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日中韓などアジア主要国では、既に大学は大衆化し、一方で高所得の安定雇用は減少しており、一流大学やトップ層を除き、大企業へ優秀な若者を投入する機能を失っている
今さら米国で同じことをやっても、やはり高所得の雇用は存在しないから、無意味に税金を浪費し、財政赤字を増やすだけだろう
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20110719/221552/?ST=print
日経ビジネス オンライントップ>アジア・国際>Money Globe- from NY(安井 明彦)
貧困地域でも「ゆりかごから大学まで」オバマ教育改革の最前線
2011年7月28日 木曜日 安井 明彦
米国で貧困地域の教育改革を地域ぐるみで進めようという動きが広がっている。次世代を担う子供たちに照準を合わせた地域の取り組みに期待されるのは、教育改革の突破口としての役割だ。
教育で貧困からの脱出を「約束」
米国でプロミス・ネイバーフッド(PN)と呼ばれるタイプの教育改革がにわかに脚光を浴びている。「ゆりかごから大学まで」とも俗称されるPN型の教育 改革は、貧困地域の子供たちの教育を、出生から大学を卒業するまで一貫して地域ぐるみで支えていこうとする点に特徴がある。教育改革を基点にして、貧困か らの脱出を子供たちに「約束(プロミス)」できる「地域(ネイバーフッド)」を作ろうというわけだ。
学歴による賃金格差に象徴されるように、子供たちが貧困から抜け出すには、教育水準の底上げが有力な手がかりになる。なかでも最近の米国では、幼少期からの徹底した教育の重要性が強調されている。
しかし貧困地域の子供たちには、学校教育の充実だけでは回復できない種類の問題がある。不安定な家庭環境や身近なロール・モデルの不在など、日々の暮らしを取り巻く環境自体が、子供たちの教育を蝕んでいるのだ。
いくら学校での教育に力を入れても、一歩学校を出れば大学に進まないのが常識とされているような地域では、子供たちが進学のための努力を続けるのは容易 ではない。それどころか、貧困な家庭が多い地域では、子供たちの健康状態が優れない傾向があったり、通学路の治安が悪いなど、学校に通うことにすら障害が ある。学校の改革はもちろん必要だが、これが確かな成果を生むためには、教育に励む子供たちを支える環境が必要だ。
そこでPN型の教育改革では、出生から大学を卒業するまでの一貫した教育支援に加え、地域の環境改善が併せて目指されている。
「子供たちが良くなるためには、家庭が良くなれなければならない。家庭が良くなるためには、地域が良くなる必要がある」
こう言われるように、PN型の教育改革が目指すのは、優れた教育を家庭と地域がサポートする姿である。
バラク・オバマ政権は、全米の各地域がPN型の教育改革に取り組めるよう、競争型の補助金制度を立ち上げている。初回の2010年度には改革の青写真作 りを対象にした補助金が設定され、全米の300を超える地域から応募が集まった。オバマ政権はこの中から21の地域を選出し、最大50万ドル(約4000 万円)の補助金支給を決めている。2回目となる今年度は、補助金の対象が青写真作りから改革の実施にまで広げられており、再び補助金の獲得を目指した競争 が展開されている。
モデルはハーレムの取り組み
PN型の教育改革にはモデルがある。ニューヨークの貧困地域であるハーレムを舞台に活動を続けている「ハーレム・チルドレンズ・ゾーン(HCZ)」である。オバマ政権がPN型改革のモデルと明言するHCZには、全米各地の教育関係者による視察が後を絶たない。
創設者であるジェフリー・カナダ氏はメディアなどにも頻繁に登場する改革の伝道師的な存在であり、今年は米タイム誌恒例の「世界で最も影響力がある100人」の1人にも選出されている。
HCZの取り組みには2つの柱がある。「パイプライン」と呼ばれる一貫した教育の支援と、地域の「環境改善」だ。
HCZのパイプラインの中核は、直営のチャーター・スクール(公立学校にかかる規制を一部免除された特別認可学校)である。拙稿『オバマ改革、次の焦点は教育改革』で指摘したように、米国の教育改革には、チャーター・スクールの普及などを通じ、競争原理を働かせようという流れがある。HCZのチャーター・スクールも、こうした流れの中にある。
もっとも、HCZのパイプラインは、小・中学校を中心とした直営チャーター・スクール(注:現在HCZのチャーター・スクールは、高校にまで対象を延長 する過程にある)で完結しているわけではない。HCZを他の改革から際立たせているのは、チャーター・スクールの前後に連なる一貫した教育支援である。
HCZのパイプラインは出生前から始まっている。HCZでは、出産を控えた地域の両親と3歳児までの育児を行っている関係者を対象に、9週間の講習(ベイビー・カレッジ)を展開している。子供が生まれる前から、早期教育の重要性を家庭に植えつけようというわけだ。
子供たちへの教育は3歳児から始まり、チャーター・スクールに上がるまで続けられる。そして、子供たちがチャーター・スクールを卒業しても、HCZの教 育支援は終わらない。HCZでは、大学進学を支援するための講座はもちろん、大学進学を果たした地域の子供たちを対象に、学業や金融面での支援を行うカウ ンセリングなどを行っている。
HCZのもう1つの柱である「環境改善」の内容は、従来の教育改革の枠を大きくはみ出している。具体的には、貧困家庭を対象にした公的補助制度の申請支 援や、住宅にまつわる相談に応じるカウンセリング、さらには地域の子供たちの健康改善を目指した取り組みなど、様々な角度から地域の環境を変える試みが繰 り広げられている。
また、前述のパイプラインにも、「地域」の視点が強いことは見逃せない。HCZのパイプラインは、定員に限りのある直営のチャーター・スクールにこだわ らず、活動するハーレム地域全体を視野に入れた取り組みである。例えば、小学校高学年から始まる課外授業プログラムや大学進学を支援する講座などは、 チャーター・スクールに通う生徒以外にも開放されている。
このようにHCZでは、地域ぐるみの改革を通じて、貧困家庭の子供たちを大学卒業まで導いていくことが目指されている。
大学卒業率で諸外国の追い上げを許す
国際競争力の強化を目指すオバマ政権にとって、大学教育の普及は重要な課題である。米国の国際的な地位の低下と歩調をあわせるように、学歴の面で諸外国のキャッチアップが進んでいるからだ。
かつての米国には、各国に先んじて公費で高校までの教育を賄う制度を整えた経験がある。一部のエリートだけが高等教育に進めた欧州などとは違い、高技能の労働力を大量に育成できたことが、米国の強みだったといっても良い。
技術革新によって高技能の労働力に対する需要がますます高まっているにもかかわらず、高等教育の広がりにおける米国の国際的な優位性は大きく揺らいでい る(グラフ参照)。55〜64歳の世代では、米国における大卒者の割合は国際的に高い水準にある。こうした世代が大学を卒業した頃の米国は、世界でも高等 教育の普及が進んでいたわけだ。
ところが、それから30年後に大学を卒業した25〜34歳の世代になると、米国よりも韓国や日本の方が大卒者の割合が高い。55〜64歳の世代との比較 で分かるように、韓国や日本では大卒者の割合はこの間に大きく上昇している。対照的に米国の場合には、2つの世代で大卒率がほとんど変わらない。そこに は、米国が高等教育の普及に足踏みしている間に、各国のキャッチアップが進んでいる構図がある。
PN型教育改革の効果は未知数だ。HCZについても、高い成果が実証されているのはパイプラインの中核であるチャーター・スクールの部分であり、地域全 体を視野に入れた取り組みについては評価が定まっていない。そもそも地域の環境改善は短い期間で結果が出るわけではなく、HCZをモデルにした改革を全米 に広げようとするオバマ政権の目論みには、「見切り発車」の側面が否めない。
財政負担を気にしながらの「見切り発車」
財政面も心配だ。HCZの経営は多額の寄付金に頼っている。理事会には大物の投資家が揃い、昨年秋にはゴールドマン・サックス財団が学校建設に2000 万ドル(約16億円)の寄付を申し出ている。ニューヨークならではの事情とも言え、全米各地の貧困地域が同じように資金を集められるとは限らない。
オバマ政権が展開する補助金にしても、いつまでも維持できる保証はない。米国では財政再建が大きな課題となっている。米議会は2011年度のPN型教育 改革関連の予算に前年度比3倍増の3000万ドル(約24億円)を認めたが、これもオバマ政権の当初の申請額(2億1000万ドル、約168億円)には遠 く及ばない。既に地方政府レベルでは教育関連の予算に大ナタが振るわれており、連邦政府も安穏とはしていられない。
もっとも、米国は教育改革に尻込みしているわけにはいかない。深刻な経済危機の後遺症からか、最近の米国では今後の国力の低下を危惧する声が聞こえ始め ている。それだけに、たとえ先行きに不透明さが残るにしても、未来を託すべき子供たちに焦点を合わせた地域の再生に、大きな期待が寄せられている。
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安井 明彦(やすい・あきひこ)
みずほ総合研究所調査本部 ニューヨーク事務所長1968年東京都生まれ。91年東京大学法学部卒業、富士総合研究所(当時)入社。在米 日本大使館、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所、同調査本部上席主任研究員などを経て、2007年より現職。著書に『ブッシュのアメリカ改造計画〜オー ナーシップ社会の構想』(共著、日本経済新聞社)『ベーシックアメリカ経済』(共著、日経文庫)など (写真:丸本 孝彦)
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