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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20091225-02-0901.html
アメリカは本当に怒っているのか・普天間移転問題で抜け落ちている論点
2009年12月25日 ビデオニュース・ドットコム
伊波洋一市長
東京(12月11日) − 普天間基地の移設をめぐり日米関係に大きな亀裂が入り始めてことが連日報じられている。メディアによって多少の温度差はあるものの、概ね、前政権下で日米両国が辺野古沖への移設で合意したはずの問題を、県外移設や日米合意の見直しを公約して民主党が政権の座に就いたため、新内閣は米国との約束と選挙公約との板挟みになり身動きがとれなくなっている間に、米国は日本を見放し始めているという話のようだ。
確かに、政権交代はあくまで国内の問題であり、法律上の「事情変更」には当たらない以上、それを理由に外国政府との約束事を反故にすることは、国際慣行上も容認されないことは確かだ。
しかし、今週、普天間基地を擁する宜野湾市の伊波洋一市長が岡田外相に指摘した事実は、事情変更を考慮するに十分足り得る問題と言えるかもしれない。
伊波市長は、アメリカが06年の日米合意以降、沖縄の海兵隊の兵力の大部分をグアムに移転する計画を進めており、そもそも日本政府が説明しているような、米海兵隊の実働部隊が沖縄に残るという前提は既に崩れていることを示すために、裏付けとなるアメリカ政府の公文書持参で岡田外相を訪ねている。
伊波氏によると、アメリカは06年7月に発表された「グアム統合軍事開発計画」に沿って、沖縄に駐在する海兵隊員を丸ごとグアムへ移設する計画を遂行している最中であり、それが完了すれば現在日本政府が辺野古に代替施設が必要な理由として説明している「沖縄には実戦部隊が残る」余地は無いという。伊波氏はまた、アメリカ政府は「グアム統合軍事開発計画」に則ってグアムで進められている基地建設計画のために11月20日に8100ページからなる環境影響報告書を提出しているが、そこでは沖縄からの海兵隊移転の詳細として、海兵隊へリ部隊だけでなく、地上戦闘部隊や迫撃砲部隊、補給部隊という沖縄の主要な部隊がグアムに移動することになっていると指摘する。
「そもそもアメリカは本当に新しい海兵隊用の基地を必要としているのかが疑問。にもかかわらず、ここまで無理してどうしても辺野古に基地を建設しなければならない意味が本当にあるのか。」
伊波氏はそう問いかける。
海兵隊基地の辺野古への移設を謳った現行案には、広く議論されていない大きな問題が、もう一つある。
それは、アメリカのサンフランシスコ連邦地裁が2008年、辺野古への海兵隊の基地移設に対して、絶滅危惧種ジュゴンの保護策が確保されていないことなどを理由に、違法の判断を下していることだ。この違法判決は、連邦政府に対して、ジュゴン保護を含む環境対策の拡充を求めるもので、直ちに基地の建設自体を禁じるものではないが、環境保護対策が不十分と見なされた場合は、基地建設そのものが法律的に不可能になる可能性もある。
実際にアメリカが普天間に代わる代替基地を沖縄に置くことを必要としているのか、また仮に鳩山政権が決断を下し、辺野古沖への基地建設に踏み切ったとしても、連邦地裁判決が求める措置が十分に執られない場合は、建設そのものの許可が出ない可能性もあるのだ。
今週のニュースコメンタリーでは、なぜ、こうした情報が十分共有されないまま、日米交渉やそれを取り巻くメディア報道が進んで行くのか、普天間基地が辺野古に移転することを本当に望んでいるのは誰なのかなどを、議論した。
誰が普天間基地の辺野古移設を望んでいるのか
神保(ジャーナリスト): 普天間基地移設問題については、とりあえず結論を出すのは先送りということで、COP15が開催されているコペンハーゲンでも鳩山首相とオバマ大統領による首脳会談は行われないということもあり、しばらくこの問題は引きずることになりそうだと言われています。その一方で、あまり報じられていない重要な視点があります。
それは、普天間基地を擁する宜野湾市の伊波市長が最近になって目立って主張していることですが、実は、そもそもアメリカは辺野古に建設が予定されている代替基地をそれほど必要としてはいないのではないかということです。
伊波市長によると、06年5月の日米合意以降、アメリカは単に司令部だけではなくて、事実上沖縄の海兵隊をほぼ丸々グアムに移転することを決めているというのです。これは彼の推測ではなく、06年7月に出されたグアム統合軍事開発計画やその計画に則って進められている基地建設計画の環境影響報告書に明記されていることだというのです。
では、なぜアメリカにとって不要な基地を辺野古に残しておくことになったのかと言うと、いろいろな話を総合すると、どうも日本政府の方が沖縄に海兵隊の基地を残しておいて欲しかったのではないかということなんです。
もともとアメリカとしては普天間基地は住宅密集地に近く危ないということもあり、米軍再編計画の中でグアムに海兵隊を移動させて、そこを太平洋、つまりオーストラリアから極東までをカバーするフロントラインにしたいということらしいのです。これは、軍事評論家の評価を聞く必要がありますが、そもそも揚陸艦がグアムにしかないので、沖縄に海兵隊を置いておくことにそれほど重要性はないということです。そのような米軍再編計画が持ち上がる中で、当時自民党の経世会主導だった日本政府としては大規模な公共事業として辺野古への移設をやりたかったというのが辺野古への移設を日本側が望んだ理由の一つです。
また、国防上の観点からも、日本政府は日本にアメリカの海兵隊が一定数残っていることにしておいて欲しいと考えていたようです。作戦上の秘密でもあるので、移転する人数を何人単位まで正確な数として公表しなければならないというわけではありませんから、一応この先もアメリカ軍の海兵隊は一部が日本に残り、その空港やヘリポートも沖縄にあるという形にしておきたいと。このような理由による前政権下での合意は、政権交代によってがらりと事情が変わるということになり、まさしく政権交代の意味が問われることになります。マル激でいつも議論している外交における「事情変更」の法則はこのような場合どうなるのでしょうか。
宮台(社会学者): 伊波市長が仰っていることは初耳でしたので、驚きました。市長の主張を裏付ける文書があるということなので、この話はおそらく本当だとすると、基本的にはアメリカの事情も変わったということですね。日本の事情も変わった、アメリカの事情も変わった、ということで再交渉の余地があるということです。
ただ、アメリカの方は事情変更というか、もともと、海兵隊のほぼ全体を家族もろともグアムに移すという計画を実行しようとしているのであれば、普天間の基地を辺野古に移設するという現行の計画の意味がよくわからないですね。もともと05年の合意ではグアムに移転する話が出ていなかったので普天間基地を辺野古あるいはそのほかの場所に移転するということでしたが、その後06年の合意でグアムに丸ごと移転するということで決着したのなら、アメリカの計画にとって不要な辺野古移設の話がどうして生き残ってしまったのでしょうか。
神保: もちろんアメリカとしては、辺野古に基地があっても別に困りはしないわけです。もしかしたら有事の際には使えるかもしれないし、日本が費用を負担するというなら断る理由はないでしょう。そう考えると、日本が居てくれと頼んだからという先ほどの理由も納得がいきます。もしかすると密約か何かで、実際は海兵隊はグアムに引き上げるけれどもデータ上は日本に残っているということにしておきますなどという話もあるかもしれない。そもそもそのようなデータを公表する必要もないですし。
そうすると、今回アメリカが日本側に早く決定してくれと言っている主な理由は、実はアメリカの軍事作戦に重大な支障をきたすからというよりも、「あなた達が辺野古に作りたいと言ってきたからそれに同意したのに、今度は辺野古には作らないとはどういうことだ」という文脈で怒っているだけだと理解できなくもないのです。
このように話を整理すると、どうも政権交代以降の普天間基地移設をめぐる問題は重要な視点を欠いたまま意図的に設定されたシナリオに沿って進んでいるように見えます。僕は少し前に鳥取県の米子市に行ってきたのですが、日本海側ということもあって、中国、朝鮮半島が近い場所です。そうすると、隠岐の島の上空を中国軍機が平気で最近飛ぶそうです。アメリカの影響力が低下すればするほど、中国の影響力が増してくる現実が実際にあり、軍事大国を目指すということではないですが、日本独自の視点で軍事費の使い方の中身を含めて戦略的な思考が要求されるのではないでしょうか。
そういう意味でも、伊波市長の仰っていることは今後の日米交渉の行方を左右しかねない重要な事項であり、かつ伊波市長の入手した情報はウェブ上で公開されている文書によるものであるにもかかわらず、岡田外務大臣は今日の会見で、その文書を見ておらず伊波市長と外務省の認識は異なる、と言っています。それほどの重要な、しかも公開されている資料を、記者会見の場で堂々と、自分は見ていないと言えてしまうことにも問題がありすね。
宮台: そうですね。外務省の役人は当然この米軍の資料があることは知っているはずです。それがどうして政治家にあがってこないのでしょうか。
神保: これはやや荒っぽい推測になってしまいますが、外務省も米軍には日本から引き上げて欲しくないのではないでしょうか。外務省は外交が仕事ですから、沖縄に基地が集中していて、沖縄県民に負担を強いている現状を、必ずしも問題だとは考えないでしょう。あくまで外交上の立場からは、アメリカの核、軍事力の傘の下にいる状態が日本としてはもっとも安全で心地よいということになるのでしょう。
政治主導と言っても、実際はまだこういうところで、役人の手の平の上で政治家が踊らされているような面もあるのかもしれません。こうなると巷間言われている交渉の場面が、どうも意図的に設定されているように思えてなりません。
ジュゴン訴訟を単なる環境問題に矮小化する日本
神保: 普天間絡みでもう1つ重要な点はジュゴン問題です。沖縄の辺野古沖はジュゴンの生息地として知られているのですが、アメリカで今ジュゴン訴訟なる裁判が行われていて、2008年の1月24日にサンフランシスコ連邦地裁で判決が出ています。これはどういう判決かというとアメリカ国防総省が辺野古に代替施設を建設するにあたり、ジュゴンへの影響などを評価、検討していないことがNHPAというアメリカの文化財保護法に違反するというのです。確かに、この判決自体に基地建設を差止める法的効力はありませんが、環境への影響調査がNHPAの基準を満たさなければ、基地が建設できないという結果が地裁判決レベルですが出ているので、現状のままで辺野古に基地を建てることは違法となり、基地を建てることはできません。昨年の判決以降、国防総省はいやいやながらも環境影響調査を実施しているのですが、原告側が不十分であると主張しており、まだ最終決定が出ていません。
これは、鳩山政権でさんざん悩んでいざ辺野古に基地を作るという結論になったとしても、アメリカ側の事情で作れない可能性もあるということを意味しており、決して単なる環境訴訟だからと言って甘くみていい話ではありません。実際にアメリカでは軍の潜水艦が敵艦を察知するために出すアクティブソナーがイルカや鯨の生態系に悪影響を及ぼすことを理由に、指定された海域での使用を禁止するという判決が出たこともあります。最終的には最高裁で逆転判決が出てしまいましたが、環境問題に対するアメリカの関心は高く、裁判所もたとえ訴えられているのがアメリカ軍であっても容赦はしないということは覚えておいた方がいいでしょう。これについても岡田外務大臣は8日の記者会見で、「ジュゴン裁判があることは承知をしております。ただまだ結論が出たわけではありませんので、訴訟の最中ですから、コメントは控えたいと思います。」と言うだけで、あまり日本政府として注視している姿勢を感じません。
宮台: ジュゴン訴訟についてもそうですが、伊波市長の言っていることの意味をなぜ大手メディアは大々的に伝えていないのでしょうか。
神保: 伊波市長の主張に関しては、あまりにも今までの前提と違いすぎるので、あわてて調べ始めたところかもしれません。
ジュゴン訴訟についていうと、これは記者クラブ問題の一環です。基地の問題は防衛省記者クラブか、霞クラブしか書きません。ジュゴン訴訟を書くのはいわゆる「暮らし」欄の記者ということになるのでしょうが、その人たちはジュゴン訴訟について基地に絡めて記事を書くというようなことはできません。これに関連して言うと、対人地雷の非人道性や残虐性に対する国際的な関心が高まり、対人地雷禁止条約締結の機運が高まった時にも同じような現象が見られました。対人地雷というと日本では武器としての有用性という観点からの防衛庁記者クラブ経由の報道しか出ませんでしたから。
プロフィール
神保 哲生(じんぼう・てつお)
ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。15歳で渡米、コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て93年に独立。テレビ朝日『ニュースステーション』などに所属した後、99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。著書に『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』、『ビデオジャーナリズム―カメラを持って世界に飛び出そう』、『ツバル−温暖化に沈む国』、『地雷リポート』など。専門は地球環境、開発経済、メディア倫理。
宮台 真司(みやだい・しんじ)
首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。博士論文は『権力の予期理論』。著書に『民主主義が一度もなかった国・日本』、『日本の難点』、『14歳からの社会学』、『制服少女たちの選択』など。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。