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「不条理を正す政治」をめざすのだと菅首相は年頭記者会見で語った。どうやら主体、客体、実存といった哲学的な視点で、世の中の「不条理」を語ったのではなく、単に「道理に合わぬこと」という意味で「不条理」という言葉を使ったようだ。そして、摩訶不思議なことに、「不条理を正す」ために、小沢一郎氏は国会で説明する必要があるという。
さらに、強制起訴された場合「議員辞職すべきだという考えか」と記者に問われ、「そうしたことも考えられ出処進退を決められるのがのぞましい」と、いかにも議員辞職を望んでいるような印象をあえてふりまいた。「不条理」というなら、この菅首相の発言こそ「不条理」であろう。
昨年末までは、政権浮揚になりふり構わぬ「小沢切り」にも、なにがしかの「道理」を探し出そうという姿勢があった。そこで持ち出されたのが、「党決定」は絶対でありこれに従えないものは離党するしかないという理屈だった。岡田幹事長は、菅首相も出席した党役員会で「小沢氏が自ら政倫審に出席しないなら、国会開会前に政倫審を開いて小沢氏が出席するよう議決する」という確認事項をまとめ、このあとの会見で、菅首相が「党決定に従えないなら出処進退を」と、強い姿勢を示した。
ところがすかさず、その翌日に小沢氏が記者会見して、通常国会会期中の政倫審出席を表明したため、「党決定」無視をもって離党勧告するというシナリオは崩れた。そこで、小沢氏が「通常国会冒頭か予算成立後」と政倫審出席時期を指定したことをとらえて、岡田幹事長が「国会開会の前までに政倫審出席を」と突き返したものの、小沢氏が政倫審に出ると言っている以上、離党勧告をしたり、岩手県4区総支部長の役職を剥奪する根拠は薄くなった。
こうした状況のなか、年頭記者会見で突如、あらわれたのが「政治とカネの問題にけじめをつける年にしたい」というスローガンだった。「党決定に従えないなら出処進退を」という筋道論をかなぐり捨て、一足飛びに「プロパガンダ」の世界に移行したうえ、その「けじめの年」の生贄に、歴史的政権交代の立役者、小沢一郎氏を捧げようというのである。
改革の精神を捨て、霞ヶ関、財界、大メディアや、米軍産複合体に服従し、彼ら既得権者が忌み嫌う小沢一郎を追い落とすのが「不条理を正すこと」と、検察の暴走などこれまでの経緯の一切を無視して言うことほど「不条理」なことはない。自民党をぶっ壊すと言って国民の喝采を浴びた小泉純一郎氏は、空疎な言葉を内容あるものに感じさせる天才だったが、菅首相にそれほどの演技力があるとは思えない。
このままでは、それこそベケットの「不条理演劇」のように、いつまでたっても「ゴドー」が来ないむなしい一本道が、菅政権のまえに通っているだけだろう。
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