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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2010011902000087.html
【コラム】
筆洗
2010年1月19日
昭和五十年代の野球少年は、あの変則的投球フォームを一度はまねしたことがあるに違いない。そういえば、タレントの明石家さんまさんも若いころ、この人の物まねで売り出した▼一昨日、五十七歳の若さで急死した小林繁さんは鶴が舞うような独特のサイドスローから、キレのいい直球と鋭い変化球を投げ込んだ。巨人と阪神でエースを担った投手はほかにいない▼運命を変えたのは球史に汚点として残る「空白の一日」。三十一年前、プロ野球コミッショナーからの「強い要望」により、江川卓投手の巨人へのごり押し入団が決まった。押し出されたのは小林さんだった▼「同情されたくない。犠牲になったという気持ちはない」。トレードが発表された深夜の緊急会見では笑顔で語った。内心の悔しさを押し殺した潔さが、球界の危機を救った▼移籍一年目は巨人に八連勝し、計二十二勝を挙げて最多勝を獲得した。理不尽な仕打ちに耐えて、自己最高の結果を出す姿に自身を重ねる組織人も多かったはずだ。数奇な運命をたどった二人は二〇〇七年、日本酒のCMで共演、初めて言葉を交わした。二十八年ぶりの「和解」だった▼小林さんは、日本ハムで若手投手を熱血指導して、今季から一軍コーチに昇格。「若いのが多いから楽しみ」とキャンプを心待ちにしていた。その死は、ただ早すぎるというしかない。
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