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「動かざること山の如く、動くこと雷霆の如し」 ── 孫子の兵法 (二見伸明の「誇り高き自由人として」)
http://www.the-journal.jp/contents/futami/2010/06/post_20.html
鳩山総理の辞任を後世の政党・政治家は反面教師にしたほうがいい。鳩山辞任の本源的原因・理由は、日本の政治家に共通する、利権獲得など、自分の利害に絡む低次元なものには知恵を働かせることはあっても、国益に関わる大きな目的を達成するための論理・戦略・戦術が欠如していたことである。(鳩山には利権など低次元の問題はない)。
政治を動かすのは「情」、言葉を換えれば「天をも焦がす大情熱」である。鳩山には「国外、県外」という思いはあった。しかし、「大情熱」はなかった。「大情熱」を支える強靭な論理も、戦略、戦術もなかった。だから、「綸言汗のごとし」を理解できず、発言が二転三転し、沖縄県民の不信を買った。国民、なかんずく沖縄県民は「国外、県外」が尋常ではない難題であることは、百も承知だった。それだけに、「戦略、戦術もないこと」に、国民は失望した。
昨年2月17日のクリントン米国務長官との会談で、小沢一郎代表(当時)は日米同盟の重要性を十分認識した上で、「一方が従属する関係ではなく、互いに主張し合い、議論して良い結果を得て初めて成り立つ。まず両国の間で世界戦略をきちんと話し合った上で、個別問題に取り組むべきだ。これまでそうしたことはなされてこなかった」と、自民党との根本的な違いを述べた。また、数日後、記者会見で「今の時代に米国が前線に部隊を駐留させるのは意味のないことではないか。極東地域における米軍のプレゼンスは(神奈川県横須賀基地を拠点とする)第七艦隊だけで十分ではないか」と発言した。これは、「日米同盟」の名のもとに、カレル・V・ウォルフレンに「例を見ない"宗主国と属国"の関係」と厳しく指摘された日米関係を「真の対等関係」に革命的に見直すものであり、「第七艦隊」発言は、「普天間移設・沖縄問題」解決のための、基本的な提言であった。このため、オバマ政権は小沢を「扱いにくいパートナー」と警戒したが、アメリカでは小沢評価が急上昇した。日本では、河村官房長官(当時)が「政権交代を目指す政党がこんなことで良いのか」と、外交・防衛問題音痴丸出しの的外れなコメントをしただけで、論議を深める動きは、ほとんどなかった。「普天間移設」を抱えていながら、鳩山も、また、総理を支えるべき副総理の菅直人、仙石由人国家戦略担当相も小沢発言の重大性をほとんど理解していなかった。鳩山は、「普天間」について、小沢に一言の相談もしなかった。岡田外相、北沢防衛相、平野官房長官、前原沖縄担当相にいたっては、当初から、「辺野古」論者だった。谷垣自民党総裁にとっては「小沢理論」は想像も及ばない「論外」だろう。「安保五十年」はアメリカ従属を「空気」のように当たり前に受け入れる政治家や官僚を生みだした。鳩山辞任は当然の帰結であるが、これを期に、「国を守る」ことや「日米同盟のあり方」について、真剣な議論が巻き起こることを期待したい。菅総理はその力量と見識が問われるだろう。
私は鳩山総理の辞任の弁を七十三歳の老嬢が営む理髪店で聞いた。彼女は髭を剃りながら「なぜ、鳩山さんは日本のすること、アメリカのすることを話し合ってから沖縄問題を解決しようとしなかったのでしょうか。順番を間違ったみたいです」と話しかけてきた。
鳩山が「『私も辞めるから、幹事長も辞めてもらいたい』と言って『わかった』と了解していただいた」と言ったとき、私は、これは違う、小沢が「普天間の責任を取って私も辞めるから、総理も辞めてもらいたい」と言ったのではないかと思った。鳩山は、小沢を「政治とカネ」で悪人に仕立て上げ、自分を美化しようとしているのではないか、と直感した。老嬢も「新聞、テレビを見ていると、鳩山さんは続投したかったのではないでしょうか」と、怪訝そうだった。「世論調査絶対思想」に毒されない無名の庶民の感性は鋭い。日本人も捨てたものではない、と感じた。
■民主党を救った男
鳩山総理誕生の原点は、民主党と自由党の合併である。2002年暮れ、鳩山民主党代表は経団連に年末の挨拶に行ったとき、財界首脳から「総理になりたかったら、小沢さんに弟子入りしなさい」とアドバイスされた。その後、政界の御意見番、松野頼三氏からも同じ趣旨のアドバイスを受けた。鳩山は、父・威一郎の大蔵省(現財務省)主計局長時代の部下・藤井裕久自由党幹事長に、民・由合併の仲介の労を頼んだ。当初、鳩山の真意を測りかねていた小沢も鳩山の熱意にほだされ、合併に踏み切った。しかし、それがマスコミを通して知られ、党内に「小沢怖し」の大合唱が起こって、鳩山が代表を辞任し、菅直人が、小沢自由党との合併を否定して代表になった。しかし、したたかな現実主義者・菅は、「小沢の力なくして、政権奪取は不可能」という現実を知り、あらためて、小沢との合併を模索し、03年夏に合併した。
民・由合併の際、両党の理念・基本政策を調整した自由党側の代表・藤井裕久・中塚一宏(現衆議院議員)両氏から私に「民主党側の代表、枝野さんは『自由党の理念・基本政策には全く異論はなく、完璧です。民主党の理念・政策として採り入れさせていただきます』と連絡があった」との報告があった。(私は、自由党の基本政策「日本再生への道」「日本再構築への道」を作成した責任者であった)。小沢は「改革実現のため」、党運営に全く影響を及ぼさない「一兵卒」として、「喜んで働く」ことを表明した。これがその後の民主党を救うことになる。
民主党は、「年金未納問題」で辞任した菅直人から代わった岡田克也代表の下で、小泉純一郎総理の策謀にのせられて政局を読み誤り、郵政選挙の「大義」を与えて、惨敗した。岡田の後継の前原誠司も、野田佳彦国対委員長(当時、現財務相)と共同して指揮した「偽メール事件」で、「無能ぶり」をさらけ出し、解党の危機に直面した。それを救ったのは、小沢一郎だった。
小沢は、衆議院千葉7区補選で、圧倒的優勢といわれていた自民党候補を打ち倒して民主党を上昇気流に乗せ、参院選、衆院選を大勝利に導いた。その間、おしゃべり好きの、しかも、誰も最終責任を取る気のない「座談会政党」(これが「民主党らしさ」の本質だ)を、本気になって政権を取りに行く、ノーマル(正常)な政党に体質改善したのも小沢であった。
「普天間移設」について、「世論」の批判は頂点に達し、改選期の参院議員は震え上がった。菅副総理、総理の御意見番を自認する仙谷国家戦略相をはじめ、全閣僚が鳩山総理の続投を支持し、本人もその気でいて、参院選惨敗が濃厚になった。「誰も鳩山の首に鈴をつけられない」と絶望したときに、動いたのは小沢だった。断崖絶壁から飛び込み、民主党を救い、死の淵でおののいている改選組を引っ張り上げ、鳩山に有終の美を飾らせたのは小沢である。東京新聞は6月2日の朝刊一面で「5月31日、小沢幹事長が総理に『いっしょに辞めよう』といったが、鳩山は首を横にふった」と報じた。読売はもっと露骨で、3日の一面に「小沢氏が引導電話『政権持たぬ』」という大きな見出しで、「鳩山、小沢、興石との2度目の三者会談から3時間余り過ぎていた1日午後10時ごろ、小沢が鳩山に電話し『参院が止まれば、法案が1本も通らなくなる。政権運営なんて、出来ないんだよ』。小沢は、鳩山が招いた社民党の連立政権離脱を、丁寧に説明した。小沢からの事実上の最後通牒だった」と書いた。
マスコミは自分たちではじきだした「世論」の数字を武器に、露骨に小沢の辞任を求めながら、他方、昨年の二の舞を恐れて「柳に下に二匹目のどじょうはいない」と「世論」をけしかけた。小沢は全ての状況を把握していた。小沢は「辞任カード」を切る機会を狙っていたのかもしれない。「二匹目のどじょう」はいたのだ。小沢は「悪役」になることを決意し、それに徹した。支持率は戻った。
平成の日本の政治は、常に、小沢を軸にして動いてきた。小沢は不思議な男である。どんなに逆境に立たされても、「改革の階段」を、一歩一歩、着実に上って来たのだ。不遇だった自由党時代、わずか47人の仲間だけで、自公勢力に真正面から向き合い、「衆議院の定数削減」「副大臣、政務官制度」、「官僚の国会答弁の禁止」「党首討論」を実現した。「わが世の春を楽しんでいた官僚」は、「霞が関城」にひたひたと忍び寄る小沢軍団の足音に震え上がり、旧体制下で甘い汁を吸っていた評論家や一部マスコミなど守旧派は、ギャアギャアと騒ぎ立てた。今回の政変で彼らは「これで、小沢の息の根を止められる」と、一息ついていることだろう!
参院選は小沢にとっても、「政治主導」を願う人たちにとっても正念場である。鳩山、小沢を踏み台にして総理の座を射止めた菅は、「小沢排除」を画策するだろう。それは「霞が関」にとっては、願ったり、叶ったりの展開だ。菅は「現役必勝」を大義名分に、小沢が擁立した複数区の新人の落選を目論むかもしれない。しかし、選挙という修羅場を経験したことのない枝野幹事長と選挙の事務屋でしかない安住選対委員長にそんな芸当ができるとは思えないし、小手先の小細工は、一歩間違えると、情勢を激変させ、惨敗する危険もともなう。いずれにせよ、党内の常識では「よほどのぼんくらが指揮を執らないかぎり、小沢が敷いた路線を走れば、そこそこの議席は獲れる」はずなのである。小沢軍団は新人の当選に全力を傾注すべきだ。
■「世論ファシズム」の危険
新執行部は、鳩山が両院議員総会で要請した「クリーンな民主党」を、「小沢排除」のキーワードにするつもりなのだろうが、多少でも歴史を学んでいれば、昭和初年のように、「世論ファシズム・官僚ファシズム」が形成され、日本を、国民生活に責任を感じない「牢固とした官僚主導国家」にする危険を感じただろう。力のある、優秀な政治家は、抜群の情報収集能力を持っている。そのために、豊かな政治資金で数多くのブレーン、スタッフを雇っている。だから、官僚にごまかされることはない。一方、議員の歳費、政党助成金(注:これは、政党の調査、研究活動、政党職員の給与などに使われ、議員に配分されるのは、党によって異なるが、小沢自由党では月額50万円で、地元事務所の維持がやっとだった)と、わずかばかりの政治献金しかない「清廉潔白」な議員は、官僚が提供してくれる無料の情報に頼らざるを得ず、知らず知らずのうちに、官僚の意のままに動く政治家に成り下がるのだ。作家の佐藤優によれば「高給国家公務員」である。「霞が関」の世界では、官僚の言うことを理解し、行動してくれる「清廉潔白」な政治家が「良い政治家」で、小沢のように、情報収集能力が抜群で、官僚を使いこなそうとする政治家は「傲慢不遜な悪い政治家」なのである。
ところで、玄葉光一郎を政調会長に任命し、公務員制度改革・少子化担当相として入閣させた菅の狙いは何か。鳩山内閣の時は、内閣・党を一体化し、政策を内閣に一元化するために、小沢を幹事長のまま、副総理、無任所大臣として入閣させるはずだった。ところが、小沢が大きな力を持つことを恐れた鳩山、菅、仙石らは、小沢を政策決定に関与させず、党務に専念させ、菅を副総理兼国家戦略担当のまま、政調会長に任命しようとした。しかし、「(無任所でない大臣は)政調会長を兼務出来るほど暇なのか」と言われて断念した経緯がある。玄葉は大丈夫なのか。また、政策決定に関与しない枝野幹事長と、政策を一手に引き受ける玄葉との間に、権限をめぐる確執が生じる可能性も高い。菅は政調会を、玄葉を通して抑え、幹事長を棚の上に祭り上げて、「菅独裁体制」を画策しているのではないだろうか。今回の組閣、党人事を見ながら、「官僚主導派」と「政治主導派」の闘いが始まっている気配を感じる。「官僚」は菅の手助けをして「小沢」を追い落とし、返す刀で菅の首も獲ろうと考えているのではないだろうか。官僚の悪知恵は恐ろしい。「官僚支配を打破出来るのは小沢だけだ」と喝破した、官僚中の官僚、財務省主計官出身の藤井裕久衆議院議員の言は正鵠である。
菅直人は、6月4日に総理大臣に指名され、8日に組閣を終えた。総理の所信表明は11日の予定である。なぜ、こんなに時間がかかったのか。「慎重に検討したい」とのことではあるが、マスコミ情報によれば、代表選も始まっていない4日の午前に、すでに、仙石、枝野らと組閣、党人事を検討していたとのことで、彼の発言は、額面通りには受け取れない。「小沢グループの切り崩し」「約束手形を乱発したので、その調整のためだ」とのうがった見方も出ている。
9日の幹事長職の引き継ぎの際、小沢は「微力だが、民主党勝利に、一兵卒として出来うる限り、協力する」と枝野に約束をした。7日には原口総務相に「民主党と内閣を一生懸命支えなさい」と語ったという(朝日9日夕刊)。
民・由合併の直後、菅に「小沢との付き合い方」について質問された私は、「小沢は約束したことは、命がけで守ろうとする男だ。だから、『誰でも、約束は守るもの』だと信じている。だから、彼との約束は、絶対に守れ。守れない約束はするな」と答えた。菅が小沢に「官僚支配の打破」を約束しているのであれば、命を賭けてそれを守るべきだ。どうも、鳩山政権8ヵ月の間に、「官僚」にたぶらかされた輩が、かなり、出てきたようだ。
6月3日、東京・錦糸町で、党内屈指の骨太の論客、小沢グループの実力者、東祥三衆議院議員の後援会の大会があった。東がコツコツと集めた千人を超える猛者が、2万円の会費を払って結集した。参院選の候補者である蓮舫、小川敏夫両参議院議員も壇上に並び、物凄い熱気だった。参加者の一人が息巻いていた。「黒だ? 灰色だ? ふざけんじゃねえ。どんな魂胆があるんだか知らねえが、そんなデマなんか、け殺してやらあ。あたぼーよ。小沢は真っ白さ。俺たちと同じ、真っ赤な、熱い血が体の中を駆けめぐっているのさ。昨日の辞任劇、見たかい。小沢には侠気がある。江戸っ子が惚れ直すねえ」
「小沢はしあわせな奴さ。俺だって、十年若けりゃ、錆びた刀を振りかざし、痩せ馬の尻を引っ叩いて、駆け付けるんだが。口惜しいねえ」――二見独白。
投稿者: 二見伸明 日時: 2010年6月10日 12:45
─転載 終わり─
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コメント
01. 2010年6月12日 21:04:01: y2SPy6IwBg
二見氏の方が現場に近いだけに、よく伝わるものがある。
02. 2010年6月12日 21:20:44: cK5ovCUIeQ
高野さんは、変節したんかな? 以前ジャーナルにおいては、オザワンを擁護し検察批判や意義主張を正当に評価していたんだが、菅政権になったとたん論調に変化がある。 ジャーナルは、民主党支持者が多くとりわけ小沢信者の巣窟の感がする。 其の様な空間で、主幹の高野さんの、この論説は反発必至だろう?!
菅にエールを贈るとは、裏で何があったんか勘ぐるで!
03. 2010年6月12日 21:25:54: eJpJR4SFmM
高野孟氏
>>もっとも、小沢のこうした政局の修羅場での判断はこれまでも大体において余り正しかった例(ためし)はない。
小沢氏の判断が間違っていたのではない。
小沢氏の敵が、常にアメリカであったということだ。
小沢氏の親中路線が、アメリカから危険な存在と見られているからだ。
今回も小沢氏はアメリカに負けたのだ。
ただ、完全に息の根が止まったわけではない。
徐々に徐々足元に近づいてきた。
巨人アメリカを倒す日は必ず来る。
04. 2010年6月12日 21:26:00: WDbT58hQH7
>>02
まあ、済んだことは仕方ない。過去にこだわっていたら、評論家なんてやってられないし、といったところじゃないの、高野氏は。
それに元々左翼の人だし、菅総理にはシンパシーを感じるんじゃないの?
05. 2010年6月12日 22:28:02: Ee34p52FAM
>それから約10年かかって2025年頃までに日本の「脱発展途上国」の平成革命を成し遂げるだろう。
それまでに「社会的弱者」の累々たる屍をどれほど積み上げることになるんだろうな?
06. 2010年6月12日 22:31:11: xKTEmKDZ2o
総理大臣が辞めるときは同時に幹事長も辞める。決まってるようです。
菅がアメリカに負けたんであって小沢は負けていない。
小沢の敵はナベ〇〇だろう。と最近考える。ナベ○○が今回の小沢潰しを図ったと思えてならない。なべ○○、そして小泉、飯島のご主人様の為に。
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