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あまり書店には並んでいないが「月間治安フォーラム」という、もっぱら公安警察関係者を上得意とする月刊誌がある。
その5月号に、やっとというか、橋下徹大阪市長・大阪維新の会が取り上げられている。ミソもクソも何でも書き連ねるこの右翼雑誌が「維新の会」を正面から取り上げたのは、おそらく初めてだ。まああまり触れたくないと言うか、ある意味「身内」の問題だからだろうか。
長期間連載されてきた「ロシア諜報史」の「世界共産革命総合輸出商社」という、まがまがしい表題の論文の中に、ひっそりとあまり目立たないように書かれている。
筆者は元防衛大学校教授の瀧澤一郎。反共でロシア嫌いのこの男、もっぱら「ロシア研究家」の肩書きで、あの「桜チャンネル」に常連評論家として登場している生粋の右翼的論客である。
ご存知と思うが「桜チャンネル」とは、「日本の伝統文化の復興と保持を目指し、日本人本来の心を取り戻すべく設立された日本最初の歴史的文化衛星局」等と称して、右翼反動丸出しのニュース動画配信を行い、また近年「フジテレビの韓流反対」とかを掲げて大量の「日の丸」乱立のデモを行なっている「頑張れ日本」の事務局長を努める「水島総」が社長として鎮座している「トンでも情報産業」のひとつである。
なお、この「頑張れ日本」は別名「田母神グループ」と言われ、元航空幕僚長の田母神が代表である。
この論文で瀧澤一郎は「天皇共産主義の擬態」とか「橋下市長はヒトラーか」を表書きにして、橋下徹・大阪維新の会を次のように書きなぐっている。
「天皇共産主義の擬態」では
日本赤色化の傾向はまだ数十年は強まりこそすれ、弱まることはないだろう。橋下徹大阪市長り率いる「大阪維新の会」の運動も一種のコミュニスト運動と見なされる。彼の
主張する「地方分権化」「道州制」などはDevide and Rulekの政治公理にもとづいた中央主権の分散化による国家の溶解→共産化への巧妙な戦術である。
橋下市長は「日本の元首は天皇」と発言したと報道されているが、天皇陛下をてっぺんに飾り共産主義は戦前からあった古い、汚い、不敬な策謀である。
希代のアジテーターであった北一輝も天皇共産主義者であった。橋下市長は石原慎太郎知事と接近し合っているいうが、石原知事の「右翼」姿勢は単なるポーズかも知れず、過激派上がりで半島系といわれる猪瀬直樹を副知事に登用するなど問題は少なくない。
「船中八策」をもじって「維新八策」などという面妖なものをひりだし、坂本龍馬を気取っているようである。俗に流布された坂本龍馬像は、流行量産作家・司馬遼太郎の創作である。龍馬の歴史学上の評価はまだ定まってはいない。少なくとも、かれなかりせば開国や明治維新・文明開化はなかったなどという解釈は荒唐無稽だ。
などなど。
「橋下市長はヒトラーか」では
橋下市長はまだネームバリーの残る司馬遼太郎を自己宣伝に利用する。そういうところはゲッペルスに劣らない宣伝巧者である。ヒトラーの政治的飛躍はゲッペルスの宣伝によるところが大きい。橋下市長の政治的飛躍にヒトラーのそれを重ねて見ている者は、一人筆者にとどまらないだろう。既存の政治勢力が行き詰まったとこで、その隙間を縫うように浮上する新星。ヒトラーもマスコミを煽り、マスコミを巻き込んだ。
女性層に猛烈な人気があった。女性票がヒトラーを政権に就かせたのだ。民主党はいま
18歳投票権を画策しているというが、そんなになったら衆愚をとおりこして衆狂に及ぶ。(略)ワイマール共和国の女性参政権付与がヒトラーに権力を掌握させ、ドイツを地獄に落とした。橋下市長をヒトラーに擬して危険視するのは、杞憂であろうか。(略)皇室の問題も、経済・政治・教育などのあらゆる問題も、困難はみな共産主義から来ている。
確かにこの瀧澤一郎の論文は、陳腐極まるものと言える。
しかし、そこにはやはり、この国の天皇制=国体護持を至上命題とする保守本流・保守潮流の本音、突然自分たちの前に躍り出た橋下徹=維新という、まるで訳のわからない新興政治勢力の登場に対する、ある種驚愕の思いと、これに対する危機意識、危険意識の吐露、そしてまたある意味、橋下徹に対する「そうはさせないぞ」という恫喝どはないかと思う。保守本流の論客が「治安フォーラム」という「自分たちの土俵」の中で初めて、あからさまに橋下徹=維新の会を論じたと言うことである。
だが、今や、いわゆる市民派を称する人々の中にさえ、橋下徹=維新の会に対するアレルギーが薄れ、少なくとも関西に於ける選挙で、彼らの連戦連勝を許しているという厳しい状況のなか、私たちはこの保守本流の論客が橋下に抱く危機感・危機意識を、逆の立場からより一層強めて行かねばならないのではなかろうか。
ついでだが、瀧澤一郎の「坂本龍馬解釈」はまず正当なものと思う。
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