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尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件などであらわになった外交能力のつたなさやら、柳田稔前法相らの相次ぐ閣僚の失言やら、その凡庸さと無能ぶりをさらけ出した菅政権に対し、われ知らずため息が出る。国民には、幻滅や失望の念が広がっており、昨年の政権交代劇は、「華やかな虚構」だったと揶揄(やゆ)されても仕方あるまい。
菅直人首相は、移ろいやすい国民の意識をどう引き戻せばいいのか、失地回復の妙案に人知れず思いをめぐらせていることだろう。だが、一条の光さえ視界に入ってこない。つい先日お会いした政府関係者は、苦渋の表情で重々しく口を開いた。
「歴代の政権は、支持率が下がり始めると外交に政権浮揚の活路を見いだしたが、菅政権は最初から、そこでつまずいてしまった。経済対策や社会保障問題など重要課題は山積しているのに、国会が『ねじれ』状態では、思うに任せない」
このところ、民主党でささやかれている「心配事」は、首相が衆院解散・総選挙に打って出るのではないか、というシナリオである。内閣・政党支持率が急落しているのに、「負ける戦をわざわざするか」とにわかには信じがたいが、窮余の一策としてやりかねないと気をもんでいるわけだ。
その昔、自民党の加藤紘一元幹事長は、衆院解散・総選挙をめぐる政治家心理を喝破した。「権力から遠ければ遠いほど疑心暗鬼になり、近ければ近いほど操作したくなる」と。民主党の党内事情にものの見事に当てはまるから、けだし名言である。
権力の最高ポストに座した政治家の心象風景を察するに、「事を成して歴史に名前を残したい」という一点に尽きるのではないか。ならば首相が求心力を高めるために解散カードを切って、仕切り直しのうで政権運営に当たりたい心境になるのもうなずけるし、選挙地盤が脆(ぜい)弱(じゃく)な若手議員らに動揺が走るのもこれまた、さもありなんというところだ。
民主党の小沢一郎元代表が過日、若手議員との会合で、衆院解散・総選挙の可能性に言及したのは、そうした首相の心のひだまで見透かしての読みだろう。実際、自民党時代の小沢氏は、幹事長を務めていた海部政権下の「ねじれ国会」下で、衆院解散・総選挙を主導。自民党劣勢の前評判を覆し、その後の国会運営で「自公民」路線を定着させた。
もっとも、「大義のない大勝負」は、民主党に大敗をもたらすことがありありと目に浮かぶし、政権延命だけのために解散カードをもてあそべば、首相は暗愚の宰相として「歴史に名を残す」。そんな悲惨な末路をたどるのは明らかだ。
世の中の仕組みが複雑になり過ぎ、専門家でなければよく飲み込めないテーマが増えれば、政治に対する国民の不満は、その矛先を政治家の人となりに向けがちだ。そんな政治状況下で首相を長きに渡り務めるのは容易ではない。この点では首相にご同情申し上げる。
それでも首相は、歴代首相と比べると、抱いている国家ビジョンのなさや、政権運営能力の乏しさという点で、「日本丸」のかじ取り役としては不適格者だといえる。いちいち指摘するまでもなく、この拙稿を読んでいる方は、あれもこれもと、もうまぶたに浮かんでいることだろう。
秘書官らを人前で怒鳴り散らす性癖も、その器ではないことをうかがわせる。怒鳴られた方は、それ以降、面従腹背になってしまい、首相を思い、必至になって汗を流すわけがない。
場当たり的な「取り繕い政権」の行く末は、哀れ極まるのは自明の理。首相は、延命策にうつつを抜かすよりも、潔く身を退いた方がよい。それでこそ立つ瀬が「ある」のではないか。
そういえば、小沢氏周辺でひそかに進められているある“工作”を耳にした。若手議員と懇談を繰り返し、衆院当選1回生でつくる「一新会倶楽部」を政治資金規正法に基づく政治団体「北辰会」に衣替えするなど、「ポスト菅」をにらんだ動きを加速させているだけに、捨て置けない。
ある関係者によると、ベテランの民主党議員を議長とし、「小沢首相」の実現を目指す国民会議を結成する準備が進められているという。すでに会費や活動方針など詰めの作業を迎えている段階なのだそうだ。
小沢氏が抱える「政治とカネ」問題などどこ吹く風といった動きではないか。
首相が退陣しても、後継には小沢氏が座る−。国民感情を逆なでするようなことが現実のものになれば、「小沢政権」の前途はいかん。こうなれば、やはり首相には、衆院解散・総選挙をしてもらい、その結果、民主、自民両党とも単独過半数に届かず、両党入り乱れての新たなる政界再編が起こらないか、という淡い期待も胸をかすめるのである。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101128/plc1011281802006-n1.htm
中
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