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映画「ザ・コーヴ」と環境問題 http://www.asyura2.com/10/nametoroku6/msg/250.html
映画「ザ・コーヴ」と環境問題 これも環境"問題"によって引き起こされた"問題"であると言えるであろう――和歌山県太地町のイルカ漁を告発した米映画「ザ・コーヴ」がアカデミー賞を獲得したと言うニュースである。太地町の漁協や町民の方々の心労をお察ししたい。 (以下、貼り付け) アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞は、日本のイルカ漁を告発した米映画「ザ・コーヴ(入り江)」(ルイ・シホヨス監督)が獲得した。同監督が設立した米国の環境保護団体が和歌山県太地町(たいじちょう)のイルカ漁を隠し撮りした映像を使い、「高濃度の水銀を含むイルカ肉をクジラ肉として販売している」などと日本の捕鯨も批判している。 受賞を受け、太地町の三軒一高(さんげんかずたか)町長と町漁協の水谷洋一組合長は「漁は県の許可を得て適法・適正に行っている。(作品は)科学的根拠に基づかない虚偽を事実であるかのように表現しており、(受賞は)遺憾だ」とコメントを発表した。 捕鯨で知られる太地町では、イルカ漁にも町漁協の約20人が従事している。県などによると今年の漁獲枠は2845頭。県の担当者は「江戸時代から約400年続く食文化なのに」と困惑する。 (貼り付けおわり、出所:毎日新聞 2010年3月9日) イルカ漁や捕鯨に関わる問題としては、この他にも、シー・シェパード問題やグリーンピース問題があり、時々新聞の紙面等を騒がせている。 さて、我々はイルカが可愛いとか、クジラはアタマが良いから可哀相だというような感情的(主観的)な主張だけを聞くのではなく、もう少し客観的に問題の構造を見ていく必要がある。環境問題をしっかり考えるということは、そういうスタンスに立つということでもあると思うのである。 そもそも捕鯨は、西洋諸国においては、鯨油をとるために盛んに行われてきたが、石油社会(経済)が形成されることによって下火になった。これは、19世紀後半から20世紀初頭あたりの出来事であろう。そうした社会と経済の構造変化に乗じて、キリスト教教義との整合性をとる形で捕鯨は非難され、制限の対象となっていった。 そして現在は(鯨油を代替した)その「石油」が、石油依存型農業・砂漠化(環境問題)の原因であるとされ、原子力などからエネルギーを取り出す方向へと社会と経済が進もうとしている。原子力というのは巨大な商業利権であることは誰も否定できないだろう。人間の理性の働きは、経済性という基礎があって始めて成立するという哀しい現実も理解しておかねばならないようである。 キリスト教では、人間が自然を支配することは、父なる神(といずれはキリスト)が自然を支配することでもあり、家畜はその自然の一部であるから、殺して食べてもよいという説明をよく聞く。愛護の対象となるイルカやクジラと、牛や豚とでは「絶対境界線」が引かれているようである。こうした日本人とは相容れない考え方が、日本と欧米の両者の文化の違いとして問題視されているのであろう。日本人にはそういうアプリオリ的な教義には納得が出来ないから、もう少し感性と理性に訴えるものが必要だろう。 国際的な制約・制限は、各国間の交渉を経て現実的なラインに落ち着くものであると思われる。したがって、キリスト教教義やアジア的汎神論などのイデオロギーではなく、もっと共通認識を形成しやすい現実的な環境問題の視点が与えられる。これが「生物多様性」という視点であろうと思う。これは環境問題を、生物間の複雑な関係=体系=動的構造の視点で捉えたものであり、これを守るということは、鳩山首相ではないが「いのちを守る」ということと同義になるだろう。 「いのちを守る」というのは、可哀相だから、アタマの良いクジラではなく豚や牛を食べろということではない。「生きる」ということと「死ぬ」ということ――そういう生物の複雑な営みを守ることである。現在主流の環境問題である、石油依存型農業からの脱却や砂漠化防止ということも、「いのちを守る」ということの範疇にある。 各国の持つ文化とは、そういう生態系の維持・保全という概念を含んだものであるから、ある"外国"が外圧によって他国の文化を変えようとすることは、(軍事力を使わない限り)そう簡単ではない。特に、その"外国"が動物愛護という美しい主張をしていても、その"外国"の畜産業や農業(飼料生産業)の維持・拡大という商業利権(例えば中国で肉食化が進むことで輸出を拡大できること)とは無関係ではないことは、我々にとって明瞭であり、見透かされているからである。 しかし、実際に落ち着くところの環境保全の運用管理は、即物的で冷たいものかも知れない。例えば、上述の太地町では2845頭という漁獲枠があるし、このようなしっかりとした調査と分析によって定められた制限内であれば、漁獲は許されなければならないし、逆に、これを超えて乱獲される場合は非難される必要がある。事実をしっかりと踏まえる必要があるが、場合によっては(生物多様性が脅かされていることが証明できるのであれば)、地中海・大西洋産のマグロの輸出入禁止については正当性があるのかもしれないし、そうでなければ我々は強く反論する必要がある。 さて、私が本当に問題視しているのは、こうした文化対立問題や(こうした狭義の)生物多様性問題ではない。 (以下、貼り付け) 「捕鯨の町」として知られる和歌山県太地町で、鯨肉を食べる住民の毛髪から日本人平均の10倍を超える水銀が検出され、一部で世界保健機関(WHO)の安全基準を超えていることが分かった。北海道医療大などが住民50人を調べた。鯨肉の水銀汚染は国内外で報告されており、長期間、食べ続けたことで、人体に蓄積された可能性が高い。環境省も全町民を対象に健康への影響がないか、調査中だ。 (貼り付けおわり、出所:朝日新聞 2010年1月22日) 同じ和歌山県太地町である。住民の方々の心配と心労は強烈であろう。しかし現実は、健康への影響の有無は調査中であるので、ある一定の前提と方法で測定された水銀濃度がある一定の基準を超えた、ということでしかない。しかし、水銀は「水俣病」によってイメージが相当に悪い。上述の映画「ザ・コーヴ」でも、「水俣病」患者の映像が使われたイメージ操作も含まれているという。 つまり、これは事実の一面を切り取って表現したのに過ぎないのである。例えば、肉食はガンのリスクファクターであることは知られており、鯨食と比較しての健康への総合的な影響を論ずるものは存在しないように思う。また、狂牛病の原因であるプリオンが輸入牛に混入するリスクも考慮されていなければならないし、そもそも遺伝子組み換え(飼料)や共食い(肉骨粉)が許容された家畜の生体内で起こっているであろう問題については十分な解析と認知が行われていない。 また、水銀の問題自体についても、生体内での挙動が多くの研究者の研究対象となっており、いくつかの仮説が提出されているものの完全には解明されていないと言えるだろう。 (以下、貼り付け) 海棲哺乳類や海鳥類は海洋生態系の高次に位置しており、餌から相当量のメチル水銀を取り込むため、体内 (主として肝臓) に水銀を高い濃度で蓄積している。これら海棲動物の肝中水銀のほとんどは無機態に変換されており、セレンと等モルで蓄積していることがこれまでの研究で明らかにされている。またいくつかの海棲高等動物では、鉱物化したHgSe (水銀セレニド) の肝中存在が確認されている。これらのことから海棲高等動物の体内では、餌から取り込んだメチル水銀が脱メチル化され、セレンと等モルで結合し、生物学的に不活性な形態となること、すなわち体内の水銀は解毒されると考えられている。 (貼り付けおわり、出所:愛媛大学「海棲高等動物の水銀解毒に関する研究」池本徳孝(生態環境計測分野)) 水銀、メチル水銀、水銀セレニド、またはその蛋白質構造体、遺伝子組み換え飼料、肉骨粉・・・こうしたものが生体内でどのような挙動を示し、どのように悪さをして、どのようには悪さをしないのか(させないのか)。今現在、多くの科学者によって解明が急がれている。こうした生体内挙動と捕食関係を合わせて、さらには工業排水などによる海洋汚染を合わせて、生物多様性や生態系の正しい認識に到達できると言えるだろう。 しかし、生態系や生物多様性は非常に複雑である。我々の生きている間には解明できないことも多いし、かつての天動説や熱素説などの間違った結論を導くこともあるだろう。こうした場合、その国の持つ歴史や伝統や文化が正しい結論を出していることも多い。我々は、(商業利権を背景としているような)近視眼的・単視眼的な見方に対しては敏感になって、批判的態度を保つべきである。そうでないと正しい判断が出来ないためである。 話は変わるが、本日、閣議で地球温暖化対策基本法案が決定した。 日本でもヨーロッパと同じくキャップ・アンド・トレード制度の導入が進んでいく見通しとなるだろう。ただし、90年比25%という日本の中期目標は、各国が公平な目標設定に合意することを条件とし、また、キャップを「総量方式」にすべきか「原単位方式」にすべきかの決定は保留となった。つまり、まだ大きな流動性・柔軟性を持たせていることを意味する。NGOなどでは不満のある人も多いだろうが、私は、この過程は"道理"であると思う。なぜなら、環境問題はダイナミックなものであり、常に流動性・柔軟性を伴うものであるからである。そして、それだけ政府や企業の環境経営戦略は難しいものである。
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