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ノーベル賞受賞・本庶佑教授の記者会見の要旨 !
(www3.nhk.or.jp:2018年10月2日 0時01分より抜粋・転載)
ノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった京都大学特別教授の本庶佑(ほんじょ・たすく)さんの記者会見の詳しい内容です。
○冒頭あいさつ:
このたびはノーベル医学生理学賞を頂くことになりまして大変名誉なことだと喜んでおります。これはひとえに長いこと苦労してきた共同研究者、学生諸君、さまざまな形で応援して下さった方々、また、長い間、支えてくれた家族。本当に言い尽くせない多くの人に感謝しています。
1992年の「PDー1」の発見と、それに続く極めて基礎的な研究が新しいがん免疫療法として臨床に応用され、そして、たまにではありますが、この治療法によって重い病気から回復して元気になった、あなたのおかげだと言われるときがあると、本当に私としては自分の研究が本当に意味があったということを実感し、何よりもうれしく思っております。
そのうえに、このような賞を頂き、大変、私は幸運な人間だというふうに思っております。今後、この免疫療法がこれまで以上に多くのがん患者を救うことになるように、一層、私自身も、もうしばらく研究を続けたいと思いますし、世界中の多くの研究者がそういう目標に向かって努力を重ねておりますので、この治療法がさらに発展するようになると期待しています。
また、今回の、基礎的な研究から臨床につながるような発展ということで受賞できたことによって、基礎医学分野の発展が一層加速し、基礎研究に関わる多くの研究者を勇気づけるということになれば、私としてはまさに望外の喜びです。
○質疑応答
Q:受賞の連絡は何時ごろ、どんな形で届いたか?そのときの率直な思いは?
「確か午後5時前後だったかと思いますが、電話でノーベル財団の私の知っている先生から電話がありました。ちょっと突然でしたので、大変驚きました。ちょうど私の部屋で若い人たちと論文の構成について議論しているときでしたので、まさに思いがけない電話でありました。もちろん大変うれしく思いましたけども。また、大変驚きました」
Q:今後、このがん免疫療法をどのような治療の選択肢として発展させていきたいか?
「この治療は、例え話としては、感染症におけるペニシリンというふうな段階でありますから、ますます、これが、効果が広い人に及び、また、効かない人はなぜ効かないのかという研究が必要です。世界中の人がやっていますから、やがてそういうことが、いずれは解決されて、感染症がほぼ大きな脅威でなくなったのと同じような日が、遅くとも今世紀中には訪れるという風に思っています」
Q:自分が心がけていること、モットーは?
「私自身は、研究に関して、何か知りたいという好奇心がある。もう1つは、簡単に信じない。それから、よくマスコミの人は、ネイチャー、サイエンスに出ているからどうだ、という話をするが、僕はいつもネイチャー、サイエンスに出ているものの9割はうそで、10年たったら、残って1割だと思っています。まず、論文とか、書いてあることを信じない。自分の目で、確信ができるまでやる。それが僕のサイエンスに対する基本的なやり方。つまり、自分の頭で考えて、納得できるまでやると言うことです」
「賞というのは人が決めることで、それは賞を出すところによっては考え方がいろいろ違う。ひと言で言うと、私は非常に幸運な人間で、『PD−1』を見つけた時も、これが、がんにつながるとは思えなかったし、それを研究していく過程で、近くに、がん免疫の専門家がいて、私のような免疫も素人、がんも素人という人間を、非常に正しい方向へ導いていただいたということもあります。それ以外にもたくさんの幸運があって、こういう受賞につながったと思っています」
Q:がん研究の転機となるような経験は?
「『PDー1』の研究でいうならば、最初のこれが、がんに効くということを確信できる実験というのは、『PDー1』遺伝子が欠失したネズミを使って、がんの増殖が、正常のねずみと差が出るかどうかということをやった。
それが私はよかったと思います。というのは抗体で実験していて効かなかったら、ひょっとしたら諦めていたかもしれない。抗体にはいい抗体と悪い抗体とたくさんあり、それはやってみないとわからない。
しかし、遺伝子がない場合はそういうことは関係ないので、これは必ず効くということを確信できたので、それがやはり大きな転機になったと思います」
Q:日本の研究の方向性についてどう思うか? また、日本の製薬企業についてどう感じているか?
「生命科学というのは、まだ私たちはどういう風なデザインになっているかを十分理解していない。AIとか、ロケットをあげるというのはそれなりのデザインがあり、ある目標に向かって明確なプロジェクトを組むことができる。
しかし、生命科学は、ほとんど何も分かってないところで、デザインを組むこと自身が非常に難しい。その中で応用だけやると、大きな問題が生じると私は思っています。
つまり、何が正しいのか。何が重要なのかわからないところで、『この山に向かってみんなで攻めよう』ということはナンセンスで、多くの人にできるだけ、たくさんの山を踏破して、そこに何があるかをまず理解したうえで、どの山が本当に重要な山か、ということを調べる。
まだそういう段階だと思います。あまり応用をやるのでなくて、なるべくたくさん、僕はもうちょっとばらまくべきだと思います。
ただばらまき方も限度があってね、1億円を1億人にばらまくと全てむだになりますが、1億円を1人の人にあげるのではなくて、せめて10人にやって、10くらいの可能性を追求した方が、1つに賭けるよりは、ライフサイエンスというのは非常に期待を持てると思います。
もっともっと、たくさんの人にチャンスを与えるべきだと思います。特に若い人に」
「製薬企業に関しては、日本の製薬企業は非常に大きな問題を抱えていると思います。まず、数が多すぎます。世界中、メジャーという大企業は20とか30くらいですが、日本は1つの国だけで、創薬をやっているという企業だけで30以上ある。
これはどう考えても資本規模、あらゆる国際的なマネジメント、研究で、非常に劣ることになる。
なおかつ、日本のアカデミアには、結構いいシーズ=研究の種があるのに、日本のアカデミアよりは外国の研究所にお金をたくさん出している。これは全く見る目がないと言わざるをえないと思います」
Q:研究者を目指す子どもに思ってほしいことは?
「研究者になるということにおいていちばん重要なのは、何か知りたいと思うこと、不思議だなと思う心を大切にすること。教科書に書いてあることを信じない。常に疑いを持って、本当はどうなってるんだ、という心を大切にする。
つまり、自分の目でものを見る。そして納得する。そういう若い小中学生にぜひ、研究の道を志してほしい思います」
Q:基礎研究を臨床につなげるためのコツは?
「基礎研究をやってますが、私自身は医学を志しています。ですから、常に何かの可能性として、これが病気の治療とか、診断とかにつながらないかと言うことは常に考えています。自分の好奇心と、さらに、その発展として、社会への貢献ということは、私の研究の過程では常に考えてきました。
ですから、そういう意味で、新しい発見を特許化したり、そういう応用への手順は非常に早い段階からいろんな局面でやってきました。
突然、『PDー1』は臨床につながりましたが、私の研究マインドとしては、基礎研究をしっかりやって、もし可能性があれば、社会に還元したいという思いは常にありました」
Qノーベル賞の受賞は待ちに待ったものか?
「賞というはそれぞれの団体とか、それぞれが独自の価値基準で決められることなので、長いとか待ちに待ったとか、そういうことは僕自身はあまり感じていません。
僕はゴルフが好きなので、ゴルフ場にしょっちゅう行きますが、ゴルフ場に来ている、顔は知っているけど、あまり知らない人が、ある日、突然やって来て、『あんたの薬のおかげで、自分は肺がんで、これが最後のラウンドだと思っていたのがよくなって、またゴルフできるんや』って、そういう話をされると、これ以上の幸せはない。
つまり、それはもう自分の人生として、生きてきてやってきて、自分の生きた存在として、これほどうれしいことはない。僕は正直いって、なんの賞をもらうよりも、それで十分だと思っています」
Q:ジェームズ・アリソン博士との共同受賞についての受け止めは?
「極めて妥当だと思う。彼とは非常に古い交流がありますし、彼の研究と僕の研究とは、非常に違う局面で、お互いに2つの抗体を組み合わせることで、より強い効果が出るということが知られています。
ノーベル財団の評価でもそのことをかなり詳しく説明していたので、僕自身としては、ベストな組み合わせではないかと思っています」
Q:製薬企業があげた利益を大学などに還元することについて ?
「今回の研究に関して製薬企業は全く貢献していません。それはもう非常にはっきりしています。企業側は特許に関して、ライセンスを受けているわけですから、それに関して十分なリターンを大学に入れてもらいたいと思っています。
そのことによって、私の希望としては、京都大学で次世代の研究者がそのリターンを元にした基金に支えられて育っていく。
その中から、また新しいシーズ=研究の種が生まれる。そして、それが日本の製薬企業に再び帰ってくる。そういうよいウィン=ウィンの関係が望ましいと、製薬企業にも長くお願いしている」
Q:「PDー1」はがんだけではなくさまざまな疾患にも応用が期待されるが、今後の発展についてどう考えるか?
「『PD−1』は免疫のブレーキ役です。現在は免疫を活性化するためにブレーキを外すという形で医薬品として使われているわけですが、逆にブレーキをかけるようにする。『PDー1』の本来の役割を強化するという方法で使うことも十分に考えられます」。
Q:がん研究を志した理由は?
「がんで、在学中に同級生が、いわゆるスキルス性の胃がんで、非常に若くして、あっという間に死んでしまった。非常に優秀な男だったけども、とても気の毒だった。僕だけでなく、多くの同級生がそれを非常に残念に感じて、なかなか忘れられない思い出です。がんというのは非常に大変な病気だと。
それから、そういうことに少しでも貢献できればいいなと、当時はかすかに思いました。結局、そういう、いろんな事が積み重なって、自分の心の中にそういう大変な病気に役立つことにつながればいいなと、医学部で医学教育を受けた人間なら、誰でもそういう心がある。僕はそれが重要だと思う」
Q:さらに忙しくなると思いますが、いまいちばんしたいことは?
「僕がいちばんやりたいのはゴルフの『エイジシュート』です。僕は76歳ですから、ゴルフでスコア76を出すことが最大の目標です。そのための努力は、筋力トレーニングと、毎週、欠かさずゴルフをして、家でもパターの練習をしています」
Q:本庶先生は、特別厳しいと学生から聞くが、今後も厳しくやっていく ?
「他の人と自分を比べていないので、自分が厳しいのか分からないが、真実に対して厳しいのは当たり前で、間違えではないか厳しく問う、何が真実か問う。研究では、常に世界の人たちと戦ってきたつもりですから、戦うには厳しくないと戦えないです」
Q:以前、高校生向けのシンポジウムで本庶さんが『基礎研究を徹底的にやっているから、失敗は絶対しない』とおっしゃっていましたが、その考え方はいつごろから?
「ことばを間違えて欲しくないのだが、実験の失敗は山ほどあります。
しかし、大きな流れが進んでいて、『こうだ』と思っていたら断崖絶壁に落ちてしまった、というのはなかったと申し上げた。それは、崖に行く前に気付かないといけないという意味です。サイエンスというのは、だんだんと積み上がっていくんです。
積み上がっていくときに、端と端をつなぐというのは危ない。この間に、たくさん、互い違いつないでいくことで、その道が正しいかどうかがわかる。そういうことを申し上げたわけです」
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