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いやはやびっくりした。
石川知裕衆院議員が東京地検特捜部に逮捕されたことでも、民主党の小沢一郎幹事長が続投を宣言したことでもない。
現役の国会議員が逮捕されるのは(むろんあってはならないが)、議員も神ならぬ人間である以上、たまには不心得者も出る。
小沢幹事長の「続投宣言」も小沢氏の年来の政治手法からいって驚くに値しない。
ここで幹事長職を辞すれば、事実上、罪を認めたと世間が受け取るのは間違いない。師と仰いできた田中角栄元首相と庇護(ひご)者であった金丸信元自民党副総裁をお縄にした宿敵の東京地検特捜部に膝(ひざ)を屈するのは彼にとって屈辱以外なにものでもない。
これまで営々として築いてきた「小沢神話」は一夜にしてかき消え、民主党の若手議員が称賛してやまない「小沢王国」が崩壊しかねないと判断したのだろう。
鳩山由紀夫首相が傷ついた幹事長を励まし、続投を容認したのも当然といえば、当然である。
昨年3月、西松事件で小沢氏の公設第1秘書が逮捕され、5月に小沢氏が代表を辞任。直後の代表選で、鳩山氏が世論調査の好感度でリードを許していた岡田克也氏に勝利した経緯を思い起こしてみれば、よくわかる。
「選挙のプロ」ぞろいの小沢軍団の支持なしには、鳩山氏の勝利はなく、むろん鳩山政権誕生もあり得なかった。
一般に鳩山政権は、政府(鳩山首相)と党(小沢幹事長)が対等に近い力をもっている「二重権力」構造といわれるが、そうではない。鳩山政権の実態は、党と国会を掌握している小沢氏が実権を握る「小沢政権」であり、鳩山氏は表紙にすぎない。
マニフェスト(政権公約)通り、ガソリン税などの暫定税率を廃止しようとした藤井裕久前財務相の辞任劇が鳩山政権の現実を象徴している。辞任の理由は表向き「健康問題」だが、関係者によると、昨年末、小沢氏の主張通りに暫定税率維持が決まった直後に財務相は辞意を首相に伝えている。
鳩山政権を懸命に支えていた藤井氏が閣外に去ったいま、首相はますます小沢氏に頼らざるを得ないのだ。もし鳩山政権が「二重権力」構造なら、小沢氏の威信が落ちた機に乗じて、権力を一元化するため幹事長を交代させる人事を断行するはずだが、まったく念頭になかったようだ。
首相が幹事長に「どうぞ戦ってください」と三権の長としておよそ非常識な発言をしても恥じないのは、「表紙」としてそれ以上のことを言えないからである。
では、何にびっくりしたのか。民主党の国会議員たちのあまりの腰抜けぶりに、である。
党幹事長の秘書と元秘書2人が相次いで逮捕された事態は、誰がどう考えても異常である。オフレコで聞けば、「小沢さんは辞めるべきだ」「鳩山さんはもっとしっかりしてほしい」と語る民主党議員は結構いる。しかし、実名でのコメントを求めると、「それは勘弁してほしい」となる。16日の党大会でも批判ひとつ出なかった。
「検察ファッショだ」と思うのであれば、新党大地の鈴木宗男代表が「検察の行動に二・二六事件の青年将校たちの横暴のようなものを感じる」と痛烈に批判したように、堂々と異議を唱えればよい。そうでもなく、「ノーコメント」と逃げまわる議員がほとんどなのである。日ごろは威勢のいいことをテレビで吠(ほ)えている若手・中堅議員ほど口をつぐんでいる。
そんなに小沢一郎という政治家が怖いのか。渡部恒三元衆院副議長は「戦前の大政翼賛会のようだ」と嘆くが、その通りだ。いざというときに物言えぬ政治家に、とても国政は任せられない。