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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/11861?page=3
以前、米政府高官が人民解放軍幹部にこんな質問をしたそうだ。「なぜ中国は米国のネットワークに何度も攻撃と侵入を繰り返すのか」
解放軍幹部はこう答えたらしい。「毎日どのくらい中国が米国からサイバー攻撃を受けているか、君は知らないのか?」
以上は米有力シンクタンクCNASが最近発表した「アメリカのサイバーの将来」と題する報告書にあった一節だ。サイバー能力に関する米中の力関係の実態を、これほど見事に象徴する会話はないだろう。今回はこの米中格差について考えてみたい。
中国に対する強い懸念
CNASとは Center for a New American Security、2007年に設立された新しいシンクタンクだ。
共同創設者は国防総省のミシェル・フロノイ次官と国務省のカート・キャンベル国務次官補であり、現在バラク・オバマ政権に最も多くの高官を送り込んでいるシンクタンクの1つと言われる。
冒頭のサイバー戦に関するCNAS報告書が発表されたのは5月31日。発表時期と内容から見て、これも前回ご説明した5月27日のG8ドービル・サミット首脳宣言から6月4日のロバート・ゲーツ国防長官の発言に至る一連の対中サイバー戦キャンペーンの一部かもしれない。
それはともかく、全体で300ページ近くあるCNAS報告書の第2部では、中国について次のように記述している。少し長くなるが要点のみ簡単に書き出してみよう。
●現在中国はいつでもどこでもサイバー攻撃を行える技術的能力を開発中であり、もはやサイバー戦について中国を無視することはできない。
●中国の国家計画の一環として、人民解放軍は正式にサイバー戦ドクトリンを採用し、既にサイバー戦の訓練とシミュレーションをも実施している。
●サイバー戦能力について中国はロシアと密接な協力関係にあるが、最近は独自のサイバー戦運用モデルを開発しようとしている。
●中国は2050年までに、伝統的軍事作戦開始前の敵国の金融市場、軍事・民生用通信、死活的インフラの破壊能力をも含む「世界的電子優位」の確立を目指している。
といった具合だ。
これだけ読むと、現在急速に向上しつつある中国のサイバー攻撃能力を米側が強く懸念し、陸上戦、海戦、空中戦だけでなく、サイバー戦でも中国が強力なライバルとなりつつあることに強く警鐘を鳴らしているようにも読める。
5種類のサイバー作戦様式
それでは中国側はサイバー戦をどう考えているのだろうか。最近中国青年報に面白いエッセイが載っていた。日付は6月3日、作者単位は軍事科学院だ。
タイミング的にも内容的にも、米国の対中キャンペーンに対する中国側の準公式反応と考えてよいだろう。
全体で5000字ほど、エッセイよりは小論文に近い。表題はズバリ「サイバー戦、いかに戦うか」だ。軍事科学院の上級大佐らの連名で書かれたその概要をご紹介しよう。
ちなみに、この論文について報じた記事は、ネット上ではロイターしか見つからなかった。
●中国政府はサイバー戦能力の増強に努めている。核戦争が産業時代の戦略戦争であったように、サイバー戦争は情報時代の戦略戦争となっている。
●サイバー戦は目に見えない全く新しい形の戦闘モードであり、戦争・紛争時だけでなく、毎日の政治、経済、軍事、文化、科学など平時においても常に活動している。
●インターネットの軍事利用には次の5つの作戦様式があるが、こうしたネットの利用はチャンスであると同時に脅威にもなる、真の「両刃の剣」である。
●第1は「情報収集」であり、ハッキングなどの技術を通じ、公開情報だけでなく非公開の有用な情報も入手可能である。
●第2は「ネットワークの無力化」であり、ボットネットやスタックスネットなどにより、ウェブサイトなどを麻痺させるだけでなく、攻撃対象を物理的に破壊することも可能である。
●第3は、第2の「ネットワーク無力化」攻撃に対する「ネットワークの防衛」であり、サイバー攻撃を発見したり、機微な情報の流出を予防したりすることである。
●第4の目的はいわゆる「心理戦」であり、最近中東各国で見られたインターネットによる世論工作と反政府運動の組織化などは、中国の国益にとって脅威となる。
●最後は、「ネット・電磁空間一体作戦」であり、ネット技術を活用し敵防空システムを麻痺させることなどにより、実際の戦場に影響を及ぼすことである。
これまでご紹介してきた米中の「非政府」出版物の内容は、サイバー戦に関する両国軍の最新の見解に近いものと考えてよいだろう。それにしても、読者の皆さんは両者の見解が微妙に異なることにお気づきだろうか。
実は米国が優位?
一番興味深いのは、中国側の弱気さだ。CNAS報告書が中国のサイバー戦能力向上の可能性を強く懸念するのに対し、中国青年報では、ネットの軍事利用が「両刃の剣」であり、特に心理戦において中国の利益に対する脅威となり得るとまで論じている。
こうした中国側の慎重な発言ぶりは、次のことを暗示してはいないだろうか。
第1に、中国側は自国のサイバー戦攻撃能力が米国と比べてあまり高い水準にないことを承知していること。
第2に、中国のインターネットそのものが現共産党体制にとって本質的に危険なものであること。
第3に、あらゆる検閲手法、防御措置を講じたとしても、中国のインターネットは米国からの最先端サイバー攻撃に対し脆弱であること、の3つである。
そもそも、世界で最も強力な実戦的サイバー攻撃能力を有するのは米国だ。米ニューヨーカー(New Yorker)誌2010年11月号では、米国の元国家安全保障局(NSA)関係者が、「中国が何をやろうと、米国にはそれをしのぐ、はるかに進んだ攻撃的サイバー能力がある」と認めている。
一方、国防総省が2006年に作成した「サイバー作戦に関する米国家軍事戦略」では、「現在米国はサイバー空間における技術的優位を享受しているが、そのような優位は風化しつつある」とも書かれている。恐らくこの状況は現在も基本的に同じであろう。
狐と狸の化かし合い
どうやら、米国のサイバー攻撃能力の比較優位は今も変わらないが、急速に進歩する中国やロシアなどの攻撃能力に対し米国の防衛能力は十分追いついていない、というのが実態だろう。米国があれだけ騒ぐのだから、中国のサイバー攻撃能力も捨てたものではなさそうだ。
ちなみに、ロシアは2008年の対グルジア戦争開始当初、ハッカーを通じグルジアに対し本格的なサイバー攻撃を仕かけ、まんまと成功している。この点からも、中国のサイバー戦遂行能力は既に実戦経験のあるロシアと同等、またはそれ以下と考えてよいだろう。
以上を踏まえたうえで、冒頭ご紹介した米政府関係者と人民解放軍幹部の問答をもう一度読み返してほしい。
「なぜ中国は米国のネットワークに何度も攻撃と侵入を繰り返すのか」
「毎日どのくらい中国が米国からサイバー攻撃を受けているか、君は知らないのか?」
通常この種の会話は「狐と狸の化かし合い」と呼ばれる。どちらが狐で、どちらが狸かは知らない。米中いずれの話も嘘は言っていないが、まともに信じてもいけない。これだけは確かなようである。
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