ここに面白いデータがあります。修羅サイト内の投稿記事をGoogleで検索したデータですが、検索語句に「衆院選」と「マスゴミ」という語句を共に含む場合と、検索語句に「小沢」と「マスゴミ」という語句を共に含む場合のヒット件数を示します。なお各語句は、厳密に該当したものだけがヒットするように二重引用符(" ")で囲みました。こうすることで一般的な「マスコミ」という語句はヒットせず、マスコミを軽蔑・罵倒する語句である「マスゴミ」だけがヒットするようになります。 衆院選+マスゴミ 236件 小沢+マスゴミ 2570件 この結果から何が読み取れるでしょうか。「衆院選」と「マスゴミ」を同時に含む投稿記事は、「小沢」と「マスゴミ」を同時に含む投稿記事の10分の1以下であることが分かります。 「衆院選」といえば2009年に民主党が自公政権を破り、民主党を中心とした連立政権が誕生したことが想起されます。一方、「小沢」といえば2009年3月に西松建設から小沢氏の政治資金管理団体に西松建設の社員の個人名を用いて政治献金が行なわれ、小沢氏が政治資金収支報告書への記載が適切でなかった責任をとり、民主党代表を辞任した出来事がありました。そして現在は4億円の土地購入費が政治資金収支報告書に不記載の容疑で東京地検特捜部の被疑者となっています。 2009年の衆院選では、マスメディアは各社例外なく選挙の争点を自公政権か民主党政権かを選択する「政権選択」と位置付けました。自民党の麻生首相(当時)は、「政権選択ではありません。政策を選択する選挙です。」と選挙遊説で力説していたにもかかわらず、全マスメディアは「政権選択」が争点であると明確にしました。この関係は、2005年の衆院選挙で小泉首相(当時)が、「選挙の争点は唯一つ、郵政民営化です。」と主張したのに対し、民主党など野党がが争点は郵政民営化だけではありませんと訴えてもマスメディアから無視され、全マスメディアが選挙の争点を「郵政民営化」と位置付けた構図とちょうど正反対の構図となっています。 「衆院選」と「マスゴミ」の語句を使った投稿が236件と比較的少なかった理由には何が考えられるでしょうか。2009年の衆院選前の時期、マスメディアは政権与党の不祥事をこれでもかというくらい頻繁に報道してきたことは記憶に新しいことです。例えば、麻生氏はよく言い間違いをするということについて、マスメディアは麻生氏が言い間違えをするたびに記事にし、そこまでやるかというぐらい頻繁に報道しました。この報道によって麻生氏の首相としての適格性に疑問をもった人も多いと思います。中川外務大臣の酔っ払い会見の映像はことあるごとにマスメディアによって報道されました。赤松農林大臣の絆創膏会見も大きく報道されました。この時期、マスメディアは自公政権の不祥事を頻繁に報道しました。そのことが後の衆院選での自公政権の敗北の一因となったことは想像に難くありません。 つまり、この当時のマスメディアの報道は政権与党であった自公政権に不利になる報道であふれていたということができます。そうした状況であるがために、阿修羅サイト内ではマスメディアを罵倒する語句である「マスゴミ」ということばがほとんど使われることがなかったと推測することができます。 「小沢」と「マスゴミ」の語句を使った投稿が2570件と多数に上った背景には、小沢氏をめぐる土地購入疑惑に関して、マスメディアが東京地検特捜部のリーク情報をそのまま報道していることを問題にした投稿が多いためと推測できます。つまり、自分の支持する政治家が不利になるような報道を行なうマスメディアを罵倒する語句として「マスゴミ」という言葉を使っているということです。 2009年の衆議院で民主党連立政権誕生の原動力の役割を果たしたマスメディアは、新政権誕生後に報道姿勢を180度転換したのでしょうか。私にはそう考える理由が見つかりません。マスメディアは視聴者が関心を抱くニュースを最優先して報道するものであり、この点に関しては2009年の衆院選前のマスメディアの報道姿勢と現在の小沢氏をめぐる疑惑報道との間に乖離があるとは感じられません。むしろ検察から提供される「違法なリーク情報」を視聴者の関心を引き付ける重要なニュースとして報道しているに過ぎません。こうした報道姿勢はずっと以前から変わってはいないのです。その報道内容がたまたま自分の支持する政治家に不利に働く内容であるため、そのような報道を行なうマスメディアを「マスゴミ」と呼んで罵倒しているに過ぎないのです。 自分の気に入る報道を行なうと「マスコミ」であり、自分の気に入らない報道を行なうと「マスゴミ」と呼んでいるのです。マスメディアそのものの報道姿勢は昔も今も視聴者の関心を引くニュースを報道するという点でなんら変わりが無いにも関わらずです。 マスメディアは時の政治権力の不正には厳しい姿勢をとってきました。ただ一度不適切失言をしただけでマスメディアの報道により辞任に追い込まれた自民党の閣僚は枚挙にいとまがありません。そのとき、阿修羅サイトの投稿者は「マスゴミ」という言葉を使ったでしょうか。使うはずがありません。 自分の気に入った報道をしている時は「マスコミ」と呼び、自分の気に入らない報道をしている時は「マスゴミ」と言って罵倒する。小沢氏を支持しているから小沢氏に不利になる報道に対しては「マスゴミ」と言って罵倒する。「マスゴミ」という言葉はマスメディア総体を全否定する言葉です。全てか無か、白か黒かの二分思考そのものです。世の中は白か黒かで割り切れるほど単純ではないにもかかわらずです。 今、「マスゴミ」と言って罵倒している人が、マスメディアが小沢氏に有利になる報道を始めたらそれでも「マスゴミ」と罵倒するか、非常に興味があるところです。そのときにはまたころっとマスメディアに対する評価を反転させ、マスメディアこそ正義の味方と評価するでしょう。極端から極端に揺れ動く。いつになったら二分思考から脱却するのでしょうか。 「マスゴミ」とレッテルを貼ってマスメディアを攻撃する人は、本当の敵である東京地検特捜部に対してはマスメディアを攻撃するほどには攻撃していないようです。この意味で「マスゴミ」と罵倒する行為は本当の敵をあいまいにする行為です。 いつかは小沢氏に関する一連の報道は止まるでしょう。 もうそうした「ご都合主義」的な語句の使い分けは止めにしませんか。マスメディアは視聴者の最も関心を引くニュースを報道する機関という点で今も昔も変わってはいないのですから。たとえそれが検察からのリーク情報であっても変わりありません。
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