上げた「悪徳検事」の不祥事で、原田検事総長は国家公務員法に基づく懲戒処分を受けた初の検事総長として、戦後の検察史に名前を刻むことになった。そうなることが分かっていても三井部長の口を塞がなければならないほど追いつめられていたわけだが、この「肉を切らせて骨を断つ」策が逆に第二、第三の内部告発者を生み出すことになる。 二十年余りを検察庁で過ごした福島県在住の高橋徳弘氏、四十八歳。一九七四年に検察事務官に採用され、東京、仙台両地検などで勤務。九一年には副検事に登用され山形、米沢区検などで執務した後、九六年に退官し、現在はミニコミ誌の副編集長を務めている。 「三井部長の事件を報じる新聞を見て、口封じ的な逮捕を思わせる記事だと思った。調活費問題を『事実無根』とする森山真弓法相のコメントに心の中で『それは違う』とつぶやいた。人の人生すら変えてしまう職種である検察が、真実を曲げることは許されない。ある意味、犯罪の片棒を担いできた私自身の問題でもあった」 高橋氏は、調活費の実態を解明するため市民団体が仙台地裁に起こしている情報公開訴訟の法廷に、実名の陳述書を提出しており、その中で内部告発の理由をこう説明している。その言葉通り、彼は現職当時、調活費を裏金化する上で重要な役割を担わされていた。 ここで調活費の仕組みを簡単に説明しておこう。 筆者が二、三年かけて法務・検察内部で取材を積み重ね、集めた証言は完全に一致している。 検察庁ごとの配分額は庁の規模によって差があるが、この年度は最も多い東京地検で約五千二百万円、次いで最高検の約三千九百万円、最も少ない函館、山形、福井、高知などの地検でも各五百三十万円に上っていた。 具体的な手口はこうだ。各検察庁には毎月、前渡し金として調活費予算から一定額が小切手で届く。これを会計課長が日銀代理店に持ち込み、現金化して保管する。ここまでが「表」の金。 事務局長に現金を渡した会計課長は、支出伺い書と偽造領収書に従って、情報提供者に謝礼を支払ったかのように会計帳簿に記録。事務局長は受け取った現金を金庫にプールし、検事正や検事長らの遊興費として使う。事務局長は自分が着服したと疑われないように裏帳簿をつけており、飲食店から請求が来た場合には、請求書と領収書を帳簿に添付するが、麻雀やゴルフなどに使う「つかみ金」として検事正、検事長らに手渡しした場合には証憑類は付けず、日付とともに「検事正 二十万円」などと記録する。法務省でもほぼ同様のことが行われていた。 九九年の内部告発文書には、法務・検察幹部がいかに調活費による裏金で遊んでいるかが、実名で記されている。 既に退官した人物が多いが、〈連日、深夜までカラオケに興じていた〉検事総長、〈女好きででたらめな遊興にふけった〉特捜出身の東京地検検事正に〈年間七十回ゴルフコースに出たと豪語していた〉横浜地検検事正や〈銀座の高級クラブに頻繁に出入りしていた〉法務事務次官、さらに〈殿様気分で妻や息子を連れてゴルフにふけり、代金全額を調活費で支払わせてさすがに顰蹙を買った〉千葉地検検事正――あまりに多すぎて、限られた紙幅ではとてもすべて紹介し切れないが、いずれの記述も法務・検察内で筆者が耳にする話と一致しており、信憑性は高い。 一握りの幹部のために裏金をつくる事務局長らが、最も苦労するのが偽造領収書の確保だ。情報提供一件につき、謝礼は五万円前後が相場だから、五百万円の調活費を裏金化するだけでも百枚の領収書が必要な計算。筆跡やペンを変えたり、あえて醤油やコーヒーのシミをつけたり、涙ぐましい努力をすることになる。 三井部長の逮捕に触発された内部告発者、高橋氏が「犯罪の片棒を担いできた」と自戒するのは、この領収書の偽造を手伝ってきたためだ。高橋氏の陳述書などによると――。 これだけでも、高橋氏には実態が分かった。高検検事会議の懇親二次会、三次会の支払いもプール金でやりくりしていること。幹部の飲食代とみられる高級クラブの請求書が突然回ってきて、課長がぼやいていた理由…等々。 その後、仙台高検管内のどこに異動しても二、三年に一度のペースで、五十―三十枚の領収書偽造を頼まれた。まとめて偽造領収書を確保して、二、三年かけて少しずつ使っているようだった。領収書の用紙など必要書類は職場に届けられ、書き込んで送り返した。 筆者は複数の親しい検察関係者にこれらを見てもらったが、そろって 高橋氏の内部告発は、証拠資料の写真とともに五月二十三日発売の週刊文春にも掲載されたが、この日の参議院法務委員会で事の真偽をただされた森山法相は、法務官僚の説明を鵜呑みにして 高橋氏は告発前の複雑な心境を さらに、二人の内部告発者がいる。奈良地検と金沢地検の元検察事務官。 二人を目障りに思う法務・検察が、警察に逮捕させたのかどうか、現時点では根拠を持ち合わせていないが、四人の内部告発者のうち三井部長を含む三人が相次いで逮捕されたという事実は、何らかの大きな意思を感じさせるのに十分ではないだろうか。 話を三井部長のケースに戻そう。四月二十二日の一回目の逮捕の際、大阪地検特捜部が立てた彼の容疑事実は次の三つだった。 大阪地検の事前の逮捕状請求に対して、いつもはすんなり判子を押してくれる大阪地裁の裁判官もさすがに疑問を隠せず、検事に説明を求めるなどして検討に検討を重ねたという。逮捕状が出たのは夜遅くだった。 さらに、筆者は多くの検察関係者から逮捕の経緯について証言を得ているが、そのすべてが「口封じ」の逮捕だったことを示している。 まず、捜査主体であるはずの大阪地検特捜部が、三井部長の容疑内容を知ったのは逮捕三日前の四月十九日だった。 三井部長は今年に入って辞職覚悟で実名告発をする決意をし、かなり大っぴらに庁内で週刊誌記者らと会ったり、執務室の電話を使って打ち合わせしたりしていたから、当局は当然、三井部長の動きを察知していた。ゴールデンウイーク明けには、いよいよ三井部長が実名でブラウン管に登場するという情報が広がっていたから、大阪高検首脳は「二カ月」と期限を切ったという。 大阪高検は大阪地検特捜部に事件を下ろす前に、主だったメンバーを上京させて原田検事総長ら首脳陣に内容を説明した上で、ゴーサインを得ているが、ある検察幹部は 三井部長の逮捕後、最高検、大阪高検から大阪地検特捜部には「とにかく余罪を出せ」という厳命が下る。さすがに法律家の捜査プロ集団だから、上層部も逮捕容疑が弱すぎることが痛いほど分かっていたわけだ。大阪地検はこれに応え、五月十日、三井部長を起訴するとともに、収賄容疑で再逮捕。三井部長はこれで、とんでもない「汚職検事」になったわけだが、暴力団関係者に各種捜査情報を提供する見返りに得たとされたわいろは、飲食接待四回(計約十五万円相当)とデート嬢との遊興二回(計十三万円相当)だけだった。 一回目の逮捕容疑に比べれば、三井部長が決して「立派な検事」ではなかったことを示す事実としては十分だが、普通なら懲戒処分の対象になるだけで、汚職事件としては立件されないようなケースだ。警察で同様の不祥事があったら、警察は懲戒処分にするとともに書類送検し、検察は起訴猶予にするだろう。ところが、三井部長は収賄罪でも起訴された。 起訴後、ある検察関係者が思わず漏らした言葉が今も忘れられない。 三井部長を内部告発に駆り立てたものは、人事に対する不満だったとされる。七二年司法修習修了の二十四期。同期には法務省の大林宏官房長、中尾巧入国管理局長、特捜一筋の熊崎勝彦最高検検事らがおり、皆が検事正を経験し栄進していく中で、自分は検事正にもなれず不当に冷遇されているという思いがあったようだ。 昨春には、高松地検次席時代に知り合った高松市の情報紙編集者に、調活費流用に絡む詐欺罪で当時の加納駿亮・大阪地検検事正(現福岡高検検事長)らを最高検に告発させたが、昨年中に「嫌疑なし」で不起訴となり、加納氏は検事長に栄転。ますます絶望し、実名告発へと突き進んでいった。 断っておくが、筆者は三井部長を内部告発のヒーローとして称えるつもりは毛頭ない。むしろ、その動機には眉をひそめさせるものがあると思っている。 国民の信頼を決定的に失うことになりかねない現在の状況を招いた原因は、九九年の内部告発文書に対する対応の誤りにある。この時に、過去の非を認めて是正を約束した上で、幹部に調活費の私的流用分を返納させ、目に余る使い方をした幹部を処分していれば、問題をここまで引きずることはなかった。 当時、対応を協議した法務・検察首脳は、法務省側が事務次官・原田明夫(現検事総長)、刑事局長・松尾邦弘(現最高検次長)、官房長・但木敬一(現事務次官)、最高検側が総務部長・頃安健司(現名古屋高検検事長)ら。彼らは調活費問題をなかったことにする道を選び、内部告発文書が届いていた政党などに「事実無根」と釈明した。 当時を知る検察幹部OBが言う。 ほかにもう一つ、理由があるように思われてならない。それは、前年の九八年に東京地検特捜部が摘発した大蔵接待汚職の余韻だ。 法務省関係者が、今も続く調活費問題隠蔽のための当局の懸命な努力を明かす。 何とも滑稽な話だが、まだある。この関係者が続ける。 このマニュアルは、各検察庁から外部に流出しており、筆者の手元にも一部ある。 法務・検察には幹部OBから 検察権は司法に密接するとは言え、内閣が最終的な責任を負う行政権の一つだ。それが、今や公然の秘密になっている調活費問題について、法相の口を借りて「事実無根」と言い、週刊誌に抗議し、内部告発者を逮捕する。現代の日本でなぜ、こんなことがまかり通るのか。 その責任の一端はメディアにある。司法記者の中に、調活費問題を事実無根と思っている者は一人もいない。機密費詐取事件の外務省のように、これが法務・検察以外の省庁だったら、今ごろは洪水のような疑惑報道が新聞紙面を埋め、テレビニュースの時間を占めていただろうが、目をつぶり続けた。 司法記者の一人が打ち明ける。 例を挙げよう。ある全国紙のことだ。その社内には調活費問題を熱心に追い掛けている記者がおり、系列の週刊誌も何度か追及記事を掲載している。そんな記事が出るたびに、その社の司法記者は法務・検察の幹部を訪ね、「あの記事に僕たちは関わっていません。なんであんな記事を書くのか、僕たちも困っているんです」と懸命に弁明して回っている。 三井部長の逮捕後、法務・検察当局は狡猾にも、メディアの捜査情報一辺倒の体質を利用した節がある。三井部長の逮捕から一週間後の四月三十日には、東京地検特捜部が鈴木宗男議員の秘書らを逮捕し、五月二日には千葉地検が公共工事をめぐる競売入札妨害事件で井上裕・前参議院議長の秘書らを逮捕した。 千葉地検の関係者は「もう少し内偵に時間が欲しかったのに、上からせかされた」とはっきり言っており、当局が事件で三井部長の逮捕や調活費問題をかすませようとした疑いが濃厚だ。実際、三井部長の逮捕直後は調活費問題と絡めて「口封じ」の可能性を指摘するものもあった報道が、いつもの捜査情報たれ流し報道に戻るのにそう時間はかからなかった。 刑事司法の世界で、検察ほどオールマイティーなカードを持つ存在はない。刑事事件のほとんどは、容疑者を逮捕するなどの必要な「一次捜査」を警察が担当する。その捜査結果を基に容疑者を起訴する「公訴権」を検察が持つことで、警察の暴走をチェックしているが、検察だけが他機関のチェックを受けることなしに一次捜査し、起訴する権限を握っている。 権力を独占する者が、権力を濫用してしまうことも歴史上の真理。自分が逮捕した容疑者を起訴したいと思うのは人情だし、メンツもある。三井部長のケースのように、検察自身が特別な目的を持った時、その濫用は頂点に達する。それが何よりも怖い。 「検察ファッショ」。十年以上前の検察幹部たちは、しばしばこの言葉を口にした。そう言われることを最も恐れていたし、そう言われないように検察権の行使に抑制を利かせていた。ところが、いまこの言葉を戒めとして口にする幹部はほとんどいない。 「日本最強の捜査機関」は「最も危険で傲慢な捜査機関」に変貌したように見える。 検察は今や、一次捜査権と公訴権を安心して任せておける存在ではなくなった。 検察は鈴木議員の事件処理を秋に終えた後も、新たな事件に次々に着手する意向とされ、ある現場の検事は 法務・検察の上層部は「事件で信頼を回復する」と言うつもりだろうが、自分たちの不正を総括しないまま、他人の不正を暴いても信頼は回復できない。 調活費が検事正、検事長らの遊興用の財布になっていた最後の年、九八年度の会計帳簿の保存期限は二〇〇四年の春だ。まだ間に合う。架空の情報提供者に対する支出が記されたこの帳簿を基に調査すれば、不正はすぐに明らかになる。当局が「事実無根」と言い張るのなら、公正な第三者機関に帳簿を提出して監査を受けるべきだ --------------------------------------------------------------------------------
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