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No629 (2011/07/03)
自然エネルギー発電についての対話
このところ、菅直人の愚かな自然エネルギー導入への執着を批判するレポートを集中的に公開しています。この問題に対して、あるHP読者からご意見をいただき、何度かメールの交換を行いました。HPにおいてもできるだけ具体的に説明を尽くしているつもりなのですが、なかなか思うように伝わっていないようです。
このHPの目的はできるだけ多くの方に科学的な合理性に基づく情報を理解していただくことなので、真摯なご意見に対してはできる限りの対応を行いたいと思います。ただし、はじめから議論になりそうもない意見につきましては黙殺いたしますので、ご了承ください。
では、最初にいただいたメールを紹介します。
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件名:質問があります。
2011.07.02
はじめまして、近藤様。
「環境問題を考える」拝見いたしました。
No611 「自然エネルギー発電のコスト試算」について質問があります。
2020年代の計算をするのなら「年間太陽光パネルの供給量」+「コストダウン」も
考慮しなくてはいけない気がします。
例えば、10年後の供給量が3倍になり、コストがダウン1/3になる可能性もあります。
現時点で10%全てを賄えるわけではないのでその辺はどうお考えでしょうか?
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HP管理者からNo.611「自然エネルギ-発電のコスト試算」についてのご意見です。この方のご意見は、太陽光発電には、将来的な技術的なブレーク・スルーの可能性があるから、現状の技術で費用を推定するのは妥当なのか、と言うものです。この件につきましては、No.626「工業技術評価:風力発電を例に」で書いたとおり、将来的な「可能性」では評価に値しないのです。あくまでも政策としての予算を推定するには現有の技術だけで判断すべきです。いただいたメールに対して、次のような返信を送付しました。
(青文字が近藤の書き込み)
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件名:Re:質問があります。
2011.07.02
******* 様
> > 例えば、10年後の供給量が3倍になり、コストがダウン1/3になる可能性もあります。
■まず、将来的な技術の進歩は成功した段階で考慮すべきことです。可能性で見切り発車することで原発のような間違いが起こるのです。この件については次の記事をご覧ください。
No626 (2011/06/27)
工業技術評価:風力発電を例に
http://www.env01.net/frommanager/2011/fm2011_16.htm#n626
■コストの件については、次の3つの記事をご覧ください。まず第一に、屋外環境における太陽光発電の太陽放射から電気への変換効率の上昇はほとんど限界に来ています。後は、生産プロセスの改善の可能性はあるかもしれませんが、「供給量が3倍になり、コストがダウン1/3」は何の保障もありません。供給量と生産プロセスの改善には直接何の関係もありません。
■No.595、No.624で触れていますが、自然エネルギー発電の本質的問題である不安定な太陽光発電を運用するためには蓄電装置をはじめとする多くの付帯施設が必要になります。家庭用蓄電池の併用だけでも太陽電池パネルの2倍以上の費用になりますが、メガソーラー発電施設などを作ることになれば揚水発電所の建設なども視野に入れることが必要になるでしょう。
■これらを含めた太陽光発電システムの中において、太陽光発電パネルだけが多少改善されてもシステム全体のコストは大きく変わりません。むしろ不安定な電力が増えれば増えるほど、送電線網の受ける負担も増大し、ますます付帯設備が大きくなります。
No594 (2011/05/03)
連載 脱原発は科学的な必然
そのI 太陽光発電は石油消費を加速する
http://www.env01.net/frommanager/2011/fm2011_11.htm#n594
No595 (2011/05/04)
連載 脱原発は科学的な必然
そのJ 不安定電力はエネルギー効率を落とす
http://www.env01.net/frommanager/2011/fm2011_11.htm#n595
No624 (2011/06/22)
自然エネルギー発電幻想
http://www.env01.net/frommanager/2011/fm2011_15.htm#n624
> > 現時点で10%全てを賄えるわけではないのでその辺はどうお考えでしょうか?
■???意味が良くわかりません。
近 藤 邦 明
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この返信に対して、再度いただいたメールは以下の通りです。
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件名:Re:質問があります。
2011.07.03
丁寧なご回答ありがとうございました。
お察しのように細かい計算も得意ではなく、アバウトな人間のアバウトな質問でした。
私が聞きたかったのは10年後の未来の可能性を否定されるような意見があったように思いましたので質問させていただきました。
> >屋外環境における太陽光発電の太陽放射から電気への変換効率の上昇は、ほとんど限界に来ています。
すみません。私は専門家ではないのでわかりません。これ以上、変換効率の上昇する可能性は本当に無いのでしょうか?
> > 「供給量が3倍になり、コストがダウン1/3」
> >現時点で10%全てを賄えるわけではないのでその辺はどうお考えでしょう
> >か?
すみません。質問の仕方が悪かったみたいです。
「供給量が増える=コストが下がる」という意味ではなく「今より供給量が増えたり、今よりコストダウンが可能になったり」とでもいいましょうか?
例えば「現時点では太陽光発電を普及しようにも生産が全く追いつかない」とか「10年前の太陽光発電の価格が今より高かったのならば、10年後は今より安くなってる可能性はある。」みたいなことです。
2020年代迄に太陽光発電で10%を賄うという話なのにまるで今すぐにでも10%にするかのごとく計算をされているので、それは供給量的にもコスト的にも不可能では?という意味でした。
現時点の金額で計算して「供給電力の10%を太陽光発電で賄うための低めの推定金額は160兆円程度ということになります。」低めの推定金額というと10年後はさらに価格が高騰するというふうに受け取れますがそれでいいのでしょうか?
ちなみに現在太陽光発電は1kw当り平均約70万円と聞いていますが、3kwで260万では少々高い設定に思えますがどうなんでしょうか?
私は「自然エネルギーは善」と思っているわけではありません。
ただ可能性を模索している段階なのかなと思っています。
出来れば、近い未来に小さな単位(各家庭)で「スマートグリッド」なるものがもっとお手軽な値段で自産自消が可能ならばそれもいいのかなと思っている程度です。
家で発電した電気をそのまま家で使ったり、電気自動車などに蓄電したりなどして家庭では原発に頼る事なく生活が出来れば、原発とは縁が切れるのかも知れない程度の思いです。
売電による全量買取制度などで送電網に不安定な負担をかけるやり方や、消費者にその分の電気代を薄く負担させるやり方も腑に落ちないと思っています。
残念ながらHPを細かく閲覧することは少々無理なので、最後に近藤様の将来のエネルギー源は何が理想なのかをお聞かせ願えますか?
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このメールに対する私の返信を紹介します。
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件名:Re:質問があります。
2011.07.03
****** 様
■前回紹介した記事をご覧いただいていることを前提にお返事します。
> > 私が聞きたかったのは10年後の未来の可能性を否定されるような意見があったように思いましたので質問させていただきました。
■繰り返しになりますが可能性とは実現されていないことを示しているのであって、可能性で政策を論ずるのは無意味です。もし現実に改良が進めばその段階で政策なり、予算案を見直せばよいだけのことです。
> > すみません。私は専門家ではないのでわかりません。これ以上、変換効率の上昇する可能性は本当に無いのでしょうか?
■No.594でエネルギー保存則から、太陽光発電の太陽放射に対する電力への変換効率の理論的上限値を示したとおりです。技術屋は自分の専門分野について視野狭窄に陥っていますが、エネルギー問題を扱うのならば、エネルギー保存則やエントロピー増大の法則、熱効率の法則は「法則」であって、これに反するような技術開発はできないことはわかりきっているのですが、これを見失って愚かな技術開発をしています。
> > すみません。質問の仕方が悪かったみたいです。「供給量が増える=コストが下がる」という意味ではなく「今より供給量が増えたり、今よりコストダウンが可能になったり」とでもいいましょうか?例えば「現時点では太陽光発電を普及しようにも生産が全く追いつかない」とか「10年前の太陽光発電の価格が今より高かったのならば、10年後は今より安くなってる可能性はある。」みたいなことです。
■了解です。これも可能性の問題のようですので答える必要は無いと考えます。
> > 2020年代迄に太陽光発電で10%を賄うという話なのにまるで今すぐにでも10%にするかのごとく計算をされているので、それは供給量的にもコスト的にも不可能では?という意味でした。
■現段階で菅直人は2020年代の早い時期に20%と言っているのですから、その現実的な可能性を検討したのが最初にあなたが取り上げられた記事です。その条件として半分を太陽光発電で賄うとして総費用がどの程度になるのかを試算しただけです。繰り返しますが、予算の推定値はあくまでも現在達成されている技術で検討すべきです。
> > 現時点の金額で計算して「供給電力の10%を太陽光発電で賄うための低めの推定金額は160兆円程度ということになります。」低めの推定金額というと10年後はさらに価格が高騰するというふうに受け取れますがそれでいいのでしょうか?
■違いますよ。No.595で試算しているように、No.594で推定した太陽光発電電力原価50円/kWhに対して、家庭用蓄電池を併設しただけでも原価は110円/kWhにまで2倍以上になります。更に、スマートグリッドの導入や、不安定電力増大に伴う送電線網の強化や揚水発電所建設などの付帯設備の増大が必要になるのです。これらを考慮すれば、とても2倍などでは収まらないのです。太陽光発電パネルの価格が上昇すると言う意味ではありません。
> > ちなみに現在太陽光発電は1kw当り平均約70万円と聞いていますが、3kwで260万では少々高い設定に思えますがどうなんでしょうか?
■これはどの時点でと言う問題もありますのでご了承ください。ただ付帯設備を含めた太陽光発電システムの中で太陽光発電パネル価格が多少下がったなどというのは微々たる問題だと考えています。本質は不安定の低品質の電力を無理やり利用しようとしていることの無駄です。
> > 私は「自然エネルギーは善」と思っているわけではありません。ただ可能性を模索している段階なのかなと思っています。
> > 出来れば、近い未来に小さな単位(各家庭)で「スマートグリッド」なるものがもっとお手軽な値段で自産自消が可能ならばそれもいいのかなと思っている程度です。
> > 家で発電した電気をそのまま家で使ったり、電気自動車などに蓄電したりなどして家庭では原発に頼る事なく生活が出来れば、原発とは縁が切れるのかも知れない程度の思いです。
■ここに大きな思い違いがあると考えます。自然エネルギーを工業的に利用するためには膨大な工業的なエネルギーの投入が必要なのです。価格が高いと言うことはすなわち大量のエネルギーを投入していることを示しています。ただでさえ高い太陽光発電電力を使うために更にスマートグリッドと言う全国規模の情報通信網と言うハードウェアを整備し、レアメタルを大量に必要とする蓄電池を各戸に備え、さらに不安定電力の調整のために広域大容量の送電線網を建設し、場合によっては揚水発電所を新たに建設することも必要になうかもしれないのです。これらの莫大なエネルギーは、石油火力発電で同等の電気を供給するよりも遥かに多くの石油と莫大な鉱物資源を浪費することになるのです。
■効率の悪い自然エネルギー発電を大規模に利用することはとても「お手軽」では無く、これまでの原発同様に国家政策として巨額の資金をつぎ込んで巨大な国家プロジェクトとして行わない限り成り立たないのです。そこにはもしかするとこれまでの原発以上の利権が発生するでしょうから、利に聡い孫正義は果敢に食い込もうとしているのです。
> > 残念ながらHPを細かく閲覧することは少々無理なので、最後に近藤様の将来のエネルギー源は何が理想なのかをお聞かせ願えますか?
■次の記事をご覧ください。
No.615 (2011/06/04)New!
自然エネルギー考
http://www.env01.net/frommanager/2011/fm2011_14.htm#n615
■末尾の文章を引用しておきます。
「確かに、ポスト石油(天然ガスなどを含む)・石炭エネルギーを考えたとき、自然エネルギーを賢く使うことが重要になります。しかしそれは現在提案されている風力発電や太陽光発電という工業的な技術ではなく、伝統的な粉挽き風車、揚水水車、日向水、パッシブソーラーなどの技術の延長線上にあると考えます。」
近 藤 邦 明
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メールの内容からお分かりのように、自然エネルギー発電に対して一般的に大きな誤解があります。それは、自然エネルギー発電は無条件に良いものだという思い込みです。誤解を恐れずにもう少し具体的に言えば、「自然エネルギーを使えばCO2は発生しない=石油を消費しない」というまことに愚かな信仰です。そして、「問題は導入コストが高いだけだ」と言う頓珍漢な評価です。
自然エネルギー、具体的には風や日差しはどこにでも普遍的に存在しています。確かに人間も含めて地球の生態系はこれらの恩恵を受けています。しかし、風や日差しはそのままでは工業的には無価値であり、それ故経済価値は無く自由財なのです。
この風や日差し=太陽放射を利用して工業的に有用な=経済価値のあるエネルギーに加工するためには膨大な工業生産手段を投入しなければなりません。つまり、太陽光発電電力や風力発電電力を供給している本質とは太陽光発電装置あるいは風力発電装置という電力の生産手段である工業製品の製造なのです。
工業製品とは、石油を中心とする工業的エネルギーを使って原料資源を精錬し加工し組み立てたものです。工業製品の製造は不可避的に大量のエネルギーを消費しているのです。
自然エネルギー発電に対する第一の誤解は、無条件に石油の消費量が減少するという思い込みです。自然エネルギー発電とは工業製品である発電装置を使って自由財である自然エネルギーを捕捉することで発電を行うことであり、発電装置の製造において大量の石油をはじめとする工業的エネルギーを消費することによって成り立っているのです。つまり自然エネルギー発電も大量の石油を消費するのです。
自然エネルギーはどこにでも普遍的に存在する低密度のエネルギーであるため、単位発電電力量あたりに必要な発電設備は従来の火力発電などに比較すると圧倒的に大規模になります。例えば、No.615 (2011/06/04)「自然エネルギー考」で紹介した横浜市のハマウィングという風力発電装置の実効出力は250kW程度でしたが、その総重量は238tでした。これと同等の発電能力のディーゼル発電機やガスタービン発電機の重量は6t程度です。また太陽光発電で同量の発電量を得るためには150m×150m程の太陽光発電パネルが必要になるのです。これだけ巨大な発電装置という工業製品を作るためには莫大な工業的なエネルギーの投入が必要になります。
更に、自然エネルギー発電の出力は予測不能で非定常に変動するため、これを利用するためには自然エネルギー発電装置の他にバックアップ用の発電装置・蓄電装置や制御装置などの付帯装置が必要です。更に大規模な導入を目指せば、揚水発電所や大域での高圧送電線網の建設なども必要になります。
これらの付帯設備を含めた自然エネルギー発電システムの構築には莫大な工業的なエネルギーと資源の投入が必要になります。
その結果、自然エネルギー発電システムの大規模導入は、従来の火力発電に比較して圧倒的に大量の石油をはじめとする工業的なエネルギーを消費し、同時に希少資源を含む大量の鉱物資源をも浪費することになるのです。
第二に誤りは、自然エネルギー発電はコストが高いことだけが問題だという認識です。工業製品の製造コストと石油をはじめとする工業的なエネルギーの投入量は密接に関係しています。石油やその他の資源を大量に浪費する結果としてコストが高いのであり、それは発電装置として致命的に劣っていることを示しているのです。
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