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自民党利権を根こそぎ奪おうとする小沢氏 国家ビジョンのない小沢氏が牛耳る日本の政治 民主党の公約は当てにならない
大前研一
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100118/205601/?P=6
民主党政権に対して、国民から批判が大きいものの一つが財政だ。2010年度の国債発行額は新規や借り換えなどを含め総額162兆4139億円に達する計画である。予算案の一般会計総額は過去最大の92兆円に上り、子ども手当を含む社会保障関係費は初めて一般会計の5割を突破することになる。
国債の新規発行分は依然として高水準
まずは下のグラフを見ていただきたい。2001年度からの国債発行額の推移である
「借換債」とあるのは、期限が来たらそのまま借り換える分だ。返すつもりもアテもないからそうしているわけで、これはもう日本の悪しき伝統と言ってもいい。「新規財源債」とは、新規発行分(つまり毎年積み上がっているもの)のことで、例年20兆〜40兆円と非常に大きな額になっている。小泉政権時代に国債の新規発行額を30兆円以内に抑えようという動きはあったものの、依然として増加傾向にある。
財務大臣の藤井裕久氏が1月6日に辞任し、代わりに菅直人副総理が財務大臣を兼務することになった。就任に際して菅氏は「特別会計についても踏み込む」という発言をした。私もそれは必要なことだと考えている。ここにメスを入れることは民主党の公約にもあったことだし、何より特別会計は年間で200兆円以上もの規模になるからだ。
日本は福祉大国への道を進むのか?
しかし、民主党政権になって財政が好転するかと言えば、あまり期待できないのも現実だ。例えば、一般歳出に占める社会保障関係費の推移のグラフを見てほしい。
2010年度は驚くべきことに、分母の一般歳出が大幅に増加したにもかかわらず社会保障関係費が歳出の5割を超えてしまうのだ。具体的な数字を挙げると、53.5兆円の一般歳出のうち27.3兆円が社会保障関係費に充てられる。皮肉を込めて言えば、「さすが民主党」である。日本はこのまま急速に北欧社会保障型社会、高度社会福祉型国家になっていくのか。一度そちらに舵を切ると、なかなか元には戻れなくなる。これは将来に禍根を残すことになりかねない重要な問題である。
もっとも北欧諸国は租税負担も社会負担も可処分所得の70%にもなっているので財政規律を守ることができるが、日本国民が高度負担を受け入れる、という可能性は低い。誰が負担するのか?という問いに対しては、「将来の国民」ということになる。つまり、日本はこの締まりのない財政赤字を将来世代に付け送りしているだけで、そのために財政赤字が先進国最大の対GDP比180%、もうじき200%なり、記録を更新中である。
農林水産省は2011年度に漁業を対象に戸別所得補償制度を導入する検討に入った。これまで戸別所得補償は農家が対象とされてきた。対象が拡大していけば、ますます北欧、特にスウェーデンのような福祉大国に近づいていくだろう。
国債の乱発で借金が増え続けると、デフォルトの可能性が高まる
すでに借金まみれの日本が、こうやってばらまきを拡大した結果、国債を乱発して借金を増し続けると、デフォルト(債務不履行)が起こる可能性が高まる。そうなれば大量に国債を抱えている金融機関は破綻せざるを得ないだろうし、ひいては金融危機が発生する。この危険性については、私が前々から指摘していることである。
下記のグラフを見れば明らかなように、国民は直接国債を買っていないので、自分たちがデフォルトの危機にさらされる、という認識があまりない。しかし、日本ではどのような金融商品を買っても、それが生保であっても、定期預金であっても、郵貯であっても、みな裏で国債を買っているので、イザとなれば危険分散はまったくないことになる。外国の金融機関は日本国債を買わないが、それでも40兆円余りを抱えているので、これが一斉に売りに出れば、国債暴落のトリガーとなることはあり得る。
民主党の公約は当てにならない
各種ばらまきについては民主党のマニフェスト(政権公約)にも記載されていたことなので、選んだ国民にも責任の一端はある。しかし、マニフェストとはまったく反対の方向に進もうとする例もある。ガソリン税など暫定税率維持の件だ。
もともとガソリン税は「暫定税率」として設定されていた。自民党政権時代、民主党はこの税率を暫定から元に戻して引き下げろと批判し続けてきた。正論である。「道路整備のための暫定税率」という言葉にもかかわらず、いつまでも終わらなかったのだから。
ところが昨年の末、鳩山由紀夫首相はガソリン税など暫定税率を事実上維持することについて国民の理解が得られた、という認識を示した。これは暫定税率を維持することを意味する。しかし政権を取る前は、あれほど撤廃すると意気込んでいたのに、政権を取った途端にまったく反対の意見を言う。まさに民主党の不誠実さを国民の目にさらした例と言えるだろう。
民主党に問いたい。わずか半年前の国会で、あなたたちは何と言って自民党を批判したのか、と。もし鳩山首相の言う通り、「国民の意見は暫定税率維持」だとするなら、半年前の議論は何だったのか。当時の暫定税率廃止の主張は、国民の理解とは反対の提案として行われたものなのか。国民の理解を得られない主張を頑強に続けたというのか。メディアはこの矛盾した態度をもっと批判すべきだろう。
民主党が道理をわきまえているなら、ガソリン税の暫定税率はいったん廃止すべきである。財源が必要であれば、別の論理で税金をかければいい。社会の動向から見て、ガソリンの適正な税率を考えればいいのだ。ガソリンが安ければ自動車の利用率が高まり、二酸化炭素の排出量が増える。逆に高ければ、その排出量を抑えられる。そういう議論のもとに、環境という観点からガソリンの税率を設定し直せばいい。
自民党の利権をすべて奪うことを目論む小沢幹事長
民主党のお金のばらまきぶりを見るかぎり、日本が「福祉大国への道」を進もうとしているように受け取れるかもしれない。しかし本当に民主党は、日本を北欧のような社会保障の充実した福祉大国にしたいと考えているのだろうか。
私の見解は「そうは思えない」である。民主党を牛耳り、鳩山首相さえも動かしている小沢一郎幹事長の動きを見ると、彼は国家をどちらの方向に進ませるかという大局には目を向けず、伝統的に自民党の利権であったものをいかにして手に入れるかに腐心しているように思える。
これは、かつての田中角栄首相を思い出すと分かりやすいだろう。田中氏は、自民党の利権政治を構築した人物だ。そして自民党は長年にわたって、さまざまな利権を独占してきた。中国利権は、田中派を受け継いだ竹下派が独り占めしていた。台湾利権は、同じ竹下派に属する、当時田中氏の配下にあった金丸氏が押さえていた。北朝鮮利権も同じく金丸派である。
こうした自民党が持っている利権を、根こそぎ奪い取ろうというのが小沢幹事長の思惑であろう。自民党をぐうの音も出ない状況に追い込むのが目論見なのだ。小沢幹事長の動きを「利権を奪う」という観点から見直すと、彼がしようとしていることが非常にわかりやすくなる。
例えば、台湾ロビー。これは台湾政府とつながりを持つ政治家グループのことだが、これまでは自民党と民主党の議員団で構成されていた。ところが、これからは民主党の政治家だけでやるという。自民党が独占していたために民主党は台湾利権に弱かったわけだが、台湾ロビーから自民党を追い出すことで、その利権を民主党に切り替えていこうという策略が見て取れる。中国への大訪中団も同様だ。中国利権はまさに田中氏が基盤を作り、竹下登首相から橋本龍太郎首相へと受け渡されてきた大きな利権だ。小沢幹事長はこれを奪う考えなのだ。
国家ビジョンのない小沢氏が牛耳る日本の政治
その狙いは民主党の長期政権化であろう。自民党があれだけ長い期間政権を維持できたのは、日本的な利権構造があればこそである。だから小沢幹事長は自民党の利権を何が何でも奪おうとする。奪えないものには、陳情を独占することによって予算を付けずにつぶしてしまう。こうして自民党の力を弱め、民主党の基盤を強くする。
この思考パターンを把握しておけば、小沢幹事長のやろうとしていることが極めて明確に見えてくる。要するに「田中角栄の染色体が入っている人がどういう発想をするのか」という視点で、彼の動きを分析すればいいのだ。ゼネコン利権に関してはまさに「越山会」が「陸山会」になっただけ、と考えれば分かりやすい。
業界団体も民主党に寄らないかぎり予算を付けてもらえない。陳情すら受け付けてもらえない。今は自民党寄りの業界団体も、いずれは民主党に近づかざるを得なくなる。その影響を見事に受けているのが、自民党の議員たちだ。7月の参議院選挙前に自民党議員の離党が続いている。これまでは業界団体の代表といった人々が参院議員になることが多かった。ところが小沢査定が厳しいので、今の状況ではやっていけない。そこで自民党から離れていっている。この点では小沢査定が成功していると言える。
しかし、小沢氏に欠けているのは、「この国をどういう国家にしたいのか」というビジョンだ。それがない状態で国家を牛耳られる今の状況の危険性を強く指摘しておきたい。田中氏の運命と同じく、ここでもまた政権政党の自浄能力や野党・国会ではなく、検察が独裁利権政治家に終止符を打つのだろうか?