http://www.asyura2.com/10/nametoroku6/msg/790.html
Tweet |
昭和の初め、倫理学者の和辻哲郎は名著「風土」の中で日本人の国民性について次のように喝破しました。日本人の「家=派閥」の克服こそ独立の道だと説いたのです。とき第二次大戦の引き金となった、世界恐慌が始まってた。
「もう少し進んでこの「洋服」を着た「洋館」に住む人を追究してみよう。彼はその洋館の前庭に芝生を敷き花壇を作っている。時には植木屋を入れてその手入れをする。それは彼とその家族とがそこにおいて楽しむためである。
しかし彼は町の公園に対しては何の関心をも示さぬ。公園は「家」(わたしのいう「派閥」の細胞形態)の外にある、だから他人のものである。それはあらゆる人から「他人のもの」として取り扱われ「我々のもの」としての愛護を受けることがない。市の公共の仕事が、市民一般の関心をうけることなく少数の不正直な政治家の手に放任される。政治家の不正に対しては、自分のこどもへの愛情の百分のIほどの熱心も示さぬ。さらにまたこの種の政治家によって統制される社会が、その経済的の病弊のために刻々として危機に近づいて行くのを見ても、それは「家の外」のことであり、それに対する明白な態度決定をさえも示さぬ。社会のことは自分のことではないのである。というのは、この人の生活がいささかもヨーロッパ化(注:市民社会化)していないということである。
洋服とともに始まった日本の議会政治が依然としてはなはだ滑稽なものであるのも、人々が公共の問題をおのが問題として関心しないがためである。ヨーロッパのように城壁の内部における共同の生活の訓練から出た政治の様式を、この地盤たる訓練なくしてまねようとするからである。「家」を守る日本人にとっては領主(!!)が誰に代わろうとも、ただ彼の家を脅かさない限り痛痒を感じない問題であった。」(和辻哲郎「風土」全集第8巻)
指摘されている「公園」「公共」「役人の不正」「経済的疲弊」「議会政治」を「裏金」「普天間」「独立」、円高、失業に置き換えれば、80年前の和辻の指摘はそっくり当てはまる。なお、和辻は、日本人のこの「家」と家の行動様式が、江戸時代からずっと現在まで続いていると指摘している(「領主」、この語は戦後の改訂版でも訂正していない)。
国が独立するためには、「裏金」「普天間」が国民的一体感が不可欠であるが、そのためには、「家」=派閥的社会構造が、市民社会にとって代わられ、国民的一体性が形成されることが絶対条件であるといっているのである。なぜなら「市民社会」とは地域、血縁、身分、企業、所属集団、宗教、信条、貧富、男女、親子、夫婦などおよそ考えられるすべての個別的具体的な差異を国民一般という単一の人格へ解消する社会のことであり、自分と国境までのすべての人間は市民=国民という社会である。国民的一体性はこの社会を前提に形成される。「裏金」や「産地偽装」は、表沙汰になって世間を騒がせたから悪いのであっって、表沙汰にならなければ身内にとって「旨いことをした」のである。こういう行動様式や価値観の下でどうして公共性が育まれよう。
「普天間」もしかり。所詮お気の毒だがよそのことに過ぎない。しかも「普天間」の被害者たちは原爆や東京・大阪の大空襲(ジェノサイト)にどれだけ関心を持ち、それらの被災者と国民的一体感を抱いているだろうか。また原爆被災者はそれらに一体感を持っているだろうか。多分よそのことに過ぎないだろう。つまり身内の不利益は声高に叫ぶが、よその不幸には無関心なのである。こういう国民的一体性を欠いたところに独立を求めても所詮虚しいのではないか。
ではどうすれば、そのような市民社会が実現するか。「家」=派閥社会が解消するのか。和辻は、前文の少し前で、「支那が独立を失った原因として、支那人には国家というものがなく、国家の保護を最初から当てにしていない、あるのは血縁団体のみであって、王朝の交代は自然の移り変わり程度の価値しかないことにある」という。つまり公共には全く無関心であることが植民地化を招いたという。そして、克服する道として「支那の植民地化についておのれの性格を明らかに認識することは、その性格の限定(「家」=派閥)を越えて進む道をさとることである。それはまたおのれと異なる性格(市民社会)を理解し、他の長をとっておのれの短を補う道をも開くであろう」(P133)と。他人を非難・攻撃する前に、自分を省みろということである。苦い真理ながら、そして支那人嫌いの人たちには失礼ながら、現在の日本人にも当てはまるのではないか。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
▲このページのTOPへ ★阿修羅♪ > ペンネーム登録待ち板6掲示板
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。