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世界旅行の7つの掟（その4）夜行バスは快適！でも油断大敵
2011.05.10（Tue） 比呂田 弥次郎
中年一人旅、中南米をゆく
旅の妙味は、人との出会いや風景の変化、季節の温度、人間の鼓動などを味わうことにある。それこそが
旅の目的と言ってもいいかもしれない。
しかしながら、いかに移動するかということは旅の最重要テーマである。長期旅行の場合、少しでも長
く旅をするには、日々のコストを下げる必要がある。「移動手段、食事、宿」の3つの値段をどれだけ抑
えるかが、1日でも長く旅を続けられるかのポイントになる。
私は長旅をしている時、大陸間の移動以外は夜行バスか鉄道を利用してきたが、世界各地のバスターミ
ナル周辺は、犯罪率が高いと相場が決まっている。
おまけに夜行バスに乗るには、日没後のさらに治安が悪化する時間帯にターミナルに赴かなければなら
ない。
ベネズエラのバスターミナルの出発を待つ乗客専用待合室。青い鉄格子がスリや置き引き、強盗を防いで
くれる（筆者撮影、以下同）
置き引き、スリ、両替詐欺、美人局なら、警戒すればある程度、被害は防ぐことができる。しかし、ベ
ネズエラのカラカス、グアテマラのグアテマラシティ、エクアドルのキト、ニカラグアのマナグア、南ア
フリカのヨハネスブルクなどでは、人通りの少ない深夜や早朝だけでなく、昼夜を問わず首絞め強盗、ノ
ックアウト強盗などが横行している。
強盗に遭わないためには、男性の場合はできるだけみすぼらしい服を着たり、グループで行動すれば目
をつけられにくい。しかし、女性の場合は、金やモノ以外の目的で狙われるケースもある。
これらの国では一人旅を避けるか、行かない方が無難である。もし、襲われた時に助けを求めても、強
盗がグループだったり武器を携行していれば、周囲の人間は目を背けるか傍観してしまうこともある。
中南米のバスは時間に正確
メキシコやブラジル、アルゼンチン、チリなど中南米の主要都市には巨大バスターミナルがあり、国内
便のみならず国際バスの発着便が24時間営業で運行している。
バスターミナルの多くは多くの店が併設され、売店、レストラン、銀行、ATM、電話など完備していて
飛行場を思わせる充実ぶりだ。
ブラジルのバスは豪華で快適
中南米のバスの中でも群を抜いて発達しているのがブラジルのバスである。その広大な国土には多くの
路線が張り巡らされ、同じ路線に複数の会社がバスを走らせ、価格やサービスなどでしのぎを削っている
。
長距離バスは1〜3時間ごとにターミナルに停車して休憩するのだが、田舎にあるターミナルといえども
レストランのメニューの種類は多く、味もイケる。また、トイレは日本の首都圏にある百貨店並みに清潔
で、無料のシャワーを完備しているところも多い。
中南米のバスは意外と時間に正確で、グアテマラ、ニカラグア、エクアドルなどの小さな国でさえも時
刻表どおりに発着する。また、海外の長距離バスは、シートを倒して横になることができたり、脚のスペ
ースが広かったり、2段ベッド式になっていたりで、日本の長距離バスに比べるとよほど快適だ。
ブラジルの地方のバスターミナルのトイレ。ビカビカで清潔
グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグアの国境を越える国際バスでは、警官がマシンガン片手に乗り込
んでパスポートをチェックするので、ちょっとした緊張感が車内に漂う。
警官はこの時、出国税や入国税を徴収するのだが、徴収される人とされない人がいたり、3ドルの人も
いれば5ドルの人もいて、領収証の発行もない。
徴収されたカネはいったいどこに行くのか、私は今でもこのカネは警官の懐に入るのではないか、と疑
念を抱いている。「大使館に訴え出て被害を報告して抗議する」という気にならない程度の金額。小悪党
は巧みなさじ加減ではびこっている。
タトゥー男と一緒に警察に連行された
国境とは人間が政治上の理由で引いた線である。国境を越えると人種、文化、通貨、法律がガラリと変
わる。
国境というのは、必ずしも塀や河で仕切られているものだけではない。入国・出国手続きをせずに自由
に行き来できる所もある。コロンビアとベネズエラの国境や、ペルーとエクアドルの国境などは、銀座（
東京都中央区）から新橋（同港区）に歩いていくようなもので、いつ国境を通ったのか分からないような
緩やかさで、国境特有の緊張感というのがまるで感じられない。
メキシコの地方のバスターミナルでさえ、飛行場を思わせる清潔さと快適さを誇る
コロンビアとベネズエラは政治的には仲が悪いと言われているが、多くの人がイミグレ（出入国審査）
を通らずに自由に往来しており、まさにノーボーダーと言える。
だが、コロンビアからベネズエラに入国する場合、入国後は旅人にとって緊張の連続となる。コロンビ
アは世界屈指の麻薬産出国であり、麻薬の輸出国とも言われているからだ。
コロンビアからベネズエラにバスで入って国境付近の街道を走っていると、警察による検問が至る所に
設けられている。ここで、カバンの中に砂糖、粉ミルク、洗剤などの白い粉があると面倒なことになる。
私がコロンビアからベネズエラに入国した後、50キロメートルほど行った所で、バスはスローダウンし
たと思うと「全員、荷物を持って外に出て！」とのアナウンス。検問である。
理由は分からないが、警官は、タトゥーがTシャツからはみ出した白人の男と私を指差して、個室に行
くように命じた。
室内には2人の警官がいて、私とタトゥー男の荷物の中身を一つひとつ取り出して指差しては「これは
何だ？」と、尋問する。
バスの乗客約40人全員が、我々が解放されるまで待たされているのだと思うと、一刻も早く解放してほ
しかったのだが、いらいらするほど取り調べは悠長だ。警官は私の荷物から粉の洗剤を取り出して「これ
はヘロインだな」などと言って、わざと時間稼ぎをしているようで 私の焦燥に拍車をかけた。
目の前で「20ドル」と呟いた警官
タトゥー男に対しての取り調べはさらに厳しかった。男は私の隣で壁に両手をついてパンツ1枚にされ
、身体検査されていた。
「なぜ、そこまで？」と私は驚いたが、よほど怪しかったのだろう、最後にはパンツも剥ぎ取られスッ
ポンポンになってしまった。私はそれを見て、次はひょっとして自分もそうなるのかと鬼胎（きたい）を
抱いていた。
その時、私の前にいた警官が小声で私に「20ドル」と呟いた。「コモ（何）？」と聞き返すと、小さく
目配せをして「20ドル」と再び警官は小声で言った。たかが20ドルだが、ベネズエラでは20ドル払えば夜
行バスで300キロメートルは移動できる金額である。
移動中、エンコしたボリビアのバス。ボリビアは道が悪く、地方に行くと舗装してある道は少ない
躊躇する私に、警官は「次はお前の番だぞ」と立たせようとしたので、私は警官の意図が分からないふ
りをして、日本語で「なぜ、払わなければならないのか」「そんなカネ支払う必要があるのか」と叫んだ
。
10分ほど経過すると、ほかの警官が、私を尋問していた警官を呼び、なぜか私は呆気なく放免となった
。
外に出ると、コロンビア方面から来たバスが4台、検問に列をなして停車していた。そして、私たちと
入れ替わりにアジア人の男とヒッピー風の男が連行されてきた。
バスに戻った私たちは、足止めされていたほかの乗客に「ロ シエント（ごめんなさい）」と詫びた。
地元の乗客らは、「お前たちは運が悪かっただけだ」と微笑んでくれた。その一言で、私の焦燥は霧散し
ていた。
動き出したバスからぼんやり外を眺めていると、私はふと気がついたのである。
アンデス山脈のチリとボリビアの国境を越える国際バス。標高は約4000メートル
おそらく警官たちはグルになっている。私から20ドルを巻き上げるのが、最初からの目的だったのだろ
う。
日本人はカネを持っているし、スペイン語を流暢に話せる日本人旅行者は少ないので、抗議する人も少
ない。「日本人＝金持ち喧嘩せず」という図式は世界で定着している。
人を脅すのに咬ませ犬は効果がある。警官は、獲物（私）とともに連行した人（タトゥー男）を見せし
めにして獲物にショックを与えたあと、絶妙なタイミングでカネをゆする。これは警察の「交渉人」並み
に、知能的なやり方ではないか。
発展途上の国の国境周辺は、警官すら小悪党になる無法地帯である。今日も誰かが引っ張られ、咬ませ
犬を尻目に、カネをせびられているのだよ。きっと・・・。
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