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【トランプ大統領、再選か、バイデン氏当選か ?】
(news.yahoo.co.jp:11/3(火) 11:30配信)
◆なぜトランプ大統領に魅了されるのか ?
フォトグラファー、ランハム裕子が間近で見た素顔
11月3日は米大統領選の投票日。米国市民はトランプ政権の4年間にどのような審判を下すのか。大統領選を前にホワイトハウス詰めのフォトグラファーでトランプ大統領を最も間近でみてきたランハム裕子さんが、トランプ大統領の人物像や米社会に与えた影響について、取材現場で実体験をもとに考えたことをつづった。(写真はすべてワシントンで、ランハム裕子さん撮影)
私はいつも走っている。汗だくになりながら、髪の毛を振り乱し、走っている。全力疾走の先には、きまって「あの人」がいる。まるでアコーディオンを演奏しているかのような大げさな身ぶり手ぶりを繰り返す、表情豊かな「あの人」とは、ドナルド・トランプ大統領(74)だ。2017年1月の就任とともに、フォトグラファーの私は「猛ダッシュ」が日課となった。
おりのような黒いフェンスに囲まれたホワイトハウスの重い扉を開け、金属探知機がある警備室を通り中へ入る。照明機材やモニターが並ぶテレビ局の中継用テントを横目に約80メートル進むと、そこは大統領執務室や記者会見室があるウェストウィングだ。ホワイトハウスの中はとにかく狭い。
ウェストウィングも狭い廊下や部屋が重なり合うように建てられている。そこを機材や脚立を抱えて移動するのは至難の業だ。「エクスキューズミー」が交差する。そんなホワイトハウスで、会見や式典、執務室での会合、各国首脳の出迎え、大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」での発着など、様々な場面を撮影する。
日々の公式予定は大統領のツイート一つで突然変更される。5分前に「これから会見を開きます」という連絡が届いたり、発表内容が不明のまま駆けつけたりすることもある。「会見見てね」というトランプ大統領のツイートで携帯の通知音が鳴りまくる。大統領の予定の中には報道を許可しないイベントが含まれることがある。
本来それは「取材不可」を意味するが、トランプ大統領の「報道陣を呼べ」の一言で、突然記者団にお呼びがかかり、たちまち「取材機会」に変わることもしばしばだ。自分が言いたいことがあればどこでも会見に早変わりする。いつ飛び出すかわからない爆弾発言や重大発表に備え、私はとにかく走る。
身長157センチの私は厚底スニーカーを履き、毎日「戦場」へ向かう。長身の米国人男性フォトグラファーたちに負けてはいられない。トランプ大統領の支持を掲げる右派メディアや個人メディアの参入で、熾烈な場所取り合戦が繰り広げられている。「どけ!」、「押すな!」という罵声が飛び交う。開始時間の大幅な遅れも日常茶飯事。演説の内容が直前で修正されたり、舞台の配置が変更されたりする間、雨や炎天下でじっと待つのも仕事の一部となった。
大統領執務室まで入れるフォトグラファーは限られている。ホワイトハウスに自由に出入りできる記者証を入手するには、常日頃ホワイトハウスを取材対象にしていることを示す実績が必要だ。
私はオバマ政権時代から通い始めたが、トランプ政権になり振り出しへ戻った。当時私は米国籍を持っておらず、ホワイトハウス職員の迎えなしでは入館すらできなかった。おりのような柵の中で3時間待たされたことも。雨の日も風の日も1年半通い続け、顔写真入りの記者証を手にした時は飛び上がって喜んだ。
◆なぜそこまでしてトランプ大統領を追いかけるのか ?
そこまでしてなぜトランプ大統領を追いかけるのか。それは、歴史を記録に収めるためだ。ホワイトハウスで起こる出来事は全てが歴史の一部だ。ある日、友人からこんな質問をされた。「毎日トランプ大統領を撮っても、同じ写真では?」。
答えは「ノー」。場の雰囲気、目つき、表情が変わる瞬間、身ぶり手ぶり、髪、影、息づかいなど、全てが異なる。まるで獲物を狙うかのようにレンズを構える。目の前で繰り広げられる歴史を肌で感じ、自分の目で目撃することは、この上ない特権だ。それを100%生かさない理由はない。たとえその歴史的瞬間が、矛盾や混乱に満ちていたとしても。
まるでジェットコースターに乗っているような日々。ジェットコースターの操縦士はトランプ大統領本人だ。トランプ大統領は常にカメラを意識し、「見せる」ことに徹底的にこだわる。
演説の原稿、舞台の配置や照明から司会進行まで全て自ら指揮をとる。会議ではきまって出席者全員にあいさつを促し、自分をたたえる様子を撮影させる。式典では大勢の招待客を壇上に呼び、自分がカメラに写らなくなると自ら交通整理を始める。
ただ、そこまでこだわった見せ方は常に効果的なわけではない。登場する際の派手な演出も滑稽だ。ある日、自身の顔に強い照明が誤って当てられたトランプ大統領が「俺を失明させるつもりか」と腹を立てる事件が起きた。
以来、ホワイトハウスの照明が消え、薄暗い中でのフォトグラファー泣かせの撮影も今では日常となった。
強い日差しが照りつける昨年7月15日、私はホワイトハウスの正面玄関に広がる庭「サウスローン」へ猛ダッシュした。「メイド・イン・アメリカ・ショーケース」という、米国製品を奨励する式典が開かれるというのだが、具体的な情報はゼロ。
そして、まさかあのようなバトルが繰り広げられるなんて、予想していなかった。到着して、まず目に飛び込んできたのは大型車両や船舶。その奥に視線を移すと、なんと迎撃ミサイルが!高さ約7メートルの発射装置には、しっかりミサイルが装備されている。その隣には農業機械。なんとも滑稽だった。
そこへトランプ大統領がガッツポーズをしながら登場した。ミサイル発射台の運転席に乗り込み、すぐさまハンドルを握ってみせる。遊園地でゴーカートに乗る子供のよう。
関係者が懸命に説明する隣で、トランプ大統領は「どうだ、すごいだろう?」と言わんばかりのドヤ顔で終始カメラ目線だ。展示された全ての製品を視察すると、トランプ大統領はなぜか突然姿を消した。会場がザワザワし始める。その時、大統領登場の曲がものものしく鳴り響いた。
ホワイトハウスの中心にある扉がゆっくりと開き、トランプ大統領が改めて登場する。さっきまで遊園地にいる少年のような表情をしていたのが、まるで別人のような神妙な面持ちで前を見つめている。暗い室内から陰影を帯びた顔が浮かび上がる様子に、頭の中で「スター・ウォーズ」のダース・ベイダーのテーマ「帝国のマーチ」が流れ出したのは私だけだろうか。
「今日の式典は米国製品を祝うものです」。メイド・イン・アメリカ一色の舞台で、米国産業をたたえる演説とともに、「トランプ劇場」第2幕が始まった。トランプ大統領は約20分間、準備された演説を読み上げた。
その後、「製造業について質問ありますか」と切り出した。一瞬会場が静まり返る。通常ホワイトハウスで行われる式典で質疑応答はない。が、「トランプ劇場」に通常はない。マイクが準備されていなかったため、女性記者が大声で叫ぶ。「自分の国に帰ればいいというツイートは誰のことを指していますか」。
みるみるうちに式典が会見に変わる。前日、トランプ大統領は4人の民主党議員に対し、「犯罪まみれで崩壊した自国に帰って、立て直す手伝いでもしたらどうか」というツイートしていた。議員らが移民政策を批判したことから始まったトランプ大統領による反撃は、相手が全員非白人の女性であったため、人種差別発言として物議を醸していた。
◆愛用の油性太マジック
製造業についての質問を受けるかのような素ぶりを見せたトランプ大統領だが、最初からそんな質問は想定していなかったに違いない。なぜなら、演説が終わろうとした時に背広の内ポケットから取り出した一枚の紙には「この国は世界中で一番偉大だ」、「ここで満足しないのであれば出て行ってくれて構わない」などとタイプされていたからだ。
右上には、油性ペンで書かれた「Alcaida」(アルカイダ)の文字(正しくはAl-Qaeda)。トランプ大統領はよくこのようなメモを持ち歩く。油性太字マジックをトランプ大統領は愛用しており、手書きも本人のものと思われる。
質問に対しトランプ大統領はメモ通りに答えた。「ここで満足しないのであれば、(米国から)出て行ってくれてかまわない」。招待席からの拍手喝采と記者からの更なる質問が交錯する。
「4議員のうち3人は米国生まれですが、国に帰れとはどういう意味ですか」。トランプ大統領はメモを見ながら、「議員の一人はアルカイダをたたえているじゃないか」と声を張り上げた。「でも彼女たちは米国市民です。差別ではないのですか?」と記者たちも粘る。すると、トランプ大統領は叫んだ。「でも彼女たちはこの国を愛していない!」
途中、トランプ大統領の両脇に終始無表情で立っていた護衛隊員たちが背後の扉を開け出した。もちろん護衛隊員は段取りに従っているだけだが、「そろそろ時間ですよ」とでも言っているかのように見えた。5分後、護衛隊員らはトランプ大統領一人を演壇に残し、ホワイトハウスの中へ去っていった。
そんなことはおかまいなしで、バトルは続く。話の途中で遮られることを嫌うトランプ大統領は、記者を指さし「静かにしなさい」と叫びながら、口げんかが10分間続いた。会見がエスカレートするにつれ、トランプ大統領は「彼女たちはこの国を憎んでいる」とまで言う始末だった。
この式典はトランプ大統領にとって、4人の女性議員の「非愛国性」を印象付ける舞台演出だったのかもしれない。事前にメモを用意して突然の会見を仕掛け、自分の主張を何度も繰り返した。すべてトランプ大統領の台本通りだった。
式典が終わる頃、あれほど存在感を放っていたミサイルがなんだか小さく見えた。演壇のすぐ脇には、ワイオミング産の帽子、フロリダ産のサンダル、そしてルイジアナ産のタバスコが、小さなテーブルに並んで「トランプ劇場」がいつ終わるのかをじっと見守っていた。
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