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鳩山政権「新成長戦略」は国民への裏切りである  中長期的な経済戦略の構築を (金子 勝、武本俊彦)
http://www.asyura2.com/10/senkyo80/msg/621.html
投稿者 ダイナモ 日時 2010 年 2 月 16 日 19:56:15: mY9T/8MdR98ug
 

http://www.iwanami.co.jp/sekai/2010/03/directory.html

民主党政権の変質が始まった

鳩山政権も発足以来一〇〇日を超えた。この政権は予算編成の数字合わせに追われ、米軍普天間飛行場の移設問題への対応をはじめとした重要政策課題へのもたつきや、閣僚のパラパラ発言など、迷走を見せている。
 一月召集の通常国会では、鳩山政権が初めて編成した予算や関連法案を審議するはずであった。しかし、鳩山由紀夫首相自身の偽装献金問題や小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体の土地購入に絡む問題により、国会は「政治とカネ」の問題に関する議論に終始しそうだ。もちろん「政治とカネ」の問題は非常に重要だが、問題は、そこにばかり目が奪われると、この歴史的経済危機に際して、いかなる国家戦略と経済再生シナリオが必要なのかが置き去りにされてしまうことである。実際、政治献金問題だけが、鳩山政権の支持率急落をもたらしているのではない。不況が深刻化しているにもかかわらず、民主党がマニフェストやINDEX2009で掲げた政策や理念が次第に忘れ去られようとしているからである。
 昨年末(二〇〇九年一二月三〇日)に鳩山政権が発表した『新成長戦略(基本方針)〜輝きのある日本へ〜』が典型である。この『新成長戦略(基本方針)』は、「民主党政権は成長戦略がない」、「民主党不況だ」といった野党や経済界などからの批判に応えるために、また二〇一〇年一月からの通常国会において、野党からの攻撃は激しさを増すことが予想されることから、「二週間の突貫工事」で年末の三〇日に出された。この二〇〇九年最後の「成果」をアピールするために記者会見には閣僚一三人が同席し、首相官邸にはロボット、電気自動車を展示するなど「異例のデモンストレーション」が行われた。それは、「事業仕分け」に続く、「官僚主導から政治主導へ」を大義名分として国民受けをねらったテレビ・パフォーマンスとなった。
 しかし、この『新成長戦略(基本方針)』の内容は、とても戦略と呼べる代物ではない。その具体策は関係府省が持ち寄った案をまとめただけであり、福田政権や麻生政権などが出した「成長戦略」の焼き直しとなっている。何よりこの『新成長戦略(基本方針)』が問題なのは、民主党がマニフェストやその基になったINDEX2009で掲げた重要な政策や理念がほとんど反映されていないことである。二〇〇九年八月の総選挙では、民主党はマニフェストやINDEX2009を掲げて闘い、有権者の負託を受けて政権交代が実現した。だとすれば、民主党政権は有権者からの負託を裏切り始めており、いまや重大な岐路に立たされていることになる。
 この『新成長戦略(基本方針)』の内容を簡単に見てみよう。まず、「1、『新需要創造・リーダーシップ』」において、従来の供給サイドを重視する「構造改革」路線の失敗について正しく指摘した上で、この『新成長戦略(基本方針)は「国民や生活者の『需要創造』を重視する『第三の道』」を目指す「需要からの成長戦略」と位置づけられている。そして、二〇二〇年までの平均で「GDP成長率名目三%(実質二%)」を上回る成長を実現するため、国民生活の向上に主眼を置いた「環境・健康・観光で一〇〇兆円超の需要」を創出し、「失業率を三%台へ低下」させることとしている。その内訳を見ると、「環境・エネルギー分野で新規市場五〇兆円超、新規雇用一四〇万人」、「健康分野(医療・介護)で約四五兆円の新規市場、新規雇用約二八〇万人」に加え、フロンティアの開拓による成長として「アジアと観光・地域活性化」のほか、成長を支えるプラットフォームとして「科学・技術」と「雇用・人材」を位置づけている。
 問題は、『新成長戦略(基本方針)』に盛り込まれた政策の方向性にある。「2、六つの戦略分野の基本方針と目標とする成果」に盛り込まれているものは、ほとんど福田政権時代や麻生政権時代に持ち出された関係各府省の案を衣替えしたものでできている。たとえば、福田政権時代に出た「二〇〇年住宅」も「数世代にわたり利用できる長期優良住宅」と言い方を変えて登場する。そして、この「過去一〇年間に出された『戦略』」が実行されないまま葬り去られた原因を「政治のリーダーシップ、実行力の欠如」にあるとしている。つまり、民主党は福田政権や麻生政権も含めて自公政権の政策自体が間違いだったと主張していたはずなのに、いつの間にか、福田政権も麻生政権も政策は正しかったが、「政治のリーダーシップの欠如」が問題だったという「論理」にすり替えられているのである。
 だが、もし「過去一〇年間に出された『戦略』」が正しいのに実行されなかったことが問題だとすれば、福田政権や麻生政権の政策が間違っているとして、それに対抗して民主党が出したマニフェストやINDEX2009で掲げられた政策は、一体何だったのだろうか。さらに言えば、官僚主導から政治主導に変えるという民主党政権の主張はどこに行ってしまったのだろうか。

『新成長戦略(基本方針)』による換骨奪胎

 実際に『新成長戦略(基本方針)』の「2、六つの戦略分野の基本方針と目標とする成果」を見ると、自ら政権交代の必要性を訴えたマニフェストやINDEX2009において民主党が打ち出した重要政策は、ほとんど置き去りにされたままになっている。
 たとえば、民主党は、「我が国産業(一次産業を含め)・経済の現状を打開し、エネルギー・農林水産・環境分野を中心に付加価値の高い投資に集中し、革新的な経済産業構造への転換=グリーンイノベーションを実現する」ための戦略として、「日本版グリーンニューディール」構想を検討し、その考えはマニフェスト等に盛り込まれた。その民主党のマニフェストでは、「あらゆる再生可能エネルギー全量を対象とする固定価格買取制度」および「キャップ&トレード方式の国内排出量取引制度」を導入し、さらに「地球温暖化対策税」導入を検討することを謳っている。これら三つの政策は、民主党の「日本版グリーンニューデイール」構想の「肝」に当たるもので、「新しい産業革命」が成功するための必須要素である。
 ところが、『新成長戦略(基本方針)』では、「電力の固定価格買取制度の拡充等による再生可能エネルギーの普及」と記述している。現在政府が実施している「買取制度」は家庭用の太陽光発電の余剰電力に限って買い取るもので、民主党の「日本版グリーンニューディール」構想つぶしのために、麻生政権が打ち出した政策だと言ってよい。それは、マニフェストで早期導入をうたっている「全量買い取り方式の再生可能エネルギーに対する固定価格買取制度」とは似て非なるものである。したがって『新成長戦略(基本方針)』でいう「電力の固定価格買取制度の拡充等」とは現在行っている余剰電力の「買取制度」を維持した上で、対象電力を太陽光発電から風力、小水力、バイオマス、地熱等の再生可能エネルギーに徐々に拡大していく政策になってしまう。もしマニフェスト通りの内容であるのならば、それは「拡充」という文言ではありえないだろう。また。再生可能エネルギーの普及拡大の手段として固定価格買取制度だけでは不十分なので、マニフェストでは、「キャップ&トレード方式による実効ある国内排出量取引市場を創設する」ことや「地球温暖化対策税の導入を検討する」ことも掲げられているが、「基本方針」では、「規制改革、税制のグリーン化」との記述はあるものの、「国内排出量取引制度」や「地球温暖化対策税」の位置づけがなくなっている。さらに、「日本版グリーンニューディール」構想の関連で言えば、その重要な構成要素となっている農林水産業と地域経済の衰退を食い止める視点も非常に弱い。
 つぎに、「基本方針」に掲げられている「ライフ・イノペーションによる健康大国戦略」を見てみよう。そこでは、国民が最も不安に感じている現在の年金・医療・介護といった「社会保障制度」について「持続可能な社会保障制度の実現に向けた改革を進める」と書いてあるだけで、改革の方向性も全く示されていない。マニフェストで掲げられた「後期高齢者医療制度」の廃止、「年金や健康保険制度の一元化」など、国民の多くが期待した政策もほとんど示されていない。こうした制度不信を放置していると、いくら現金給付を増やしても消費の増加にはつながらないだろう。しかも、これらの制度改革には一定の時間がかかる。具体的な負担と受益のあり方がどのような時間軸で改革が進められるのかが示されなければ、民間からの投資も期待できないだろう。加えて、現状において「介護保険制度」も「一時的な介護報酬三%引き上げで、かろうじてもたせており、その見通しについて述べられていない。また「勤務環境や処遇の改善」が必要と言いながら、たとえば民主党がマニフェストで主張していた「介護労働者の賃金引き上げ(月額四万円)」についても言及がない。それで、どうやって新規市場約四五兆円、新規雇用約二八〇万人の創出を実現できるのだろうか。
 たしかに、民主党がマニフェストやINDEX2009で掲げた「環境・エネルギー政策」や「社会保障制度」の抜本的な見直しに対しては、既存の産業や官庁にとっては既得権を失うことにもなりかねず、さまざまな反対の声が起こることが見込まれる。『新成長戦略(基本方針)』では、二〇一〇年の六月頃までに「新成長戦略」の最終とりまとめを行うこととしているが、各府省からの意見を持ち寄ってボトムアップ方式でまとめていくのでは、おそらく「新成長戦略」は「意味ある内容」にはならないだろう。だからこそ、民主党はマニフェストで「政治主導」を打ち出したのではないのだろうか。ここは、マニフェストの通り、早く国家戦略局を立ち上げ、官邸主導で国家戦略担当大臣がリードしてトップダウン方式で戦略の政策理念・大綱的な方針を決定し、その「大枠」の中で、各府省の政務三役が政治主導によって戦略の「各論」の詰めを行うという手順で進めていくべきだろう。

正念場を迎える民主党政権

 これまでの自公政権の失政によるとはいえ、政権交代が実現した後も景気はどんどん悪化している。かつてない深刻なデフレと長期不況が襲ってきている。小泉「構造改革」によってもたらされた傷はあまりに深く、非正規雇用があまりに増えて、なおかつ雇用そのものが消えてきている。仮に、この三月末で雇用調整助成金や中小企業へのつなぎ融資が切れれば、大量に失業者がはき出され、中小企業の倒産も相次ぐだろう。いまや若い世代は就職するにも職がない。所得が減っているので、消費しようにも消費できない。地方では、受注そのものが激減し、価格競争にひたすら追われる中小零細企業は利益をあげられず、そのほとんどが赤字状態に陥っている。彼らはロをそろえて、こんな不況は今まで経験したことがないと言う。これはまさに歴史的な危機である。しかし、どうも民主党政権は、この経済危機の深刻さを十分に認識していないように見える。
 何よりこの国は、いよいよ衰退過程に入り、経済も社会も持続できない状態に陥っているという現実を直視する必要がある。実際、産業の国際競争力、少子高齢化、担い手のいない農業、子供にまで及ぶ貧困の固定化傾向、財政赤字、年金や医療制度、若者の雇用……どれをとっても持続可能性が失われている。そのことが人々を深刻な不安に陥れている。だとすれば、持続可能な経済と社会に戻すことが戦略目標にすえられなければならない。そして、今回の政権交代は、そのための最後の大きなチャンスであることを民主党政権は自覚しなければならない。
 だが、民主党政権は、次の三つの重い課題を同時に解決することを迫られている。すなわち、@もはや持続可能性を失った古い仕組みを壊すとともに、A新しい仕組みや産業を作り出さなくてはならない。そして、その間、Bこの長期不況に対して、何とか景気をもたせなくてはならない。これを同時的に行うのは、至難の業といってよいだろう。どのようにすればよいのだろうか。筆者は、拙著『日本再生の国家戦略を急げ!』(小学館)において、民主党に対して危機を乗りこえる国家戦略と経済再生のシナリオを作成するよう提言したが、民主党政権はいま一度マニフェストとINDEX2009に立ち返り、愚直にそれらを積み上げていく努力が求められている。

新しい産業を創り出し、社会保障制度を改革する

 まず何より第一に、新しい成長産業を作り、産業の競争力を回復させる産業政策を策定することが求められている。「一〇〇年に一度」と言われる大恐慌以来の経済危機は、「一〇〇年に一度」のエネルギー転換を契機に、新しい産業構造を創り出し、更新投資と更新需要を作り出すことでしか乗り切れない。単なる「需要の創造」という視点では不十分であり、「新しい産業革命」が現在進行中だという認識が必要であろう。いまや地球温暖化阻止のための行動の先頭にたち、この分野で世界をリードしていく気概が必要になっている。その点で、鳩山首相が九〇年比でCO2二五%削減を表明したのはいい。だが、そのために「あらゆる政策を総動員する」という約束は守られていない。民主党の「日本版グリーンニューディール」構想は、まさにそうした産業戦略の根本にすえ直される必要がある。幸い「日本版グリーンニューディール」構想は地域分散型のエネルギー自給を目指すから、地域経済への貢献がもたらされる。その意味では、「戸別所得補償」「安全・安心な農業生産への転換」「六次産業化」の三本柱からなる食料・農業政策の転換も、「日本版グリーンニューディール」構想の重要な構成部分になる。
 石油や食料価格高騰の潜在的なリスクが眠っている状況のもとでは、エネルギーと食料自給を戦略目標にし、リスクに対する守りを固めながら、そこから新しい産業や雇用を創り出すカウンターアタックのような産業戦略が有効になるだろう。エネルギーと食料はまさに国家的な戦略物資だから、市場任せではうまくいかない。その点で、民主党はマニフェストで掲げた「全量買い取り方式の再生可能エネルギーに対する固定価格買取制度」、「キャップ&トレード方式による国内排出量取引市場の創設」、「地球温暖化対策税の導入」を急がなければならない。エコポイントや次世代自動車への買い換え促進、税制のグリーン化は、こうした政策の根本的転換があって初めて体系化されるだろう。
 既存産業も、もちろん知識産業化していかないと生き残れないので、これからは道路やハコモノに代わって、絶えざるイノベーションを生み出す教育研究が新しいインフラ基盤となっていくだろう。
 第二は、雇用や社会保障制度の再生という課題である。いまや少子高齢化、非正規雇用の増大、低成長経済へのシフトによって、これまで社会保障制度が前提としてきた条件が崩れてしまったことで、年金や医療・介護などは持続可能性を失っている。雇用が不安定化し所得が減少していく状態では、人々が将来不安を抱えているから内需が盛り上がらない。少子高齢化が年金制度や医療制度の「崩壊」の原因になっているが、それは同時に経済規模を縮小させて経済衰退を招く。現に、少子高齢化が進む中で、食品工業、あるいは車が売れず自動車保険も売れないので損害保険会社も、成長するアジア地域に出ていく傾向が出ている。
 少子高齢化を止めるには、これまでの家庭や母親に子育ての責任を負わせる考え方から、子どもが育つことを社会的に保障する「子どもを社会全体で育てる」方向に、政策理念を根本的に転換する必要がある。その意味でマニフェストの考え方は正しい。しかし、そのためには「子ども手当」だけでなく、保育や学童サービス、教育の無償化、さらには産科・小児科などの医療サービスなど現物給付を充実させる政策の体系化を急がないといけない。
 また、これだけ非正規雇用が増えてしまうと、国民皆年金・皆保険という理念は崩壊してしまうのは時間の問題である。マニフェストに掲げた年金や健康保険の一元化が不可欠だ。どんな職業についていようと、正社員であろうが非正社員であろうが、また働く女性だろうが専業主婦であろうが、同じ年金制度や健康保険制度に加入して、一つの国民としてリスクをシェアする仕組みが必要になっている。さらに医療や介護の破壊は、地域社会を支える生活基盤そのものの崩壊を意味するので、地域医療の再建も不可欠である。
 雇用の崩壊に関しては、労働者派遣法をできるかぎり元に戻していく努力が必要だ。すでに動き出しているが、日雇い派遣、登録派遣及び製造業派遣は原則禁止にしていくべきだろう。さらに、失業状態あるいは派遣切りなどで困窮状態にあるものは、最低限の生活を保障する政策が必要だ。その意味で、民主党が打ち出した、職業訓練を受けている失業者に生活費一〇万円を支給する職業能力開発制度をしっかりと確立させることが重要となっている。もちろん、こうした雇用のセーフティネットの充実は、第一の雇用を創り出す政策と組み合わせていかなければならない。いま民主党政権に求められているのは、これらマニフェストに掲げられた政策転換を愚直にかつ真剣に追求する姿勢であろう。

景気をもたせるにはどうしたらよいのか

 以上のような中長期的目標を定めても、新しい産業や社会保障制度の改革などができてくるのに二〜三年はかかる。さらに、それが軌道に乗るにはその倍の時間がかかるかもしれない。その間、戦後最悪の世界同時不況を乗り切るにはどうしたらよいのだろうか。景気悪化に対する補正予算など景気対策は、中長期的な戦略的政策のうち景気刺激効果の高い政策項目を前倒しで実施していくべきだろう。
 まず第一に、日本版グリーンニューディール構想に基づき、深刻な経済衰退に直面する北海道や東北、四国、九州などの地域を、思い切って再生可能エネルギーや食料の一大基地にするくらいの大胆なプロジェクトを打ち出すべきである。これら地域では、太陽光、風力、地熱などだけでなく、間伐材を利用したバイオマス発電、農業用水を利用した小水力発電なども含めて再生可能エネルギーによって、地域単位でエネルギー自給を高めていくとともに、スマートグリッドを軸にした双方向的な送配電網の建設に取り組み、これら衰退地域から大都市にエネルギーを大量に送り出すようにするのである。二〇二〇年までに北海やバルト海で大規模なウィンドファームができ、サハラ砂漠に巨大な太陽光発電が計画されているが、これに負けてはならない。こうして開発された効率的で品質の高い再生可能エネルギー施設を、発展するアジア諸国をはじめ世界にインフラとして売っていくことも視野に入れていくべきだろう。
 第二に、こうしたエネルギー転換に伴って、引き続き省エネ家電やエコカーへのシフトも推進する必要がある。CO2削減目標を大義に、国際競争力のある技術革新を促進するとともに、猛烈な更新投資・更新需要を作るべきだ。これは、日本国内だけの話ではなく、家電や自動車をはじめとする耐久消費財が爆発的に普及する可能性があるアジア諸国等に対して、日本の競争力のある技術や製品を輸出していくことが期待される。さらに化学・医薬などの産業を支えるためにも、スーパーコンピューター事業など基盤技術となる科学技術政策の推進が不可欠だ。
 第三に、地域経済の基盤となる農業の活性化も不可欠だ。農家の戸別所得補償は二〇一〇年度予算では米だけをモデル的に実施されることになったが、二〇一一年度の本格実施には他の農産物にも広げていくべきだろう。また規模拡大は必要だとしても、これを推進するだけでなく、一〇〇〜二〇〇ヘクタールの規模ではできない環境と安全の農業を普及させることが重要だ。このためには、新しい安全基準の設定と検疫体制の強化を推進する必要がある。それが日本の農産物にとって「商品の差別化」となり、日本農業の「事業の異質化」をもたらし、価格とは別の国際競争力を与えることになる。輸出も視野に入ってくる。しかし、消費者は国産だからといって必ずしも高い値段を受け入れるとはかぎらない。とくにデフレが進行している状況では、コストを抑える一方で、自ら販売して流通を握り、加工で付加価値をつける六次産業化で、地域農業を活性化することが必要になる。ノンリコース・ローンを含む六次産業化を支援する政策を推進するべきだろう。
 そして最後に、多くの人々が年金や医療・介護などの制度への不信があるかぎり、いくら福祉関係の手当を増やしても、多くの人々は安心して消費を増やそうとはしないだろう。だとすれば、新政権は、できるだけ早くタスクフォースを立ち上げて、年金や医療に関して改革案の選択肢を示し、それぞれがどのくらいのコスト(必要財源額)がかかるかを国民に提示する必要がある。何より国民の不安を解消するには、政府が不退転の決意を示さなければ状況は改善しない。

政治的意思決定の仕組みを変える

 前述のような中長期的な戦略と景気対策を組むには、民主党がマニフェストで打ち出した「五原則五策」を誠実に実行することが求められている。何より第一に、マニフェストに掲げられながら先送りにされてきた「国家戦略局の創設」を急ぐことである。国家戦略そして経済再生のシナリオもなく、またそれに基づいた予算編成方針もない状態で行われた「事業仕分け」を含む予算編成作業は、政治主導というより財務省(官僚)主導になってしまった。『新成長戦略(基本方針)』が打ち出された後に、国家戦略室から国家戦略局に強化するという事態そのものも、順序が完全に逆転している。この歪みを早急に正さなければ、船頭なき民主党政権はますます混迷の度を深めてしまうだろう。
 第二に、マニフェストにある「渡り官僚の天下り禁止」も「官僚トップの政治任用」も実現されていないが、そのための法改正を急ぐべきだろう。問題になった消費者庁長官、人事院総裁、農林水産事務次官の更迭もなされず、日本郵政会社社長に渡り官僚を任命してしまった。官僚のトップが変わらなければ、下が民主党の政策に合わせて動くことができるはずはない。民主党が本当に政策体系を根本的に転換したいのなら、これは避けることができない。
 同時に第三に、マニフェストに掲げられている、「行政刷新会議」が官僚組織を機動的に変える体制を作る官僚組織改革を実行することも必要だ。従来の「縦割り組織」をボトムアップに改編しようとしても意味のある改革はできない。政治主導で進めるためには、まず関係閣僚からなる「閣僚委員会」において「使命」と「権限」を明確化した新たな「組織」の大枠を決定し、これを関係各府省で具体策を詰めていく、トップダウン方式をとる必要がある。
 また、官僚の政治任用を導入し、天下り禁止を実施する場合、ただ官僚を叩いているのではなく、彼らに政策形成の専門家としてキャリアパスを用意する必要がある。政策の企画立案を活性化するためには、まず政策決定の情報公開を進めることが肝要である。それに加え、国会機能を充実していくことが重要だ。そのために、国会議員の立法・国政調査活動を支援する調査室や国会図書館の機能を強化し、あるいは積極的に政策立案をするシンクタンクや研究機関を活性化させる観点から、政策の企画立案能力の高い官僚を「雇い入れる」条件を整備する必要がある。そうすれば、官僚は、政治家との根回しといった「調整能力」に磨きをかけることから、政治主導における政策の選択肢を提示する「政策形成能力」を高めるように努力する動機づけになる。

新たな民意吸収のメカニズムを構築する

 いま民主党政権は、前政権時代に形成されてきた業界団体・族議員や個人後援会を通じた利益調整メカニズムを壊すことに取り組んでいる。そうした古い「民意吸収のメカニズム」を壊したら、新しい「民意吸収のメカニズム」が必要になる。そのための方策の一つは国会の活性化である。とくに、民主党は政務調査会の部会を廃止したので、民主党国会議員は選挙区の声を政策決定に反映させる場がなくなってしまった。そうなると結局のところ、国会での議論は、野党議員だけでなく、与党議員も加わった、公開の「政策調査会」としての機能を果たしていかざるをえないのではないか。
 また、国会が真の民意吸収の場となっていけば、政治家が本当の意味で現場から民意をつかんでいこうとするインセンティブとなる。さらに、政府に入った「政務三役」が民意を吸収して高い理念に基づいた政策を企画立案することが必要だという姿勢を打ち出していけば、心ある官僚も実行部隊として主体的に動いていくことになるに違いない。「政」と「官」とはそういう関係を目指していく必要がある。
 そして、たとえば首相や閣僚みずからが法案や政策について全国行脚して説明するなど、民意を吸収できるような公開のシステムを作っていくことも必要だろう。以上の民意吸収メカニズムが成立する前提条件はいずれにしても政策情報の公開である。
 と同時に、マニフェストにある「地域主権」は、民意吸収の重要なツールになっていく。すなわち、地域主権の制度設計や毎年の地方交付税の配分に当たって、ステークホルダーである地方自治体との交渉は、主権者である国民がその情報にアクセス可能となるよう、公開で行われる必要がある。つまり、「国政に反映すべき問題は国と地方が対等な立場で話し合う機会を保証する」ことが必要になってくる。そしてINDEX2009にあるように、自治体の住民投票制度の強化も必要となる。こうした措置によって、「国と地方の対等な立場での話し合い」は新しい民意の吸収メカニズムとなるはずである。

おわりに

 この歴史的な危機とも言うべき状況の中で、戦前、戦後を通じて初めて国民が主体的に選挙によって本格的な政権交代を実現させた。その結果、日本は初めて民主主義の試練の最中にいる。いま求められているのは、マニフェストとINDEX2009を掲げて総選挙を戦った以上、民主党は愚直にマニフェストに立ち返り、それを鍛え上げて国家戦略と経済再生のシナリオを早急に練り上げ、この危機の脱出口を国民に示すことなのだ。もし民主党政権が、この国民の負託に応えることができなければ、日本の経済だけでなく政党政治そのものが成り立たなくなってしまうだろう。だからこそ、まず何より昨年末に出した『新成長戦略(基本方針)』の大幅見直しを前提にして、国家戦略局のもとで、一から戦略とシナリオを練り直すことが求められているのだ。民主党政権は国民に対して重い責任を負っていることを自覚しなければならない。


かねこ・まさる
慶席義塾大学経済学部教授。一九五二年生まれ。著書に、『環境エネルギー革命』
『金子勝の食から立て直す旅』『金子勝の仕事道!・』『戦後の終わり』など。

たけもと・としひこ
衆議院農林水産調査室首席調査員。一九五二年生まれ。七六年農林省入省、官
房企画室長、食糧部長などを経て、二〇〇五年から現職。論文に「食の安全と
農政の対応に係る一考察」
 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
01. 2010年2月16日 20:00:10
長編音楽ドキュメンタリー「荒木栄の歌が聞こえる」予告編
http://www.asyura2.com/10/music1/msg/393.html


[削除理由]:この投稿に対するコメントとしては場違い。別の投稿にコメントしてください。
02. 2010年2月16日 20:57:20
タイトルは華々しいけれど、中で言っているのは、民主の政策は正しい、急いでやれ、ということだけ。
現場には現場の苦労があり、事情があり、戦略があるだろう。
何やら、経営会議で、予定の前倒しを言うだけで、具体的なプランは何も述べない無能部長(あるいは専取りか社長)を思い出す。
現場では、じゃあおまえやってみろよ、と言いたいだろう。
自公政権のばらまきと、財務省の無能予測で、予算はほとんど残っていない。
国会は政治と金という、どうでもいい問題で空転している。
落ち着くのは、次の選挙後だろう。
国民はそんなことはみんなわかっている。
それまでにしっかりしたプランを立ててくれればいい。
こんな論者の言う通りにして、拙速な方針でしくじったら、目も当てられないぞ。

03. 2010年2月16日 23:23:47
金子教授の言う通りだと思う。
現実に実行するのは、難しいと言うが、だからといって実行できなければ
金子教授の言うように、我が国は衰退の道を突き進むだけだ。

なら自分がやれというのは、何の問題解決にもならないし、
それぞれの立場や役割を無視した暴言だ。

支持政党の政策でも、いいものはいい、悪いものは悪いと、ちゃんと評価し
批判もできないようでは、問題解決など不可能だ。


04. 2010年2月17日 00:37:45
すごいですね。

この長文すべて、 「世界」から、ダイナモさんが書き起こしたのですか?

おつかれさまです。


05. 2010年2月17日 00:40:01
現世の坂本龍馬・小沢一郎!

[削除理由]:2重投稿
06. 2010年2月17日 09:20:23
長ければいいもんではない!!日本版グリーン〜そんなのもう済んでるよ、国民がやるかやらんかだけだ。Gree tecnology is’t rocket
science。農政も現場ではみんな理解している金子より!その地域特性を考え地域間競争や連携・規模拡大・みんな現場が先にやってんだ、お前の提言ではない!!教育改革も23年前におれが始めた現場でな、モデルケースを作ったよ。それを変質させ、予算をやみ手当にしてしまっていた!そんな金子に語る資格なし

07. 2010年2月17日 23:12:21
04に同感。ダイナモさん、ありがとう。

08. 2010年2月18日 14:57:39
金子禿げに「喝!」民主党政権の政策実現はこれからです。自民が検察を使い民主党政権壊滅を画策してます。特別委員会をドンドン開いて「立法」、強行採決を希望します。民主党の「金」の問題なんか自民がいえる道理はありませんw特別委員会を開き民主党の政策をきっちり「立法化」。国民が多く望んでるものです。自民+CIA旧勢力なんか無視して、やることやればいいんだ。そのために、衆議院は過半数を与えてるんだから。民主を叩いても「自民・公明暗黒10年政権復古」を願う国民の多くはおない。マスコミ+旧勢力(自民+検察)の「異常」さに気付いてる国民は多いです。参議院も民主が「過半数」近く維持すると思います。「痛み」を感じてる国民に「自民+公明政権もう一度」なんて思ってる人間は、旧体制の人間しかおらんでしょう。金子禿げ先生「金もらったのかw」( -'д-) =3 ハァ


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