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保坂展人のどこどこ日記
検察官適格審査会、初の「検察官審査開始」を議決(上)
2010年12月27日
今日、午後4時に開催された検察官適格審査会は、大阪地検特捜部が不当逮捕・起訴した村木厚子さんの捜査に関与した検事1名を、検察庁法23条に明記されている検察官適格審査会の「随時審査」の対象とすることを賛成多数で決定した。1948年(昭和23年)に同審査会が設置されて以来、「国民からの訴え」を受けての審査開始は例がない。審査会には1500人を超える国民からの審査の求めが出されていた複数の検察官の中で、1名についての「随時審査開始」を議決。その他の者についてどうするかは、次の審査会で決定する。
さて、検察官適格審査会とは何か。これは、検察審査会と名前が似ているがまったくの別物である。検察庁法23条を見てみよう。今回の議決は23条2−三のケースだ。
第二十三条 検察官が心身の故障、職務上の非能率その他の事由に因りその職務を執るに適しないときは、検事総長、次長検事及び検事長については、検察官適格審査会の議決及び法務大臣の勧告を経て、検事及び副検事については、検察官適格審査会の議決を経て、その官を免ずることができる。
○2 検察官は、左の場合に、その適格に関し、検察官適格審査会の審査に付される。
一 すべての検察官について三年ごとに定時審査を行う場合
二 法務大臣の請求により各検察官について随時審査を行う場合
三 職権で各検察官について随時審査を行う場合
9月。民主党代表選挙のさなかに村木厚子さんの無罪判決が出され、代表選挙終了後に「FD改竄問題」が発覚し前田検事が逮捕される。そして、大坂地検前特捜部長・副部長の逮捕と続く。この頃、私は検察官適格審査会に注目し、この審査会を活用するのは今しかないと訴えた。10月中旬に以下の指摘を『週刊朝日』で問題提起した。当時の原稿の一部を掲載することにする。
〔2010年10月保坂原稿・引用開始〕
10月1日夜、大坪弘道元大阪地検特捜部長と、佐賀元明元副部長が、最高検に逮捕された。前田恒彦元主任検事が行なった「FD改竄」を上司として知りながらもみ消すという「犯人隠避」の容疑だ。前田検事ひとりの「トカゲの尻尾切り」を懸念された捜査は、「大阪地検特捜部の犯罪」にまで拡大した。
しかし、今回の冤罪被害にあった村木厚子さんの「逮捕」「起訴」を決裁した最高検に、事件の本質をえぐる捜査は出来るのかという疑問がつきまとう。政治家や中央省庁幹部の逮捕となれば、検事総長以下の検察首脳が同意し、承認して行なわれる。これが、「検察官一体の原則」だ。
大阪では8年前にも、前代未聞の事態が起きている。
「検察幹部による調活費の濫用実態の告発」を予定して、テレビ取材を受ける直前に「口封じ逮捕」された三井環元大阪高検公安部長の事件だ。
くしくも、元特捜部長らが逮捕された10月1日。この三井環氏ら1058名(※その後1500人を超えた)が、村木厚子さんを「有罪」に陥れるために行なった捜査、証拠改竄などに関係する10人の検察官の罷免を求めて、検察官適格審査会に「審査申立書」を送付した。三井氏らは、最高検、大阪高検、大阪地検の幹部ら8人と前田恒彦主任検事、國井広樹検事の罷免を求めている。
検察幹部だった三井氏による申立書によれば、「検察の内規で、高級官僚を逮捕する場合には、上級庁と事前協議。起訴する場合は処分協議を行なう」とのこと。
検察組織をあげた判断を受けて、前田検事が逮捕状を請求し、村木さんが逮捕されたという構図となる。起訴にあたっても、処分協議として、同様の手続きが周到に積み上げられる。
「検察官一体の原則」により、村木さんの逮捕・起訴にあたっては、大阪地検・大阪高検・最高検がそれぞれ事前協議・処分協議を重ねて、最終的には樋渡検事総長の指揮でなされたものだと申立書は指摘している。
従って、村木さんの冤罪捏造のための「証拠改竄」の非道を、「前田主任検事」、または「大阪地検特捜部の失態」としてくくるだけでは不十分だということが判る。
当時の樋渡検事総長と中尾大阪高検検事長は退官しているために審査申立の対象となっていないが、検事総長の責任がもっとも重いのは当然のことだ。三井氏らが罷免を求める申立は、検察官適格審査会に託される。
ところで、検察官適格審査会とは何か。最近話題になることが多かった検察審査会は、「不起訴処分」の当否をクジで選ばれた11人の国民が審査し議決する機関だが、検察官適格審査会とはまったく別のもの。
法務省の広報紙『あかれんが』(09年4月号)にも、
「検察官は、懲戒処分による場合などのほか、その意思に反して罷免されないという強い身分保証が認められていますが、心身の故障や職務上の非能率のため、検察官としての職務を遂行するのに適しない(不適格である)ときは、検察官適格審査会による議決を経て、罷免されることがあります」とある。
密室の捜査で「シロをクロと言いくるめる」ことをいとわない強引な捜査や、「虚偽のストーリー」を被疑者に強要して検察官調書を作成し有罪に追い込んでいくなど、検察官が絶大な権力を濫用する怖さは今回の村木さんの事件でも明らかだ。にもかかわらず、検察官適格審査会がほとんど知られていないのはなぜだろうか。
私も7〜8年前に衆議院法務委員会理事だった与謝野馨代議士が「さあ、検察官適格審査会へ行ってくるか」と独り言をつぶやいたのを隣席で聞いて、「そんな審査会が本当にあるのか」と思わず聞いた経験を持っている。当時、検察審査会は知っていたが、検察官適格審査会は知らなかった。
あわてて調べてみると、知られていない理由が判った。審査会には国民の誰もが、適格性に疑いのある検察官の審査申し立てをすることが出来るのだが、まったく機能していない。
戦後60年、検察官適格審査会で罷免された検察官はたったひとりしかいない。93年に、佐賀で1年以上も失踪したままになっていた副検事が罷免されたケースがあったのみ。(※これは「随時審査」ではなく全検察官を対象とした「定時審査」)
それもそのはず。検察官適格審査会の事務局は法務省大臣官房人事課に置かれ、庶務担当職員がいるが、他の仕事と兼務している。しかも、この組織の年間予算は15万1000円に過ぎない。国会議員以外の委員の謝金や弁当代などだという。年に1回しか開かれないのでそれで十分だという。国会に裁判官訴追委員会と弾劾裁判所が相当数の職員と予算がついて置かれているのと比べると、「やる気のなさ」を絵にかいたような姿である。しかも、予算は30年前の1969年(23万4千円)より減じている。(下に続く)
検察官適格審査会、初の「検察官審査開始」を議決(下)
2010年12月27日
(上から続く 2010年保坂原稿からの引用の後半です)
政権交代後、初の検察官適格審査会は今年の2月に開かれた。ここでは、1847人の検事、819人の副検事計2666人の検察官全員にかかる定時審査が行なわれた。
審査会委員のひとりは、「相当時間をかけて説明を受けました。病気休職の検察官の中で、メンタル面での故障を訴えるケースが多いのでびっくりした」。「過敏性衰弱状態」「うつ病」「抑うつ状態」「心身症」「重度ストレス反応」などの症状名が目立ったという。
次に「国民からの申出事案」の検討に入る。審査会が随時審査に入るか否かを、事務局の説明を聞きながら決める。9人の申出人が13人の検事・副検事について訴えている概要を記した一覧表が配布された。 申出人の中には、被疑者も含まれる。法務省の事務局が作成した事案の要約を見ると、どこかで聞いたような話が並んでいる。
「捜査担当検事は、被疑者である申出人の弁解を聞くと言いながら全く聞くことなく、公正な捜査を約束するから供述調書に署名しろと迫り、信義に反する供述調書を作成するなどした」
「捜査担当検事は、申出人に累犯前科があり、有罪となれば実刑になるのに、『罪は重くなり罰金刑はないが、建造物損壊罪で執行猶予をもらった方が楽であろう』と旨その説明をし、申出人を誤信させて建造物損壊罪で起訴することに同意させた」
「捜査担当検事は、取り調べの際、事実と異なる供述を強要する言動を繰り返し、これに申出人が応じないと人格を否定するような暴言を吐くなどをした」審査会の結論は、これら「国民の申出事案」はすべて審査をする必要がないとのことだった。
「事務局が提出した資料をひとつひとつ説明を受け、聞いていくと、どれも審査に至るまでの理由はないと思えてきた」とある委員。驚くべきことに、国民の申出を受けて随時審査を開始したことは審査会の歴史の中でいまだにないという。
事務局の説明に疑問を持ったとしても、判断材料は審査会に提出された資料のみだから、「審査すべしと突っ込むのは難しい」(委員)とのこと。
ただ、与党民主党の委員からは「検事である法務省の皆さんが身内の調査で『問題なし』と決めているのはではおかしい」との意見は飛び出した。「きちんとやっていますから」と事務局は答えたという。
しかし、国民に公表されていない「検察官適格審査会運営細則」を法務省から入手して読んでみると、制度的な不備があることが判った。審査会の審査は、全検察官を対象とした定時審査と、国民からの申出を審査する随時審査に分けられる。
定時審査にあたっては、「不適格の疑いのある検察官」に対して、関係者からの事情聴取、関係機関からの資料提出を求めることが出来るとある。さらに、調査の必要がある時には弁護士その他の専門家に調査専門員を依頼することが出来て、また審査会を代表して1人以上の委員が調査を進めることも出来る。また、調査対象の検察官から弁明や反論の機会を設けることも出来るなどの手続きが書かれている。
しかし、国民からの申出のケースは、法務省大臣官房人事課長が「審査会が審査するか否かを判断する材料をそろえて、調査内容を添えて審査会に提出すべしとなっている。審査会委員は、法務省の調査を踏まえて「審査開始か否か」を決定する仕組みになっている。
国民からの申出による随時審査を始める前に、定時審査と同様にブロジェクトチームを編成し、外部の弁護士や専門家を入れて調査を行なうことは可能なのか。
「随時審査に入る場合は可能です」(法務省大臣官房人事課)だが、これまで随時審査が議決されたことがない。「法務省に出向している検察官による検察官の身内の調査」を乗り越えて審査会の独自調査が行なわれ、随時審査に入る資料をそろえる仕組みは整っていない。
1970年代半ば、審査会が活発に開かれた時期があった。この頃、国民からの申出があっても、3〜4年たなざらしにして累積している状態だった。集中した審査会では、国民からの申出があった件について何度も事務局に再調査を求めている。
「臨月の女性を取り調べ、腹痛を訴えるのを無視した副検事」「公害問題は反体制運動に利用されていると記者会見で発言した名古屋高検検事長」「宅地を不正入手した検察官」などだが、検事長と宅地不正入手の疑いがあった検事は、審査会の結論が出る前に辞任した。
この時代も、「随時審査」を開始したのではなくて、その手前の予備調査を審査会が事務局に指示して議論したというものだ。これは、審査そのものと呼んでいいが、法務省では「国民の申出」を随時審査させないために事務局を握っている。
検察官の職務能力や資質の適格性は検察官適格審査会が目を光らせるというチェックシステムは機能不全に陥っていた。長年の自民党支配の因習で数時間の会議に座って「問題なし」とうなずいていればいいという通過儀礼の場となって久しい適格審査会がこのままでいいわけがない。
「検察官適格審査会は、しらべれば調べるほど使えます。検察官監視の制度改正の前に、制度設計通りに機能するかどうかを徹底的にやってみたい」との声が、民主党法務関係者からあがっている。
検察官適格審査会は、戦後占領軍(GHQ)の司法改革の一貫として導入されようとした「検事公選制度」を潰すために、当時の政府が出した対案としてつくられた。国民の代表が検察官の暴走をチェックするふりをしながら眠りこけてきた関係者の罪は重い。旧習を打破出来るかどうか、国会議員も含めた審査会委員の機敏な行動
と覚悟が問われている。
〔引用終了〕
この数カ月、「検察をチェックする機関が日本には存在しない」などの言説を聞くたびに不思議に思ってきた。少なくとも、63年眠りこけてきた審査会が審査を開始すること自体が大きなニュースである。もちろん、審査会が「検事の罷免」という究極の議決しか出来ないなどの審査上の問題点もある。しかし、審査を進めながら新たなルールをつくる以外にないだろう。
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