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(2011年1月9日掲載) 西日本新聞
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●大規模化という“幻想”・山下 生産性以外の役割大切・宇根
−コメの国内消費が年々落ち込むなどしている中、大規模化で生産効率を上げる構造改革で世界と戦える農業に、という意見は勢いを増している。
山下 そもそも論からいこう。大規模とは何に比べての話か。オーストラリアや米国の1戸当たり農地面積は数千、数百ヘクタールの規模だ。現状2ヘクタールの日本が大規模という10ヘクタールとか15ヘクタールなんか、誤差の範囲内だ。
農産物価格が高いというのも何に比べて高いのか。経済成長を遂げた1980年代、サラリーマンに豊かさの実感がないのは、世界に比べて食費が高いからだといわれた。当時の貿易黒字は日本の一人勝ち。そこで農産物を輸入して価格を下げ、農業もそれに対抗して生産性を上げよという世論を引っ張ったのが「前川リポート」だった。
以降、日本は世界で最も消費者物価が下がった国になった。それで暮らしが豊かになっただろうか。
コメの値段を考えよう。海外諸国の精米価格は10キロ当たり10ドル前後。現在の為替相場だと800―900円か。中国で300円、カンボジアで500円だが、各国の賃金水準を考慮しないと比較にはならない。
日本の食費が高いのは、消費者が自分で料理をしなくなったから。国民が年間に支出している飲食費73兆円の内訳は、生鮮が18%、加工品53%、外食29%だ。茶わん1杯のコメは、1キロ400円の品で約30円で、生産者価格はその半分。それなのに高く感じるのは、加工や流通の経費を負担しているためだ。
宇根 工業の世界では、大量生産によって製品がどんどん安くなる。その尺度を農産物にも当てはめるからおかしくなる。
山下 昔はどの農家にも家畜がいた。その一部分を拡大したのが今の畜産業。安い飼料を輸入し、大規模・効率化した結果、水より安い牛乳はできたが、一極集中によって、ふん尿公害も起こる。口蹄疫(こうていえき)や牛海綿状脳症(BSE)、鳥インフルエンザが発生したら、被害の方も甚大。生産性重視の飼い方で病気にもかかりやすくなるから、抗生物質も必要になり、作る方も食べる方ももう命懸け。そして地球が壊れていくというのが今の構図だ。
−大きくすればいいというのは幻想か。
山下 現実に東北では、国から融資を受けて10アール200万円出して規模拡大した田んぼが今、30万円まで下がってもなお、買い手がいない。お金を借り、また借金して払う。そんな地獄のような話もある。
−前原誠司外相が昨秋、日本の国内総生産(GDP)に農業が占める割合は1・5%だとして「それを守るため98・5%が犠牲になっている」と発言した。
山下 米国だって農業の対GDP比は1%ほど。だからといって、高官が「わが国の農業は1%しかないから、全体には影響ない」などと言うはずもない。
そもそも、食料自給率が40%と低い国の大臣が言うセリフか。われわれからいえば、日本の国土を守っている農業が、わずか1%程度の分け前しかないから、後継者が残らないんだ。
宇根 生産とか生産性とかは、要するに金で換算できる世界。工業から生まれた言葉に尺度を合わせたがために、農業の持つ、直接的に金にならない大事な役割が見えなくなった。それを見えるようにしなければならんときに、相変わらず、GDPがどうだと工業的な言葉で語っていること自体が、時代遅れだ。
山下 現実にはそれが主流だから、TPP対農業という構図になると、グローバル化に対応した農業を、という論調になる。
オバマ米大統領も菅首相も人気が落ち、「攻め」「開国」「自由」といった言葉を使わないと、勢いがつかないのではないか。国の政策に乗って大規模化を進め、「農業の担い手」として2階に上がった人も、「また、はしごを外されるのでは」と危惧している。
うちの村は、国の政策からはじき出された小規模農家の集まり。野菜なんて、関税などかかっていないのと同じだし、国から奨励されて作ったミカンは、とうの昔に自由化されている。
それでも私は百姓だから、何があっても食料を作って生きていけるが、消費者はどうか。この流れの行き着く先はどこなのか、不安で仕方がないのではないか。
その処方箋として、経済成長が出てくるわけだが、社会のシステムなり、生き方なりが変わらなければ、世の中は破局に向かうだけ。われわれはどう生き、どうこの国の形をつくっていくのか。そこが問われているのだと思う。
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