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2010/05/30 23:01 産経
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/397429/
【参院選】くらし検証(5)
「労働者を直接雇用せよ!」。今年1月、大阪市北区で開かれた集会。労働組合や弁護士団体などから参加した約400人が、鳩山政権下で厚生労働相の諮問機関・労働政策審議会が取りまとめた労働者派遣法の改正案に対し、抗議の声をあげた。
「改正案は抜け穴を認めており、納得できない」。集会に参加した大阪労働者弁護団事務局長の新井邦弘さん(45)は今も怒りが収まらない。「抜け穴」とは原則禁止したはずの製造業派遣で、長期間契約の「常用型」を例外として容認したことなどを指す。
常用型について、厚生労働省は「契約期間が1年以上見込まれる場合」と説明するが、新井さんは「採用時の『見込み』にすぎず、これでは企業がいつでも派遣切りできる」と問題点を指摘。さらに民主党の変節ぶりにも怒りの矛先を向ける。「野党時代は製造業派遣の原則禁止の主張を徹底していたのに、明らかに後退した」というのだ。
これまで複数の派遣会社に登録し、短期の派遣労働を繰り返してきた大阪市内に住む男性(33)も「派遣法の中途半端な改正は、労働者を派遣の仕事から締め出すだけだ」と不信感を募らせている。
労働者派遣法の改正論議は、これまでも時の政治に翻弄(ほんろう)されてきた。
「リーマンショック」に端を発した派遣切りの横行を受け、当時の自民・公明連立政権が平成20年11月、改正案を国会に提出したが、短期の雇用契約を繰り返す「登録型派遣」を認めたため批判が噴出。民主、社民、国民新の各党は21年6月、登録型と製造業派遣の原則禁止を盛りこんだ改正案を提出したが、衆院解散でいったん廃案に。政権交代後、民主党は与党の立場で改正に動き始めた。 これに対し、経営側は猛烈な巻き返しをはかる。
関西経済連合会が21年12月に公表した意見書にも経営側の思惑が色濃く反映されている。
「すべての労働者に、企業が長期の雇用責任を負担することは困難」「製造業派遣が禁止された場合、海外への生産シフトを進める企業の増加が予想される」…。こうした経営側の“圧力”も作用し、労働政策審議会の答申では結局、「常用型」が例外として容認されるに至った。
「まさに経営側と労働側の妥協の産物。軸足の定まらない鳩山政権を象徴している」と政権交代に期待していた新井さんの失望は大きい。
昭和61年に施行された労働者派遣法は当初、対象を通訳など専門性の高い13業務に限定。その後、対象は拡大され、自民党の小泉政権下の平成16年には、製造業派遣も可能となった。
この流れを受けて、正社員が減る一方、非正規社員の割合は増加の一途をたどった。厚労省によると、労働者に占める正職員・従業員の割合は昭和59年の84・7%から、平成21年には66・3%まで落ちこんだ。
しかし、派遣切りの横行などを契機に、派遣労働者の意識は「正社員回帰」へと大きく変化している。
厚労省の20年の派遣労働者実態調査によると、「登録型派遣社員で働きたい」と回答したのは、わずか6・2%。これに対し、「正社員として働きたい」は40・8%、「(正社員に近い)常用雇用型の派遣社員として働きたい」は23・3%で、60%超が安定雇用を希望していた。
労働者派遣法の改正案は、こうした希望に応えられるのか。
「改正案は一歩前進だが…」と西谷敏・大阪市立大名誉教授(66)=労働法=は前置きしつつも、「労働側や経営側に妥協した結果、『常用型』の解釈があいまいなまま『常用型』派遣を認めるなど、民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げた製造業派遣の『原則禁止』とかけ離れている」と指摘。
さらに、こう忠告する。「抜け穴を認めたままの改正案では、派遣切りなどの問題は抜本的に解決しない。当初のマニフェストに沿った内容に修正すべきで、このままでは期待を裏切ることになりかねない」。
=おわり
【労働者派遣法改正案】「派遣切り」の社会問題化を受けて労働者派遣法を見直した法案で、仕事がある時だけ雇用契約を結ぶ登録型派遣や製造業派遣の原則禁止などが柱。厚生労働相の諮問機関・労働政策審議会が昨年末、報告書として答申し、現在、改正案が国会で審議されている。厚労省によると、派遣労働者は平成20年6月時点で約202万人で、規制対象は44万人程度とみられる。
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この連載は、池田祥子、内海敏彦、大島悠亮、加藤浩二、絹田信幸、小林宏之、土塚英樹、山田淳史、渡部圭介、田中伸治が担当しました。
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