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「借金」はあるが、これと見合う「資産」があれば、健全だ !
財政健全性は資産と負債のバランスで判定すべきだ !
長期的に必要な社会資本ならば、早い時期に借金をして「投資」を行って
しまう方が、はるかに「賢明」!
「どうしても必要とは言えない」ものへの投資は絶対に行わない事 !
(植草一秀の『知られざる真実』」:2015/03/15より抜粋・転載)
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1)延伸に17年半で北陸新幹線が開業 !
3月14日、北陸新幹線の長野−金沢間が開業した。
高崎−長野間が開業したのが、1997年10月1日。長野−金沢の距離は228キロメートル(営業距離)。この延伸に17年半の時間を要したことになる。
これまで、金沢−東京間は、鉄道利用の場合、新潟県上越市の犀潟駅(さいがたえき)と上越新幹線の越後湯沢を結ぶ北越鉄道を経由する特急はくたか号と越後湯沢−東京間を結ぶ上越新幹線を乗り継ぐルートが最短であった。
4時間20分ほどの時間を要していたが、北陸新幹線の開業で、金沢−東京間が、最短2時間28分に短縮された。
北陸−首都圏が、日帰り圏内になり、また、首都圏から北陸への観光客が急増することが予想され、北陸三県では、その大きな経済効果に期待が、寄せられている。
2)1時間の路線に18年間、北陸三県では、大きな経済効果に期待 !
長野−金沢間は、最短で65分で接続されることになったが、この1時間の路線開業に要した時間が18年ということになる。
日本有数の豪雪地帯を通過することから、積雪対策に多くの技術が必要であったし、また山岳地帯を通過する部分が多く、トンネル工事にも多大な費用と労力が求められた。
18年の歳月を経て、ようやく実現した金沢延伸であるが、時間がかかり過ぎたとの印象は否めない。
中国では、首都北京と最大都市上海とが京滬高速鉄道(けいここうそくてつどう)で結ばれている。
全長1318キロメートルの距離は、長野−金沢間の228キロのちょうど5倍に該当する。
この高速鉄道建設が着工されたのが、2008年4月で、2011年6月には開業された。
工事着工から開業までの期間が、わずか3年余りであった。
両者の時間の開きには改めて驚かされる。
3)社会資本が効用を発揮する期間が、長期にわたる
新幹線のようなインフラの特徴は、その社会資本=インフラが効用を発揮する期間が、長期にわたる点にある。
完成して実用に供されれば、長期にわたって価値を発揮するのである。
道路も、港湾も、空港も、そして鉄道も、作るのは大変だが、作ってしまえば、大きな価値を発揮し、しかも、その価値発揮の時間が非常に長い。
生活に関連した社会資本も同じだ。
4)「ライフライン」も敷設されてしまえば、大きな価値を長期の利用を可能 !
生活の利便性を飛躍的に高める、電気、ガス、水道などの、いわゆる「ライフライン」と呼ばれる社会資本も、敷設には時間と労力、そして財源を必要とするが、敷設されてしまえば、大きな価値を発揮して、しかも、長期の利用を可能にするものである。
財政政策の運営を考える場合には、「投資」が持つ、こうした特性を十分に踏まえることが大事なのである。
財政運営ではとかく「財政赤字」の問題だけが前面に出されやすい。
巨大な財政赤字を計上して、債務を累積させれば、財政破綻に対する懸念が拡大するとともに、累積債務の利払い費などの経費が、財政運営をさらに圧迫することなどが警戒される。
5)社会資本の毎年の投資支出を抑制すれば、実用は、大幅に先送りされる !
このことから、緊縮財政が唱えられ、とりわけ、「公共投資」に対する抑制圧力が強まるのである。
しかし、例えば、新幹線のような「投資」を考
えるときに、膨大な費用がかかるからと言って、毎年の投資支出を抑制すれば、投資が完了して、投資資産が実用に供される時期は、大幅に先送りされる。
日本は、いま人口減少を加速しているが、完成したときには、利用する国民がほとんどいなくなってしまうということも考えられる。
家計における「実物投資」の最大のものは「住宅建設」だろう。
「家を買う」、「家を建てる」と言うのは、家計の支出行動のなかでの最大イベントと言っても良いだろう。
この住宅建設を考えるときに、「財政規律」だけを優先するとどのようなことが起こるだろう。
「財政規律」の「原理主義的発想」は、「借金は良くない」というものである。
6)早い時期に借金をして「投資」を行ってしまう方が、はるかに「賢明」!
「借金は不健全」「借金は悪」というのが財政規律重視の「原理主義」的な考え方である。
これを「家を買う」ことにあてはめると、「家を買う」時期は、大幅に先送りされる。
「家を買う」費用を確保できるのは、恐らく退職直前、あるいは、退職して退職金を獲得したときに、初めて「家を買う」費用を確保できるということになるだろう。
そして、「家を買って」、まもなく死去するのである。
これに対して、就職して間もない時期に住宅ローンを組んで家を買ってしまう。
退職時点で退職金を得て、ローンは完済される。
この人は、若年の時期から死去するまで、ローンで購入した「持家」に暮らすことができ、退職時点ではローンを完済して、負債を残さない。
どちらの行動が、より「賢明」と言えるだろうか。
先を見越して、「家を建てる」決断がある場合には、早い時期に借金をして「投資」を行ってしまう方が、はるかに「賢明」であることが分かるのだ。
7)長期的に、「必ず必要」と判断できるものは、
「早くに投資・完成させる」ことが賢明 !
公共投資、インフラ建設、実物資産投資において大事なことは、長期の視野に立ったときに、その「投資」を実行するのか、それともしないのか、の見極めである。
つまり、「どうしても必要と言える」ものなのか、それとも「最終的には絶対必要とは言えない」ものなのか。その見極めが大事である。
そして、長期的視点に立ったときに、「必ず必要」と判断できるものについては、「出来るだけ早くに投資してしまう」「完成させてしまう」ことが賢明なのである。
たとえば、生活関連インフラである電気、ガス、水道、下水道これらが、長期的視点に立ったときに、
「必ず必要」と考えられるなら、「出来るだけ早くに完成させてしまう」ことが賢明である。
8)手元に資金がない時は、「建設国債」等で建設しればよい !
その完成には「費用」がかかる。手元にそれだけの資金がなければどうするか。
こういうときには、「借金」をするのが良いのだ。
日本の財政法は、第4条で、このような場合の借金を認めている。
財政法4条債と呼ばれるもので、「建設国債」と称されている。
「投資的経費」については、国債を発行して、支出を行なうことが許されているのである。
これは、住宅ローンと住宅の関係に似ている。家計が住宅ローンを組んで家を購入したとする。
家計には、住宅ローンという大きな借金が生まれるが、他方で、住宅という大きな資産が形成される。
「借金」はあるが、これと並行して「資産」が形成される。
9)「借金」はあるが、これと見合う「資産」があれば、健全だ !
「借金」はあるが、見合いの「資産」が残存するから、この「借金」を「不健全」と見なさないのである。国の場合も同じ。
「建設国債」という借金が残存するが、その借金に見合う「資産」が形成され、その資産が長期にわたって価値を発揮する。
だから、この借金は「不健全」なものでないと評価できるわけだ。
長い目で見て、「これはどうしても必要と判断できるもの」、あるいは、「最終的には建設することを決定するもの」については、「どうせ作るなら、できるだけ早くに完成させること」が重要なのである。
10)「作ると決断したもの」は、「可能な限り早く作る」ことが大事 !
何よりも重要な見極めは、「最終的に作るのか、それとも、作らないのか」という点にある。
「作らないなら作らない」「作るのなら作る」のだから、「作るもの」については、「可能な限り早く作る」ことが大事になる。なぜか、完成させないと利用できないからだ。
一生懸命に貯金をし続けて、ようやくお金が出来て、住宅建設を着工したら、その工事中に亡くなってしまった、というのでは悲劇である。
若いときに住宅ローンを組んで家を買ってしまえば、死ぬまでその家という資産がもたらす効用を享受できる。この行動を取る方が、はるかに「賢明」であると言える。
電気、ガス、水道、下水道と同じように、「長期的に見てどうしても必要」と判断できるものについては、その投資をできるだけ前倒しで、集中して実行してしまうことが「賢明」な判断なのである。
国全体の基幹道路、基幹となる新幹線、基幹空港、基幹港湾、あるいは、基幹となる橋や学校、公共施設などの建設はできるだけ前倒しして、集中的に整備することが「賢明」なのである。
11)「どうしても必要とは言えない」ものへの投資は絶対に行わない事 !
その代り、長期的に考えて、「どうしても必要とは言えない」ものへの投資は絶対に行わないことだ。
豪華絢爛な役所の庁舎など、まったく必要ないだろう。
コンサートのないコンサートホールも不必要だ。車が通らない道路を作る必要もない。
ひとつの県にひとつの空港というのも必要ない。無駄な投資は全廃するべきだ。
他方で、長期的に見て、どうしても必要、作るべきものについては、これを見極めて、出来るだけ早期に、集中投資を行って、できるだけ早くに完成させてしまう。これが賢明な対応なのである。
北陸新幹線が開業して大きな期待が寄せられているが、長野−金沢の228キロの開業に18年もの時間を費やしたことの意味を、私たちはしっかりと見つめるべきだ。
安全なものでなければならないから、中国を手放しで礼賛できないが、中国が5倍の距離の建設・開業をたったの3年で実現したこととをよく比較する必要がある。
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