http://www.asyura2.com/10/kokusai5/msg/760.html
Tweet |
http://www.asahi.com/international/weekly-asia/
裏切られた「地上の楽園」 北朝鮮 信じる(3)
2011年7月11日
写真5月30日、釜山で行われた合同結婚式。脱北者など、様々な事情で式を挙げられなかった人々が参加した=東亜日報提供 ※写真をクリックすると拡大します 写真5月9日、ソウルで開かれた保守団体の創立記念式典で演奏する脱北者青少年たち=東亜日報提供 ※写真をクリックすると拡大します 図韓国に来た脱北者の推移
「地上の楽園」。北朝鮮がそう自称し、一部だが住民も信じた時期があった。
リーダーは抗日パルチザン出身の故金日成(キム・イルソン)国家主席。当局は、新聞やテレビ、映画などを総動員して国民を統制した。金正日(キム・ジョンイル)総書記もかつて、朝鮮労働党宣伝扇動部に籍を置き、金主席の偶像化に熱中した。
東北部の咸鏡北道にある中国国境近くの町で育った趙君(24)が、国への「信仰」を捨てたのは2000年。高等中学生の時だ。
中国で複製されたDVDを初めて見た。ラブストーリーを描いた韓国ドラマ「秋の童話」。華やかな服装、豊かな食卓、車があふれる街角――。「米国に支配され、こじきのような生活をしている」と教えられた韓国の姿ではなかった。
1990年代、共産圏の崩壊で食糧事情がみるみる悪化した。自然災害が加わり、90年代半ばは「苦難の行軍」と呼ばれ、あちこちで餓死者が出た。すでに配給制度は崩壊し、国は人々に「自力更生」を強いた。同時に、移動の統制や闇商売の取り締まりも弱まった。北朝鮮が「黄色文化」と呼ぶ、欧米や韓国文化の流入が加速した。
北朝鮮の住民はDVDをアル(卵)と呼んだ。1枚約1千ウォン。平均給与が3千ウォン程度だが、人々は闇商売をしたり、越境して中国人宅から盗んだりして手に入れた。生活苦を忘れさせてくれる娯楽に飢えていた。
趙君は毎日、級友らと友人宅に集まった。「電気が来ればDVDを見て、来なければカードで遊んだ」。カード遊びに疲れ、外を見ると、金主席の銅像が輝いていた。「死んだ人間に電気を使うのか」。怒りがこみ上げた。
北朝鮮のウェブサイト「わが民族同士」は6月18日、金正日総書記が「人民に良い暮らしをさせられず、眠りにもつけない」と語ったとする随筆を掲載した。金総書記は午前2時ごろ、「質素な夕食」を取り、午前4時半、視察に出かけたと記されている。
随筆は、住民の不満に対する当局の危機感を示しているようだ。
趙君は08年、中国とモンゴルを経て韓国に来た。06年からは毎年2千人以上が韓国へ。6月20日現在で2万1706人を数える。
■脱北後は韓国社会の風当たり
「韓国に行けば、仕事に就ける」。趙君はそう信じていた。今、ソウル市の56平方メートルの賃貸アパートに父親(54)と2人で住む。家賃は約30万ウォン(約2万2千円)。共に無職で、韓国政府の支援金が頼りだ。月々100万ウォン(約7万5千円)前後の生活費でやりくりしている。
1日約500グラムの雑穀ご飯、肉類は年に数回だけという北朝鮮での生活に比べればかなりマシだ。趙君は「節約すれば何とかなる」と語る。
北韓離脱住民支援財団によれば、昨年8月現在、脱北者の失業率は8.8%。韓国全体の3.3%よりも相当高い。
韓国政府は脱北者の定着のために様々な施策をとってきた。定着支援施設「ハナ院」では、3カ月、420時間にわたって韓国の生活習慣やコンピューターの知識などを教える。統一省は05年から支援金制度を導入。1人世帯で総額600万ウォン(約45万円)を基本に、様々な奨励金や住居支援金などを加算できるようにした。最近は、年間2千の就職口を見つける政策や、英米への短期留学のあっせんなども始めた。
だが韓国社会で、脱北者への風当たりは強い。「祖国を捨てた人間」「韓国の生活習慣を無視する異国人」などとみる人は少なくない。政府が脱北者関連施設を作ろうとして、地域住民の反対に遭った例もある。
韓国・北韓大学院大学の李宇栄教授は「対北政策のため、脱北者を利用してきた政府にも責任がある」と語る。脱北者が珍しかった頃、韓国政府は体制の優位を内外に宣伝するため、高額の褒賞金を与えた。83年にミグ19で飛来した北朝鮮空軍大尉は10億ウォン以上を得たとされる。
今でも、韓国政府が脱北者1人あたりにかける費用は1億ウォンとも言われる。李教授は「政府は積極的に公開していない」と語る。脱北者に対する国民感情が悪化することを懸念しているためという。
統一省の担当者は「脱北者を受け入れる社会を作ってこそ、南北統一が可能になる」と語るが、道のりは険しそうだ。(牧野愛博)
◇
〈脱北者〉 北朝鮮で1990年代に起きた経済難を契機に脱出する人々が急増した。韓国のほか、独英日米加など世界二十数カ国にも約3千人が住む。中国や東南アジアに潜む脱北者も相当数に上る。韓国に住む脱北者の場合、女性が全体の7割、20〜30代が6割、無職・被扶養者が5割、中朝国境地帯出身者が8割を、それぞれ占める。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。