鳩山政権が来年度予算で、14億円強の「官房機密費」を要求している。自民党政権時代と同額の予算を概算要求に盛り込んだというのだが、「ちょっと待て」だ。その前に片付けるべき重大な疑惑がウヤムヤになっている。麻生官邸の機密費“持ち逃げ”疑惑だ。 発覚したのは、先月20日。麻生政権はあろうことか、歴史的な総選挙の2日後(9月1日)に、機密費2億5000万円を国庫から引き出していたのである。 現政府が公表した歴代政権の機密費の支出状況によると、01年4月から09年10月まで、毎月ほぼ1億円、年間12億円が時の政権によって引き出されてきた。この使途も怪しいものだが、麻生官邸は政権交代のドサクサに紛れて、通常の倍以上の額をかっさらっていったのである。 一体、麻生らはこの金を何に使ったのか。機密費“持ち逃げ”疑惑を国会で追及した共産党の塩川鉄也衆院議員は「麻生内閣が総選挙につぎ込んだ費用の後払いではないか」と指摘した。誰の目にもそう映る。●“土産代”が必要だった不人気麻生 実際、選挙前には永田町でこんな話がささやかれていた。 「疫病神扱いの麻生首相は、同僚議員にも応援を敬遠されていました。ただ、選挙中に党の総裁が引きこもっていると体裁が悪い。で、麻生サイドが“お土産を持っていくから”と、応援遊説をねじ込んだ、と言われたのです」(政界関係者) “お土産”イコール実弾だ。官房機密費は、その穴埋めじゃねえか、というわけだ。 これが事実ならば、聞き捨てならないが、平野官房長官は「河村前長官に聞いて欲しい」と言うだけ。その河村は「政権にある立場でないから、答える立場にない」とすっとぼけた。国民にすれば「フザケルナ!」である。 塩川議員の言うように、選挙に使われていたとしたら大問題だ。九大名誉教授の斎藤文男氏が言う。 「官房機密費は政府が使うカネであって、原資は国民の税金ですよ。一政党のために使われるものではないし、まして選挙で使われるなど論外です。外国で誘拐された邦人救出のための身代金など、ある程度の機密保持は仕方がないとしても、公表できないムダな使途は許されません」 麻生政権の“火事場ドロボー”みたいな2億5000万円については、「引き出せるだけ引き出して党の金庫に放り込んだのでは」「落選議員に見舞金でも渡したか」なんて憶測も飛び交っている。真相はヤブの中だが、いずれにしたって、許される使途ではない。 ●100万円のスーツをもらった野党議員も そもそも、機密費の使途をめぐっては、過去にも怪しい噂が山ほど取りざたされてきた。 「首相交代時に巨額の機密費を引き出すのは公然の秘密」――。永田町では、こんな“伝説”もあるほどだ。細川内閣で官房長官を務めた武村正義氏も、かつてこう証言していた。 「私が官房長官に就任したときは金庫は空っぽでした。現金も領収書もその他の書類もいっさいありませんでした」 02年に共産党が暴露した宮沢内閣時代の機密費に関する内部文書は衝撃だ。 公表されたのは加藤紘一官房長官(当時)の金銭出納帳で、内訳は「国会対策費」3574万円、「パーティー券代」3028万円、外遊など議員への「餞別代」2043万円など。中には国会対策費として、100万円ものスーツ代をもらっていた野党議員までいた。 国民から見れば、「冗談じゃないよ」だが、機密費は領収書も必要なければ、会計検査院もノーチェック。何から何までウヤムヤのつかみ金だ。鳩山内閣がやるべきは機密費の踏襲ではなく、機密費改革のはずなのだ。 ●「3日で解決」はウソだったのか、鳩山首相よ それなのに民主党の態度はまったくおかしい。トップの鳩山首相からして、「政権交代が起こるときはこんなもの。旧政権のことをとやかく言うつもりはない」と疑惑にフタをする構えだ。なぜ、本腰を入れて追及しないのか。 野党時代には、機密費追及で勇ましいことを言ってきただけに、余計にイラ立ちを覚える。 民主党は01年に、機密費の支払い記録を義務づけ、一定期間後に情報公開する「機密費透明化法案」を提出した。この時の党代表は、鳩山首相だ。法案は廃案になったが、党首討論では当時の小泉首相相手にこう豪語したものだ。 「機密費の調査を民主党の若手にやらせれば、3日間で解決してみせます」 すでに政権を取ったのだから、サッサと若手を使って麻生政権の持ち逃げ疑惑をオープンにすればいい。それなのに、平野官房長官は政権発足翌日に「機密費? そんなのあるんですか」とスットボケ。11月になって、河村前官房長官から機密費の引き継ぎを受けたことを認めたが、使途や金額は「公開するつもりはない」と突っぱねている。 政権トップと機密費を預かる官房長官がこの調子じゃあ、麻生政権の血税持ち逃げの真相は永久に闇の中である。 「機密費に対する民主党の豹変ぶりには、驚かされます。いざ政権を取って機密費が自由にできるようになると、態度がガラリと変わってしまった。自民党時代と同じように公表できないような使い方もするつもりなのでしょうか。これじゃあ、自民党と何も変わらない。国民の失望を買うだけです」(政治評論家・山口朝雄氏) ●自民党政権は機密費でマスコミも懐柔 マスコミの追及も鈍い。まるで腫れ物に触るような扱いで、持ち逃げ疑惑に切り込むメディアは皆無ときている。 実は、機密費は歴代政権の「マスコミ工作」にも使われてきた。かつて共産党が暴露した内部文書の支出項目には、マスコミ幹部への慶弔金が記されていた。前出の武村正義氏も「マスコミの研究会に毎年100万円とか決まった額が出ていた」と週刊誌の取材に答えている。先の総選挙においても機密費がマスコミ工作にも使われた公算が大きい。自民党幹部に政治評論家やジャーナリストたちの取りまとめ、懐柔を打診されたメディア関係者もいるほどだ。 「麻生をホメるのは難しいかもしれないが、せめて必要以上には叩かないで欲しいとの趣旨だったようです」(メディア関係者) この時、自民党幹部から「数百万円という具体的な金額の提示もあった」(政界関係者)との情報も流れている。 マスコミも長年、機密費を通じて自民党政権に取り込まれてきたわけだ。下手に持ち逃げ疑惑を深追いすれば、メディア側も“返り血”を浴びてしまう。だから、疑惑を追及しないのか。少なくとも、国民の目にはそう見える。 かくして、機密費疑惑は闇から闇へ――。民主党政権に対する国民のイラ立ちは募るばかりだ。
|