14. 2010年2月12日 13:57:20 □■ 天木直人のメールマガジン 2010年2月12日発行 第43号 ■ ────────────────────────────── 見逃してはいけない陸自連隊長の鳩山首相批判発言 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 鳩山連立政権の護憲度を象徴するような事件であった。記録にとどめる意味から きょうのメルマガで書いておきたい。 まず事実関係はこうだ。 2月10日、宮城県の王城寺原の陸自演習場で始まった陸自と米陸軍の共同訓練の開会式で、 陸自側の代表として挨拶した中沢剛1等陸佐が、「同盟関係は『信頼してくれ』などという 言葉で維持されるものではない」と発言した。 この事が11日早朝のテレビで一瞬だけ報じられ、11日の朝日新聞一紙だけが報じていた。 その後、どのような後追い報道がなされるか注意深く見ていたが12日の新聞はどこも報じ なかった。その他のメディアも、国会でも、取り上げられることはなかったようだ。 おそらくこれで二度とこの発言は問題化されず、発言はなかったことで終わるのだろう。 しかし、この陸自一佐の発言をこのまま見逃してはいけない。ここには今の日本の政治における 護憲離れが凝縮されている。 一つにはこの国の政治における護憲勢力の衰退がある。 かつて村山富一社民党委員長が自社さ 連立政権の首相であったとき、宝珠山昇防衛施設庁長官が、沖縄米軍基地をめぐる村山首相の政策を 馬鹿呼ばわりして更迭されことがあった。 今回の発言は考え方によってはそれ以上に深刻な発言である。普天間基地移設問題で日米同盟が 大揺れである時に、自衛隊の一佐ごときが鳩山総理の首脳会談での発言を正面から批判したのだ。 しかも米軍との共同演習の挨拶の席で、日米同盟は、政治家の言葉ではなく軍事行動を通じた結束で 作られるのだ、といわんばかりの発言をしたのである。これがシビリアンコントロールを逸脱した発言 でなくて何なのか。 連立政権にとどまる社民党は、あたかも連立政権にとどまるアリバイ作りのように普天間基地の 県外移設場所さがしに奔走しているが、このような深刻な発言を放置して何のための護憲政党なのか。 二つ目には護憲的立場からのメディアの発信の衰退である。かつてならこの類の発言をメディアは 放置しなかった。間違いなく批判的に取り上げた。 メディアが取り上げれば国民は知ることになる。関心が広がる。 いまのメディアは連日、政治とカネの問題や朝青龍の問題、バンクーバー五輪ばかりを報じているが、 もしこの発言問題を正面から報じ、護憲論者のコメントを流せば、護憲派の国民は黙っていなかっただろう。 11日の朝日の記事によれば、陸上幕僚幹部広報部は、「(中沢1佐は)鳩山総理を含め特定の政治家や 政治家の発言を引用したり、批判しようとしたわけではなく、訓練を通じて現場の信頼関係を築くことの 重要性を説いたつもりだ」と説明したというが、ここまで白々しい否定をしなければならなかった事が、 この発言の深刻性を物語っている。 しかし、一番の問題は、なんといっても鳩山首相の「信頼してくれ」というあの発言である。 あの発言がどのような文脈で語られ、何を意味したものか、自分のどこを、どう信頼してくれと 言ったのか、オバマ大統領はそれを正しく理解したのか、などなど、国民はまったく知らされないままに 今日に至っている。 だからこそ陸自一佐があのような批判も許されるのだ。あのような批判をしても、批判をしたわけではない と逃げられるのだ。 メディアは鳩山首相に対し、陸自一佐の発言についてのコメントを求めようとしなかった。しかしたとえ 求められても、鳩山首相は怒ることはしなかったであろう。何を怒ったらいいのかわからなかっただろう。 それこそが鳩山首相が内在する大問題なのである。鳩山首相の護憲度はまったく不明である。 |