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ウィキリークスの情報漏洩で世界中に大激震!
その時、日本外交とメディアは――
ウィキリークスによって世界中が揺れている。
先月(11月)末に一斉に暴露された米国務省の秘密文書約25万点をめぐって、世界中の政府、メディアが大騒ぎになっている。
なにより長年、世界中の米国大使館から集約した情報が一気に漏洩したのだ。おかげで米国の培ってきた安全保障・外交政策は一夜にして危機を迎えている。
イタリアのフラティニ外相が、「外交の9.11だ」と評したように、それは外交上の信頼関係を崩壊させるに十分なインパクトを持つ「テロ事件」であった。
オバマ大統領は火消しに躍起になり、クリントン国務長官も機密漏えい者を厳罰に処すとの緊急の声明を出している。
だが、それでも一度インターネットの世界に流れ出した情報は、永久に元に戻ることはない。いったん可視化された米国政府の手の内は、もはや全世界のインターネットユーザーならば手に取るようにわかるのだ。だからこそ、敵対する国のみならず、同盟国からも非難の声が上がっている。
〈プーチン首相はバットマンでメドベージェフ大統領はロビン〉
〈リビアのカダフィ大佐は、いつも連れている色っぽい金髪のウクライナ美人看護士に首ったけだ〉
〈ベルルスコーニ首相は軽率でうぬぼれが強く無能だ〉
こうした各国指導者たちへの米国の本音が漏れたことは、所詮お互いさまとしてギリギリ許されることかもしれない。だが、安全保障および防衛戦略など危機管理に関することについては洒落にならない状況をもたらしている。
■ 米国の危機管理能力に対する信頼が崩れた「情報の9.11」
米政府が敵対するイランやアフガニスタン政府への偵察行為を行っていたのは、さして驚きに値しないものの、同盟国である英国などに対してもスパイ活動を命じていたことは、米外交にとってきわめて深刻な事態を及ぼす可能性がある。
また、各国首脳の本音が漏れたことも大問題になっている。たとえばサウジアラビアのアブダビ国王が、隣国イランの核開発を止めるために空爆を繰り返し要求していたことなど、安全保障上、危険な状況を作り出す可能性が高まっている。
また、パン・ギムン事務総長を含む国連幹部の個人情報、とりわけクレジットカードの暗証番号や通信システムのパスワードを盗み見ていたことが判明したのは、米国政府の信頼性を毀損するに十分である。
オバマ政権は、最高機密情報に関してはひとつも漏れていないとして問題の矮小化に必死だが、各国政府からしてみれば、米国の危機管理能力に大いなる疑問符がついてしまったのは確実である。
だからこそ、イタリア外相が称したように、「9.11」に匹敵する外交上の大問題だと、世界中で大騒ぎになっているのである。
ところが、いつものことだが、日本政府の反応は限りなく鈍い。
■ 7月の米軍のイラク戦争情報漏洩時も日本だけが世界とは違う鈍感さを露呈
7月末、同じようにウィキリークスがイラクに展開する米軍の情報を漏洩したことがあった。世界中が同じような大騒ぎになり、各国政府は対応に追われていた。
ところが、日本だけは違ったのである。
7月27日、岡田外務大臣の会見に出席した私は早速、この点について質した。
【フリーランス 上杉氏】先日ですが、米国の内部告発サイトのウィキリークスで、アフガニスタンに関する軍事作戦の機密情報が一部公開されました。それに 基づくと、かなりこれまでの米国の政府の報告と違う部分があると思われるのですが、この内容によって日本政府のアフガニスタンへのいわゆる政策、それから、テロ特措法も含んだ部分について変更の可能性はあるのかどうかをお聞かせください。
【大臣】まず、その中身を詳細に承知しているわけではございません。分析をしたわけではございません。そういう段階ですから明確なお答えは非常に しにくいのですが、そもそも漏れたものが、それは事実なのかどうかということについても確認されておりませんので、特にそういった状態でコメントするのは 適切でないと思います。
――外務省・外務大臣会見記録 PC版 携帯版 動画版(14分53秒付近) より
今年、ウィキリークスに関して、日本の外務大臣に対して質問が投げかけられたのはこれ一回だけである。
それは、政府・外務省の危機意識の欠如とともに、記者クラブメディアの鈍感さを示すものとなった。
外務省がこうした危機管理に鈍いのはなにも今に始まったことではない。問題はメディア、いつものように記者クラブにある。
最初、ウィキリークスから在イラク米軍の機密情報が流れたとき、日本のメディアだけが世界中のそれとはまったく違った反応を示した。米軍のイラクでの振る舞いに目を向けるのではなく、信じがたいことに、ウィキリークスの信憑性を疑い、その存在を貶め、無きものにしようとしたのだ。
〈暴露系サイト〉
あたかもウィキリークスという単語が汚らわしいものであるかのように、日本のメディアは不自然な「普通名詞」を使って、ウィキリークスをそう呼んだ。それは各国政府がこのメディアを揶揄した際に使った文言と奇しくも一緒である。
もちろん世界中のジャーナリズムで、そうしたスタンスを取ったところは、筆者が確認できた中ではひとつもない。
■ 疑わしきは、まず検証 それがジャーナリズムの国際的常識
検証のため、事前にウィキリークスから情報を受け取っていたニューヨーヨータイムズ(米)、ガーディアン(英)、シュピーゲル(独)の三紙は別格としても、世界中のあらゆるメディアが、まずはウィキリークスの漏洩情報を事実であるかどうか取材検証し、その後、なぜ米政府がそれを隠したのかと批判的に報じた。
今回の米国務省の公電漏洩事件も同様だ。ほとんどすべての海外メディアの論調は、25万点にも及ぶ米国務省の公電が本物であるかどうかに関心を寄せ、さらに調査取材の末、それが本物だとわかると、今度は米国の危機管理能力の欠如と世界戦略の傲慢さを批判的に報じはじめたのだ。
事実上、ウィキリークスの創設者であるジュリアン・アサンジ氏の振る舞いを非難するだけの記事は皆無といっていい。
ところが、世界中である国のメディアだけは違った。それが日本であり、記者クラブメディアの報道である。
前回、7月の在イラク米軍の漏洩事件のときもそうだが、自らは検証することなく、「暴露系サイト」による信用ならない情報だと決め付け、実際そういう論調のニュースを繰り返し流し続けた。
みのもんた氏の「朝ズバ!」(TBS)はいうに及ばず、報道系の「報道ステーション」(テレビ朝日)までもが、〈信用ならない元ハッカー(アサンジ氏)の作った胡散臭い暴露サイトの情報〉というレッテル貼りに終始し、、問題を矮小化させるのみだったのだ。
あたかもそれは日本政府の代弁者のような振る舞いであった。
じつは今回もまったく同様だった。さすがに〈暴露系サイト〉という不自然な「普通名詞」の使用は見当たらなくなったが、それでもウィキリークスという固有名詞は批判的な言葉として扱われ、新聞もテレビも〈信憑性に欠けるネット情報にすぎない〉というスタンスを変えようとはしなかった。
本来ならば、信憑性の問われる情報があれば、それを取材・検証するのが世界のジャーナリストたちの仕事である。
ところが、日本だけは新聞・テレビの記者クラブメディアは、自らそうした役割を放棄した上に、政府と一体となって情報の信用性にケチをつけているのだ。
さらにその上で、米政府の危機管理ではなく、知る権利に応えた側のウィキリークスへ批判の矛先を向ける始末である。まったくもって本末転倒も甚だしい。
実は、これと似たような構図を私たち日本人はごく最近も経験している。
■ まるで記者クラブメディアによる「尖閣ビデオ」犯人探しの再現
ここ数ヵ月間、日本の新聞・テレビは「尖閣ビデオ」をユーチューブに流した人物は誰かという犯人探しに明け暮れた。
そして、海上保安官が自ら名乗り出ると、産経新聞を除いては、今度は彼を徹底的に批判するのだった。
そうした行為は、筆者に言わせれば、日本の記者クラブメディアが自ら政府の広報機関に成り下がったことを宣言した瞬間にしか映らない。
ジャーナリズムの最低限の仕事は、政府などの公権力が隠そうとする事実を暴くことにある。これは万国共通のジャーナリズムの理念であり、国民の知る権利に応えるものである。
ところが、日本だけがそれが逆なのだ。だからだろうか、きのう(11月30日)の記者会見でも、前原外相の次のような酷い答弁に対しても、番組や紙面で単に紹介するだけで、言動を問題視するメディアは皆無であった。
【ニコニコ動画 七尾記者】視聴者の質問を代読します。ウィキリークスが米政府の外交公電を流しはじめました。クリントン国務長官はこれを強く非難。情報をリークした関係者の責任を追及していく構えです。一方、海外では、「歓迎」、「自粛」とメディアによって反応に違いが見られます。ウィキリークスに代表される内部告発サイトの存在について、大臣のご所見をお願いいたします。
【大臣】これはもう言語同断だと私(大臣)は思います。犯罪行為ですから。つまり、勝手に他人の情報を盗み取って、それを勝手に公開する。それがいかに未公開の秘密文書であれ、それを判断するのは、持っている政府であって、勝手に盗み取ってそれを公表することに評価を与える余地は全くないと私(大臣)は思っています。
【毎日新聞 西岡記者】ウィキリークスの件で、その中に日本の外務省の現職の幹部の名前が挙げられた文書が公開されていましたが、これに関して事実関係等の調査は指示されたのでしょうか。
【大臣】それについてコメントもしませんし、事実関係も調査しません。
【読売新聞 穴井記者】日本側から米政府に対して、何か対応を求めるとか、事情を聞くとか、あるいは米国から説明があったということはあったのでしょうか。
【大臣】米国から外交ルートを通じて事前の説明がありました。
【読売新聞 穴井記者】日本側からは、何か求めるということはしましたか。
【大臣】しておりません。
【フリーランス 上出氏】ウィキリークスのことですが、今の発言はやはりメディアとして聞き逃すことはできません。要するに、大手の新聞を含めて全部このことについて報道しています。これも含めて批判されているのか、また、西山記者がやった沖縄密約、あれはいろいろな技術的な問題で尻切れトンボになりましたが、改めて外務省も(関連文書を)公開しています。捉え方によっては、今の言葉はそういう問題にもつながる重要な問題だと思います。その辺も含めて、単なるコンピュータのマニアたちがやったということを批判するということではなくて、言論についての意味もあったと私はそのように聞きましたが、そのような意味は全くないのでしょうか。
【大臣】私(大臣)が批判したのは、勝手に人の秘密をかすめ取る、盗み取るということは犯罪であると、それを公開することは言語道断であるということを申し上げました。
【フリーランス 上出氏】それを判断して報道したマスメディアのことはどうですか。
【大臣】そういうものが出て、こういった内容があるというものを報道することは、我々は妨げることはできないと思います。
――外務省・外務大臣会見記録 PC版 携帯版 動画版(22分19秒付近) より
いったいこの国の政府とメディアは何をしたいのだろうか。
いくら現実から目を逸らそうとも、ウィキリークスは実在し、さらには外交文書が漏洩したのは、夢でもなんでもない紛れもない現実の出来事なのだ。
そうした事態に対してリアルに対処するのが、政治であり、外交ではないのか。事実関係すら調査しないというのは、大臣として仕事の放棄を宣言したに等しい。
また、記者クラブメディアも同レベルにある。ジャーナリストはニュースの信憑性を疑うのが仕事ではなく、それを取材検証し、確認するのが任務である。政府と一緒になって、情報源にペンの矛先を向けるのは、結果として自らの仕事に唾を吐く行為に他ならない。
日本政府と外務省、さらには記者たちが、今回のウィキリークスの事件は外交・防衛、安全保障上の重大な危機であることに、一刻も早く気づくことを心から願う。
http://diamond.jp/articles/-/10295
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