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http://tanakanews.com/100120googlecn.htm
グーグルと中国
2010年1月20日 田中 宇
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この記事は「中華文明と欧米文明は衝突するか」(田中宇プラス)の続きです。
1月12日、米国に本社を置くインターネット検索サイトであるグーグルが、中国語サイト(google.cn)で行っていた自己検閲を解除すると発表した。中国政府は、治安維持や社会安定の目的で国内のインターネット利用を規制しており、民主化運動やポルノなど、規制に沿わない内容の中国内外のウェブサイトは、接続プロバイダに設置された国策ファイアーウォール(長城防火)で遮断され、見られないようにしてある。グーグルは、2006年に中国語版を立ち上げた際、中国政府の規制を逸脱しないと宣言し、中国語版の検索結果の一覧に民主化運動やポルノなどのコンテンツが表示されないよう、自己検閲のシステムを導入していた。
グーグルは今回、この自己検閲システムを解除した。その理由は、昨年末、グーグルのサーバーが中国から組織的な攻撃を受け、グーグルのメールサービス「Gメール」で中国の民主運動家が作ったアカウントの情報が盗み見されそうになったからだという。グーグルは「中国の人々が(グーグルを使って)情報を得ることのプラス面が大きいので、中国政府の規制に協力する不快感を我慢して中国に参入したが、中国でネットの言論の自由への制限が強まるばかりなので、考えを変えざるを得なくなった」と1月12日に発表し「中国から撤退するかもしれない」と表明しつつ、自己検閲を突然に停止した。グーグルの中国法人は、従業員に無期限の自宅待機を命じた。(A new approach to China)
▼世界最大の市場になったのに撤退?
中国政府のネット検閲に対するグーグルの抗議表明は、米国政府に支持され、欧米マスコミもグーグルを支持した。北京ではグーグル中国事務所の前に人々が集まり、グーグルが間もなく中国から追い出されるとの見方から、哀悼の意を込めて事務所前に花束を置いて帰る人が相次いだと報じられている。自己検閲をやめた中国語版グーグルでは「天安門事件 真実」「江沢民 悪」などの検索キーワードが急増した。(Google Pledge of No Censoring Spurs Tiananmen Searches in China)
しかし、米国などのネット業界では、グーグルの言動を冷ややかに見る向きも強い。グーグルは、世界的には検索エンジンのトップだが、中国ではシェアが36%しかなく、シェア58%を持つ中国独自の検索エンジン「百度」にかなわない。グーグルは中国に見切りをつけ、どうせ撤退するのだからと、内外から嫌われている中国政府のネット検閲を非難する「最後っ屁」を放ったのだろうとも見られている。(What Are Google's Real Motives in China?)
中国政府にうまく取り入り、中国人ユーザーの個人情報を中国政府に渡す見返りに、自社製品の違法コピーを駆逐してもらって中国で儲けを出してきたマイクロソフトは、グーグルに対抗する「ビング」(Bing)を持つこともあり、中国よりグーグルの方が問題であるかのような発言を行っている。(Chinese defy censors over Google)
(マイクロソフトは「ビング」にニュース記事を載せる際にマスコミに金を払う方向を示唆したが、先発のグーグルは金を払うことを拒否している。メディア王マードックはビングと提携するとともに、自分の系列のマスコミの記事をグーグルに出さないと表明した。ニューヨークタイムスがネット記事の有料化を発表しそうであるなど、赤字傾向のマスコミは、ネットで金を稼ごうとしている。金を出さないグーグルは米国で不利になり始めており、この絡みで、政治的な意図を持つ何らかの挽回策として中国非難を発したのかもしれない)(Rupert Murdoch Begins Blocking News Aggregators, Search Engines)(New York Times Ready to Charge Online Readers)
昨年、中国のインターネット利用者は1年間で30%増え、国別統計で米国を抜き、世界最多の3億8400万人となった。中国では経済成長によって所得が増え、パソコンの価格低下もあって、都市から農村へとネット利用が拡大している。世界最大の市場となった中国から撤退するグーグルは奇妙で、何か裏があるに違いないと勘ぐられている。グーグルの幹部は中国への進出当初、NYタイムスに対して「中国人は、民主や人権について自由に語っており、不満は少ない。中国人は、米国の体制がすぐれていると思いつつも、中国の体制も良いと思っている」と、今回の中国政府批判と対照的な、中国政府への追従と思えるコメントを語っている。(China's Population of Web Users Hits 384 Million)(Google tarnished by its hypocrisy)
グーグルは1月12日に中国撤退も辞さずと発表したが、1月17日には「まだ撤退するとは決めておらず、自己検閲していない状態の中国語版サイトを中国政府に認めてもらうべく交渉している」と発表し直した。中国政府も、検閲なしの中国語版グーグルを、まだ国策ファイアーウォールの遮断対象としていない。事態は依然、流動的だ。(Google Says It's in Talks With China on Search Engine)
そもそもグーグルが中国当局筋のハッカーから攻撃されたという話自体も、グーグル内部の人間がハッカーのふりをして自社のサーバーを攻撃したのではないかと報じられ始めており、事件は今後、変容する可能性がある。(Google China hacks 'a possible inside job')
▼グーグルの不振は非関税障壁のせい?
中国では、グーグルだけでなくヤフーも伸びず、ヤフーは結局「中国ヤフー」を、中国のネット専業卸売り大手のアリババ・グループ(阿里巴巴)に譲渡し、中国から撤退した。米国のオークションサイトであるイーベイの中国版も、アリババ傘下の「淘宝(タオバオ)」に負けている。米国の大手のインターネット・サイトを運営する企業はいずれも、中国企業を買収したり、中国企業から幹部を引っこ抜いて登用したりしたものの、ほとんど成功していない。(China, Where U.S. Internet Companies Often Fail)(Google-China Showdown May Alter Tech Game)
中国市場では、ブランド性のある具体的な商品を持つ外国企業は、中国での利益の一部が中国側(共産党)に回るようにしてやれば、中国政府が作る非関税障壁を回避できて成功する。マイクロソフトが中国で成功したのに、グーグルやヤフーが成功しない理由の一つは、マイクロソフトはウインドウズなど具体的商品があったが、グーグルやヤフーは商品ではなく「仕掛け」であり、似たような仕掛けを構築した中国企業が共産党とより良い関係を築いた結果、米国勢は敗北した。(Google's China Lesson: Silicon Valley Is No Longer King)
グーグルは技術面ですぐれているが、ユーザーが残していく情報を中国当局に見せたがらないので、ユーザー情報を当局に提供しているであろう「百度」に比べて中国政府から好かれない。中国政府がファイアーウォールの微妙な運営によってグーグルの表示を制限し、中国人がグーグルではなく百度を使うように仕向けた可能性が指摘されている。米国では、これをグーグルに対する中国の非関税障壁とみなし、WTOに提訴すべきだという主張が出ている。中国政府に対してグーグルが反抗的な態度をとったのは、米政府と謀ってこの問題をWTOに持ち込むきっかけを作るためだった可能性もある。(Chinese Censorship Equals Protectionism)
▼ネットの経済面だけ使い政治面は抑制
中国の国策ファイアーウォールは、ユーチューブ、ツイッター、フェイスブックなど、近年欧米日で人気のサイトの多くを遮断している。だが中国政府は、インターネットの利用そのものの拡大を制限しているわけではなく、逆に、中国でのネット利用の拡大を奨励し、最近では携帯電話でのネット利用の拡大も支援している。
中国政府がネットの利用を拡大したい理由は、経済全体の効率が良くなるからだ。中国のような人口が多い国では、国民の生活水準の向上と中産階級の増加に合わせて、企業や役所が店舗網や窓口を増設するのではなく、ネットを使って顧客のニーズの拡大に対応した方がずっと効率がよい。中国では今、地方都市や農村の中産階級化が始まっているが、それと同時に農村へのネット普及が進んでいる。淘宝などのネット通販サイトの利用や、ネットバンキングの利用も急拡大している。アリババに代表される企業間取引(BtoB)のサイトも活発だ。
中国政府は、インターネットの利用拡大による経済効率の向上に以前から熱心だった半面、市民の言論力を強化するという、ネットが持つ政治面を抑制しようとした。中国の国策ファイアーウォール「長城防火」(「黄金の盾」政策。金盾工程)は、ネットを使った民主化運動が起きた1998年に発案され、03年から実用化された。ネット利用が高学歴者に限られ、中国語のウェブサイトも少なかった当初は、反中国報道を行う米新聞社など英文サイトを主に遮断していたが、中国語のサイトが急増した今では、米新聞に対する遮断は減った。2年ほど前からユーチューブ、ツイッターなど、個人の情報発信やコミュニティ形成を誘導する「ウェブ2・0」のサービスが世界的にさかんになると、中国政府はこれを反政府運動に使われることを警戒し、遮断した。(Golden Shield Project From Wikipedia)
ネットに詳しい中国の人々は、国策ファイアーウォールを回避するツールを探し、インストールして使っている。中国政府は、反政府言論やポルノを発信する者を強く弾圧し、中国で新たなウェブサイトを立ち上げる場合、政府に登録せねばならない規則を設けようとしている。中国政府は、発信者には厳しいものの、国策ファイアーウォールを回避する受信者としての個人的試みに対しては、おおむね黙認している。(A Few Internet Users in China Find Ways Around Filters)
中国政府は昨年7月、青少年をポルノサイトから守る名目で、中国のすべてのパソコンに検閲プログラムをインストールしていく政策「青少年保護・緑のダム(緑バ・花季護航)」を実施しかけた。だが、個人の所有物であるパソコンの内部にまで国家の検閲を入れようとしたこの政策は、共産党内を含む国内から猛反発を受け、やめざるを得なくなった。(Green Dam Youth Escort From Wikipedia)
▼政権転覆の道具としてのツイッター
最近の中国人(漢族)は経済的に豊かになり、反政府感情の発露が減っている。ウェブ2・0のコミュニケーション・ツールを片っ端から遮断する中国政府は、独裁であるがゆえに、自己保身に過敏になっている。しかしその一方で、他の国の例を見ると、過敏ではないともいえる。中東のイランでは昨年6月の選挙以来、反政府運動が続いているが、最初に火をつけたのはツイッターのペルシャ語の書き込みだったとされる。米国務省は、米企業であるツイッターに対し、イランの民主化に貢献するため、ツイッターのサーバーをメンテナンスのために止めないでくれと要請した。(State Department undermines Obama reluctance over Iran with Twitter request)
イスラエル軍の諜報部門では、ツイッターを使った敵国政府の転覆を画策する部隊があると報じられている。また、旧ソ連のモルドバで昨春に起きた反政府運動も、米CIAがツイッターを活用して反政府運動を煽った疑いが指摘されている。米国発のサービスであるツイッターやフェイスブックは、軍産イスラエル複合体が、敵性国の政権転覆を画策するときに使うツールだと疑われる。これらの事象を見ると、中国政府がツイッターを遮断すべきと考えたのは理解できる。(New IDF Web 2.0 unit to fight enemies on Facebook, Twitter)(Moldova's 'Twitter Revolution' a CIA Plot?)
中国は、経済効率の向上のためにインターネットを普及させたが、これを政治利用されたくないし、軍産複合体の策略にはまりたくないので、過剰なまでに規制をかけている。これはインターネットを、中国だけの「イントラネット」にする政策ともいえる。中国でのインターネット事業から外国企業を締め出すのは、イントラネット化の一策とも考えられる。中国式政策はイランやアラブなど中東諸国でも採られ、ADSLや光ファイバーを普及する一方で、国策ファイアーウォールを設けている。アラブ首長国連邦(UAE)の国策ファイアーウォールは中国製だ。「テロ戦争」で米英イスラエルから「潰す対象」に指定された中東諸国が、政権転覆の道具になりかねないウェブ2・0系の双方向ネットツールに対し、中国と同様の遮断策を採るのは当然だ。(Fears for China's cyberspace future)(Behind China's Great Firewall)
インターネットは、国際政治経済に対して多様な影響を及ぼしている。軍産複合体が、ツイッターを使って敵性国の政権転覆を画策する一方で、軍産複合体の一部である米英マスコミは、インターネットの出現によって利益が激減し、業界ごと潰れそうになっている。