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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20101201-00000301-fsight-pol
菅直人首相に招かれて11月24日午後の与野党党首会談に応じた自民党の谷垣禎一総裁ら野党党首は、会談が終わって一様に拍子抜けしたような表情を見せた。この会談は、前日に発生した北朝鮮による韓国・延坪島砲撃事件への対応に関して野党側に協力を要請する目的で開かれた。だが、菅首相の口から語られるのは、 「今まで報道で知らされた情報ばかり」(野党党首)だった。
何のための会談だったのか――。多くの党首がそう感じたに違いない。会談終了後に国会内で記者会見した新党改革の舛添要一代表はこう吐き捨てた。
「悪く言えば、砲撃事件をうまく利用して国会運営をスムーズにしたいな、という意図が見え隠れしている」
つまり、舛添氏は、菅直人政権は数々の失政から国民の目をそらし、野党の追及からも逃れるために、砲撃事件を利用することを思い付いたと言いたいわけである。舛添氏の邪推にすぎないと笑うわけにはいかない。砲撃事件などに関する国会での集中審議を要求してきた自民党について、この日、政権幹部は記者団にこう語っているのだ。
「閣僚を国会に座らせて何をしようというのか。こういう重大時には、野党は政府が動きやすいような環境を作らないといけないんじゃないか」
国会のあるべき態度を語った言葉としては正論のように聞こえる。だが、菅政権が墜落寸前の状態にあり、国会では仙谷由人官房長官や馬淵澄夫国土交通相への問責決議案が次々と可決されようとしていた時期の発言であることを考えれば、これはむしろ政権幹部が国難を理由にして逃げに入ったことを示す発言とみていいだろう。
■「朝5時から勉強している」
尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件とそれに伴うビデオ流出問題、柳田稔前法相が辞任に追い込まれたことに象徴される閣僚の相次ぐ失言・暴言、防衛省の民間人発言を封じる通達問題、さらに、岡崎トミ子国家公安委員長や蓮舫行政刷新担当相らの不祥事、その上に朝鮮半島情勢の緊迫化も重なった。政権にとって、頭を抱えたくなるほどの難題の数々であり、菅首相が野党や国民の目から逃げたくなるのも分からないわけではない。
だが、歴代政権と比較して、とりわけ菅政権は問題処理が遅い。尖閣諸島での衝突ビデオ公開問題では約2カ月間ももたつき、柳田氏更迭でも右往左往して、発言から辞任まで約1週間もかかった。
菅首相は11月24日、連立与党の一角である国民新党の亀井静香代表と会談し、こう打ち明けた。
「とにかくやることが多すぎる。予算委員会での対応では、朝5時から勉強している。それでも考えをまとめる時間がない……」
愚痴をこぼす菅首相。だが、亀井氏は一喝した。
「あんた、そういうもんだと分かっていて総理になったんだろ」
一国の首相として情けないかぎりだが、菅―亀井会談でのやりとりに象徴されるように菅首相は今、あっぷあっぷの状態にある。降りかかってくる仕事の量は、すでに能力をはるかに超え、さらに処理しきれない問題が次から次へと生じてくる。菅政権は限界に来ているのだ。
■「1%発言」の意味
7月の参院選大敗後から、いつ倒れてもおかしくないと言われ続けてきた菅政権が、いよいよ本当に倒れそうになってきた。ところが、もはやこれまでかという状況になって初めて、民主党内で今まで見られなかった奇妙な動きが出てきている。それは、反菅勢力による菅首相擁護発言である。
11月27日午後、東京・田園調布の私邸に帰宅した鳩山由紀夫前首相は明らかに不機嫌だった。この日の昼、鳩山氏は菅首相に招かれて、東京・永田町の中華料理店「聘珍樓」で昼食をともにした。話題の中心はサッカーW杯招致についてである。
2022年のW杯開催地は12月2日にスイスで開かれるFIFA(国際サッカー連盟)理事会で決定する。立候補している5カ国はそれぞれ世界的に知名度の高い政治家らをスイスに送り込み、招致運動の目玉にしようとしていた。
菅首相「政府専用機を用意してあります。私の代わりにスイスに行ってくれませんか」
鳩山氏「米国からはクリントン元大統領、韓国からは李明博大統領も行くと言われてますよ。菅さんは行かないんですか」
菅首相「米韓合同軍事演習があるので……」
私邸に戻ってきた鳩山氏は記者団に向かって吐き捨てた。
「米韓軍事演習って……。じゃあ、なぜ李大統領は行くんだよ」
実際には李大統領は黄海での米韓軍事演習をはじめとする北朝鮮による韓国砲撃への対応に追われてスイスを訪れるのは無理だろうし、臨時国会会期末を迎えて菅首相が外遊日程を調整するのも不可能だろう。そんなことは鳩山氏も重々承知している。だが、首相就任以来、鳩山氏らを冷遇しておきながら、こういう時だけ利用しようという菅首相の虫のいいやり口。鳩山氏はこれが気に入らなかったのだろう。怒りの勢いに任せて、さらにこう口走った。
「菅さんはね。『内閣支持率が1%でも辞めない』と言ってましたよ、ええ。まあ、あの人はね、私が総理大臣の時に『内閣支持率が0%になっても辞めてはいけない』と言ってた人ですから」
■首相批判を抑える小沢氏
ところが、翌28日、茨城県取手市内で講演した鳩山氏は次のように言ったのだ。
「何か菅さんが『1%になっても辞めないんだ』と言ったと新聞に載っているでしょ。そうではありません。正確を期して申し上げますが、菅さんの友人が『1%になっても辞めちゃだめだよ』と激励してくれたという話を、菅首相が私に話してくれたんです」
一体、「1%……」と発言したのは、菅首相なのか、首相の友人なのか。だが、ここで重要なのは、真実はどちらなのかという点ではない。肝心なのは、報道によって、この発言は菅首相のものだと一般的に信じられていたという点である。そして、鳩山氏はわざわざ菅首相のために、この発言が菅首相のものではないということを指摘したのだ。
野党だけでなく民主党議員にとっても、支持率1%の男に居座られたのではたまったものではないし、「1%」発言にはこれまで積み重ねられた失政に対する菅首相の開き直りが感じられる。このため、この発言によって、菅首相の評判はさらに落ちる可能性があった。鳩山氏は、発言を修正することによって、それを防いだのだ。
一方、鳩山氏と同様に菅首相と距離を置く小沢一郎元民主党代表にも最近、見過ごせない「菅首相擁護」の発言がみられる。
菅首相に代わって小沢氏に党を率いてもらおうという一部の議員の動きが活発化する中、11月24日、東京・東池袋で開かれた小沢氏支援集会では、こんな発言が飛び交った。
「菅首相のひどさにあきれ果てる」(辻恵衆院議員)
さらに、川内博史衆院議員が「今の民主党はどうなっているのか。国民の期待を回復しなければならないが、菅政権にそれができるのか」と熱弁をふるうと、会場からは「できるわけがない!」との声も上がった。11月25日には、小沢氏支持の若手議員らが新グループ「北辰会」を旗揚げするなど、小沢待望論は高まるばかりである。だが、最近の小沢氏自身は若手議員に向かってこんなふうに言うのだという。
「菅首相がどうだとかこうだとか言ってばかりいてはいけない」
小沢氏は若手議員による菅首相批判を抑えにかかっているのだ。
■「辞任よりも解散」
菅首相と対立関係にあったはずの鳩山、小沢両氏の不可解な言動――。鳩山氏周辺の解説によると、両氏の言動に通底しているのは、「菅首相がこれ以上凋落していくのは好ましくないという政局認識」である。
11月半ば、菅首相に近い民主党幹部がマスコミ幹部と会食した。話題となったのは、11月8日の衆院予算委員会での菅首相の「石にかじりついても頑張りたい」との発言である。マスコミ側が尋ねた。
「菅首相は窮地に陥って、政権を投げ出すのではないですか」
これに対して、党幹部は菅首相の性格を次のように分析してみせた。
「菅首相は根本的に鳩山さんや安倍(晋三元首相)さんとは違います。自分が辞任しなきゃいけないくらいなら衆院を解散する方を選ぶ人です」
「選挙に負けそうでも……ですか」
「たとえ負けそうでも……です」
これほど追い込まれた状態で衆院解散・総選挙になだれ込んだら、民主党が敗北するのは目に見えている。特に「小沢チルドレン」と呼ばれる選挙基盤の弱い新人議員は全滅に近い被害を受ける。だが、菅首相ならば、やぶれかぶれの賭けに出るかもしれない。鳩山、小沢両氏はそれを警戒して、菅首相を擁護したのだろう。
両氏の警戒を裏付けるように、今の民主党内では来年1月の通常国会冒頭での衆院解散という噂が急速に広がっている。仙谷、馬淵両大臣の問責決議可決によって通常国会は開会直後から波乱含みだ。平成23年度予算案などの重要案件を処理するには、衆院を解散して仕切り直しせざるを得ないというのが冒頭解散論の理屈である。だが、支持率2割台の内閣で衆院選に臨めば、党内の懸念どおりに民主党が大敗する可能性がある。
最近、民主党幹部が記者団にうそぶいた次の言葉がマスコミ各社の間で話題になっている。
「民主党が負けてもいいじゃないか。何度か政権交代を繰り返すことこそ、日本の政治に必要なことだ」
こうした発言が菅首相サイドの本音なのか、それとも内閣が倒壊寸前であることを逆手にとって解散をちらつかせた脅しなのか。衆院選の時期をめぐる虚々実々の駆け引きが、民主党内の親菅首相派と反菅首相派の間で激しさを増してきている。
Foresight(フォーサイト)|国際情報サイト
http://www.fsight.jp/
「深層レポート・日本の政治213」より
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