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http://www.iwakamiyasumi.com/column/politics/item_219.html
「一つの問題(普天間問題)より、ずっと大きな(日米)同盟」1
2010-01-14 (Thu) 03:35 政治
今、一服しているかのように見えるが、普天間の飛行場移設問題をめぐって、鳩山政権に対する大手メディアの逆風は、すさまじいものだった。
いずれも、論調は同じようなものである。米国はこれまで通りの日米合意案の履行を求めて、強硬な態度を崩さず、合意案を見直そうとする鳩山政権のせいで、日米同盟関係に取り返しのつかない亀裂が入ってしまった、というものだ。ほぼ、非難一色である。
こうした論調に対して、機会あるごとに、私は、疑問を呈してきた。
どう考えても、常識的に不自然だからである。
本当に、米国は、怒っているのか? これは外交交渉である。交渉にブラフ(脅し)は、つきものだ。米国側に、譲歩の余地は、本当にないのか?
米国は、世界中に戦略的な利害をもち、アフガニスタンとイラクの二か所で、現に戦争を遂行中の国家である。はるか後方の、同盟国内の基地の移設問題で、自分の言い分通りにならなかったからと言って、貴重な同盟関係を、そう簡単に破棄するだろうか? 物事には、大小優劣の順位というものがあるだろう。
また、日本の新聞・テレビなど、大手マスメディアは、なぜ、米国の主張や意向に、過剰なまでに寄り添う報道・論評ばかりなのか?
日本のメディアなら、日本の国益、あるいは日本国民(とりわけ基地負担の重さにで苦しむ沖縄県民)の利害に、配慮した報道をすべきなのに、一番にご機嫌をうかがっているのは、米国の顔色である。
しかも、それを、おおげさに誇張し、増幅して伝えていないか?
たとえば、ルース駐日大使と岡田外相が会談した際、ルース大使が、顔を真っ赤にして大声を上げた、と報じられた「事件」があったが、これは当の岡田外相が、「誰かが見てきたような事を書いていますけども、全くの創作であります」と、きっぱり否定している。
あるいは、藤崎駐米大使が、クリントン国務長官に、「異例の呼び出し」を受けた、とされた「事件」。メディアはこぞって、米国側の「怒り」に触れたのだと大騒ぎしたが、これも、あっさり国務省側に否定されている。「呼び出し」たのではない、「立ち寄ったのだ」と。
はっきり言いきろう。
米国側は、普天間問題で、日米同盟関係を破棄しようなどとは思っていない。いつか、米国が、日本を必要としなくなる日が来る可能性はある。だが、それは、東アジアにおける覇権争いに、米国が中国との間で決着がついたときであって(覇権をもつのは米国か、中国か、あるいは両国による分割統治か、それはわからないが)、基地の引っ越し程度のことでは、同盟関係が破棄わけはない。
もうひとつは、大手マスメディアの目を覆うばかりの情報操作である。根底にあるのは、重要な情報源にアクセスできる権利は、自分たち、大手メディアだけであり、自分たちの報じ方一つで、世論はどうにでも左右できるという驕り、過信である。
かつては、大手新聞や通信社の外信部は、特権的なエリートであって、彼らが海の向こうから打電してくる情報を、一般国民は鵜呑みにするしかなかった。
だが、このグローバル化時代である。この3、4カ月の間に、何万人もの人間が実際に米国に渡航し、現地の空気を肌で感じてきている。また、現地に足を運ばなくても、知り合いが住んでいたり、当地のニュースが日本国内にいながらにして、いくらでも手に入る。
米国のマスコミが、この間、報じてきたのは、イラク問題であり、国内の医療保険制度をめぐる問題であり、タイガー・ウッズの浮気騒動であって、ほとんどの米国民は普天間問題そのものを知らない。
米国に関して、注意しなくてはいけないのは、世論の爆発的な怒りを買うことである。その点では、80年代の日米貿易摩擦のときの方が比べ物にならないほど、フリクションが大きかった。
それでも、日米安保も、日米関係も、揺らぐことはなかった。日米関係は、利害の衝突や摩擦を抱えながらも、経済的にも、軍事的にも、深く結び付き、そう簡単には、縁が切れるというものではないからだ。
米国側は、ブラフも含めて、タフな交渉を仕掛けてはくるが、死活的な利害については感情的になって投げ出したりはしない。
同時に、マスメディアは、国内の記者クラブ制度の感覚で、自分たちが情報を独占し、加工し、世論を導けるのだと奢るのは、いい加減にした方がいい。
自分たちが、あらかじめ結論を出し、その方向性に沿って記事をつくり、誘導してゆく手法や姿勢は、もう現代の一般国民には見透かされている。
こうした見方を裏付ける、ふたつの「事件」を、取り上げてみる。「事件」と呼ぶには、小さな、ささやかな出来事なのだが。
ひとつは、1月7日付のニューヨークタイムズに掲載された、ジョセフ・ナイ元国防次官補の寄稿した論文である。
タイトルは、「An Alliance Lajer Than One Issue」、すなわち、「一つの問題(普天間問題)より、ずっと大きな同盟」。
このタイトルが、もうすでにすべてを物語っているが、つづめていってしまえば、「普天間の問題なんて、日米同盟の重要性に比べればちっぽけな問題で、米国政府はこの問題で、強硬に自己主張するのは得策ではない」というものだ。
ナイは、知日派として知られ、米国の東アジア戦略の構築に深くかかわり、リチャード・アーミテージらとともに、対日同盟の戦略文書である「アーミテージ・ナイ・リポート」をまとめた。
このナイの論文が発表されたのが、岡田外相とクリントン国務長官の、ハワイでの外相会談の直前だったため、米国側が、これまでの「強硬姿勢」を見直すシグナルではないかと思われた。
やはりというべきか、今朝(1月13日)の産経新聞の朝刊が、AFP伝を伝えている。それによれば、クリントン長官は、ハワイでの会談に臨む直前の11日、「日米同盟の重要性を再確認することが、今回の会談の主要目的である」として、「いかなる1つの特定の問題より、ずっと大きなものだ」と、カリフォルニア州の空軍基地で記者団に語った、という。
このクリントン長官のセリフ、驚くべきことに、4日前に発表されたナイ論文のタイトルそのままである。米国政権内部に、対日戦略についてのコンセンサスが形成されていることがはっきりと見て取れる。
だが、このAFP伝を伝えた産経の記事の中には、「特定の問題」が「普天間」を指すとは書かれていないし、これがナイ論文のタイトルであることも、そもそもそうした重要な論文が発表されたことにもふれていない。産経新聞だけではない、他の主要な新聞、テレビニュースでも、こうした重要なエピソードは伝えられていない。
産経新聞が、なぜか自前の報道ではなく、AFPのニュースなどを引用しなければ、一般の読者にこのクリントン長官のスピーチは、届かなかっただろう。
こんな、不思議な政治情報空間の中にで、我々は日々、呼吸しているのだということは、知っておいた方がいい。
(続く)