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平成22年11月22日発行
発行人 南丘喜八郎
編集人 坪内隆彦
発行所 株式会社K&Kプレス
TEL 03(5211)0096
FAX03(5211)0097
(転載承諾済)
田園将に蕪(あ)れなんとす、胡(なん)ぞ帰らざる 「新党大地」代表 鈴木宗男
北方領土は遠ざかる
── 11月1日9時17分(現地時間10時17分)、ロシアのメドベージュフ大統領がわが国固有の領土である国後島を訪問した。
鈴木 菅内閣の外交能力の低さが、こうした事態を招いてしまったと言えます。ロシアからはすでに早い時点からシグナルが出ていた。9月2日をロシア国会は「反ファシズム戦勝記念日」と定めましたが、すでに5月9日が「対ドイツ戦勝記念日」とされているのですから、これは実質的に「対日戦勝記念日」に他なりません。このような記念日制定をくい止めるために外務省は本当に仕事をしたのか、検証が必要です。また、10月26日の「ロシアの声」(旧モスクワ放送)でも、大統領の北方領土訪問という情報は出ていたのです。それを28日、河野駐露大便は「噂には聞いているが具体的なことは聞いていない」などとのんきなコメントをしていた。外務官僚が正しく情勢を分析できていなかったし、官邸に正しくない情報を上げていたことになる。これについても検証と、外務官僚の信賞必罰が必要です。
政府は慌てて3日に河野駐露大使を一時帰国させたが、7日には「情報収集のため」という理由でまたモスクワに戻した。すぐに戻すくらいなら、一体なんのために一時帰国させたのかわからない。そもそも、河野大便はAPEC前後に休暇を取り、4日に帰国、25日にモスクワに帰る予定だったという。こうした情報はロシア側も把握している。大使の一時帰国は重大な外交シグナルであるが、もともと帰国する予定であったのならば、3日に帰国させたところで、「休暇帰国が一日早まっただけ」程度のこととロシア側も見透かすことになる。シグナルがシグナルとして機能していないのです。
私は、大使の召喚はすべきではないと発言していました。
北方領土の置かれた現実、そして、北方領土を取り戻すために何が出来るかという現実的方法を考えなければならないからです。
北方四島は我が国固有の領土でありながら、ロシアに実効支配されている。これは揺るぎのない事実です。そして、戦後初めてロシアの国家元首が北方領土を訪問した。いわば、日口関係は大きく変化した。それに対してこちらが強い態度で出ることによって、事態は動くのか。ますます相手は硬化するだけです。こういう時こそ知恵が必要なのです。しかも、大統領の北方領土上陸後は、目口関係は新しい段階に入ったのだから、旧来の戦略では通用しません。新たな策を練らなければならない。 訪問前であれば、もっと色々な交渉が可能だったはずです。
大統領が訪問するというのならば、菅総理自らが「ロシア大統領の訪日を歓迎します」とでも声明を出すのも手だったし、その一方で水面下で交渉が可能だったはずです。
実は、鳩山政権下では日口融和に向けての動きが進んでいた。5月13日に私が訪露したときに、コザチョフ国際間題委員長と会談しましたが、その折に、対日戦勝記念日制定はしませんとの約束もしていた。それを踏まえて、6月末にはカナダサミット、9月にはヤロスラブリ、11月にはAPECと、年内に三回も鳩山・メドページエフ会談が予定さていたのです。対日関係進展に対するロシアの期待は大きかった。ところが鳩山政権は崩壊してしまった。
菅稔理は「鳩山政権の路線を引き継ぐ」と言ったものの、具体的な提案はまるでなかった。具体策の裏付けがない声明など、風呂の中の屁のようなものです。何の役にもたたないどころか、自分が酷い目に遭う。結局、目口関係の展望が失われ、ロシアの失望を招き、一連の対日強硬外交を招いてしまったのです。
ロシアが今、真に欲しているのは日本の投資というよりも、技術です。ロシアが北方領土を有効活用すると言っても、資源、開発には日本の応用技術が有益です。菅総理は東京工業大学出身なのだから、「私も技術者です。目口の技術協力に大変関心を持っています」とメッセージを出していればよかった。
そのような提言を外務省も官邸に上げていないし、官邸も外務省を使いこなしていない。私は不作為の外務官僚は厳しく糾弾するが、外務官僚の優秀さは認めている。彼らをきちんと使いこなし、仕事をさせなければなりません。問題は、「政治主導」とは官僚を排除することではなく、官僚を使いこなすことなのだということを政権与党が理解していないことにあるのです。
今からでも遅くはありません。日本側から、「日本として2012年のロシア・ウラジオストックAPECのために最大限の協力はします。経済の近代化・イノベーション化に世界一の日本の応用技術を活かす用意があります。ロシアと日本の協力が世界に貢献するのです。両国最高首脳が確認している未解決の係争地域である北方領土をメドページエフ大統領と私で歴史の1ページを作りたい。その為には日口関係に造詣の深い鳩山前首相を私の代理として派遣します。鳩山前首相の発言は私の発言です。是非とも大銃領ここは現実的解決に向けてお互い腹を割って話し合いましょう」とメッセージを発するべきです。
こうして「両国最高首脳が確認している未解決の係争地域である北方領土」という文言を飲ませることが、交渉の糸口になるのです。
威勢のいいだけが愛国ではない!
── 尖閣ビデオ問題では、海上保安庁の職員がビデオを流出させたことがわかった。いわば官僚の反乱とも言える。
鈴木 この間題は整理して考える必要があります。まず、事件が起きたときの前原国交大臣の対応が問題です。前原大臣は「国内法に則って粛々と対応する」と述べ、さらに自ら石垣島にまで赴いて海上保安庁職員を鼓舞した。ところが、内閣改造で外務大臣となると、中国人船長釈放に動くのです。クリントン国務長官から「尖閥は日米安保の適用対象」との言葉を引き出していますが、これは言わずもがなのことです。
こういう時には「日米の立場は不変」という言葉で十分で、わざわざそこまで踏み込む必要はない。 外交というものは、相手がある。こちらが正しいと信じることを声高にがなりたてるのは外交ではなく、子供の喧嘩です。威勢がいい人間が愛国者だと誤解してはいけません。国益のために現実にあった政治を動かそうとするものが愛国者です。政治を子供の喧嘩レベルで行ってはなりません。拳を振り上げる時は、拳の下ろし方を考えておかねばならない。
前原大臣の一連の対応は、その場その場の行き当たりばったりで、事態の収束のさせ方というものを考えてないのではと疑わせます。
この対応を見て思い出すのは、かつて前原氏が民主党代表であったときに起きた永田議員(故人)による「偽メール事件」です。こうした難題に直面したときにこそ政治家の器は問われるものですが、それからすると、前原氏の対応はやはり、その場しのぎの稚拙なものだったと言わざるを得ない。裏付けも取っていない「偽メール」について国会の場で質問させてしまった。「証拠を出せ」と言われて、十分な証拠を出せず、その結果自らも職を辞し、永田議員にも議員辞職を余儀なくさせてしまった。少し知恵を出せば、党首討論で小泉首相(当時)に、「民主党として、永田議員を証人喚問します。ついては、疑惑があるとされる堀江貴文氏、武部氏のご長男にも証人喚問に応じていただきたい」と迫れば、まったく別の展開となったはずです。政治にシナリオなどありません。不測の事態に直面したときに、地頭が試されます。その点で、前原氏は「偽メール事件」からの教訓を学んでいない。威勢よく拳を振り上げたはいいが、どこでどう下ろせばいいかわからなくなっている。
これは前原氏だけの問題ではなく、政府そのものが場当たり的に動いている。政権与党として、国益とは何か、どう守るかということがわかっていない。
そもそも日本に領土問題は二つしかありません。それは北方領土問題と竹島開港です。いずれも、日本の固有の領土でありながら、日本が実効支配出来ていない領土です。それに対し、尖閣諸島は日本固有の領土であり、日本が実効支配している領土です。そもそも係争さえ起こっていない、「領土問題」ではないのです。それが政府の立場です。
ところが、尖閣中国船事件が起きたとき、内閣の一員である蓮肪大臣は尖閥を「領土問題」と発言した。これこそ国益を毀損する発言であり、後に撤回したとはいえ、自民党政権下であれば寵免に価する発言です。
尖閣事件で日本政府が強い態度で出るというのならば、「拳の下ろし方」を考えた上で、それを一貫させるべきでした。中国人船長も釈放すべきではなかったし、他の船員も、証拠品である船も返すべきではなく、当然、ビデオも公開すべきでした。ところが、一旦は威勢よく強く出てみたものの、中国も強く出てきたらこちらが引く、ビデオも非公開という、一貫性のない対応をとってしまった。 こうしたことを踏まえて、ビデオ流出問題を考えるべきです。どう考えても政府の対応は、ボタンの掛け違えであって、最初の対応を誤ったからすべて誤ってしまった。事件を起こした中国人船長は釈放し、ビデオを公開した海上保安官は取り調べするという対応は、国民の理解を得られるものではありません。
一方で、政府の判断は間違っていると、ビデオは公開すべきだと考えた海上保安官の気持ち、政府に対する不満はわかるものの、組織の一員であり、とりわけ、海上保安庁という武器を有する官僚の、一線を超えてしまった行動を賞賛するわけにはいきません。
目的が正しければ手段は正当化されるか、という問題がここにはあるのです。2・26事件を思い起こしましょう。確かに青年将校たちの想いは熱かった。しかし、武器を有する組織が、思いだけで動けば、それはクーデターとなるのです。
反権力と反国家を同一視してはなりません。武器を有する組織の反国家化には、慎重に対応しなければならないのです。
ビデオを流出させた海上保安官を過大に英雄視することは、自衛隊や警察によるクーデターを容認する雰囲気を醸成しか
ねません。ここで政治がルールを守れるか、実力行使による政治の車断を許してしまうのか、まさに戦後日本政治は分岐点を迎えていると言えます。
問題を冷静に解決するためには、海上保安官も処分すると共に、一連の事態を招いた担当大臣も自らを処する必要があります。
第一次産業を崩壊させるTPPを阻止せよ
── 尖閣問題の影に隠れているが、例外なくすべての貿易品について関税を撤廃するTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加も、日本の今後を左右する重大な問題だ。
鈴木 第一次産業の観点から見て、TPPには反対です。これでは日本の農業は壊滅してしまう。わが国が貿易により多大な恩恵を受けてきたことは事実です。しかしだからと言って、すべての品目の関税を撤廃するわけにはいかない。国家の生存のためには、食料自給率の確保は死活問題です。たとえば現在、日本は外国米に対しておよそ778%の関税をかけている。これが撤廃されれば、国産の米と外国産の米との価格には五倍近くの価格差が生じる。まさに日本の農家は壊滅的打撃を受ける。日本の食料自給率は現在40%ほどだが、TPPに参加すればこの数字は14%にまで下落するという試算もある。国家の役目は国民の安全を守ることですが、食料自給率がここまで下がれば、いざ世界情勢に有事が発生した場合、日本人は現実的に食べるものがなくなってしまうのです。
また、農業というものを経済効率からだけ考えてはいけません。日本は古来から水田稲作を行ってきた。それを一気に壊滅させてしまえば、環境にも多大な影響を与えます。世界中が飲料水をめぐって争いをしていますが、日本は幸い、水には恵まれている。なみなみと水を湛える水田から蒸発した水蒸気が、また雨となって地上に戻る。山に降った雨は、豊富な樹木の根によって蓄積され、ゆっくりと渉み出した水が河川となって平野へ流れ、水田に蓄えられる。日本人にとって水田と林業という人間の営みと、自然の恵みとは切っても切り離せないものなのです。それを目先の損得勘定だけで破壊してしまっては、とり返しがつかないことになる。自然を破壊するのは簡単ですが、自然を回復するのには大変な時間がかかるのです。
あまりにも日本人はモノ・カネ優先主義になってしまい、算盤を弾くことに夢中になり、農業を保護するということに対しても、カネという視点からしか考えられなくなってしまっている。しかし本当に大事なのは、単位をつけることができない価値なのです。環境がもたらす効用もそうですし、さらには日本人にとって稲穂の風景は日本そのものの原風景です。貨幣に換算できない価値を守ること、それこそが政治の役目なのです。
私は必ず戻ってくる!
── バッジをつけずとも政治活動は可能だ。鈴木氏の復帰をお待ちしている。
鈴木 ガンの手術も無事にすみ、おかげで術後も良好です。
私はこれまでの人生で幾度も苦難に見舞われてきた。しかし、私は決して絶望したりはしません。特に、全国のガンと戦っている人々に、私が頑張る姿を見せることが、励みになればと思っています。人間は諦めてはいけないんです。
かつてロシア側は「日口間に領土問題は存在しない」という態度でした。それを長い外交努力の積み重ねで、1956年の日ソ共同宣言、1993年の東京宣言、2001年のイルクーツク宣言という三つの宣言を積み重ねることで、ようやく、「歯舞、色丹は日本に帰属していること」、「国後、択捉について今後協議していくこと」まで漕ぎ着けたのです。
イルクーツク宣言によって、2001年、少なくとも二島は帰ってくるところまで外交は進んでいた。あの時ほど北方領土が我々の手に近づいたことはなかった。ところが、森政権が倒れ、小泉政権が成立したことで、日口関係は再び冬の時代となりましたす。歴史的政権交代で民主党政権が樹立し、祖父の代からロシアとの関係が深い鳩山政権が誕生したことで、長い冬の時代から、日口外交も好転するかと思われたが、それも泡沫の夢に終わってしまった。
歴史に「たら」「れば」はありませんが、もしもあの時、小渕総理が倒れなければ、もし森喜朗政権が続いていたら、あるいは鳩山政権がもう少し続いていたら、と思わざるを得ません。そして、今、対ロ関係が悪化する中で、政治からしばらく離れなければならないことが無念でなりません。
しかし、鈴木宗男はそれでも、決して諦めません。いままさにわが国の田園は蕪れようとしている。
私は必ず帰ってきます!
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