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産経新聞 12月15日(水)7時56分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101215-00000108-san-int
【パリ=山口昌子】先進国の多くが少子高齢化問題に直面している中、フランスでは1人の女性が一生の間に産む子供の数である合計特殊出生率が国連などの調査で2.00(2008年。仏国立統計経済研究所によると、09年は1.99)と、日本(08年は1.37)などをはるかに上回っている。欧州一を誇る出生率を支えるのは「人口は国力」との考えに基づいたさまざまな施策だ。
「ローランス・フェラリが本日、無事出産しました!」。仏民放テレビ、TF1は先ごろ、午後8時のニュースの冒頭で臨月まで番組を担当していた人気キャスターの出産を報じた。フェラリさん(44)は最初の結婚で2児をもうけているので、これで3児の母になった。
フランスでは出産した女性には収入とは無関係に889・72ユーロ(約10万円)の祝い金と、子供が3歳になるまで毎月177・95ユーロ(約2万円)が支給される。また、20歳以下の子供が3人以上いる家庭には育児手当が支給される。このほか、母親もしくは父親のみで子育てをしている家庭や身体障害児のいる家庭にも特別手当が支給される。
こうした「家族手当」を紹介する政府の小冊子は約30ページもあり、さまざまな手当や条件が詳細に記されている。各市町村の役所には「家族手当局」が設置され、専門員が複雑な計算なども行ってくれる。また、子供が3人以上の場合は「多人数家族パス」が支給され、国鉄は子供の人数によって割引率が高くなる。地下鉄やバス、公立の美術館は約半額になるので、外出時の負担が軽くなる。
経済協力開発機構(OECD)によると、フランスの家族政策に関する予算は518億3920万ユーロ(約5兆9000億円)で、国内総生産(GDP)の3%。日本は4兆735億円でGDPの0・81%と、OECD加盟国平均の2・4%を下回る。
パリ郊外に住むカロリーヌ・バリオルさん(40)は4児の母。「2人目の子供が生まれたときに、もっとたくさんの子供が欲しかったので仕事は辞めた」と話す。育児手当の最高時は月額約1千ユーロ(約11万4000円)で、課税対象外なのも魅力だったという。
さらに2、3歳から通えるフランスの幼稚園の多くは公立で保育料が無料。午前8時半から午後4時30分までが“授業時間”だ。昼食代は有料だが、「親の収入が低い場合はほぼ無料」(バリオルさん)という。幼稚園と連携して子供を預かる有料の制度もあるので、日本の働く母親のように子供をあちこちに預けて走り回る必要がない。
職場環境も整っている。育児休暇は3年間取得でき、この間は無給だが雇用主には「休暇取得前と同等の職場や職種に復帰させる」ことが義務付けられている。解雇や極端な異動の恐れがないので、落ち着いて育児に専念できる。
日本のような「できちゃった婚」もほとんどない。未婚の女性の出産率は、1999年施行の「婚姻届を出さずに共同生活を安定的、持続的に行う市民連帯契約」(PACS)の影響もあり増加の一途で、09年に出産した女性の約半数が未婚だった。
フランスの場合、財政赤字はGDPの7%にも達する。それでも政府は「人口は国力」との基本政策に基づき、党派を問わず家族手当をきちんと予算に組み入れてきた。
フランスでは20世紀初頭に原因不明の人口低下がみられ、それが第一次世界大戦(1914〜18年)での苦戦につながったと考えられている。しかも第一次大戦では約150万人が戦死し、人口低下に拍車をかけた。家族手当制度が確立されたのは32年だ。
実際、欧州連合(EU)の理事会で決定を行うには「賛成する加盟国が全体の55%以上で、賛成する加盟国の人口の合計がEU加盟国総人口の65%以上」であることが条件となっている。欧州議会の議席数も国別人口比を基に配分しているため、「人口は国力」との認識はいっそう強まっている。
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