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転載者注:私はアゴラ主催者池田信夫氏には組するものではないが、この論説自体は真っ当だと思ったので、転載する。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」的な思考は、なるべくしたくない。<対立陣営側の論説であっても、傾聴に値するものは高く評価したい。
http://agora-web.jp/archives/849089.html
天皇陛下の特例会見騒動に思う - 北村隆司
「特例会見は宮内庁の1ヶ月ルールの慣行に違反し、天皇の政治利用に当たる懸念がある」と言う趣旨の羽毛田宮内庁長官の記者会見説明には正直仰天しました。
天皇の憲法上の地位を定めた、日本国憲法第1章天皇,第3条には「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」と記述され、全ての国事行為は内閣の責任の下に行うと明記されているからです。
宮内庁法を覗いて見ますと、第一条で「内閣府に、内閣総理大臣の管理に属する機関として、宮内庁を置く。」と定め、その2で「宮内庁は、皇室関係の国家事務及び政令で定める天皇の国事に関する行為に係る事務をつかさどり、御璽国璽を保管する。」として宮内庁は事務を司る官庁である事を明記しています。更に、第八条の4で「長官は、宮内庁の所掌事務について、内閣総理大臣に対し、案をそなえて、内閣府令を発することを求めることができる。」と定めて居ますが「1ヶ月ルール」を内閣総理大臣に提案して内閣府令を発した形跡は認められません。
羽毛田発言に、轟々たる非難が起こるかと思いきや、朝、毎、読,日経、産経各紙の社説は、非難どころか異口同音に羽毛田発言擁護一色でした。擁護論の論拠を探して見ましたが、客観的論拠を示した論説は北海道新聞だけでした。マスコミの「官僚信仰の厚さ」が強く印象に残ると共に、永年に亘る官僚の情報操作の根の深さを痛感しました。
ところで、この件についての各紙の記事を読み漁っているうちに、下記のような小沢幹事長の記者会見の記事が私の目にとまりました。
「30日ルールって誰が作ったの。知らないんだろ、君は。法律で決まっているわけでもなんでもないでしょ、そんなもの。それはそれとして、君は日本国憲法を読んでいるか。天皇の行為は何て書いてある。国事行為は、内閣の助言と承認で行われるんだよ。天皇陛下の行為は、国民が選んだ内閣の助言と承認で行われるんだよ。だから、何とかという宮内庁の役人がどうだこうだ言ったそうだけれども、全く日本国憲法、民主主義というものを理解していない人間の発言としか思えない。しかも、政府の一部局の一役人が、内閣の方針、内閣の決定したことについて記者会見して、方針をどうだこうだと言うのは、日本国憲法の精神、理念を理解していない。もしどうしても反対なら、辞表を提出した後に言うべきだ。当たり前でしょう。役人だもん。だからマスコミがそういうところを全然理解せずに、役人の言う通りの発言を報道ばっかりしていてはいけません。ちゃんとよく憲法を読んで。そして、天皇陛下のお体がすぐれないと、体調がすぐれないというのならば、それよりも優位性の低い行事を、お休みになればいいことじゃないですか。そうでしょ、わかった?
――1か月ルールというのは、なくてもいいものだと?
なくてもいいものじゃない。それ、誰が作ったか調べてからもう一度質問しなさい。私は、何でもかんでもいいと言っているんじゃないんだよ。宮内庁の役人が作ったから、金科玉条で絶対だなんて、そんなばかな話あるかっていうことなんですよ。わかった?」
私は決して小沢ファンではありません。小沢氏の強引で威圧的、そして横柄な態度や言葉使いは、民主政治家のイメージには程遠く、国民新党の亀井氏同様、古い自民党的体質はとても好きになれません。先進国には見られないこの横柄さは、小沢氏が如何に正論を述べても、諸外国からは反感を買う恐れが大です。しかし、今回のことに関しては、小沢氏の言っていることは極めてまともであり、この記者会見で、まるで親に諭されている不勉強な子供のようだった記者諸君の姿は、何とも情けない限りでした。
国の大小や政治的影響力に関係なく「1ヶ月ルール」に従い申し込み順に面会を許すのが国際親善のあり方だと言う羽毛田長官の外交論は、越権発言であるだけでなく笑止千万の愚論としか言えません。
常日頃は、「政局に天皇を利用してはならない」と考えている私ですが、この騒動を機会に、天皇の政治利用や国事行為のあり方など憲法問題を中心に議論を深める事は大変意義あることだと思っています。憲法論とは別に、この時期に習副主席との会見を設定した事の是非を巡って論議することも、多いに歓迎すべきですが、「1ヶ月ルールの違反」を口実にする稚拙な論議は意味がありません。
一方、『憲法第1章第7条に規定されている外国大使、公使の接受は国事行為だが、憲法上具体的規定のない天皇の行為は「公的行為」に属し、これには「内閣の助言と承認」を必要としない。「国政に影響を及ぼさないこと」と「天皇の意思」が重要である。』という共産党の志位委員長の主張は、小沢幹事長以外では唯一客観的論拠を示した論議でした。委員長の主張する所謂「国事行為と公的行為の分類論」は、これまであまり深く論議されて来ませんでしたが、今後の命題の一つでしょう。
(尤も、私自身は、『「国政に関する権能を有しない」と規定された天皇陛下が、日本国元首として大使の上位者と面会することは憲法上の規定が無いから、「国事」ではなく「公的行為」に当る』と言う志位委員長の解釈には賛成できません。)
さて、問題は羽毛田長官です。今回の彼の発言は、「国民の中国に対する微妙な感情」までを計算に入れた「売名行為」だと断ずる私には、彼の自己顕示欲と権力欲の異常さは、専門家に診て貰った方が良いのではと思われる程です。これまでにも、彼の記者会見には、「自分が作った基準で天皇家の言動をある意味牛耳りたい」という気持ちが見え隠れしているように思うのは私だけでしょうか?
「 愛子さまの兩陛下訪問が増えていない」発言で皇太子殿下を非難したり、「皇室典範に関する有識者会議」の結論について口を出したり、更に今年の9月には、新内閣が発足するに際してわざわざ記者会見を開き、「皇位継承の問題があることを(新内閣に)伝え、対処していただく必要がある」等と、分際を弁えない発言をしています。この際、羽毛田長官の適格性と宮内庁のあり方を、徹底的に追求すべきでしょう。
幹部クラスの殆どが厚生省や外務省の天下りと渡りで占められた52人の特別職と、987人の一般職からなる宮内庁の実態は、厚い菊のカーテンに守られ、皆目見等がつきません。最新の概算要求書を見ると、58億8千万円の皇室費(前年比22億円減)、109億8千万円(前年比69百万円の増額)の宮内庁費を要求しています。皇室施設の修繕費は減額しているのに、膨大な間接費である人件費には手を付けていないところは、典型的な「官僚優先予算」としか思えません。
日本に比べると遥かに大規模な英国の宮内庁でさえ、1200人のスタッフで運営されています。欧州では最も保守的と言われる英国王室ですが、バッキンガム宮殿を始めとする王室の施設は公開されており、王室一家は出来るだけ国民との接触を深めています。
それに比べ、宮内庁に幽閉された日本の天皇御一家の姿は、お気の毒に思えてなりません。一般家庭から皇室入りして、宮内庁の掟に苦しめられてきた皇后陛下や、皇太子妃殿下のお気持ちを察すると、皇族方がもう少し人間的に喜怒哀楽を自由に表現できる環境を整えて差し上げる事も、国民の義務ではないでしょうか?
この閉鎖性を打破し、管理費が皇室費の2倍も掛かる宮内庁の非効率を打ち破る為にも、宮内庁を次回の事業仕分けの対象として透明化する事が、国民や天皇ご一家にとって喫緊の課題だと感じたここ数日でした。
ニューヨークにて 北村隆司
[参考〕
http://profile.livedoor.com/kitamurany/
自己紹介
北村隆司
早稲田大学 政治経済学部を卒業、伊藤忠商事(株)東京本社に入社。2度の駐在で24年間 伊藤忠アメリカ ニューヨーク本社に勤務。(この間、Harvard UniversityのAdvanced Management Programを修了。)
1986年には Senior Vice Presidentに就任。
1984 年にエンプロテック社を創設し、伊藤忠アメリカの機械部門の業務を、商品の売買を中心とする伝統的な日本商社のビジネスから、テクノロジーとシステムエンジニアリングを中核とし、財務と税務の知識を駆使した、新しいビジネスへと一変させ、結果として、従業員3人で出発したエンプロテック社は、1995年末には約1500人の従業員を擁する会社へと発展した。1995年に伊藤忠商事を退社後も引き続きニューヨークに居住し、幾つかののスタートアップ事業や、慈善事業団体の役員を務める。