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大学離れ、貧困と戦う フィリピン 地方教育―チェンジメーカー(4)
http://www.asyura2.com/10/kokusai5/msg/415.html
投稿者 tea 日時 2011 年 2 月 17 日 01:33:58: 1W1IXELjjF6i2
 

http://www.asahi.com/international/weekly-asia/TKY201101290195.html

写真地方で貧しい子のための学校を運営するベルニド夫妻=ボホール島ハグナ、四倉写す地図   ※写真をクリックすると拡大します

 フィリピン中部、中央ビサヤ地方のボホール島。空港のある町から海岸沿いを1時間余り走ると、人口約3万2千人の漁業の町、ハグナにたどり着いた。

 マニラ首都圏から約660キロ離れた貧しい田舎町。1930年代からあった映画館を改築した学校で、小さな机を並べた中学生たちがペンを走らせる音だけが響いている。

 「中央ビサヤ研究所財団」の中学校。マニラ首都圏の私立中学の年間授業料が数万ペソなのに対し、年間7500ペソ(1ペソは約1.9円)と格安だ。498人の生徒の大半は地元出身で、9割は親が漁師や3輪タクシーの運転手といった低収入の家庭の子だ。13歳から16歳が中心だが、10代のころ家庭の事情で学校に通えなかった20歳の生徒も、空白を取り戻そうとしている。

 ともに国内で著名な理論物理学者だったクリストファー・ベルニドさん(54)と妻のビクトリアさん(49)が研究に専念できる環境を捨て、クリストファーさんの母が経営していた中学を継ぐ決心をしたのは12年前のことだ。

 周囲は驚いた。2人はフィリピン最難関の国立フィリピン大学教授。クリストファーさんは同大の物理学部長や国立物理研究所長を歴任した。夫婦はフィリピンの物理学界をリードする存在だった。

 「研究から遠ざかることは悩ましかったけれど、より人の役に立てる道は何か、夫婦で話し合った。結局、妻に背中を押された」とクリストファーさん。利益を求めないことも決め、非営利の財団に改組した。

 だが、子どもたちに勉強を続けてもらうためには、地方に共通する貧しさゆえの問題が山ほどあった。

 生徒の家庭にも学校にも、多くの教材を買う金はない。教員の水準が低く、特に科学を教えられる教員は少ない。生徒の多くは放課後、家計のために働く必要がある……。

 夫婦は生徒たちと話し合いながら、3年かけて独自の学習システムを作り上げた。

 教員は15人。最大の特徴は、教員の能力と数の不足をカバーするために、教科担当の教師が教壇で教える時間を全体の2、3割にとどめ、自習の時間を増やしたことだ。生徒は理解度に応じた課題が与えられ、手が空いている他の教科の教員が寄り添う。

 教科書は使わず、教材は学校に備え付けで持ち帰り禁止に。代わりに宿題もない。物理の実験も振り子など手作りできる道具を使い、専用の教材を買うコストを抑えた。

 「先生は必要な時にはいつでも助けてくれる。宿題がない分、学校で勉強に集中するよう教えられる。勉強させられているのではなく、自分でしているんだなと感じます」。4年生のカタリナ・オセヘスさん(17)は、この学校の授業が気に入っている。

 今では専門学校や大学に進む生徒が半数近くなるなど、進学率もマニラ首都圏の進学校並みとなった。夫婦の教育システムを採り入れる学校は増え続け、来春には全国で600を超える見込みだ。

 夫婦は昨年、「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞を、広島市の秋葉忠利市長らとともに受賞した。

 「貧困は教育レベルの低さの理由にならない。それを実証したい」。夫婦は大学では証明できない命題に、子どもたちと取り組んでいる。(四倉幹木)

■子どもは芸術家で科学者だ――クリストファー&ビクトリア・ベルニドさん

 ――大学を離れる時、悩んだのではないですか。

 夫 私は2日考え込んだけれど、2時間で決心した妻に説得された。

 ――なぜ田舎の学校で教える道を選んだのですか。

 夫 妻の考え方に大きく影響された。

 妻 私の父は人権派弁護士で、マルコス独裁政権時代に2回も投獄された。「国のために」が家訓なのです。

 夫 日本やドイツなら地方でも首都圏に劣らない教育が受けられる。でも我が国では科学を学ぼうとすればマニラ首都圏でしかできない。そんな現状を変えたい。

 ――難しかったことは。

 妻 私たちの目指す教育が厳しすぎて地域の文化になじまない、と批判もされた。生徒が一生懸命ついてきてくれたおかげで、だんだん親や地元の人々に理解が広まった。

 ――いまでも難題がありますか。

 妻 先ほども生徒の一人が退学しそうだというので、教員たちと対策を話し合っていた。生徒の貧困や家庭の事情との戦いには終わりがない。

 ――生徒たちに話していることは。

 夫妻 「子どもらしい好奇心を持ち続けなさい。子どもは生まれながらの芸術家で、科学者で、哲学者だ」と。

     ◇

 〈フィリピンの教育〉 義務教育である6年の初等教育を経て、日本の中学にあたる4年制学校に進む。小、中ともに人口の急増に教育施策が追いつかず、「3T(教師=Teacher、教科書=Text、教室=Teaching Room)不足」が慢性化。中学校への実質入学率も62%と、貧しさのために進学できない子どもも多い。
 

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