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TPPの本質を見極めよ! わが国を襲う経済ナショナリズム
ジャーナリスト 東谷 暁
野田総理の愚行
この国の政治的リーダーたちが、ほとんど自国の命運について真摯に考えていないことを如実に示したのが、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)をめぐる言動だった。野田佳彦首相はAPEC(アジア太平洋協力)に出かける直前、国会の集中審議において自民党の林芳正議員に「条約(および協定)と国内法は、いずれが上位にあるか」と質問されてしどろもどろになり答えられなかった。
菅直人前首相が国会でTPPの内容について聞かれて、「わからない」と答えたのもすごかったが、これからTPPという多国間経済協定への参加を表明しようという首相が、こんな基本的な点も理解していなかったのだ。弁護士資格のある枝野幸男通産相が駆け寄り、何事かをささやいてから、野田首相は「条約」だと答えて窮地を脱したものの、実は、この答えも十分ではない。日本は「条約が国内法に対して優位」だが、アメリカは「条約は州法よりも上位だが、国内法(連邦法)とは同位」なのである。
こんな首相がホノルルで事実上TPP交渉参加を表明してしまったわけだが、さらに首相をサポートすべき官僚も、信じられないような失態を繰り返した。なかでも驚愕の愚行といえるのが、経済産業相の宗像直子通商機構部長のケースだ。宗像部長は自分の「願望」に基いて「日本はすべての物品、サービスを(TPPの)貿易自由化交渉のテーブルに乗せる」との一文を含む「発言要旨」を枝野通産大臣に手渡し、その文面がテレビに映り、アメリカ側がそれを日本側の見解だと発表してしまった。日本政府は、その後、アメリカ側の誤解であるかのようにごまかしたが、すでにこの文書はアメリカでは報道されてしまっていたのである。
なぜ、日本の政治家や担当官庁の官僚は、国の存立をかけた駆引きであるはずのアメリカとの交渉において、これほどまでにナイーブで不注意なのだろうか。しかも、これほどまでに愚行を重ねているというのに、こうした政治家や官僚の決定的な失態に対し、日本人は異様な寛容と底しれぬ無関心で臨んでいるのである。そこにはTPPというものが、グローバリズムのなかであたかも自然な流れとして受け止められているという背景がある。だからこそ、「TPPは第三の開国」だとか、「日本はTPPでグローバル化を推進する」などという不自然で間違った議論が、いまだに繰り返されるのだろう。
TPPは米国による米国のための政策
グローバリズムという言葉は、いまも世界の現状を示すキー・ワードとして頻繁に使われている。しかし、九〇年代から二〇〇〇年代にかけて、アメリカ主導で進められてきた世界規模でのIT革命や金融革命が挫折してしまったいま、これらの「革命」を正当化してきたグローバリズムも、疑いの目を向けられて当然なのだ。いや、このグローバリズムこそ、いまの世界の沈滞を呼び込んだ元凶と考えても不自然ではないのである。
もともとは、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリといった小規模経済の国々による地域経済協定だったTPPに、二〇〇八年、突如、参加を表明したとき以来、アメリカは、それまで同協定にはなかった「金融」と「投資」の自由貿易を入れ込もうと試みてきた。これはもちろん、アメリカ経済にとって国家産業であるウォール街の強い意図が背後にあったからである。
さらに、二〇〇九年、オバマが大統領に就任すると、この新しいTPPは「国内の景気回復と雇用増大のための政策」として位置づけられることになる。オバマ政権はTPPが雇用対策であることを強調し、USTR(米通商代表部)が上院と下院に送った文書にも、そのことが明記されていた。しかし、この時点ではアメリカ以外の参加国が七カ国に増えていたとはいえ、アメリカの貿易総額にしめるこれらの国の貿易額は、わずか四・二%にすぎず、ウォールストリート・ジャーナル紙に掲載された論文は「TPPには何もない」と酷評した。
このころから、アメリカの複数のシンクタンクが、この小さなTPPを日本や韓国を含めたそれなりの規模の経済協定にすることを提言し始め、さらに、TPPを環太平洋の安全保障とからませるプランを売り込み始めた。ただし、売り込んだ先は国防総省ではなくUSTRだったことからしても、TPPは安全保障の推進が目的だという議論はいかがわしく、少なくともアメリカの雇用対策が先行しており、安全保障の視点は後発のものだったことは知っておいたほうがいい。
いずれにせよ明瞭なのは、アメリカがITバブルと住宅バブルを続けざまに崩壊させ、同時にこれらのバブルを拡大していった金融によるグローバリズムが破綻した後に、アメリカ経済の低迷を脱却するために打ち出された、アメリカによるアメリカのための通商政策だということである。つまり、日本ではTPPへの参加こそがグローバリズムに対応する方途だと主張されるが、アメリカからしてみれば金融を押し立てたグローバリズムの破綻後に、苦し紛れに打ち出されたポスト・グローバリズムの政策だということである。
それでは、このポスト・グローバリズムの政策は成功するのだろうか。端的にいって残念ながらほとんど成功の可能性はない。日本のTPP賛成派はこのTPP戦略がアジア太平洋地域の貿易に秩序を生み出して、アメリカを中心とする自由貿易の広域地域が統合されるなどと述べている。しかし、「アジアの成長を取り込む」との掛け声は大きくても、TPPには中国とインドという、まさにいま成長の中心となっている国が欠落しているだけでなく、こうした国々は簡単にはTPPに参加することはないだろう。
というのも、TPPの予想される条項の多くは、きわめて自由貿易度が高いだけでなく、成長途上の国にとって、いましばらくは(あるいは長期にわたって)自国の政策によってコントロールしなくてはならない金融と投資を、アメリカのウォール街に委ねかねないものだからである。たとえば、中国だけを見ても、この国には巨大な国家ファンドが存在しており、また、国家が経営する企業が多くある。いま成立しつつあるTPPの条項をまともに解釈すれば、この点だけでも、とても中国が参加できるようなものではないのだ。
日本では奇妙なことに、中国もTPPに参加することになるという議論が真顔で交わされているが、これもグローバリズムという概念で括ってしまい、急成長を遂げてきた中国も、そのグローバリズムの担い手であるかのように思いこんでいることからくる。しかし、中国の場合には、アメリカが中心となって進めて来たグローバリズムを利用することは熱心だったが、だからといって経済制度をアメリカに近づけようとする気はない。日本人は経済制度をアメリカ化されることに、この二十年間疑問を感じることがなくなってしまったが、だからといって中国やその他の開発途上国も同じだと思ったら間違う。
グローバリズムとしてのTPPが成功しそうにない最大の理由もここにある。繰り返し述べてきたように、金融と投資を中心とするアメリカのグローバリズムが失敗したからこそ、アメリカは雇用増大のためにTPPをあたかもグローバリズムの展開であるかのように見せかけているが、その実、TPPはアメリカの権益の囲い込みに他ならない。しかし、新興国といわれる経済成長率が高い国々は、それぞれの経済発展を自国のアイデンティティの維持のために行っているのであって、金融グローバリズムの破綻があきらかになったいま、こんなアメリカン・イデオロギーをそのまま受け入れているのは日本だけなのだ。
以下全文は『月刊日本』1月号をご覧ください。
『月刊日本』の許可を得て転載
http://gekkan-nippon.com/?p=1792
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