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日銀の黒田新総裁による金融政策では、マネタリーベースを年間60〜70兆円増加させ、2014年末には270兆円に倍増させる計画とのことである。素人はお金は日銀が刷るものだから、そこがマネタリーベース(紙幣と銀行が日銀に持つ当座預金口座の残高)を倍増させるというのだから世の中にはお金が溢れ、物価は高騰し、通貨価値は下落するインフレが起こるものと誤解する。
まず、お金(通貨)は日銀が作るものだというのは誤解である。
実は大部分の通貨は日銀ではなく、市中の普通の銀行が創るのである。
通貨には、紙幣と硬貨に加えて「預金通貨」がある。大金の取引をする場合、キャッシュを使うのはヤクザか政治家くらいのもので、多くは銀行の預金口座間の移動で決済される。現在では小口の支払いでもクレジットカードなどを使うことも多くこれも銀行口座間の資金移動である。
つまり、銀行口座の残高が通貨そのものなのである。
銀行口座の残高はどのように創られるか。誤解の最たるものは、預金残高はキャッシュを預けることのみで生まれると考えることである。もちろんそれも一部であるが、大部分は銀行からの融資で生まれるのである。
それでは融資の基となる資金はどこから持ってくるのか?
日銀が供給するマネタリーベースもその一部である。預金もその一部であるが、多くは「信用創造」というマジックによって、普通の銀行で預金通貨が創られる。
銀行が融資する原資は庶民の細々とした預金かも知れない、あるいは日銀から供給されたマネタリーベースの一部かも知れないが、融資した資金は銀行の預金口座に振り込まれ、これを別の融資の原資として使うことができるのである。融資を受けた者はそのお金を使うだろうから振り込まれた口座にそのまま留まっている訳ではないが、ほとんどは現金で持ち出されることはなく銀行口座間の振込による移動である。ということは、どこかの銀行の融資の原資になるのである。
この仕組みでは原資は無限であるが、実際には預金を融資に回す場合一部を日銀の口座に預ける仕組みになっており、その割合を「預金準備率」という。これは2兆5000億円を超える預金については1.2%、500億円以下の“小規模預金”については0.05%とか0.1%などという値である。
ということは小口で100万円の預金を基にして1000倍の10億円を融資することが可能でそれが預金残高、つまり預金通貨となるなのである。
マネタリーベースの日銀口座は、準備率を引いた98.8%を融資することは可能で、紙幣を含めて、それらが5000億円以下の“小口預金”に化ければ1000倍に創造可能となる。つまり、理論上は日銀の1兆円のマネタリーベースから1000兆円程の通貨が創造され得るのである。
現金と預金を合わせた広い意味の通貨の総量は日銀から“マネーストック”として統計情報が発表されている。2013年3月の統計として、現金通貨79.2兆円、普通預金や当座預金の要求払い預金である預金通貨472.3兆円、主に定期預金である準通貨が557.3兆円、CDと呼ばれる譲渡可能預金32.5兆円、この総計はM3と呼ばれ、1141.3兆円となっている。
マネタリーベースは2013年3月の統計として146.4兆円と発表されている。
146兆円から仮に0.1%預金準備率で創造され得るマネーはなんと、14.6京円というとんでもない金額となる。もし日銀の新政策によってマネタリベースが270兆円になるとマネーストックは27京円に創造され得るが、実際にはそんなにお金を借りる人はいないのでそんなことにはならない。
マネーストックつまり出回る通貨の量の増加がマネタリーベースで制限を受けることは実際には無いのである。
出回る通貨の量を増やすには銀行の貸し出しを増やす、つまり資金需要が増えるように景気を良くする意外にない。
アベノミクスなどと呼ばれ円安と株高が進行し、景気が良くなっているような気分があるが、日銀の政策が関連したとしたらせいぜいアナウンス効果で、資金需要の増加があるとしたら主に財政出動を期待してのものだろう。
円安はマネタリーベースの増加で起きたのではなく、政府・日銀の政策で円安に誘導されると予測した投機資金の動き、あるいは日本経済の本質的な弱さから将来的な円安を予測した投機資金の動きによるものだろう。
マネタリーベースの増加が実質的にはどのような効果があるか?
日銀の資金供給では金融資産を買い上げる。この金融資産には国債はもちろん株式などの上場投資信託もある。国債の買い上げは一般銀行が保有するリスクを日銀が引き受けることである。
国債の貸し倒れリスクはほとんど考えられないとしても、金利の増加による価格下落のリスクは大きいが、日銀が引き受けてくれれば銀行にとってこんな有難いことはない。
上場投資信託の買い上げは株式や債券の買い支えである。
マネタリーベースの増加で出回るマネーが増えるために景気が良くなるというゴマカシに騙されないようにしたいものである。
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