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鳩山政権の百日 (山口二郎)
http://www.asyura2.com/10/senkyo79/msg/308.html
投稿者 ダイナモ 日時 2010 年 2 月 01 日 19:32:27: mY9T/8MdR98ug
 

http://yamaguchijiro.com/

はじめに

 2005年の総選挙では、「官から民へ」、「小さな政府」を唱える小泉純一郎首相と自民党が圧倒的な支持を得た。しかし、そこで国民が選んだ「構造改革」路線は、行き過ぎた規制緩和や社会保障費、地方交付税の抑制によって、国民生活の土台を破壊した。そのことへの反発が政権交代を求めた民意の根底にあることは確かである。

 「国民の生活が第一」という民主党のスローガンを額面どおりに受け取れば、小泉政権時代に新自由主義に振れた自民党に対抗して、民主党は福祉国家の再建や社会民主主義路線を立てることによって選挙に勝利したということになる。民主党を中道左派路線に向かわせようと考えてきた私にとっては、そのような解釈こそ望ましい。しかし、政権発足以後の3ヶ月あまりの動きを見ると、評価すべき面と、批判すべき面が入り混じっている。鳩山政権が今後国民の期待にこたえて政策的実績を上げるために何が必要か、改めて考えてみたい。

1 2009年総選挙の民意と「第3の道」の成功

 まず、国民が民主党あるいは鳩山政権に何を期待したのか、どのような思いで政権交代を引き起こしたのかを振り返っておきたい。2009年8月の総選挙で、大半の日本人にとって初めての民意による政権交代が起こった。2005年の総選挙では、新自由主義的な構造改革を唱える小泉純一郎首相が率いる自民党が300議席を得て大勝した。わずか4年の間で、日本の民意は強い自民党支持から、強い民主党支持へと180度転換したように見える。

 この選挙について、人々は刺激的なシンボル、2005年の「改革」、2009年の「政権交代」に反応しただけで、大衆扇動の政治は継続しているという解釈がある。しかし、2005年と2009年の間には、大きな違いがある。

 第一の違いは、社会経済的環境である。2005年は日本経済が長期的な景気回復を遂げている途中であった。市場原理を強調する改革論が支持を受ける環境がまだ存在していた。しかし、小泉政権が終わった2006年以降、日本ではしだいに不平等の拡大や貧困問題の深刻化を憂慮する世論が高まった。さらに、2008年秋以降の世界的な経済危機の中で、国民の経済的不安は一層高まった。市場の優越性を強調する政策よりも、市場の失敗を重視し、国民の生活を救済する政策が支持されるようになったのは当然である。

 第二の違いは、選挙の際に政党が提示した政策の具体性である。2005年の総選挙は、小泉首相の持論であった郵政民営化を最大の争点として行われた。しかし、郵便局の民営化が日本の経済や国民生活に具体的に何をもたらすかを、民営化を主張していた自民党は何ら説明しなかった。国民も、郵政民営化がどのような結果をもたらすか、理解して投票したわけではない。実際には、2005年の選挙で勝利した後、自民党政権は、医療予算の削減、生活保護の減額など、社会保障、社会福祉の面での小さな政府の実現に邁進した。

 これに対して、2009年の選挙で、民主党は具体的なマニフェストを提示した。とくに、15歳以下の子どもに対して一人月額2万6千円の子ども手当を支給すること、農家に対する戸別所得保障を実現することなど、国民に対する支援策を売り物にしていた。国民は、民主党を選ぶことによってどのような政策が実現するか、理解して投票したということができる。

 もちろん、後で触れるようにマニフェスト自体の洗練の度合いが不十分であったという問題もある。それにしても、二大政党が政権構想を明示した上で政権を争うという選挙が実現し、国民は過去4年間の自公連立政権の政策的業績を否定するという意志を明確にしたということができる。

 今回の民主党の勝利は、日本における第3の道の実現と評価することができる。第3の道とは、1997年にイギリスで労働党が18年ぶりに政権を獲得した時に打ち出したスローガンである。いうまでもなく、第1の道は第2次世界大戦後、ベヴァリッジ報告に基づいて労働党が実現した福祉国家、第2の道はサッチャー政権が1980年代から90年代にかけて推進した新自由主義的な改革である。97年の選挙に臨んだ労働党(ニューレーバーと自称していた)は、グローバル化時代に経済的な効率と両立する新たな福祉国家として、第3の道を打ち出した。

 日本でも、同じような展開を発見できる。第1の道は、1960年代から80年代にかけてかつての自民党が展開した利益配分政治である。公共事業、農業や中小企業への補助などの形で財政資金が配分され、弱者の保護や不平等の是正がある程度行われた。しかし、そのような政策は普遍的な制度に基づくものではなく、官僚の持つ裁量によって実施され、不公正や腐敗を伴っていた。地方自治体に対する公共事業補助金の配分や、工業事業受注をめぐる談合、護送船団方式といわれる業界保護の仕組みなどがその代表例であった。

 他方、第1の段階においては、制度的な社会保障の整備が行われたが、その規模は国民経済の規模に比べればきわめて小さいものであった。1990年代までは、社会保障支出の対GDP比は10%台で推移し、21世紀に入って高齢化が進んでも20%台の前半にとどまっていた。総じて、第1の段階は経済成長が続いた結果、貧困、病気等の国民生活上のリスクはカバーされていたということができる。

 第2の道は、2000年代に小泉純一郎政権によって展開された新自由主義的構造改革である。第1の道がもたらした腐敗や無駄遣いに怒った国民は、小さな政府による改革を支持した。しかし、小泉政権は腐敗の是正や行政の効率化ではなく、社会保障や社会福祉の削減、労働の規制緩和、地方政府に対する財政援助の大幅な削減を実施し、日本社会にはアメリカのように、貧困と不平等が蔓延した。小泉政治においては、改革という華々しい掛け声は叫ばれたが、小さな政府がもたらす現実的な帰結については、具体的な議論が行われなかった。国民は、中身を見せられず、ラベルだけを見せられて商品を買わされたようなものである。

 第3の道は、今回民主党が打ち出した福祉国家の再構築の路線である。従来の裁量的な利益配分に変わって、普遍的制度を立て、それに沿って同じ条件にあるすべての市民に対して公平に給付やサービスを提供するという点に民主党の政策の本質がある。子ども手当は、いわばベーシックインカムの部分的な試行である。また、農業についてはヨーロッパに習って、農家に対する戸別所得保障を行うことを打ち出している。従来の農業政策が、農村に対する裁量的な補助金や建設事業に偏っていたことへの反省からこのような政策が生まれた。さらに、医療、教育の分野では、それらの分野に対する財政支出がOECDの平均的な水準に達するよう増額することを目指すとしている。民主党政権は、アメリカ型の小さな政府と決別し、ヨーロッパ型の福祉国家を目指すと評価することができる。

 ポスト小泉の自民党が構造改革路線の継続か、修正かをめぐって内部論争を起こしたのに対して、民主党は生活第一というスローガンの下に、一応社会民主主義的なアジェンダを打ち出した。その点で、民主党が攻勢に出ることができ、構造改革の破滅的な帰結に対する反発を強めていた国民の支持を得ることができた。

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子ども手当て、農家への個別保障政策などは社会民主主義的政策と言えるが、この政策の継続性、持続可能性には大きな疑問符が付く。民主党が将来的な財政の再建ビジョンを明確にしていないことが国民の将来不安が解消されない大きな要因となっている。
 

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コメント
 
01. 2010年2月02日 01:30:52
 岩波ジュニア新書『政治のしくみがわかる本』(山口二郎著)を読んでいたところでした。昨年政権交代直前に書かれたこの本は、今の状況をうまく説明する資料になっています。分かりやすいです。
 それで、山口氏の情報が欲しいなと思っていたところでした。氏のブログがあることが分かり、早速ブックマークしました。
 本記事の掲載ありがとうございました。青草子。

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