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2010年01月20日(水)
「天の声」否定判決を黙殺する検察とメディア
小沢一郎をつけ狙い、新政権を脅かす東京地検特捜部はいったい何をめざす組織なのだろう。
総選挙が近づいた昨年3月3日、大久保秘書を逮捕し、参院選を半年後に控える今年1月15日にも、元秘書の石川衆院議員ら二人に有無を言わせず逮捕状を突きつける。
いずれも司法記者クラブメンバーたちへのリークにより、茫漠たる小沢金権政治のイメージを世間に広めたうえでの、強制捜査だった。
東京地検特捜部は、純粋に「犯罪事実の解明」を第一義として動いてきたといえるのだろうか。
むしろ、官僚支配に挑戦する小沢一郎の政治力を削ぐための「世論操作」に血眼になってきたのではないか。少なくとも筆者の目にはそう映る。
西松建設側や大久保秘書の公判経過を仔細にながめると、検察がいかに「無理スジ」の捜査をやってきたかが分かる。
日本のメディアは、捜査当局に食らいついて早耳競争に明け暮れる。裁判が始まっても検察側の冒頭陳述を大々的に報じることに力点を置き、その後の経過については、ほとんど目立った報道がない。
悪党と決めつけた者に対しては、徹底的に捜査側の視点に立ち、のちに市民が立ち上がり冤罪の疑いが出てきてはじめて、被告側の心に思いを寄せる。メディアの悪弊というか、ほとんど病弊である。
本来、法廷こそ、検察と被告側の主張が対立し、真実に迫れる場所のはずだ。捜査機関の発表やリークに依存せず、ジャーナリストとして、当事者の語る生の情報に接することができるのが法廷である。
西松建設の国沢幹雄らに対する公判と判決はどうだったのか。そこから話を始めたい。
この裁判の特異さは、昨年6月19日の第1回公判で西松側が事実を全面的に認め、即日結審してしまったということだ。6月26日の株主総会を前に、早期決着を最優先したのだろう。
検察のシナリオ通りの調書にサインする代わりに、国沢元社長は禁固1年4月の有罪判決とはいえ、、3年の執行猶予を得た。
検察の冒頭陳述は次のような筋書きを提示した。岩手県内の工事受注を希望するゼネコンは小沢事務所に「天の声」を出してもらうよう陳情し、その対価として寄付金を小沢事務所に提供していたというのだ。
メディアはこの「天の声」にだけは飛びつき、いかにも談合でゼネコンが工事を受注するのに、小沢事務所が大きな影響力を持っていたかのごとく、世間に吹聴した。
しかし、7月17日の判決では、「岩手県選出の衆院議員との良好な関係を築こうとして平成9年頃から行ってきた寄付の一環」であって、「工事受注の見返りではない」と、明確に「天の声」が否定されている。
「天の声」を大げさに流布したマスコミが、これを否定する判決を明確に報道しなかったのは、ジャーナリズムの公正さを疑わせる自損行為というほかない。
さて、次に大久保秘書の裁判だが、昨年12月18日に第1回公判、今年1月13日に第2回公判が行われた。
驚くべきなのは、この冒頭陳述でも、検察は再び「天の声」を持ち出し、公共工事の受注への見返りに政治献金を受けたかのごとき主張を繰り返したことだ。すでに西松側の判決で「天の声」が否定されているにもかかわらず、である。
そして、第2回目の公判では、さらに重要な証言が飛び出した。
西松建設の岡崎彰文・元総務部長が、同社OBを代表とする政治団体「新政治問題研究会」と「未来産業研究会」について、「西松建設のダミーだとは思っていなかった」と証言したのである。
「陸山会」はこの二団体から計2100万円の寄付を受け、会計責任者である公設秘書、大久保隆規が、その通り寄付者として二団体の名称を03〜06年の政治資金収支報告書に記載した。
検察の見解は、大久保が実際には西松からの迂回献金と知りながら受け取っていたもので、西松建設を寄付者としなかった報告書は虚偽記載にあたるというわけである。
そこで、大久保被告が両団体をダミーと認識していたかどうかが争点のひとつになっていたのだが、西松の実務責任者だった岡崎氏が「ダミー」を否定したのだ。
岡崎元部長は、裁判官の尋問にこう答えた。
「二つの団体については、対外的に西松建設の友好団体と言っていた。事務所も会社とは別で、家賃や職員への給料も団体側が支払っていた」
冒頭陳述で検察側は、西松建設が信用できる社員を二団体の会員に選び、会員から集めた会費を献金の原資にしていたと指摘していたが、これについても岡崎部長は以下のように否定した。
「入会は自分の意志だと思う。私自身は、社員に入会を強要したことはない」
大久保氏の裁判の経過が、検察の思い通りに運んでいないことは明らかである。
検察の控訴を嫌う裁判官の習性により、99.5%が有罪となるこの国の裁判で、虚偽記載という形式犯によって大久保を有罪に持ち込むことができたとしても、それだけでは政権交代のかかる総選挙前に踏み切った強制捜査の正当性が問われるのは必定だ。
そこで、起死回生の手段として、目をつけたのが小沢一郎の土地購入資金4億円だ。
ここにゼネコンからの裏金が紛れ込んでいるのでなないかという都合のよい推論は、小沢抹殺を狙う東京地検特捜部の佐久間チームにとって、欣喜雀躍させるものだったに違いない。
しかし、検察の問い合わせに応じ、1月のはじめに弁護士を通じて伝えられた小沢氏の口座からこのうち3億円が引き出されていることが確認された。
4億円全てが裏金ではないことはすぐにわかったはずだが、メディアに知らせたのはごく最近のことだ。
「いや、残る1億が問題なのだ」と説明するのに使われているのが、別件で服役中の中堅ゼネコン「水谷建設」元会長、水谷功の供述だ。
水谷は「平成16年10月と17年春に5千万円ずつ計1億円を小沢氏側に渡した」という供述調書にサインしている。
平成16年当時、胆沢ダム(岩手県)を水谷建設が下請けで受注したことの見返りとして小沢側に裏金を渡した。そういう筋書きを組み立て、そこににすべてをかけ、虚偽記載での石川議員逮捕という異例の荒っぽさで強制捜査に突き進んだ。
しかし、心身を極限状態に追い込んで供述調書にサインを迫る不条理は、経験者の多く語るところであり、別件で取調べを受けていた水谷元会長の供述の信憑性には疑問がつきまとう。
しかも、石川議員はもちろん、小沢の秘書全員が「絶対に水谷からカネは受け取っていない」と断言しているにもかかわらず、そうした反論についてはほとんどのメディアが黙殺している。
東京地検特捜部は残念なことに、昨年の小沢周辺への「無理スジ」捜査で、官僚国家維持をはかる守旧勢力との結託が浮き彫りになり、国民の反発を受けた。
国民からの信頼を回復するためには、取り調べが功名心や組織の論理で行われないよう、検察自らが可視化などの改革を進める必要がある。
しかし結局、昨年来の捜査を正当化するという心理的呪縛から解き放たれることはなく、大物を釣り上げ得る証拠との遭遇という希望的観測にもとづいて、さらなる無謀な捜査に突入してしまった感が強い。
政治資金収支報告書の虚偽記載者の数は自民党議員のほうがはるかに多いにもかかわらず、小沢一郎にターゲットを絞っているのはきわめて異常だ。
小沢は検事総長ポストを国会同意人事とし、国民の検察権力への監視を強めようと考えているようだが、それも、政治家を見下しているといわれるエリート検察官にとってしゃくに障ることの一つだろう。
国の改革を進めようとする動きに反発し、気に入らない輩をぶった切るというのでは、「新撰組化する検察」と揶揄されても仕方あるまい。