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http://d.hatena.ne.jp/esu-kei/20090730/p1
ドクター中松とMr.マリック −その虚像と演出手法
世の中には「うさんくさい」人物がいる。経歴は立派なはずなのに、実態を調べるにつれて、虚像の大きさに驚くことがある。
その最たる人物が、ドクター中松こと中松義郎だろう。彼はエジソンを上回る発明件数があると称し、その認知度は高い。あるサイトが行った「この人のおかげで今がある!」と思う発明家は?というアンケートでは、堂々の二位に選出されている。
彼のウェブサイトでは、そんな彼の発明品が通販されている。
・フライングシューズとして知られる「ピョンピョン」
・サプリメント「リボディー55」
・ 医薬部外品「まかしと毛」
・媚薬「ラブジェット」
その通販ページを見て「この人のおかげで今がある!」と言えるだろうか。
彼の発明でもっとも知られているのが「フロッピーディスク」であるのだが、その開発に彼が関与した資料はない。構造に類似点がある「ナカビゾン」という発明品が、日本での特許に抵触するのを恐れ、IBMが中松義郎と契約を結んだというのが事の真相である。
「レコードジャケットに穴を開けて、中身を取り出さずにそのまま使えるようにする」特許であるナカビゾンと、「磁性体記録媒体」であるフロッピーディスクの間に、直接的な関連性はない。
⇒中松義郎とフロッピーディスク - Wikipedia
↑サイフォン実用新案
(クリックで拡大)
もう一つの有名な発明とされているのが「灯油ポンプ」だが、これは「サイフォン」という名で、特許ではなく実用新案として登録されている。
右の書類を読めばわかると思うが、スプリングが構造に不可欠など、手動灯油ポンプとは仕様が異なっている。プラスチック製ポンプの実用新案は、昭和32年に別人の手で登録されており、これが現在につながる手動灯油ポンプだと言えそうである。中松義郎の実用新案が、手動灯油ポンプの実用化につながったわけではない。
彼は世界各地で行われているローカルな大会に積極的に参加し、それを「世界コンテスト」として大々的に喧伝した。しかし、彼の特許の多くは、ほとんど実用化されておらず、生活の向上に役立った発明はない。自分の虚像を大きくするために特許件数を利用したことが、彼の偉大な発明だったといえる。
東大卒であることから、彼の知性を盲目的に信じる人がいるが、政治家や官僚に東大卒がどれぐらいいるか調べたことがあるのだろうか。
彼の名刺を見れば、そんな彼の生き方を知ることができるだろう。
⇒ドクター中松と名刺交換 (回線営業blog)
今の生活を豊かにした特許といえば、例えば、googleの「ページランク」というアルゴリズムが思い浮かぶ。
⇒ページランク - Wikipedia
それまでの検索エンジンに比べて、googleが正確であると信頼された理由が、この「ページランク」処理である。
かつて、日本で人気サイトになるためには「Yahoo! Japan」に登録される必要があった。ところが、この登録基準は曖昧であり、「ヤフーに登録する」ためのビジネスがネット上ではさかんに行われていた。
そのようなマネーがまかり通っていたウェブの世界を、googleの「ページランク」アルゴリズムは打ち破ったのである。
それらのエピソードに比べて、中松義郎の話は、いくら耳を傾けてみても、納得できる言葉を引き出すことができない。彼のことを調べれば調べるほど、人々の妄信がどれほど強いかを再認識することしかできない。
そんな彼が、今度、幸福実現党から立候補するという。北朝鮮への先制攻撃など、国際常識に反した行為を示唆するこの党に関わることで、より多くの人が中松義郎の虚像に気づくのではないか。
Mr.マリックは、今ではマジシャンの一人として人気だが、90年代初頭は「超魔術」と称し、タネや仕掛けのない「ハンドパワー」によって超常現象を起こしているという演出がなされていた。
もともと、Mr.マリックこと松尾昭は、日本で有名なマジシャンの一人であった。彼は二代目引田天功が、朝風まりと称していたときに、そのマジックを教えた一人であったという。
しかし、90年代初頭にMr.マリックのブームが起きたとき、それは「超能力」であり「奇跡」であると、僕を含めて、子どもたちは信じていたように思う。だから、「マジック+トリック」という造語を名前にしているにも関わらず、そのトリックが暴露されるやいなや、彼はペテン師として激しいバッシングを受けたのだ。
人々に驚きを与える「マジック」は、種明かしを知ることで埋葬されるものではない。子どもにとっては魔法だが、大人になれば、それが日々の修練の成果であり、演出によるミス・ディレクションを誘うことによってもたらされる職人芸であることを知るはずだ。Mr.マリックへのバッシングは、その人気の反動だといえるだろうが、非難に値することだっただろうか。
インチキ呼ばわりされたMr.マリックだが、ユリ・ゲラーブームのように多くの少年少女を「超能力者」と持ち上げるようなことは行っていない。
「Mr.マリックの超魔術」は、日本テレビのスタッフとマジシャン松尾昭によって丹念に作り出された究極のエンターテイメントの一つなのである。
子どもたちにハンドパワーがあると信じこませた罪は大きいかもしれないが、それを「神の恩寵」としたサイババのような宗教指導者に比べると、良心的であったと思う。人気下降だった手品を、TV向けの演出である「超魔術」として復活させたMr.マリックの評価は識者の間では高い(ふじいあきらも彼のアシスタントをつとめたことがある)
小説というエンターテイメントもマジシャンに見習うべきところは多い。小説でのトリックなんて、ほぼ開発されきっているが、使い方によって、読者に新たな驚きと感動を招くことができるのである。文章手法におけるミス・ディレクションは、小説を書くものならば、必ず学ばなければならないことである。
例えば、前田知洋というマジシャンは「アンビシャスカード」というマジックを、様々なやり方で実践し、人々の驚きを勝ち得てきた。
その種明かしは、インターネットで検索すればすぐに見つかるが、それを知ってもなお、前田知洋のマジックには驚かされるのはなぜか。それは彼のマジックの引き出しの多さと、その人格がもたらす雰囲気によるものだろう。
マジック単体ではなく、どのような流れでマジックが使用されているかを注目してみると、マジシャン前田知洋の偉大さが見えてくる。
このあたりは、マイケル・ジャクソンの「ムーンウォーク」に通じるものがある。その動き自体は、彼の独創ではないが、それが人々に衝撃を与えたのは、彼の体格とその洗練された動きと独特の間がもたらしたものである。
このような、マジックの考え方について詳しいサイトが「マジェイアの魔法都市案内」
特に「これからマジックを始めたい人のために」というコーナーは、マジックに興味ない人にも読みごたえのある内容である。
「サーストンの3原則」などの人間心理の洞察は、マジックにとどまらず役立つ情報である。
そして、多くのトリックを知るこのサイト管理人が、マジック番組をどのように楽しんでいるかを知ることは、「タネを探す」以外の手品の楽しみ方を見出せるはずだ。
今回は、世間にうさんくさいと思われている人物を二人紹介した。
発明王であるドクター中松は、決して、人々を豊かにしてきた発明を残していないこと。
インチキ呼ばわりされたMr.マリックは、それ以前から実績あるマジシャンとして知られていたこと。
それらの虚像を見抜くことは、即時的には難しい。バッシングが吹き荒れるとき、その風説は説得力を呼び、正確な判断をとることができなくなるからだ。
ただ、その人を支えている周囲の尽力によって、彼らへの批判が正しかったかどうかを知る手がかりにある。
Mr.マリックは、バッシングを受けたあとも、日本テレビのスタッフに、「栗間太澄」という別名によって活躍の場を与えてきた。松任谷由実などのアーティストのコンサートを監修するなど、その演出能力はマジック界以外でも評価されている。もし、マジシャンとしての「Mr.マリック」の人気が凋落しても、演出家として彼は人々に驚きを与え続けるだろう。
ドクター中松は、この夏に幸福実現党の比例代表として出馬するという。81歳という高齢に関わらず、なぜ彼が選挙にこだわり続けるのか。その決意は、人々が盲目的に信じていた「ドクター中松神話」をさらに崩壊させる結果しかもたらさないはずだ。
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